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『機動殲滅』

 連邦が獣人の防御陣地攻略の為に、この戦術を用いようとしていた。

 速度の出ているトラックで防御陣地手前に一気に突入し、敵が狼狽えているうちに、歩兵隊が降車・展開し、殲滅する。

 連邦軍お得意の戦術であり、当然、獣人にも通用すると思っていた。


 傘型隊形で突入するトラックの車列の先鋒は第七中隊が担っている。


「何が懲罰だよ、あいつらが戦果を全部ひとり占めしちまうじゃないか!」


 車列の右翼を担う第六中隊の兵士はぼやいた。

 彼らは獣人たちの実力を見たことがないようだ。


「結局、あのマックスっていう若い指揮官は上のお気に入りってわけだ」


「指揮官ていえば、第3獣人連隊の指揮官はどんなやつなんだ?」


「獣人の指揮をさせられているんだから、とんでもない無能だろう。

 じゃなきゃ、連邦には歯向かったりしない」


「がははは、違いねぇ!

 でもよ、獣人どものハーレムパーティは羨ましくないか!?」


「……確かに!

 俺たちも勝利品で持ち帰ればいい!」


 連邦の世論は表向きは、獣人は野蛮で汚らしい生き物とけなしているが、裏ではその健康的で、美しい女を欲しがるものも多く、裏社会では奴隷売買されているというのは周知の事実である。


 獣人の防衛線が見えているのにも関わらず、猥談を続けていた兵士だったが、突然、響いた爆発音に現実に引き戻された。


「な、なんだよ!?」


「おい、あれを見ろ! 第7中隊のトラックが!」


 帆を開けて、外を伺うと、陣形中央を走っていたトラックが砲撃を受け、火だるまになっていた。

 そして、彼らの元にも砲弾が降り注いだ。


「うわぁ!?」


「腕が、腕が吹き飛んだ!」


 トラックの荷台を覆う帆には、砲弾の破片を防ぐ防御力はなく、直撃せずとも破片により中の歩兵を殺傷する。

 先ほどまで談笑していた仲間たちが、目の前で血濡れになり、動かなくなっていく。

 兵はパニックに陥り、トラックの運転手を怒鳴りつけた。


「何やってんだ!?

 もっと早く走れよ! こんなの的じゃないかよ!?」


「無理だ。こんなぬかるみ道では!」


「いいから、出せ!」


 トラックは無理にスピードを上げる。

 だが、ぬかるみにはまり、バランスを崩して横転する。

 ごろごろと荒野を転がり、中の兵たちは投げ出された。


「うわ、うわ、うわああああああああああ」


 殆どの兵は投げ出されて、死亡したが、一部の兵たちは重傷を負いながらも生きていた。

 彼らが地面から顔を上げると、彼らの数百m先にはきらきらと光る蜃気楼(イルミネーション)が見えた。


 いや、それはあまりの多くのマズルフラッシュによって、まばゆく輝いて見える獣人の陣地だった。

 何処までも広がる平野に、隠れる場所なんてなかった。


「た、助けてくれぇ!」


 一人の兵はたまらず、後方に逃げ出すが、その頭部は一発の銃弾により撃ち抜かれた。



 ◇


「……なかなか」


 ケルビンは敵の頭部を撃ち抜き、自分が使った銃の精度に舌を巻く。

 79式試製狙撃銃、第7中隊が残した試作銃だ。


「そうやって、新しいものばっかり試すから動作不良をおこすんじゃないの!?

 連邦で作った武器なんて!」


 激しい銃声の中、アンはケルビンを怒鳴りつける。


「それはそうかもしれないが、リスクを取らなければ、リターンはない。


 連邦製だろうが、使えるものは全て使う。

 勝つためなら、プライドはいらないんだ」


 そして、ケルビンは腕時計を見た。


「そろそろか」









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