表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/13

第1話:光と紫の邂逅

東京・丸の内の中心にそびえ立つ藤ヶ原タワー。朝の陽光を浴びたガラス張りの建物が、まるで天空に浮かぶ宮殿のように輝いている。ここは、日本を代表する大企業・藤ヶ原グループの本社。金融、IT、商社、コンサルティングなど幅広い事業を展開し、政財界とも深い繋がりを持つ一大コングロマリットだ。 そのオフィスの一角で、光源次ひかる げんじはコーヒーを片手に窓の外を眺めていた。 「今日も完璧だな。」 鏡に映る自分の姿を軽くチェックしながら、微笑む。オーダーメイドのスーツはシワひとつなく、ネクタイの結び目も絶妙。藤ヶ原グループのエリートたちは皆スマートだが、源次はその中でも群を抜いていた。端正な顔立ち、柔らかな物腰、そして誰もが引き込まれるような魅力的な微笑み。そのすべてが彼を「光のプリンス」と呼ばせる所以だった。 デスクに座ると、部下の一人が報告書を持ってきた。 「光さん、先日の案件ですが、詳細をまとめました。」 「ありがとう。」 軽く目を通しながら、源次は部下の視線が自分に向いているのを感じた。 「何か?」 「いえ…、やっぱり光さんって、すごいですよね。あの難しい案件も一瞬で整理してしまうし…。それに、社員の皆さんにも気を配られてて。」 「完璧に見えるかもしれないけど、そんなことはないよ。」 そう言いながらも、源次の笑みは崩れない。彼は生まれながらの「光」だった。しかし、その光が影を作ることを、彼自身はよく知っていた。 その日、社内では若手向けのプレゼンテーションが行われていた。藤ヶ原グループでは毎年、新人社員に向けて経営幹部や管理職が講義を行い、会社の理念やビジョンを伝えるのが慣例となっている。 「それでは、本日の講師を紹介します。藤ヶ原グループ経営企画部の光源次さんです。」 司会者が名前を呼ぶと、会場にざわめきが広がった。 「光さんって、すごく優秀で、しかもイケメンらしいよ。」 「実際に見るのは初めてだけど、本当に王子様みたい。」 女性社員たちがひそひそと話している。そんな空気の中、光源次は堂々と壇上に立ち、穏やかな笑みを浮かべた。 「皆さん、ようこそ藤ヶ原グループへ。」 声のトーンは落ち着いていて、会場の空気を一瞬で掌握する。彼のプレゼンは論理的でありながら、どこか柔らかさもあり、聞き手を引き込む力があった。 「私がこの会社で学んだことは、『人を動かすのはデータではなく、感情だ』ということです。数字だけを追い求めても、ビジネスは成立しません。人の心を理解し、共感を生み出すことが大切です。」 会場の最前列で、真剣にメモを取る女性がいた。彼女の名前は藤木紫ふじき ゆかり。 紫は今年入社したばかりの新人で、広報部に所属している。大学時代から努力家として知られ、社内でもすでに評価されつつある。しかし、彼女はまだ自分に自信が持てず、周囲のエリートたちに圧倒されることも多かった。 「人を動かすのは感情…。」 源次の言葉を反芻しながら、紫は不意に彼と目が合った。 一瞬、時が止まったような感覚。 源次の瞳はまっすぐに紫を捉えていた。そして、ほんのわずかに微笑んだ。その瞬間、紫の心臓が跳ねるように鼓動した。 (今、私を見た? いや、気のせい…?) 紫は慌てて目をそらし、メモを続ける。しかし、その一瞬の出来事が、彼女の心に小さな波紋を広げた。 プレゼンが終わり、紫は会場の片付けを手伝っていた。すると、後ろから穏やかな声が聞こえた。 「藤木さん、少しお時間いいですか?」 振り向くと、そこには光源次が立っていた。 「えっ…はい!」 思わず緊張した声を出してしまう。源次は優しく微笑んだ。 「君のメモの取り方が印象的だった。とても真剣に話を聞いてくれていたね。」 「そ、そうでしょうか…。私はまだまだ勉強中なので…。」 「謙虚だね。でも、その姿勢は素晴らしいよ。」 紫の頬が熱くなるのを感じた。 「よかったら、少しコーヒーでもどう?」 「えっ?」 予想もしなかった誘いに、紫は一瞬言葉を失う。光源次は微笑んだまま、彼女の返事を待っている。 (どうしよう…こんな機会、普通ならありえない…!) 戸惑いながらも、紫の心はすでに決まっていた。 「…よろしくお願いします。」 こうして、光源次と藤木紫の物語が始まる。これは、ただの憧れでは終わらない——運命の糸が、静かに織り始められた瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ