プロローグ
光の行方
東京・丸の内にそびえる藤ヶ原タワーは、ガラス張りの外壁に都会の光を映し出し、夜になるとまるでひとつの星座のように輝きを放つ。そこに本社を構える藤ヶ原グループは、国内外に影響力を持つ一大企業であり、トップエリートたちが集う場として知られている。
そのエリートたちの中でも、特に注目を集める一人の男がいた。彼の名は光源次。若くして経営企画部の中心を担い、グループ内で「光のプリンス」と呼ばれる存在だ。
光のプリンスの秘密
光源次は、誰もが認める優れた才能の持ち主だった。スーツを完璧に着こなし、身のこなしはスマートで洗練されている。クライアントや上司、部下すらも魅了するその微笑みは、彼が築き上げた「完璧な男」という仮面の一部だ。
しかし、その光に隠された影を知る者は少ない。
源次は恋愛に関して自由奔放で、これまで幾人もの女性たちの心を翻弄してきた。彼にとって恋愛は感情の交錯というよりも、美しく織り上げる「芸術」だった。相手がどんな女性であれ、その魅力を見抜き、彼女たちを一瞬の夢へと誘う。それは源氏物語の主人公を彷彿とさせる行動様式だった。だが、夢はいつか覚めるものであり、その後に残るのは満たされない空虚感だった。
「完璧な人間なんていない。俺だってただの人間だ。」
そう思う瞬間がありながらも、源次はその空虚を埋める術を知らなかった。
運命の出会い
ある春の夜、源次は部下の昇進祝いを兼ねたパーティーに顔を出していた。都内の高級レストランを貸し切ったその場には、グループ内外の人々が集まり、賑やかな笑い声が響いていた。
「さすが光さん、今日も絵になりますね。」
「あなたがいるだけで会場が華やぐ。」
そんな社交辞令にも似た言葉が飛び交う中、源次は一人の女性に目を奪われた。
彼女の名は藤木紫。入社1年目の新人社員であり、これまで何度か社内で顔を合わせたことがある程度だった。しかし、その夜の紫は普段とは全く異なって見えた。肩を軽く露出させたシンプルなドレスに、微かに揺れるピアス。彼女が持つさりげない品の良さと、その奥に潜む強い意志を感じさせる瞳が、源次の目を釘付けにしたのだ。
「紫さん、今日は特にお美しいですね。」
声をかけた源次の言葉は、どこか特別な響きを持っていた。
紫は少し戸惑いながらも笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。少し背伸びをしてみました。」
その一言に、源次の胸の奥で小さな火花が散った。彼女の無垢さと控えめな自信、その二面性が彼の興味を掻き立てたのだ。
夜の独白
パーティーを終えた後、源次は都内タワマンの最上階にある自室に戻った。都会の夜景を見下ろしながら、ふと自分の中に芽生えた感情に気づく。
「紫か…。あの新人がここまで印象的だとはな。」
これまでにも美しい女性たちに出会ってきた。しかし、紫に対して感じたのは、それまでの恋愛にはない、何か説明し難い新鮮さだった。
「俺がまた誰かを傷つけるのか、それとも。」
自問自答を繰り返しながら、源次は窓の外に輝く月を見上げた。その顔に浮かぶ表情は、期待と不安が入り混じったものだった。
こうして、光源次と彼を取り巻く複雑な人間模様の幕が開ける。
物語は、光源次が織り成す恋愛の「光」と「影」を通じて、人間の本質を描き出していくのだった。