第五話・宰相さん、あなた顔が怖すぎますよ……
城に潜入した二人は着実に皇帝と宰相の元へと歩みを進める。
果たしてゼパイルは宰相の状態異常を解除することが出来るのか……。
ファルームと共に城に転移し、現在は廊下を廊下を歩いている。
文官や武官でごった返しており、酔いそうになるが、俺の手を超絶美人のファルームさんが握って先導してくれているので、若干の安心感はある。
城を歩き始めて十五分ほどが経っただろうか。
数分前からすれ違う城の役人たちは少なくなっている。
そしてある一室の前に着いた。
ドアには『第四会議室』と書かれている。
ファルームがドアを四回ノックし、一拍置いて五回ノックした。
これも符号のようなものなのか?
ノックを終えて一秒ほどでドアが開いた。
中に入ると誰もいなかった。
小さい部屋だから見落とすわけがない。
索敵の感知レーダーにも俺とファルームしかいない。
という事はここは中継地か?
「ここからお城の別の部屋へ転移します」
やはりそうだった。
俺は頷き、ファルーム真横に立った。
転移先の部屋には皇帝と超絶強面の初老の男性が話していた。
俺たちが転移で現れると、強面男性が血相を変えて叫び始めた。
「曲者だ! 衛兵!」
俺たちを暗殺者だとでも思ったのか、衛兵を呼んでいる。
しかし、この部屋には結界が張られている。
皇帝お得意の隔離結界だ。
衛兵が来ない事に気づいた男性は魔力を溜めている。
俺たちに放つつもりなのだろう。
「断界封陣」
男性を囲むように結界を張った。
溜めていた魔力が霧散した事で結界に閉じ込められたと気づいたようだが、今更何も出来まい。
「陛下、お久しぶり? です。陛下の呼集に馳せ参じました」
俺が恭しく首を垂れると、ファルームは俺を怪訝な目で見ている。
当の皇帝は爆笑していた。
「ったく。お前はやはりオーガスタの息子だな。軽口を叩きおって。さて、ファルーム、案内ご苦労だったな」
一通り笑い終えたようで、俺とファルームを出迎えた。
「して陛下、この方が宰相殿でしょうか?」
俺が結界に閉じ込めた男性を見ながら聞いた。
「あぁ。その通りだ。ところでウェイストを閉じ込めている結界は何だ?」
いや、それより先に宰相でしょとは思ったが、一応答えた。
「この結界は断界封陣と言いまして、結界の中と外を完全に隔てるものです。中から外に出ることも出来ませんし、術者、つまり俺が指定する行為を取る事が出来ないという結界になります。そして結界に捕えれば魔法は使用できなくなります。現在指定している行為は、自死、自傷、スキルの発動です」
俺が説明をすると、皇帝だけでなくファルームも驚いていた。
「ちょっと待って。結界の中と外を隔てるっていう事は、こちらの声は聞こえていないっていう事かしら?」
ファルームが聞いてきた。
「もちろんです。声はおろか向こうからはこちらを視認することも出来ません」
ファルームは驚きと感心でへぇと何度も唸っている。
「さて、雑談はここまでだ。ゼパイル、ウェイストを治せるか?」
皇帝がやっと本題に入った。
宰相を鑑定で確認した。
状態異常の欄には?が並んでいる。
つまり、普通の鑑定では?すら確認が出来ない。
という事で、魔力を消費して状態異常を確認した。
『洗脳、憤怒支配』
とある。
皇帝とファルームに伝え、憤怒支配がどういうものかを聞いたが、皇帝は知らなかった。
しかし、ファルームには心当たりがあるようだった。
明らかに表情が変わっている。
「憤怒支配は、支配系の呪術です。対象が普段感じている大きな感情を利用して支配するのです。現状解除する方法は解呪が出来る複数の魔術師を集めて儀式をするしかありません。それに、儀式の際には拘束しておかねばなりませんから、大掛かりになる事は間違いないでしょう」
ファルームが答えた。
支配系の呪術か――。
解呪――。俺の状態異常解除で解呪出来ると思うんだけど――。
状態異常の所に書いてあったからなぁ。
「出来るか?」
皇帝が聞いた。
「やってみます」
断界封陣はこちらからの干渉も出来ないため、結界を解除した後にすぐに自決を阻止する別の別の縛りが必要だ。
うん。創造しよう。
首輪の形で術者、つまり俺がしている行為を禁じる拘束魔法。
「禁縛の魔鎖禁縛魔鎖」
結界を解除し、直ぐに拘束魔法を放った。
俺が禁じた行為は自決と魔法、スキルの使用そして移動だ。
何が起きたのか分からないという表情をしている宰相、ウェイストだが、お構いなしに状態異常解除の魔法を使った。
やはりファルームが言った通り一筋縄ではいかないようだ。
しかし、俺の無限の魔力を消費し、完全に状態異常を解除した。
解除の瞬間、ウェイストの体から何かが消滅したのを感じた。
皇帝とファルームも同様に感じ取ったようだ。
皇帝がウェイストのもとに行くと、ウェイストは状況の把握が全く出来ていないようで、超絶強面が歪んでいる。
「ウェイスト、我が分かるか?」
皇帝が宰相の肩に手を触れて声をかけた。
「はい――。陛下、私は何故ここにいるのでしょうか……」
誤魔化しや嘘をついているようには見えない。
流石に嘘をついているかの判断は出来ない。
嘘発見器のように、相手が本当の事を言っているかの判断が出来るスキルなり魔法を創ればいいが、別に今でなくてもいい。
その後皇帝が色々話を聞いたが、宰相の記憶は混濁していた。
十日前から先ほど状態異常を解除するまでの記憶が完全になくなっている。
そりゃあ混乱するだろうな。
皇帝もファルームも俺と同様に嘘はついていないと判断したようだ。
「分かった。暫く養生せよ。三日間の休暇を与える。但し、護衛を付けさせる」
皇帝が今までの経緯を説明すると、宰相は愕然としていた。
操られていたとはいえ、皇帝を危機に陥れたとあっては絶望するのも当然だろう。
幸い皇帝は宰相を責めてはいない。
それどころかずっと宰相を心配していたのだ。
ふと宰相が俺を見た。
そして何故か憎悪の眼差しで俺を見ている。
俺何かしたか?
むしろ助けた側なんだけど――。
「気にしないで良いですよ。彼はオーガスタくんに嫉妬しているのです。オーガスタくんは下級貴族なのにも関わらず、陛下と長年の友人であるだけではなく、しょっちゅう陛下はオーガスタくんと念話で会話していますからね。陛下を敬愛している彼としては我慢ならないのでしょう。全く――その子供にまで憎悪を向けるとは――」
ファルームが呆れながら俺に理由を話してくれた。
なるほどな。
支配の呪術の原因が分かった。
そして、うちの領を狙ったのは宰相自身がオーガスタを排除したいっていう思いと、術を掛けた術者の思惑で皇帝も同時に亡き者にしようってことだったのか。
しかし、いくら俺が最強だとしても、周囲が狙われてしまうのは何の意味もないな。
俺はホーバマー家が大好きだし、無くしたくない。
家族が狙われるなら徹底的に潰す。
俺は決して好戦的という訳ではない。
だが、売られた喧嘩は買う。それだけの話だ。
「宰相殿、自分はオーガスタの長男、ゼパイル・フォン・ホーバマーと申します。この度はあなたにから大変な迷惑を被りました。しかし、あなたが直接悪いわけではない事は知っています。しかし、あなたが自分に向ける憎悪は大したことではない――とは言い難いです。もしも自分の家族に手出しするようなことがあれば――」
「よせ、ゼパイル。それ以上言わずとも我からきつく言っておく。今回の件は我にも非がある。死傷者がいなかったんだから良しとしろなどとは言わん。相応の礼はさせてもらう。だからこの場は我に預けてくれぬか?」
「……陛下、僭越ながら申し上げますが、仮にこの国の者に限らず、世界中の誰でも、自分の家族、使用人に手を出そうものならその者がいる国を滅ぼします。ご留意下さい」
「――承知した」
皇帝は苦々しく、頷いた。
これは脅しであると同時に心からの警告でもある。
皇帝の事は少し話したことがある程度ではあるが、好きな部類の人だし、父であるオーガスタの親友が治める国を滅ぼしたいなどとは思わない。
しかし、度を越える出来事が起きた場合にはその時はとことんやらせてもらう。
魔王と呼ばれようが、悪魔と呼ばれようが容赦はしない。
『それでこそ主だ――』
ジェイクの声が頭に響いた。
第一章・完
とりあえず、第一章はこれにて完結です!
第第二章は帝都学園編より始まります!
その前に、閑話休題を挟みますが、結構短いと思うので、直ぐに第二章が始まる――と思います!
乞うご期待!
ではまた!