第四話・帝都に来ました。都会って怖い……
帝都へ一時的に向かうことになったゼパイル。
今世で初めての大都会にウキウキ――はせず、慎重に向かう。
皇帝に全てを話した。
前世の記憶がある事、メルアルサルア様にあった事、特別な能力を貰ったこと、人間のレベルを超越した魔力や攻撃力がある事など、両親に話したことと同じ内容を話した。
結果、呆れられた。
そして、助言も受けた。誰彼構わず自分の事を教えるな、と。
精神的には大人で、人類どころか世界最強だろうが、内政や外交など政治的には無知と同等の為、簡単に利用される。
という事だった。
心からの忠言だと思った。俺は皇帝に感謝した。
そしてこれからの打ち合わせをした。
皇帝が村を発ってから二日後に俺が出立し、ジェイクに乗って結界の感知範囲の遥か上空を飛んで移動する。
帝都の近くに降りて皇帝へ念話を繋げる。
その後迎えの者を待ち、その者と共に城内に入る。
宰相の前に出られるようにするという事で、そこで洗脳の解除を行う。
解除が確認できた段階で帝都を発つ。
その後は新たに洗脳されている者が国の首脳陣である場合は俺が都度解除に出向く。
そして皇帝からその対価として十歳から入学できる帝都魔術学園に入学できるように取り計らうという事だった。
魔術学園とは何ぞやと思ったのだが、両親共にそこの卒業生らしく、貴族平民問わず、実力があれば誰でも入れるらしい。
基本的な算術などのテストはあるようだが、最も大事にされているのはやはり魔術の実力だという。
ペーパーテストでも、魔術の理論などが重視され、算術などのテスト結果などは例え零点であっても魔術の結果が良ければどうでもいいらしい。
俺は喜んで対価を受け取る旨を伝え、解散となった。
「気を付けるのよ。帝都では陛下のいう事をよく聞くこと。変な人に付いていったらダメだからね!」
皇帝が発ってから二日が経ち、俺も出立の時が来た。
屋敷の前でミーヤは口うるさく気を付けるように言う。
俺が精神的には大人であることは分かっているが、身体的には五歳児で、間違いなくオーガスタとミーヤの息子だ。
心配するなと言っても心配するのだろう。
「兄ちゃんいつ帰ってくるの?」
ユーラも今にも泣きそうな顔になっている。
今生の別れでも長く会えない訳でもないのに。
俺はユーラを優しく撫でて、両親に挨拶をして出立した。
村の外に出るまではジェイクを出せないため、馬で村の外まで向かう。
村の外までは屋敷の使用人が一人付いている。
何事もなく村から、数キロの地点に到着した。
呆気なかったが実際はこんなものだろう。
使用人に礼を言って馬を渡した。
使用人と馬が見えなくなるのを確認してジェイクを呼んだ。
「やっと出られた!」
ジェイクは咆哮と同時に何もない空間から出現した。
「うるさいよ。っていうか普通に話せるんだな」
『ぬぅ。すまぬ。龍形態の時でも話せるが、人間で聞き取れるのは主しかおらぬよ。テイムされた魔物やモンスターの言葉を聞き取れるのはその主であるテイマーだけなのだ。念話ならば誰でも聞き取れるがな。さて、乗るのだ主よ』
ジェイクは巨体を縮めて俺が乗れるくらいの大きさになった。
「そんなことも出来るんだ」
俺が感心しながらジェイクに乗り、跨ると、ジェイクは元の大きさに戻った。
『我のような古代種はある程度自由に姿や大きさを変えられるのだ。元の姿以上には大きくはなれないがな』
自慢気にそういうジェイクだが、俺が跨っている付近には鱗が無くなっている。
そして振り落されないように掴まれるよう、俺の目の前に捕まりやすい鱗を出現させてくれた。
「優しいねぇジェイク君」
『バカ言う出ないわ! 主が振り落されるくらいで死ぬとは思わんが、万が一があれば魂が繋がっているモノたちが全て大きなダメージを負ってしまうのだ。時が経てば治るが、魔物として再起不能になり、モンスターとなってしまうものもいるのだ』
「え……初耳」
これは本当に初耳だった。
『まぁ聞いたことがないのも無理はない。普通の人間がモンスターや魔物をテイムしたところで魂が繋がる事はまずないからな。圧倒的な魔力と精神力があって初めて魂の繋がりが生まれるのだ』
なるほど――。
「因みに魂が繋がると何が起きるんだ?」
『ふむ、色々利点はあるが、一番大きいのはテイムしたモノたちが圧倒的な強さを得る。そしてテイマーとしての利点は上限なくテイムが出来る事だな。つまり、テイマー側も圧倒的な強さを得ることが出来るのだ。まぁ主は巣の状態でも圧倒的ではあるが……』
そう言われると確かに俺のステータスが異常な事になっていた。
俺は一秒ごとにレベルアップし、ステータスの上昇値も十万倍になっている。
それだけでも化け物なのだが、ジェイクたちをテイムしたあと、皇帝御一考が村を発った後にステータスを確認すると、意味の分からないスタータスになっていたのだ。
魔力∞、単純物理、魔法攻撃力∞、単純物理、魔法防御∞。
レベルアップだけで無限になるわけがないため、どういうことかと思っていたが、ジェイクの話で納得した。
飛び立ってから一時間程が経過した。
ジェイクが本気で飛べば一時間強で王都付近に到着するだろうが、今は別に急いでいる訳ではないため、ゆっくりと飛んでいる。
眼下の建造物が視認できない程の高度で飛んでいるが、風圧や空気の薄さは感じない。
ジェイクが俺の周囲に結界を張ってくれているのだ。
『主よ、近くに我の配下たちがいるのだが、少し寄っても構わぬか? 奴らが主に会わせてほしいとうるさくてな』
ジェイクの配下というと、雷龍族の龍たちか。
『いいよ。少しなら全然構わない。俺も会いたいしね』
飛翔中は声を発しても届かないので念話で会話をする。
俺が了承の旨を伝えると同時にジェイクが進行方向を変えた。
進行方向上には大きな山脈が見える。
結構遠いように見えるが、ジェイクは速度を上げたため、数分で山脈の頂上付近に着いた。
着地したジェイクの周辺には全身が黄色の龍が多くいる。
ジェイクの体が縮み、俺が降りると龍たちは俺に首を垂れた。
『ようこそ主よ。ここが我の棲み処の一つだ』
ジェイクの念話を聞き、改めて景色を見ると、絶景そのものだ。
遥か遠くに海が見え、モンスターや魔物が飛び交っている。
「絶景だな――」
ボソッと呟くと、雷龍の一体が甲高く吠えた。
しかしその遠吠えは耳障りが良く、心地よかった。
「皆に名前をあげたいけど、流石に覚えきれないから勘弁してくれな。ごめんな」
俺が遠吠えをした龍に近づいて腹を撫でながら言うと、ジェイクが鼻で息を吐きながら言った。
「主が気にすることではない。通常魔物の名前などはごく一部の上位種に限って付けられるものなのだ。我にジェイクという名を付けた事によって我の配下たちにも少しではあるが力の譲渡が行われておる。故に気にするでない。というより、名前を付けられては困るな」
ジェイクの言葉に俺は疑問を持った。
名前を付けなくても良いというのは分かる。俺に気を遣っての事だろうし、ジェイクからしても配下の事を有象無象と思っているのだろう。
しかし、名前を付けることが困るとはどういうことなのだろうか。
「我の配下に名前を付けると、主の力がそのままそのモノに還元される。配下たちは一般的な魔物たちよりは知能はあるが、それでも我よりは低い。故に、強くなったと勘違いして、暴れ出すものもいるのだ」
俺の疑問にジェイクが答えた。
なるほどな。
さっきも魂が繋がったというような会話をしたのに、すっかりと忘れていた。
元が強いジェイクには全く届かないだろうが、その辺の魔物などは蹂躙しつくせてしまうだろう。
そういった意味でジェイクは名前を付けるなという事だった。
「分かったよ。ごめんな皆。俺たちは急ぐから、またな! いつでも俺の箱庭に入ってもいいから! じゃあ!」
ジェイクに乗り、再び帝都を目指す。
数時間程散空しながら帝都付近の上空に着いた。
俺は索敵レーダーを広げながらジェイクに指示を出す。
『帝都防壁の西二キロ付近にゆっくり着地してくれ』
すぐにジェイクが反応し、指示した場所にゆっくりと着地した。
既に陽は沈んでおり、付近に街灯などもないため、闇に紛れる事が出来ている。
「ありがとうジェイク。帰りはまた頼むな」
ジェイクに礼を言うと、鼻をブルルと鳴らして箱庭に帰った。
そして皇帝へ念話を繋げた。
『ゼパイルか。着いたのか?』
『はい。帝都西の防壁からおよそ二キロ地点に居ります』
『承知した。女を一人迎えに寄越す。符号は、山脈の頂きに天龍あり。天龍曰く主あり。だ』
『了解しました。待機します』
符号なんて単語久々に聞いたな。もちろん最後に聞いたのは前世のドラマだ。
自分が符号を使う身になるとは思わなかった。
しかし、この符号は多分ジェイクの事だよな。
迎えの人を待っている間にまたスキルや魔法の創造を行っていた。
俺の浮遊魔法はホバリングなどの用途で言えばかなり使い勝手がいいが、高速飛行となると、使い勝手が悪い。
風魔法を併用しないと速度が出せない。
それでもガーゴイルより遅い。
それを受けて飛翔魔法を作った。
魔力を消費しながら高速飛行が出来る。
飛翔魔法はホバリングは出来ないが、必要な時が来たら浮遊に切り替えればいいだけだ。
そんなことをやっていると、ジェイクから不満の声が届いた。
『我に乗れば良いのに――』
必要な時はジェイクに乗るが、人里付近だったり昼間だったりすると、目立ちすぎるから、作っておいて損はない。
そんなこんなで数十分が経っていた。
索敵を展開していたため、何者かが近づいているのが分かった。
しかもかなり速い。
人間が一人だけ。
一応俺は先ほどの時間で作った魔法、影身を発動した。
影身は影になるのではなく、影のように存在感を消す魔法だ。
影が存在する場所でないと意味はないが、幸い今は月明かりで多少は影があるため、少しは役に立つだろう。
結論、意味が無かった。
近づいていた人物は女性で、俺の前に止まった。
索敵のようなことをしながら来てたんだね。
「山脈の頂きに天龍あり」
女性が符号の上の句を言った。
「天龍曰く主あり」
下の句を俺が言うと、女性は頭を下げた。
俺は影身を解き、姿を現すと、女性はビックリしていた。
俺の事を聞いていたんじゃないのかな?
「申し訳ありません。陛下から伺ってはいたのですが、いつもの悪い冗談だと思っておりまして……」
女性は申し訳なさそうに頭を下げた。
「いえ、驚かれるのも無理ないですよ」
俺の言葉に女性は優しい笑顔を浮かべた。
「私はファルーム・エスパ・フォン・エルメシアンと申します。エルフの里の里長をしており、陛下とあなたの父君とは同じパーティで冒険をしていたのですよ」
マジか――。
エルフ……。ミーヤもユーラも種族はハーフエルフだったが、見た目は全く普通の人間だった。
しかし、エルフと言った目の前の女性は俺の想像するエルフそのままだった。
整った顔立ち、長く尖った耳。そして金髪。
「あ、すみません。俺はゼパイル・フォン・ホーバマーです。よろしくお願いします」
見とれていた俺は慌てて自己紹介をした。
「よろしくお願いします。では王城へ参りましょう。転移をしますので、私の傍へ」
「はい」
ファルームの傍へ向かい、止まると、転移魔法陣が地面に出現した。
そして部屋のような場所に来た。
今のが転移か……。
「王城へ転移できることは私と陛下、オーガスタくんしか知らない事ですので、口外は厳禁でお願いしますね」
ファルームはニコッと笑いながら唇に一本指を当てた。
そしてファルームはどこからか取り出した黒いローブを俺に被せて、行きますよと小声で合図すると、ドアを開けた。
王城は騒々しく、文官や武官が忙しなく行き来している。
ここ渋谷かよ!
あのさ、ただの下級貴族が何でエルフの里長とか皇帝と親友な訳?
しかもパーティメンバーだった?
オーガスタさんよ、あんた何ものなわけ?
次回、乞うご期待!
ではまた!