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第三話・まさかの親友だったそうです。そんで帝都に行くことになっちゃいました

皇帝がやってきた。

こんな辺境の地に何故?

そんな思いを胸にゼパイルらは屋敷の外へ――。

 何で皇帝がこんな辺境に来るの?

 どういうこと?

 全員でダッシュで屋敷前に向かうと、若い男とその後ろにお付きの鎧を着た従者多数が控えている。

 俺たちはいっせいに跪き、首を垂れた。

 「そう堅くなるでない。オーガスタよ、我とそなたの仲であろう?」

 え? 何で皇帝が下級貴族のオーガスタにそんな親しそうにしてるわけ?

 「私の妻以外は陛下との関係を知りませんから。それに陛下に軽々しく口を聞けば何をされるか分かりませんからな!」

 オーガスタは口調だけは丁寧だが、言っている事と態度が逆だった。

 ガハガハ笑いながらオーガスタは立ち上がり、そして尋ねた。


「して、本日はどうされましたか?」

「む? そなたが応援を呼んだのだろう? それに応じてやってきただけだが」

「えっと――私は近隣の領主には応援を頼みましたが、帝都はおろか陛下に応援を願うなどあり得ませぬ」

「む?」

 話が全くかみ合っていない。

 オーガスタも言っているが、下級貴族の領主が皇帝に応援を願うなどあり得ない。

 そんなことがあれば即刻死罪になろう。

 前世での知識でしかないが、帝国というのは皇帝が絶対であり、その他は蟻。というような認識だ。

 「どういうことだ? 我は宰相のウェイストにオーガスタが我に魔物の氾濫につき、応援を願っていると聞いたのだが……」

 やはり話が噛み合っていない。

 どういうことなのだろうか――。

 「恐れながら陛下、幾つかお聞きしてもよろしいでしょうか」

 俺は意を決して皇帝に声をかけた。

 もちろん跪いたままだ。

 一般的に言えば皇帝の前でいきなり話に入り込むなんて暴挙は許されないだろう。

 だが、先ほどまでの皇帝の物言いから、この皇帝は決して暴君ではないのだろうと思った。

 俺の言葉に皇帝の後ろに控えている衛兵が一瞬動いたが、皇帝がすぐにその者を制した。


「よい。申せ。――と、その前に跪くのはよさぬか。幼子がそのようなことはせずとも良い」

「ありがとうございます。私はオーガスタとミーヤの子、ゼパイルと申します。まず陛下にお聞きしたい事は、宰相殿から父が応援を願っていると聞いたのはいつでありましょうか?」

「ふむ、ゼパイルというのか。さて、ウェイストから聞いたのは三日前の昼頃であったな。それから我の支度と兵の選別と支度をした後、帝都を出立した。出立日は二日前の深夜だ」

 なるほど。そうなると――。

 いや、しかしどうやって伝えるかが大事だな。

 俺は魔術師五人を結界に閉じ込めたときに同時に謎の物体も鑑定した。

 それによるとその物体には魔術師三百人分の魂と魔力が封じられていた。

 そしてその物体を起動すると同時に魔物やモンスターが湧き出る。

 数時間で数千匹が湧き出たが、実はそれはまだピークではなかった。

 ちょうど皇帝が到着する頃を見計らってピークが来るように設定、操作されていた。

 あくまでも俺の予想に過ぎず、証拠は何もないが、宰相が絡んでいる事はほぼ間違いないように見える。

 しかし、皇帝が選出した者を犯人扱いするなど許されるのだろうか……。

 「申せ。言い難い事でもお主は何やら掴んでおるのだろう?」

 どうするべきか迷っているところに皇帝からの助け船が出された。

 この皇帝優しいんだな――。

 「では、恐れながら申し上げます――」

 俺の鑑定スキルで見たこと、皇帝が到着するであろう頃を見計らってピークが設定されていたことを包み隠さず伝えた。

 だが宰相が犯人であろう事は伝えない。

 っていうか伝えられるはずがない。

 しかし、誰がどう聞いても宰相が怪しいと分かる。

 少なくともこの村に住む人間ならば。

 何故なら領主のオーガスタが他領への応援を出したのは今日だからだ。

 「ふむ、つまりウェイストは黒幕か。少なくとも協力者ではあるだろうな。だが、宰相は権限で言えば我の次に大きな権限を有している。そんな者をただの協力者のようには使えんはずだ。ならばやはりウェイストが黒幕と考えるのが筋が合うな。だがあまりにも分かりやすい。自分が犯人だと言っているようなものだ。頭のキレる奴らしくもない……」

 うん、やっぱり言わなくても宰相が怪しいって分かるよな……。

 宰相を疑っているのは事実だが、その疑いは俺の思っていたものとは違った。

 皇帝はオーガスタと何やら話しており、流石にこの場面で聞き耳スキルを使うのは憚れた。

 「つまり、狙いは我ではなく、オーガスタ、お主という事か――」

 話がまとまったようで、何か納得しているが、俺には何のことかさっぱり分からない。

 すると、箱庭にいるジェイクから念話が来た。

 『そういえば我が今回の件に参加しておったのは興味本位なのだが、参加するように言ってきた人間がいた。主が捕えた魔術師たちではないが、主程ではないにしても、テイム前の我と同等の魔力量ではあった』

 は? それを先に言ってよ。

 神と崇められる程の天雷龍と同等の魔力量を持っていたって――。

 明らかな警戒候補じゃんか……。

 「ゼパイル、まだ何か言いたいことがあるようだな」

 いつの間にか皇帝が俺を見ていた。

 思案していた事が顔に出ていたのだろうか。

 「とんでもございません」

 とりあえずそう言って頭を下げながら一歩下がろうとしたが――

 「何を言う。お主はオーガスタの息子であろう? ならば遠慮するでない。この大氾濫を沈めたのはお主なのだろう? ならばその功績を称えるのは至極当然。それとも皇帝である我からの栄誉は不要であると?」

 とんでもなく怖く、悪い笑みを浮かべている。

 これは言わないと許してくれそうにないな――。

 だが、こんなに大勢の目の前で言える話ではない。

 どこに敵の耳や目があるか分からない。

 「滅相もございません。ありがたくその栄誉を頂戴いたします。しかしながら――」

 後ろの衛兵たちを流し目で見て皇帝に伝えた。

 どうにか分かってもらうしかないが、ここまでの皇帝の態度や話からすると、かなり話が分かり、頭の回転も速いだろう。

 俺の意図に気づいてくれるかもしれない。

 「ふむ――。オーガスタよ。お主の屋敷で話をしないか? 昔の冒険の話でもしようぞ。 外で立ったままというのは骨が折れる」

 皇帝がオーガスタの言うと、オーガスタはすぐに屋敷の使用人を呼び、準備をさせた。

 「お主らはここで待っておれ。お主らが屋敷まで入ってくると暑苦しくてたまらん」

 続けて皇帝が後ろに控えている衛兵に言った。

 どうやら俺の意図に気づいてもらえたようだ。

 もちろんただの偶然という事もある。



 領主邸の応接室に入った皇帝と俺、オーガスタ。

 ミーヤとユーラは席を外した。

 ユーラはまだ幼いため(いや、俺も五歳なんだが――)、ミーヤと共に自室に行った。

 席に着いた俺たちは皇帝が口を開くのを待った。

 「さて、隔離結界を張った。ゼパイル、遠慮なく思っている事を言え。今は昔馴染みで親友のオーガスタとの昔話に花が咲いた――という事になっている」

 皇帝の口調が変わった。同時に表情も柔らかくなっている。

 この表情と口調が素という事か。

 っていうかオーガスタと皇帝が親友? どういうこと?

 いや、それは置いておいて――。


「お言葉に甘えて申し上げ――」

「よい。お前は親友オーガスタの息子なんだ。そんな堅苦しい言葉遣いをガキが使うな。全く――」

「ヨーミン、それはないだろう。この子は俺たちの関係を全く知らんのだ。それをいきなり堅苦しいとは流石に悪すぎるぞ」

 え? オーガスタまで皇帝にタメ口で話し始めた。

 しかも苦言まで――。

 「ハハハ! そうだったな! すまんなゼパイル。この通り誰も見ておらぬ時はこんな感じで砕けた口調で話してるんだ。ゼパイル、お前も遠慮するな」

 遠慮するなと言われても無茶だよ――。

 

「はい――。では話を戻します。大氾濫を止めたのは俺です。そしてモンスターや魔物を発生させる物体を操作している魔術師五人も拘束しました。そして、その時にテイムした天雷龍によると――」

「ちょっと待て――。天雷龍と言ったか?」

「はい。天雷龍です」

 皇帝は開いた口が塞がらない様子で、オーガスタを見た。

 オーガスタはやれやれと肩を竦ませて俺の言葉を肯定するように頷いた。

 「驚いた――龍種では最上位に位置する天雷龍を――。末恐ろしいな。いや、今現在でも恐ろしいか……。っていうかお前、この国、世界を滅ぼそうなどと考えておらんよな?」

 皇帝が驚きと恐怖、畏れが入り乱れる表情で俺を詰めている。

 「もちろんそんなことは考えにも入っていません。俺は帝国のこの村の出身で、両親と弟が住んでいるんです。滅ぼそうなどとは微塵も思っていませんよ」

 俺がそう言うと皇帝は数度頷き、深く座りなおした。

 続けろという皇帝の合図で俺は話を続けた。

 「その天雷龍、名をジェイクというのですが、そのジェイクが言っていました。ジェイクにこの氾濫に加わるように言ってきた魔術師はその当時のジェイクと同程度の魔力量を保有していたようなのです」

 俺が先ほどのジェイクの言葉を伝えると、皇帝だけではなくオーガスタまでもが驚きで顔が硬直している。

 「陛下曰く宰相殿がそのような明らかなミスをするとは思えないという事からも何者かに操られているのではないか――と愚考しました」

 これはいい線なのではないかと思ったが、皇帝とオーガスタは難しい顔をしている。

 いや、まさかと言ったことを呟きながらオーガスタと皇帝は互いを見合っている。


「あの――」

「あぁ、すまん。宰相のウェイストは優秀な魔術師なのだ。オーガスタや俺程ではないにしても、帝国では十分に優秀な部類だ。そのような者が洗脳などで操られるなど――と考えていたのだが、天雷龍と同等の魔力量を持っていて、それを適切に操れるとなれば話は別だな――。大至急対策を講じなければならないが、このことはあまり外に出せないな――。オーガスタ、妙案はあるか?」

「あるわけないだろう。内政に関してはお前の方がダントツだろ?」

 皇帝をお前って――。っていうか皇帝って素だと『俺』なんだ……。

 しかし、確かにこれはおいそれと外には出せないよな――。

 第三国からの刺客という可能性もあるが、国内で対策を講じようと国の重鎮に話したとして、既に誰かが洗脳されていれば敵に筒抜けとなる。

 だったらこれしかないな――。


「陛下、お聞きしたいことがあります」

「何だ?」

「宰相殿はいつもと様子がおかしいというようなことはありましたか?」

「ふむ――。言われてみればいつもは執務室で執務をこなしているのだが、最近は城内を歩き回っていたな――。だが様子の異変と言われると、難しい。しかし、これくらいしか思いつかないな」

「俺は鑑定によって対象が状態異常にかかっているかどうかが分かります。そして、どんな状態異常であろうと俺の魔力を消費することで解除出来ます。現に大氾濫で発生した魔物やモンスターの状態異常を解除しました。魔物たちは洗脳状態でしたので」

 再び開いた口が塞がらない状態の皇帝。

 そしてこちらも再びやれやれ状態のオーガスタ。

 「状態異常の中でも洗脳の解除は総界教などの教会の極々極々一部の神父しか出来ないのだぞ――」

 皇帝は驚きというよりも呆れた様子だ。

 そんなこと言われても出来るんだから仕方ないでしょ――。

 口には出せないが、そんなことを思いつつ、次の言葉を待っていた。

 「つまり、お前を帝都に連れて行けば状態異常を解除してくれるという事だな?」

 そういう事だ。おいそれと口に出せないという事は教会の神父に対しても同じだ。

 その点俺は事情を知っているため、問題はない。

 俺が肯定の意を示すと、分かったと皇帝が頷いた。

 「ならばお前を帝都に一時的に連れて行こう。だが、極秘でだ。天雷龍に高高度で飛行してもらい、帝都の近くに来てから俺に念話をしろ。迎えの者を寄越す。だが今は――」

 皇帝の言葉が止まった。

 そして気づいた。

 睨まれている。

 「お前何者だ?」

 ですよねぇ……。

第三話です。

下級貴族のオーガスタがまさかの皇帝と親友でした。

そしてまさかオーガスタまでもがタメ語で皇帝に話す始末。

この世界どうなってんの?

ってなりますわな……。


という訳で次回は帝都編です!

乞うご期待!

次話の投稿は週明け月曜日になります!


ではまた!

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