第二話・皇帝を名乗る人が来ました・・・は?
自分がこの世界で最強だと自覚し始めたゼパイル。
次なる標的、謎の物体に向かうゼパイルが目にしたものは・・・
物体付近に到着した俺だが、冷静にモンスターたちを鑑定、弱点看破を行い、俺にとっては足元にも及ばない程度の敵だと判断した。
しかし、術者をただ排除してしまったら意味が無い。
何故このような行為をしているのか、誰に雇われているのかを聞きださなければならない。
そのためモンスターの排除に魔術師たちを巻き込むわけにはいかない。
ならばまず取る行動は――。
「断界封陣!」
魔術師五人を結界に閉じ込めた。
この結界の権能は単純に結界の外への干渉を許さないというものだ。
もちろん出ることも出来ないし魔法などを撃つことも出来ない。
そして術者が指定する行為を取る事も出来ない。
俺が指定する行為は自死、自傷、他傷。
魔術師を隔離できたのを確認し、モンスターと魔物の排除に移る。
因みにモンスターと魔物の違いは知能の差だ。
モンスターは自分で考えて行動できるが、高度な知能はない。
大して魔物は高度な知能を持ち、モンスターに対して命令が出来る。
目の前の最も目に入るドラゴンは魔物の最たるものだ。
一気に滅しようとも考えたが、ふと思いなおした。
俺の母、ミーヤは世界でも指折りのテイマーの家系だそうだ。
俺の五歳までの記憶でそう言っていたのを思い出した。
テイムはどうやればいいのか――。
思考加速を自分に施し、神羅万象でテイムのやり方を調べた。
すると割と単純だった。
テイムする対象がテイムを承認するものが主なやり方のようだが、もう一つは自分の魔力を対象に流し込み、認めさせることでもテイムが出来るらしい。
但しこのやり方は一般的ではなく、通常のモンスターや魔物には通用しないやり方らしい。
理由として認めさせるやり方はプライドが高く、自分が最強だと思っているモンスターや魔物にしか通用しないようだ。
つまり、対象が魔力を流し込む勝負を受けてくれないと始まらないらしい。
自分が最強だと思っている相手だからこそ通用する。
そして、そう言ったモンスターや魔物は上位種であることが多いため、一般的な魔術師の魔力では認めさせることなど出来る訳がないからだ。
仮に勝負を受けてもらうことが出来たとしても、条件が付けられる。
こちらが勝てばテイム。対象が勝てば死。
という事が一般的なようだ。
良くても一生の奴隷だ。
ドラゴンはこの世界の最上位に位置する魔物で、最強の部類に入る。
俺としては負ける可能性など皆無だろうから受けてくれるのを期待してこのドラゴンに勝負を挑んでみよう。
鑑定によるとこのドラゴンは『天雷龍』という種族らしい。
っていうかよく考えたらドラゴンをただの魔術師が使役できるわけがない。
それに他の魔物やモンスターは生後零日だったのに対してこのドラゴンは生後五千年は経過している。
っていう事はこのドラゴンは面白半分で参戦してるってことか?
俺の方をじっと見ているし――。
「天雷龍さーん、聞こえてる? 良かったら俺とテイムをかけて勝負をしてくれないかな?」
俺が声を張って言うと、天雷龍さんは笑みを浮かべた――ように見えた。
『人間の小童如きが尊き我と勝負だと? ふざけた――ちょっと待って――何で? え? 何で我の鑑定が通用しないの? は?』
めちゃくちゃ威風堂々としている出で立ちで、威圧感が凄かったのだが、途中で腑抜けた声が聞こえた。
いや、頭に声が響いた。
「あれ? まさか天下の天雷龍さんが人間の小童との勝負に臆しているんですかね?」
わざと煽って勝負を受けるように仕向けると、天雷龍は顔を引き攣らせながらも勝負を受けた。
『我に魔力を流せ。貴様の魔力が途切れれば貴様の負けだ。その瞬間に貴様を食いちぎってやる。無いとは思うが我が貴様を認めたのならば貴様の僕となろう』
「分かった。それで良いよ」
俺が笑顔で言うと、天雷龍が魔法陣を展開した。
一瞬戸惑ったが、その魔法陣が勝負の間は互いに攻撃をすることが出来ないという陣だと分かり、その魔法陣に足を踏み入れた。
俺は天雷龍の足に手を触れ、魔力を一気に流し込んだ。
俺の魔力は疑似無限だ。
一秒毎にレベルアップしているため、一秒ごとに全ての魔力が回復する。
天雷龍はどのくらいの魔力を耐えられるのかなぁ――と思っていたのだが、魔力を流し始めてからわずかコンマ一秒で俺に声を上げた。
『ごめん、待って。お願い。無理……』
俺は構わず魔力を流す。
『待ってって!』
「ん? 参ったって言わない限り終わらないよ?」
『参った! 貴様の勝ちだ! 貴様の僕になる!』
勝った。
俺は魔力を流すのをやめ、改めて天雷龍に向き直った。
天雷龍は荒く息をしており、呼吸を整えている。
『我は天雷龍。雷龍族を統べる雷龍族の長。天雷龍の名のもとに貴殿の配下に加えさせて頂こう』
呼吸を整えた天雷龍が首を垂れた。
「我、ゼパイル・フォン・ホーバマーの名のもとにジェイクの名を授け、我の配下に加えよう」
神羅万象で調べた際にテイムの祝詞を覚えたため、簡単に天雷龍のテイムに成功した。
その証拠に先ほどまであった天雷龍の敵意が一切なくなっていた。
更に天雷龍、ジェイクの感情などが俺に入ってくる。
「ジェイク、戻っててくれ。後で俺の家族に紹介するから、ここは任せてよ」
俺がそう言うと、ジェイクは一瞬で消えた。
テイマーは異空間に箱庭のような空間があり、テイムしたものをその空間に送ることが出来る。
虎の子だったであろう天雷龍が消えたことで隔離している魔術師たちの表情が一気に恐怖に塗りつぶされていた。
他の巨大モンスターや魔物たちも何が起こったのか分かっていないようだった。
このモンスターたちはやりたくて大氾濫を起こしていたわけではない。
魔術師たちが守護している物体によって生み出され、洗脳のようなものを受けているのだ。
何故そう思うのかというと、ジェイクが教えてくれた。
箱庭にいてもいつでも念話を行うことが出来るようだ。
創造で洗脳や状態上の解除魔法を創り、周辺のモンスターたちに掛けた。
すぐに状態異常が解除されたのが分かった。
何故かって?
だってモンスターと魔物が全員ひれ伏してるんだもん……。
俺が戸惑っていると、ジェイクから念話が来た。
『主よ、そ奴らは主の僕になりたいようだぞ』
マジか……。そうだとは思ったけど、ゲームとかでは圧倒的な強者として出てくるフェンリルとかトロールとかそういった奴らなのに――。
まぁいいや。
一匹ずつテイムの契約を行い、一時間程かけてようやく全員分が終了した。
そしていつの間にか領軍が俺の後方数十メートルで待機している。
「あ、皆さんお揃いで。今結界で捕えている魔術師たちがこの物体を使用して大氾濫を起こしていたようです。先ほど大氾濫は沈静化しましたけど、魔術師たちは皆さんにお任せしてよろしいですか? 一応今は自死などが出来ないようにはしていますので」
俺が言うと、全員ポカンとしている。
そういえば俺五歳だった――。
うん。どうでもいいや。
司令官らしき人が前に出てきて、お任せくださいと頭を下げた。
一応俺五歳とは言っても一人で制圧したし、領主の息子だもんな……。
結界を解き、領軍に引き渡した後に俺は飛んで家に戻った。
その途中、ジェイクから『我に乗っていけばいいのに……』との小言があったが、無視をして家に到着した。
家の前には既にミーヤとオーガスタが俺の到着を待っていた。
司令官から聞いていたのだろう。
地面に降りるとミーヤが俺を抱きしめた。
「おかえり。無事で良かったわ」
ミーヤがそう言って俺を優しく撫でた。
「ったく。一人で全部片づけやがって」
オーガスタは若干不満気味だったが、それよりも誇らしいと言わんばかりの笑顔だった。
「とりあえず家に入りましょう。それからじっくり話を聞かせてもらうからね」
俺は頷いて両親とともに家に入った。
家に入ると弟のユーラが走って俺を出迎えてくれた。
ユーラを抱きしめた後に家族みんなで大広間に向かった。
そして全てを話した。
前世の記憶があり、メルアルサルアに会い、あらゆる能力を得たこと。
先ほど天雷龍やフェンリルなどをテイムしたことなど。
「ちょっと待って――。メルアルサルア様にお会いしたの……?」
両親共に驚愕の表情となっていた。
「うん。会ったけど、そんなに有名なの?」
前世の記憶を持っている俺からすると、地球での神は人間が作り出した偶像でしかない。
「有名も何もこの世界で一番信仰されている神様よ! 総界教っていうところがあるんだけど、世界で一番大きい宗教なの。そっか……だから今日になって人が変わったみたいになってたのね……」
ミーヤは若干ショックなのか、声がトーンダウンした。
「ごめんね。でも、俺は間違いなく二人の子供だよ。単純に五歳になったから記憶が戻っただけで」
「分かってるわ。責めている訳じゃないのよ。ただね、私の故郷にとある伝説があってね。その伝説にはハーフエルフの子に世界を変える者が現れる。その者は最高女神の加護を受けし者っていう伝説があるの。あなただったのね」
感慨深いといった具合に俺を見つめるミーヤ。
対してオーガスタは俺を期待の眼差しで見つめている。
「道理で俺の鑑定が通用せんわけだ」
やれやれといった具合に首を横に振るオーガスタ。
そして話は一通り終わり、俺がテイムした魔物たちの話になった。
「それで、五歳児が伝説の龍をテイムしたって?」
呆れて物が言えないと半分笑いながらミーヤが言う。
「出しても良い? どうやらジェイクは人間の姿にもなれるみたいだけど」
「そうね。伝説上の生き物を見たいっていうテイマーとしての願いはあるから見させてもらっても良いかしら?」
という事で俺たちは屋敷の中庭に出た。
屋敷の使用人たちは中庭にこそ出ていないが、心配の眼差しで室内から見ている。
そして俺はジェイクとフェンリルのフォーガを出した。
ミーヤとオーガスタだけでなく、何故かユーラもおぉと歓声と拍手をしている。
「ん? ジェイクもフォーガも何か存在感圧倒的に上昇してないか?」
俺がポツリと呟くと、ミーヤが俺の肩に手を置いて教えてくれた。
「テイムする魔物たちはね、主人であるテイマーの実力によって大幅に実力が増すのよ。ただでさえ最強格の天雷龍があなたがテイムしたことによって正真正銘の最強になっちゃってるわよ。フェンリルも最強になっちゃってるわね。それにね、天雷龍は雷龍族を統べる長だから、天雷龍を従えた事によって、彼が従える雷龍たちも自動的にあなたが使役していることになってるわ」
マジか――。神羅万象で書いてあったの忘れてた……。
ちょっと待って。今俺って何匹テイムしていることになってるんだ?
俺のステータス画面の詳細情報を見ると、『テイム数八百三十二匹』となっていた。
内訳には天雷龍のジェイクを筆頭にその下に大量の雷龍がいる。
ごめん。俺バランスブレイカーになっちゃってる。
「大丈夫よ。テイムされた雷龍たちはあなたの命令がなければ一切悪さをしないから」
俺の恐怖を感じ取ったのか、ミーヤが安心させるように言った。
ジェイクの人型は結構な美形で、以外にも黒髪だった。
雷龍というから金髪化と思っていたが、裏切られた。
いや、別にどうでも良いのだが……。
地上と空、両方で乗れる魔物をテイムできたことは大きい。
将来は冒険者とかになりたいからな。
ジェイクとフォーガを含めてみんなで談笑していると、血相を変えた執事がオーガスタを呼びながら走っている。
オーガスタが何事か聞くと、驚きの言葉を発した。
「皇帝陛下がいらっしゃいました……」
は?
何で皇帝が辺境の地に来るわけ?
作者はバカなの?
そう思われても仕方ないですが、しっかり理由があるんです。
次回その理由が分かりますので、乞うご期待!
ではまた!