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五月雨の刹那

作者: ミズチ

最近雨続きで湿気が酷く、洗濯物の生乾き臭が酷いと感じていた。いつもなら、生乾き臭が少ししても気にせずに服を着たり、バスタオルで髪の毛を拭いたりしていたのだが、匂いが気になっていた彼女とうとう我慢できなくなり、明日バイトが休みの日にコインランドリーに乾燥機をかけに行くことになった。彼女は手伝うどころか、「午前中は美容室だし午後は仕事あるから」と言って朝から早々と出ていってしまった。俺は朝起きるのが苦手で朝は食べなくてもいいのだが、彼女が「朝ごはんは食べよう。」と言って朝は遅くとも8時前には起きて謎に規則正しい生活をするので、不規則な実家暮らしをしていた俺には中々荷が重い。彼女が飛び出していった後に机の食器を片付け、ハンバーグ臭いファミレスバイトの制服、そして俺の服と彼女の服を洗濯する。あ、ついでにバスタオルと毛布も洗濯してって言われてたっけ。それを思い出してもう2回洗濯機を回す。


「……長いな。」

洗濯機の中は満タンで回すと最低でも50分はかかる。バスタオルの枚数はそんなに多くは無いので30分くらいだとしても1時間半程になってしまう。

さて、どう時間を潰すか……。そう考えて俺が真っ先に見るのはYouTubeかTikTokだ。どうも俺は先の予定入っていると他のことが手がつかなくなってしまう悪い癖がある。せっかくの休日、時間を気にせず自分のしたいことをしたいのに、先のめんどくさい予定で待たされるというのがどうも気に食わない。まぁ、そんなことを言おうものなら彼女から雷が落ちるので口のチャックはいつも閉じている。YouTubeはいつもの好きなゲーム配信者の動画を見て、TikTokではバスケの動画の切り抜きが流れてくるのでそれを見て楽しんでいる。そんなこんなで1時間半経ち、2回分の洗濯物が終わった。バスタオルと服は大きい袋に雑に詰め込んで、水を吸って重くなった毛布はカゴに入れて階段を降りていく。一回で持って行けると思ったのだが、重すぎて持って行けなかったのでため息をつきながら車と部屋を2往復した。車のエンジンをかけ、暑くなった車内のエアコンをつけて俺はコインランドリーに車を走らせた。



洗濯物はまだ、湿っている。





車で5分ほどのところにコインランドリーはある。

店自体はもう新しくはないが、丁寧に掃除されているようで古さを感じない。自動ドアを通り、洗濯物とバスタオル、毛布を3つの乾燥機に分け100円を5枚ほど入れる。100円玉が無くなったので、両替機に1000円札を入れようとすると全く入ってもいかない。裏返したりシワを伸ばしたり何回も挑戦してみるが何も起こらない。よく見てみると、故障中の赤いランプが点滅していたので、ダルい気持ちを押し込めて、近くのコンビニに飲み物を買いに行き、お札を崩してきた。残りの乾燥機に100円玉を入れ、50分と表示が出た。少しくたびれたので、椅子に座りさっき買ってきた飲み物を勢いよく流し込む。大人になると運動もしなくなるので、あまり喉が乾かなくなる。そうなると、必然的に1日に水を飲む量が減るので体内の栄養や水分の循環が悪くなる。と彼女が言っていた。確かに乾燥肌がちょっと気になってきたとか思ったのだが、俺もいつまでも高校生じゃあるまいし歳をとっているのかな。と少し悲しくなってしまった。バスケ部に居た頃はいつでも喉が乾いていたのに、と思い出にふけながらLEDライトに照らされた店内が洗剤の匂いと乾燥機の熱の暖かさも相まって少しいるだけで眠くなってくる。

帰ってゆっくりしようと思っていたのだが、眠気に襲わてそのまま椅子の上で寝てしまった。

ー何分経っただろうか、誰もいない乾燥機だけが静かに回るコインランドリーのはずなのに、ガチャガチャとうるさい音が聞こえる。折角寝てたのに、と不機嫌になりながらも顔を上げるとそこには1人の女性がいた。しゃがんで両替機の前でガチャガチャと音をたて、苦戦している様子だ。

このままスルーしても良かったのだが、こうもうるさいと気になって仕方がない。俺は眠い目を擦ってのっそりと立ち上がり女性に「その両替機故障してますよ。」と声かけた。すると女性がいきなりびっくりしたのか「つぇっ?!」となんとも言えない声を上げたので、少し笑ってしまった。

「……何がそんなにおかしいんですか。」

と言ってすっと立ち上がる。

ちょっと寝ぼけていて、よく顔を見ていなかったが、よく見ると綺麗な人だった。

切れ長の目に黒髪のロングヘア、おまけにスラッとしていて白のピチッとしたトップスがスタイルの良さを引き出している。おまけにヒールを履いているので身長も高く見える。俺も180cmはあるのだが、ヒールを履いていると鼻の位置まで身長がある。ここら辺にいる女性より断然可愛いかった。

俺がじっと見すぎたのか、

「何じっと見てるんですか。気持ち悪いですよ。」

とストレートに言葉を放ってきた。

「え、ああ。いえ、俺もさっき両替しようとして故障に気づかないで同じことしてたんでつい。」

と、咄嗟にごまかした。

まぁ俺はそんなにうるさくガチャガチャはしてなかったんだけど。

「……そうだったんですね。どうしようかな。」

女性が少し悩んだ様子でいる中、

「近くにコンビニがあるのでそこで両替してきた方が早いかも。ここから少し歩いたら着きますよ。」

と伝えると、

「……ありがとうございます。」

そう言って彼女はそそくさと店を出て行った。

「……気持ち悪い。」そう言われたのが今になって心に突き刺さってきた。いや、もういい。美人に親切にできたし、ラッキーくらいに思っておこう。そろそろ乾燥機が終わる頃だったので立ち上がって洗濯物を取る準備をしてると、机の上にさっきの女性のスマホやら財布、洗濯物が置きっぱなしになっていた。人も来ないし、そのまま帰ろうかと思ったのだが、女性がここに戻ってくる間に貴重品を盗られて帰っている俺が犯罪者扱いされるなんて余計なことを考えてしまい、念の為その場に残って待つことにした。

まぁ、コンビニまで遠くはないし遅くはならないだろう。

そう思ってスマホを見ながら待つことにした。

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