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魔法熟女と倍速視聴


「真香の言うことはいつも細かいし、それはもう終わった話だろ!何回もぶり返しやがって!そんなんだから、この戦いは終わらないんだ!」


「パパ……十蔵だって、私の言うこと1つも聞いてくれないからでしょ!トイレは座ってして!靴下は裏表逆!旦那デスノートにでも書きたい気分よ!」


 俺の父こと、佐藤十蔵は聖剣に力を凝縮する。次で最後の一撃のようだ。


 対する俺の母こと、佐藤真香はステッキが虹色に輝く。今までになかった色で、母も最後の一撃で父を屠るよう。


 元々、父と母は仲が悪かった。ほぼ離婚するような雰囲気だったが、父は勇者の聖剣、母はステッキを手にしたことで、それぞれ齢40だが勇者と魔法少女になった。


 しかし、両親の目や鼻からは血が流れている。


 身体が力に耐えられないのだろう。


 そもそも勇者と魔法少女の力は12〜18歳の身体に最も合う。


 40代の2人の身体でここまで耐えられたのが奇跡なのだ。


「パパ!ママ!聞いてよ!もうやめよ!これ以上やると、2人の身体が持たないよ!」


 俺は1人息子の佐藤健太。現代日本という場所に転生した転生者である。


「お前がいるから」


「あなたがちゃんとしてないから」


「「健太が泣いてるじゃないか!!」」


 2人は俺を愛している。それは変わらないはずなのに、なぜ争っているのだろうか。


 あれだけ仲が良かったはずなのに、歯車が噛み合わない。


 仕方ない、今回もダメだった。


回帰魔法(リグレクト)


 俺は詠唱すると、目の前が真っ暗になる。


 もう慣れたものだ。


 次の瞬間目を覚ますと、


「おぎゃ〜おぎゃ〜!」


「やった!よく頑張ったな、真香」


「すごい……元気な男の子……」


 俺はまた、この2人の子供として過去に戻った。


 これは俺が夫婦を争わせないため、果ては世界の平和を守るために何度も子供から生まれ変わる物語。


 











「悪くないんじゃね?」


「マジ?」


「マジマジ」


 中村の言い方は少し棒読みだが、肯定されたのは素直に嬉しい。


「中村から過去一番の手応えいただきました〜!」


「この両親の仲が悪くなったキッカケも気になるし、誰が聖剣とステッキを与えたのとか気になった。ス○イファミリー感はあるけど、これはこれで、なしよりのあり」


「なしよりなんかーい」


 ※※※※※※


 今日も今日とて、中村は俺の家に入り浸り、漫画を読み耽る。

 

「なぁ、中村よ」


「なに?」


「倍速視聴について、どう思う?」


「今、いいところだから、ちょい待ち」


 中村の読んでいる(俺の)漫画は、左端が数ミリのところまで来ている。そろそろ読み終わると思うのだが、知ったことじゃない。家主権限で話を続けよう。


「俺は倍速視聴をしてもいいと思ってるんだが、考えが変わりそうでさ」


「知るか、どうでもいい」


 中村が吐き捨てるように言うのは、たぶん読むのを邪魔されているからだろう。俺だって大事なシーンで声をかけられると多分そうなる。


 まあ、中村なら聞きながら漫画を読むなんてこと造作もないはず。


「倍速ってさ、今のエンタメに溢れるご時世で、割と必須だと思ってたんだ。でも、そこに愛はあるんか?って思っちまってさ」


「あーー読み終わった〜〜。充実感エグ〜!!次の巻〜っと」


「ちょっとは興味示そうか」


「ア○フルってか、消費者金融はやめとけ」


「よかった。聞いてくれてるならいいわ」


 中村が漫画を読み始めたと同時に、俺は口火を再度切る。


「倍速視聴は悪かどうかってことだが、中村は使う?」


「俺は使わない。誰かと一緒に見てる時も使わない。てか、他人がどうしてようが別によくね?」


「これはアニメ作品をどこまで愛してるかって話しなんだよ!俺はアニメが好きだし、小説を書く上で色んなアニメを見る。でも、多くのアニメを見るなら倍速しないと時間的に厳しくてな」


「じゃあ見なきゃいいやん。そんな倍速を使う程度のどうでもいいアニメなんて」


「どうでもよくないんだよ!最後まで見たら面白くなるかもしれないし!!」


「じゃあ何で悩んでんだよ」


「沢山のアニメを見ても、そこにアニメ好きとしてのプライドはあるのかって思ってさ…。特に、倍速で見たものをつまらないっていう奴は、いかがなものか!!」


「あーーそういうこと」


 中村はどうでも良さそうに相槌を打つ。こっちは必死だってのに。


「俺は悩んでるんだ!このまま倍速視聴を続けるかどうか!等倍でゆっくり見るか!」


「全部倍速なんか?」


「いや、アニメによる。好きなのはリアタイとかするし」


「そんなことだろうとは思った」


「中村だって、好きな作品を倍速視聴した人が面白くないって言ってたら嫌だろ?」


「どうだろ。それは話が変わってくるとは思うけど、俺は面白いって思えるやつとつるめばいいし、倍速して面白くないって思うなら、そうか〜って感じ」


 中村はこういうのに対して、あまり関心がないよう。でも、好きな作品を貶されるのは、なんかムカつくとかあるだろ。


「その心は?」


「人それぞれ意見は自由ってこと」


「勿体ないとは思わん?ムカつくとかは?」


「人との意見を完全に一致させるのは無理だし、見るスピードもみんな同じじゃない。あれだ、英語の長文読解とか意味わからんくらいに早い奴いるだろ。だから、基本人による」


 中村の言い分は分からないわけではない。でも、倍速は映像媒体特有なのであって、読書とは違う。


「でもさ、アニメを作った人からしたら、嫌なんじゃね?」


「それはクリエイター目線だから知らん。鈴木の方が分かってるっしょ?そこはどうなん?読みますって言って読まないのと、速読で適当に読まれるのどっちがいい?何が嫌?」


「読まずに低評価されるのはクソ。読まれないのは悲しい。速読でも読んでくれてありがとう…かな。あ、低評価は言い方による」


「じゃあそれでいいやん。悩む必要なし」


「え〜〜そういうことじゃなくてさ〜。映像と読書では違うだろ〜」


 すごくモヤモヤする……話してるのに全くまとまらない。


「好きな作品を等倍でゆっくり見るのが作品への愛なのか!あまり面白いと感じなくても倍速を使ってでも最後まで見ることが愛なのか!」


「そんなの決まってる」


「え!マジ?」


「愛を語るやつに(ろく)なやつはいない」


「………………そういうことじゃなくてだな〜」


 結局、モヤモヤしたまま、この議論は終わった。


 俺は倍速を使わずにアニメを見ることが多くなった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 分かり易い話題が、色んな視点から話が進められていて良かったです。 どっちがいいとかを決めないところが、なめろうさんらしいなと思いました。 [一言] 今までに比べて、中村があまりツッコんでい…
[良い点] 鈴木の小説に成長が!?毎回鈴木の小説が独特でおもろい! [一言] 個人的に倍速視聴はお勧めしないですかねー。倍速視聴するぐらいなら好きなアニメ何周もした方が有意義かなーと思ってしまいます。…
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