不良と物語
「これは何だ??」
「何だって……新しい小説の案に決まってるだろ」
コタツの上にある、俺の小説の設定(仮)を書き殴った付箋に、中村は部屋に上がってくるなり開口一番に問うてくる。
「ここの「ニキビを食べることでステータスが上がる」ってのは何だ?ビキニの間違いか?」
「ビキニ食うとか……中村……それはキモい」
「どっこいどっこいだろーーーがーーー!!!」
普段通り、部屋に響き渡る中村の叫声。
「え?いや、確かにちょっと設定的に攻めすぎたと思ってるけど、そこまでか?」
「きめーよ!!どこに他人のニキビを食べたい奴がいるんだよ!」
「いや、でもほら!授業でもターゲット層を明確にするのが、マーケティングでは大事って教授が言ってただろ」
「それ本気で言ってるのか?」
中村の信じられない物を見る目の威圧感があり、俺は目を逸らしながら考える。
「………………面白いかなって。笑いと狂気は表裏一体だろ?」
「とりあえず、絶対却下」
「あぃ……」
※※※※※※※
「ヤンキーとか不良って、なんで良いんだと思う?」
「藪棒※」
※「藪から棒」の略、中村は漫画や小説を読みながらの受け答えの際に使う。
中村は俺が買ってきた新作のラノベを読みながら生返事する。
「いやさ、今度ヤンキーものを書くなら、どうするかなって考えてたんだよ。最近の有名所だと、大阪リベンジャーズとか、ファイヤーブレイカーとか」
「おぉ、あるな」
中村はなおも読む手を止めない。
俺も話しながら整理したいから、ながら聞きくらいでちょうどいいか。
「何のためにそれをするんだろうと思って」
「知らんがな」
「仮にだよ、仮に」
中村は読む体勢を変えると、少し考える。
今さらだが、ラノベを読みながら会話できるのは、相当に器用だ。
「社会とか世の中の不満とかを、ぶちまけたいんじゃないのか?」
「それで物を壊すのは何となく理解できるんだよ。ストレス発散的な。ただ、人を殴ったり、見栄を張ったり、爆音でバイクを走らせたり、非合理的じゃないか?」
「人間がみんな合理的に行動するわけないだろ」
「そういうもんか」
「人を殴ったり、見栄を張るのは舐められたくないから。爆音でバイクはあれだ、パチンコみたいなもんだろ」
「あーー、大音量が気持ちいいみたいな?」
「まぁ、そうなんじゃね?知らんけど」
大音量が気持ちいい??映画とかの爆発シーンでテンションが上がるようなものか。
それならギリギリ分からないこともない。
「舐められたくないっていうのが、分からないんだよな。下に見られてた方が色々と楽じゃね?」
「舐められたくないって男は多いぞ。たぶん鈴木の思ってる以上に」
「そうか?」
「マジマジ」
「期待されていない方が、人からの過大な評価を受けずに済むだろ。そっちの方が楽じゃね?」
「楽とかじゃねーよ。きっと、生物として優位にありたいから見栄を張るし、舐められたくないと思うんだろ」
「あーーーー、なるほど。本能的なものなのか」
「それ以外にも、世の中、家族、その他しがらみからの脱却だったり、要因はいくらでもある。だから、不良はなりたくてなったわけじゃなく、自然とそうなってしまったと思う。もしかしたら、俺たちもそうだったかもしれないわけで、それをどうにかするのが、大人の責任」
ラノベを読みながらよく喋る。内容が頭に入っているのだろうか。
「良い考えだけど、そもそも最初に救いの手を差し伸べられるのは被害者だろ?不良からイジメを受けた人とか」
「もちろんそうだけど、被害者が出ないようにするためでもある。だから、ちゃんとした教育を受けられなかった最初の被害者が不良って言ってるんだよ」
「あーー……」
そういう見方もあるのか。
しかし、不良はなりたくてなったわけじゃない、というのはどうにも違和感がある。
物語では、率先して不良になりたがっているキャラクターもいる。
なぜなんだ?カッコいいから?
暴力を振るう人間が本能的にカッコいいなら説明がつく。
でもそれなら、拳銃やナイフを持った方が、より確実だろうに。
「じゃあ喧嘩してるシーンでさ、銃とかナイフを使うのはダサいみたいな風潮あるじゃん。あれは何?」
「自分の力じゃなくて、借り物の力だからカッコ悪いんだろ」
「でも、「殺す!」って言ってるくせに、拳で決着しようとするのは、おかしいだろ。俺なら用意周到に計画を立てて、殺してから死体を見つからないようにするか、罪を他人になすりつけるぞ」
「作家志望のくせに何言ってんだ。そういう思春期の不完全さが面白いから、物語として成り立ってるんだろ」
「なる……ほど」
不完全さが面白い……。確かにそうなのかもしれない。
どんな物語でも、少年が失敗を犯し、困難を乗り越えていくものだから。
「てかさっきから、俺を元ヤンみたいに話ふるの辞めろ」
「ははは、すまんこ!」
「二度と言うな、それ」
「すみませんでした」
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