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第8話 ぶちかませ!!【熱拳】

2023/12/22


第8話投稿します。


日差しがあっても寒い日が続きますね。

早く暖かくなって欲しいです……

平日夜に投稿していますが、年末はどうしようか検討しています。

たくさんの人に読んで頂けると嬉しいので年末年始も休まず投稿を続けようとは思っています。


時田 香洋



「こいつらはソルティラットだ!!」



 さっきまで姿を隠していたラヴがどこからか急に現れてそう言った。


(ソルティラット?『ラット』ってことはやっぱり、もともとネズミなのか? それにしてもこのサイズおかしくない? っていうか数もやばいんだけど……。ぱっと見でも数十匹はいそうだよ。それにすごく嫌な予感がするんですけど)


 振り返ってしばらく「じっ」と臨戦態勢を構えていたAI。

 ソルティラットと呼ばれたネズミの巨大化したモンスターが、その凶暴な歯を()き出しにしながら近づく。



ジリジリ……



(まさに一触即発って感じね。どうやってこの状況を打開しようかしら。武器になるようなものなんてないし……。ここはもう己の”拳”のみで突破するしかなさそう)


 AIがそんなたくましいことを考えているうちにソルティラットは目の前に新しいエサがやってきたとでも言わんばかりに、襲い掛かろうとする。


「OK、さぁ、来るなら、かかって来な。この私が相手してあげる」


 一体、どこから来る余裕なのか、まるで百戦錬磨の格闘家が無双する際に放つような台詞を初見のモンスターに言い放つ。



キキエエエエエ……!!!!!



 その瞬間、群がっていたソルティラットが奇声を上げながら一斉にAIの全方位に飛び掛かる。


「気を付けてAI、こいつらの尖った歯は、Androidの鋼鉄の体でも傷がつくよ!!」


(この状況でそんなこと言うか!!! もう防ぎようがないじゃないバカ!!!)



「うりゃぁ!!」



ブウンッ!!



 噛みつかれることを気にせずAIは自分の右手を力任せに思いきりぶん回した。大量かつ素早く動くソルティラットにいちいち照準を合わせている余裕はない。



グチャチャチャッ!!



キュウイイーーーーーッ!! キュウイッ!



 数体のソルティラットにぶん回した腕が命中し、致命傷を負わせた個体はそのまま床へと吹っ飛んだ。


(良かった、力任せな単純なパンチだけでもなんとかなりそう。それにしても素手ってのは気色が悪い)


 そう思っている間にもソルティラットは四方八方からAIに絡みつく。



「くっ! やめろっ! はなせっ!!」



 するどい歯で噛みついてくるソルティラット。

 振り解こうと、腕や体を振り回すが、一度AIに噛みついたソルティラットは全く離れない。

 尚も、後ろからは別のソルティラットが群れてAIを襲ってくる。


キキーー!!

 キキーー!!

  キキーー!!


(ちょっと、待て、やばい!! これは、やばいぞ!)


 体がAndroidのため、痛みを感じないAIだが、見ているだけで体中の損傷が痛々しいほどに伝わってくる。

 ソルティラットに噛み千切られた腕の破片が床に転がり、さらに別の個体がそれに食らいつこうとする。


(何なんだ、こいつら!! 私の、Androidの体でも食べることが出来るっていうの? 正真正銘のバケモンね)


「いい加減にしろ!!」



ッビュ!! ッブン!!



キーキー!!



「っく!!」



 足も思いきり振り回してみるが、思ったよりも素早く、ダメージをうまく与えられなかった。

 

 ガシガシと大きな前歯でしっかりとくらいつくソルティラットをまじまじと見ると、その気色の悪さに吐き気を催す。


(これでは息をつく暇もない、ラッシュしてこいつらの勢いを止めるしかない!!)


「っりゃりゃりゃりゃりゃ!!」


  ギャギャギャギャギャ……


  グチャチャチャチャチャッ!!



「っりゃりゃりゃりゃりゃ!!」


  ギャギャギャギャギャ……


  グチャチャチャチャチャッ!!



「っりゃーーーー……!!」


  ギャース!!



ドッチャ……



「ふうー……」



 左右のストレートパンチを交互に素早く繰り出し、有無を言わさずソルティラットを叩き潰したAI。体に(まと)わりついていたソルティラットも、いつの間にか、その勢いに振り解かれてラッシュの餌食となっていた。



(どう……? 少しは落ち着いた……?)



 AIのパンチの威力は思ったよりも凄まじく、拳が完全には命中していなかったソルティラットでさえその風圧で吹き飛び体の半分が破壊されていた。


 数にして20体以上が既にAIの拳によって破壊され、そのうちの半分は瀕死の重傷で地面をのたうち回っている。

 後ろの方で生き残っていた個体もいるが、AIの攻撃を目の前にして襲うことを戸惑い始めている。


「AI、すごいね!! ほとんどパンチだけでやっつけっちゃった!」

「そうだね、自分でもちょっと驚いてる」



(これがAndroidの力なの? 普通の人間が殴ってもこんな破壊力はだせないよ)


「だけどまだ油断は出来ないよ、こいつら賢さもあるみたい」


 ラヴがいったんは落ち着いた今の状況で冷静な意見を言う。


「うん、何かまだありそうな予感がするよ……」



 AIの嫌な予感が的中する。最後方にいるソルティラットのそのさらに後ろの方から、大きな影が近づいている気がした。



((……まだ、何かいる!?))



 AIとラヴがその大きな影を凝視する。


ヌチャ、ヌチャ、ヌチャ、




 奇怪な足音だった。

 最後方のソルティラットが少しずつその道を開ける。

 その中央を大きな影がゆっくりと前へ進んでくる。




「「!!!!」」




(うそでしょ!! なにこいつ!!)

(こんなでっかいネズミ見たことないよ!!)




「ボスのお出ましってわけね!!」



 直径にしておよそ1.5mはありそうなその巨体。

 ソルティラットのボスとも呼ぶべき超生物を前にして一歩、二歩と後ずさりをするAIとラヴ。


 先ほどまでの個体とは比べ物にならないほどの危険を二人は感じ取っていた。

 

(まずい、こいつは本気でやばいって!! こんなやつに武器なしで勝てるっていうの?)


 “逃げる”という言葉がAIの脳裏をかすめる。



キ゛キ゛ョ゛エ゛ェ゛ェ゛ー!!!!



 ソルティラットのボスが凄まじい声量で唾をまき散らしながら吠える。

 

 とっさに腕を前に組んで防御の姿勢をとるAI。

 ビリビリと伝わるそのけたたましい咆哮(ほうこう)

 その凄まじさに二人は震撼(しんかん)した。


 次の瞬間、その巨体からは想像もできないスピードで一気に距離を詰められる。

 思いきり開けた口先の歯でAIの腕を噛み千切ろうと攻撃してきた。



「っきゃぁ!!」



 すんでのところで回避したAIだが、右腕の上腕半分を噛み千切られてしまった。

 ギリギリ腕を動かす分に問題はなさそうだが、大きなダメージであることに変わりはない。



「!! くぅ、早い!!」



 ダメージを受けた右腕を左手でカバーしながら、急いでバックステップを踏み、ボスのソルティラットと距離を取る。


「AI、まずいよ、ここはいったん引いて逃げるのも手だよ」

「うん、私も一瞬そう思ったけど……。こいつがすんなり、逃がしてくれるとは思えないな」


 するどい目つきでAIたちを(にら)み殺気を放つボスのソルティラット。

 いつでも襲い掛かる準備は出来ているようで、じっくりとこちらの様子をうかがっている。

 その顔はにやついてまるで笑みを浮かべているようにも見える。


(こいつはやっぱりここで倒す!!)


 ボスのソルティラットと闘う覚悟を決めたAI。

 しかし、普通に戦っては今のAIに勝ち目はなさそうだった。



「はぁぁぁー!!」



(作戦なんてないけど、やられる前にやるしかない!)


 今度はAIの方からボスのソルティラットに立ち向かっていく。普通の人間なら最初の攻撃を受けた時点で恐怖し、すぐに逃げ出すであろう。

 だがAIはそうしなかった。



「てぁっ!! たぁっ!!」


ブンッ!! ブンッ!!


(何こいつ! 何で避けられるのよ!)



 AIの拳が虚しく空を切る。

 大きい体格の割りに俊敏な動きをするソルティラット。

 そもそも、まともな格闘術を知らないAI。

 戦闘はド素人の彼女にとって、「闘う」という行為そのものに体がまだ慣れていない。



ギギエーー!!



 再度、大きな奇声を上げながら、襲ってくるボスのソルティラット。

 今度はAIの足を目掛けて低い姿勢で素早く噛みついてきた。



「っう!!」


 急いで後方へジャンプ回避したAI。


ッスタ!


「きゃあぁぁ!!」


ッズル!! ッズシン……!!



 着地でソルティラットの死骸を踏んづけたAIが足を滑らせて盛大にすっころぶ。

 その気を逃さずボスのソルティラットが迫ってくる。



ギネェアァァァァ!!!



 慌ててゴロゴロと横に転り素早く身を起こすと、目の前にはもうボスのソルティラットが迫っていた。



ギシャアアア!



「こっちに来るんじゃない!!」


ガツッ!



ッギュウ!!


……ックル  ッヌチャ!!



 しゃがんだ姿勢のままで思いきり振り上げた右前足がボスのソルティラットの(あご)にクリーンヒット。

 奴は後ろに吹っ飛んだ。

 しかし体を回転させながら空中で体勢を整えて地面に足から着地した。



(なんてやつなの、クリティカルなはずなのに、あまりダメージがない。さらに怒りを増しているようだし)


(どうしよう、こいつをどうやって倒す? 普通の殴る蹴るじゃ拉致があかなそう)



「AI! 昨日の夜、『火』を使ったことを思い出すんだ! 普通の攻撃でも熱を加えれば、その威力は段違いになるはずだよ!」


 ラヴが昨日の出来事をAIに思い起こさせた。

 そう、昨日AIが「火」を起こすために使った熱エネルギーこそ今まさに必要とされていた。


(昨日の『火』を使った時の熱? たしか、分子の動きがどうのこうのって……)


 AIが考えている間にもボスのソルティラットはダメージを少しばかり回復させていた。

 そこから苛立ちを増した状態で再び攻撃体勢に入った。

 すると、先ほどまでよりもさらに激しいスピードでAI達に突進してきた。


(っく!! まだ考えている途中なのに!)



ガシィッ!!



 慌てて手を前に出し、何とかボスのソルティラットの動きを止めたAI。



ギエー! ギエー!!



 近距離でその大口を開けながら吠えて噛みついてくるボスのソルティラット。



ガギンッ!!

ガギンッ!!



 その攻撃を首の動きだけでなんとかかわし切るAI。



「っあぅ゛!」



(やばいやばいやばい、もう次は避けられない!)


 噛みつきと突進の勢いでいつの間にか壁際まで押されていてもう後が無い。



ガギンッ!!


シュ ッズ……



 ボスのソルティラットの体を押さえたまま、慌てて下へしゃがみ込んで攻撃をかわしたAI。

 ボスのソルティラットがAIに覆いかぶさるような体勢になってしまった。


(この体勢はいろいろとまずい。でもこいつのパワーが思ったよりも強くて押し返せない)



ギギ、ギギ……



 歯ぎしりする凶暴な歯茎の隙間から、汚らしい粘液が「ポタポタ」とAIの髪や顔に流れ落ちる。



「っくっぐ!!」



 だがAIにはそんな事を気にしている余裕はない。

 早くこの状況を打破すべく、こちらからも攻撃を展開しないといけない。


(冷静になれ。理屈じゃないんだ。火はおこせた。私は昨日既にやったんだ。だったら体が覚えているはずだ!)

 

 AIはただひたすらに自分の拳に対して「熱くなれ」と指示を出すようにイメージを膨らませた。



(熱くなれ!! 熱くなれ! 熱くなれ......!!)




フイィーーー……ン




(来た来た来たー! この感覚だ! エネルギーがチャージされて、熱に変換されてってるはず!)



ジュワァァァ……



 瞬間、AIが両手で抑えていたボスのソルティラットの体の一部がその高熱によって溶かされ白い煙を上げながらボタボタとただれ落ちる。



ギョエッ? ギョエーー!!!



 突然の出来事に半ばパニックに陥るボスのソルティラット。

 大きなダメージを受けたらしく、後ろへよろめきながら苦しむ表情で声を上げた。


 すかさずAIはその熱がチャージされままの燃えるような熱い左の拳でボスの顔面を思い切り叩く。



「くらえ!!!」


バッシューン!!



 AIが思いきり前に突き出した拳のエネルギーによってボスのソルティラットの顔面には大きな穴が開く。

 それは後頭部を貫通し衝撃波が後ろの壁まで達していた。



ドッシーー……ン



 そのまま、ボスのソルティラットは後ろに倒れこんで、ピクリともせず生き絶えたようだ。



「……」



キキー!! キーー!!



 生き残っていた他のソルティラットたちはボスが倒れるのを見て、慌てて散っていった。



「ふぅー……。今度こそ、終わり……?」

「あ……あ……」



 ラヴはAIが最後に放った一撃の凄まじさに衝撃を受けているようで、言葉を返せない。


「う、うん。もうこの場に脅威(きょうい)になるような生物の気配は感じないね。残りのソルティラットも全部逃げ出したみたい。それにしても最後の一撃の威力はすごかったね!」


「でしょー! 私も自分で驚いちゃったよー! 無我夢中でやったけど、うまくいったみたいね」

「うん、もともとAIの素の攻撃力が高いのも相まってとんでもない威力になったんだね! まるで『必殺技』みたいだったよ!」


「ひっさつわざ? ……って何?」

「相手を倒すための特別な技みたいなものだよ。必殺技ってのには大体それっぽい名前がついてて、必殺技を繰り出す時は一緒にその名前を叫んだりするんだ」


「へ〜。そういうものなんだ」


 大して興味が無さそうにAIが呟く。


「例えばさっきのAIのパンチなんかはものすごい熱量のこもったパンチだったから【ヒートナックル】とか、【バーニングフィスト】とか?」

「ふ〜ん、そうっかー。なるほどね〜……。でもあんまりややこしい名前もしっくりこないから、付けるならもっと簡単な名前がいいなー……」

 

「うん、自分がしっくり来る名前をじっくり考えて決めたらいいと思うよ!」


 AIが一人でポツポツとつぶやき始めた。


「熱がこもった拳だから……。【熱拳(ねっけん)】ってのはどう!?」




「ダサッ!!」




最後まで読んで頂き有難うございます。

さて、第8話完了しました。いかがでしたしょうか。

初のモンスターとの戦闘シーンでした。

緊張感を出すために試行錯誤したのですが、まだまだですね。


AIにとって初の必殺技も登場しました。

あえてダサいネーミングを付けるようにしています。

その理由についてもいずれ語る機会があれば……。


今後も応援よろしくお願いします。


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