第7話 超生物との遭遇
2023/12/21
第7話を投稿します。
冬は寒くて朝起きるのが本当に辛いですね。
子供のころ、朝着替えるのが嫌で嫌で
「制服を着たまま寝て、朝起きたらそのまま登校する」
という荒技を実行していたのが懐かしいです。
時田 香洋
翌朝
まぶしい日差しがAIとラヴの二人を照らす。
旧世界の朝なら小鳥のさえずりが聞こえても不思議ではない。
そんな自然に囲まれた中で二人は目を覚ます。
「……んー、昨日は良く寝たなぁ」
Androidの体になった自分が睡眠によって得られる効果を実感出来ているわけではない。
そんなAIだがゆっくりと背筋を伸ばしながらあくびをし、人間としてはまったく不自然ではない所作で朝を迎える。
「おはよう、AI」
「おはよう、ラヴ」
そう言えば、昨日チャットボットのラヴを生成してからずっとラヴを出し続けたままにしていた。
「あのさ、ラヴ」
「ん、なぁに?」
「ラヴは私が作ったチャットボットだよね? あくまで私の質問に対して受け答えするような?」
「うん、そうだけど、それがどうかしたの?」
「そこには『自分の意志』みたいなものってあるの? うまく言えないんだけど、ただの機械とは違って、相手の事を考えたりだとか、物事がもっとうまくいくような創意工夫してみたりとか?」
「……」
ラヴが少し考え始めて、AIの質問の意図を理解しようとしている。
「ごめんね、なんか変な質問して、きっと機械的な受け答えしかできないんだったら、こんな風に会話が上手くできない気がして……」
「んー……なるほどね、AIの言いたいことは何となく分かったよ。言ってる通りもちろん僕はAIによって生み出されたAIチャットボットだよ」
(うん、やっぱりそうだよね)
「さらに言うと、僕のベースは旧世界のAIプログラムがベースになっていて、当時のインターネット上のあらゆるデータベースから最適解を導くように作られているんだ。いろんなことを新たに学習することもできるよ」
(なんだそれ? 高機能なチャットってことかな?)
AIの考えている間にもラヴは丁寧に説明を続ける。
「だから、人間の感情に近い表現を学ぼうと思えば、たくさんのデータの中からどのような表現や受け答えをすれば良いのかが、すぐに分かるんだ。昨日寝る前にAIに対して『笑って』見せたのも、そうすることがより“自然”だと思ったからなんだよ」
(確かに、すごく自然なリアクションだったかもね)
「だけど、それはやっぱり僕の『意志』ではなく、プログラムがそうしているって事になるのかな。あくまで『意志』に近いのかもしれないけど、それは結局データベース上に存在する中から見つけ出しているだけであって、それ以外の回答を導き出すことは出来ないんだ」
(ん? データベース上に『意志』に限りなく近い模範があるって事?)
「つまり、僕はAIみたいに本当に何もない『0』から物を作りだすことができない。誰かが作った『1』を汲み取ったり、『2』や『3』と繋げ合わせたりする事は得意なんだけど、完全に自分の『意志』だけで物を考えたり作ることは出来ないんだ」
「ほへ~」っとした表情でAIがラヴの話の内容を理解しようと頑張っている。
(なるほど、ふーん。やはり昨日笑ったのは、わざとってこと? 余計に腹が立つじゃない。このチャットボットめ!!)
「ありがとう、あなたがより完璧に近いチャットボットだってことが、よ~く分かったわ。これからもよろしくね」
少し、何かの感情の含みを持たせた物言いをしたAI。
「AIさん、何か、納得してなさそうなんですけど……?」
AIの少し冷たい対応に戸惑うラヴ。
何が原因か分からず、答えを導き出せないので申し訳ない気持ちになる。
Androidとは言え女の子の気持ちを理解するのは高性能チャットボットの僕だとしても難しい。
と思っていそうなラヴだったが、あまり深く考えるのを止めたようだ。
■■■■■■
朝の身支度、と言ってもほとんどすることはないのだが、活動準備を整えたAI。
(さて、今日は何をして過ごそうかしら。まだまだこの世界のことで知らないこともきっとたくさんあるはずよね。もう少し町とかを散策してみようかな)
「ねえねえ、ラヴ~、この辺りで何か旧世界から変わってしまった場所ってある? 地形でも生態でもいいんだけど、それが今の地球にどのような影響を及ぼしているのかちょっと気になるの」
「うーん、なるほどね。『地形』と『生態』ってかなりざっくりしている質問だけど……」
話しながらラヴがテキパキと何やらサイネットから情報を吸い上げているようだ。
「そのどちらにも該当しそうな場所が近くにあるみたいだよ」
「え~! あるの!! どこどこ? すぐに地図出して!」
「はい、ここだよ。でももしかしたら危険かもしれないから、気を付けてね」
昨日と同じように3Dマップに現在地と目的地、そこまでのルートが示されたホログラムが出現する。
(なるほど、そのあたりか。確かにここから近いわね。歩いて20分、バイクで行けば10分もかからずに到着できそう)
「ん……? 今『危険』って言った? それって何がどう『危険』だって言うの? 破壊が酷くて建物の崩壊とかってこと?」
「うん、それももちろんあるんだけど、生態系に少し変化があるみたい」
「生態系? 生態系って言っても、地図が指している場所って元々『歌舞伎町』っていう、大都会の歓楽街じゃない? そんな場所に生態系の変化があるってどういう事?」
「うーん、それは行ってみないと分からない。ただ、サイネットの情報によると世界が崩壊してから10年くらいでその変化の兆しみたいなのがあったって……」
「なるほど、ってことは生態系がその時代付近で変わってからもう290年近くが経つって事じゃない。ってことはそこからさらに状況が変わっている可能性もあるわね」
「うん、もしかしたら状況が良くなってるかもしれないし、悪くなってるかも分からない。だから危険の可能性があるって言ったんだ」
「お気遣いありがとう。でも私ね、一度興味が湧いちゃったら、引き下がれない性質みたいなの……。だから、たとえそこが『危険』だったとしても一度見に行ってみる」
(もし本当に危ないと思ったらまた引き返せばいい)
「うーん、AIがそう言うなら無理に引き留めはしないけど、本当に気を付けてね。まぁAIがその気になれば多少の危険は大丈夫と思うけど」
(最後のセリフがちょっと気にかかる。あんまり私の力を買いかぶらないでほしい。自分だってまだまだ未知数なんだから)
■■■■■■
目的の現場付近に到着したAIとラヴ。
辺りはハーフロイドの自爆の影響を受けているのか、もともとあった建物が吹き飛んだ形跡があり、大きなクレーターとなって地面がえぐられ、本来であれば町の地下部分と思われるような箇所も地上に露出していた。
下水道やダクトなど配管が折れて露出していたり、建物の基礎部分が剥き出しの状態となっている状況がそこかしこで見て取れる。
きっと、AIに嗅覚があるならば、「臭い」と感じられるほどには汚染されている雰囲気だった。
(うわぁー、きったないなぁ。もう300年は経ってるはずなのに、いまだに旧世界の汚物が自然に浄化されずに残っているものな?)
まるで、つい最近までその辺に何かしらの生物が存在していたかのような気配が感じられた。
この時AIには分からなかったがそれは間違いなく「腐臭」や「死臭」に属するものであった。
(何か分からないけど、「危険」な感じがするのは間違いない。でも大丈夫かな……。武器になるようなもの何も持ってないけど……。こういうの「丸腰」って言うのよね)
AIは恐る恐る、身近な建物のそばへ近づき、露出していた一本の下水管を「コツン、コツン」と自分の指で叩いてみた。
「……」
(何の反応もない、思わせぶりってこと? でも絶対何かいそうな雰囲気)
AIはその下水管のつながっている建物のさらに奥へと入ってみる。距離にして20mほど歩いただろうか、思ったよりも中は広かった。
外が明るいため、ぎりぎり中の様子が伺えるが、かなり暗がりになっている。
窓などもなく、ここはもともと地下下水道として利用されていた場所なのだろう。
ラヴはいつの間にかその姿を消していた。
ピチャ、ピチャ……
いつの間にか汚水の水溜まりに侵入していたらしい。
不気味な音を立てながらAIはゆっくりと壁伝いに歩を進める。
このまま真っすぐ進むとどうやら突き当りになっているらしい、どこからか差し込む光によってできた影がそれを教えてくれた。
ピチャ、ピチャ……
AIが突き当りに差し掛かり、右へ曲がろうかと思ったその時……
「!!!!!!!」
(何かいる!!!!!)
AIは道を曲がる直前に一瞬だけ何かの影が見えたのを見逃さなかった。
走ってその影を追い、影の向かった方角へと進んで、闘うような姿勢を構える。
「来るなら、来い!!!」
「……」
だが、そこには何もいなかった。
少し落胆した様子で力みを解除するAI。
彼女が振り返ると……
「!!! !!! !!! !!!」
大量のねずみのモンスターがこちらを睨んでいる!
よく見ると、ねずみのような姿形をしているが、AIの知識にあるそれよりも1~2サイズは巨大化していそうだった。
そいつらはキバを剥き出しにしながら、襲い掛かるチャンスを伺っている。
「こいつらは『ソルティラット』だ!!」
第7話、やっとモンスターが登場しました。
少しはファンタジーっぽい要素が出ましたね。
第一章では冒険してモンスターと闘って強くなる!っていうプロットの元、展開していく予定です。
今後ともよろしくお願いいたします。