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第70話 オーガの家


「お前たち、本当に私たちにこれ以上危害を加えないか?」

「あぁ、そっちに攻撃に意思がなければね」


「わかった。ただ、一つだけ確認したい。お前たちは“ビット”じゃないんだな?」

「“ビット”? あぁ、例のハーフロイドの連中だな? もちろん、違う。その辺についての情報も知っているなら教えて欲しいんだ」


「ん? お前たちもハーフロイドじゃないのか? まぁ、細かいことはいいか。ついてこい、家に案内する」


 女はまだ意識を戻さないルーを運ぼうとするが、通常の倍以上はある体格の男を一人で持ち上げるのはさすがに厳しかった。


「ほら、手伝うよ。よいしょっと……」

「おぉ、お前力持ち……」


 AIは軽々と男を持ち上げて自分の背中に乗せる。

 一瞬だけ、DiCE(ダイス)に格納しようか考えたが、“生物”である以上それは止めておいた。






■■■■■■






ザ、ザ、ザ、


 一行は木々の生い茂る密林の中をゆっくりと進んでいく。

 獣道になってはいるが、本人たち以外は家のルートか否かの判別は不可能だろう。



「そう言えば自己紹介がまだだったね。私の名前はAIでこっちの小さいのがラヴ」

「こら! “小さい”は余計だろうが!」


「ふふ、お前たちも仲がいい。私の名前はミラ。そっちがルー。よろしく」


「あぁ、よろしくミラ。私たちは見ての通り、Androidなんだ」

「Android? ハーフロイドではなく? 完全なAndroidだって? 珍しいねぇ……」


「そうなのか? まぁ、確かにハーフロイドはたくさん見聞きした気がするけど、Androidは少数派か……」

「ん? ちょっと待て。Androidって、完全に“ロボット”ってこと? 見た感じ、あんた自身の“意思”で行動しているように見えるけど?」


「あぁ、確かにその通りだ。説明するのは難しいんだけど、私は以前“人間”(いやハーフロイドか?)だった頃の記憶が一部だけ残ってるんだ」

「ふん、それで?」


「今はその記憶だけを頼りに、この世界のことをもっと知るために旅を続けてるって感じかな……」

「旅か。楽しそうでいいな。私はこのオアシスで生まれ育って、一歩も外の世界に出たことはない。別に不満があるわけじゃないけど」


「あぁ、旅は楽しいぞ! 危険なこともいっぱいあるし、何回も死にかけてるけどね」

「死ぬのは嫌だ。怖い。でも、外の世界のこと、興味ある。そっちの小さいやつも同じAndroidなのか?」


「こら! ぼくの名前はラヴだ! ちゃんと覚えてくれ! それに“小さい”って言うな。これでも少しは大きくなったんだ」


 最後の方は小声になりながらもラヴが応えた。


「わかった、ラヴ。もう忘れない。それで? あんたもAndroidなのか?」


「あぁ、そうだよ。けどぼくはAIとは違って、AIによって生成されたチャットボットが基になっているんだ」

「チャットボット? って何だっけ?」


「元々は2010年代頃に登場したAIによる自動応答システムのことだよ。今はそれよりも進化して、膨大なデータを元にほとんど人間と変わらないような応答が出来るようになったんだ」

「ふーん、よくわからないけど、ラヴにも人格みたいなのがありそうだね」


「人格かぁ、あんまり意識したことは無くて、AIと会話しているうちに自然と形成されていったのかな?」

「他にも気になる事はたくさんある。けど、もう家に着いた」


 そう言ってひときわ目立つ大木の目の前で立ち止まった。

 見上げると、数メートル上に木で作られた家のようなものが確かにあった。

 周辺にはそのような木の家がいくつかあるみたいで、この一帯でミラたちは暮らしているようだ。


ドサッ


 AIはずっと背負っていたルーを背中から降ろす。


バシバシッ!!


「こら、いい加減目を覚ましな」


 ミラがルーの顔を叩くと寝ぼけた様子で彼が目を覚ます。


「ん? えーっと……? おれどうしたんだっけ?」


 状況が読み込めずルーは辺りをキョロキョロと見回す。


「あれ、ここうちの家じゃん? ってお前ら!!」


「よっす!!」


「あいててて……。さっきはよくも!!」


 背中をレーザーガンで撃たれたことを思い出し、攻撃体勢を構えるルー。


ザッ!!


「待て! こいつらは“敵”じゃない!!」

「ぐっ!! ミラ!!」


 慌ててミラがAIたちの前に割って入る。


「“敵”じゃないって? こいつらどう見てもハーフロイドにしか見えないけど?」


「それはそうだが、厳密にはAndroidらしい。とにかくそのこん棒は下げろ」


「う、分かった。ミラの言う事、信じる。でもお前たちの事まだ信じてない」


「へいへい、随分と用心深いんだね~。感心するよ。うちらも無駄な戦いで消耗したくないから大人しくしてくれるとありがたい」


「ミラが言うからうちの中に入れてやるが、変な真似したら容赦しない」


「あぁ、分かった分かった。本当にしつこいなぁ……」


 ミラは大木に近づくとはしごのように加工してある箇所をよじ登っていく。


「おいおい、まじか」

(何というか、すごく原始的だな)


「どうした? ついて来い。話は中で聞く」

「あ、ああ」


 ミラに続いてAIとラヴがはしごを登り、最後にルーが続く。


「母さん、ただいま」

「お帰り、ミラ。今日は早かったね?」


「あぁ、珍しいけど、客人だ」


 ミラの背後から現れたAIとラヴを見て母は一瞬目つきがするどくなったが、その後ろからさらにルーが来ているのを見て警戒を解いたようだ。


「こんにちは、お嬢ちゃんにぼっちゃん。あたしは母親のシャルムです」


「こ、こんにちは。私はAndroidのAIでこっちが相棒のラヴです」


「へぇー、Android? 本当に珍しいねー。今お茶でも用意するから、ゆっくりして」


「あ、ありがとうございます」


「あ、そうかAndroidに水分補給は不要だったかい?」


 少し挙動が変になっていたAIを見て母が言う。


「あ、いや。水分補給は大丈夫なんだけど、人に会えたのが本当に久しぶりで、何というか……」


 っぐす。


 AIは久々に触れた人の優しさ、そして"母親"という存在を前にして感情が高ぶってしまった。


「ご、ごめんなさい」


「あらあら、あたし何かいけいない事でも言っちゃったかしら?」


 母親のシャルムはミラやルーに目を合わせるが、彼らも状況を飲み込めず首をかしげる。


「それにしてもあんたAndroidって言う割には随分と人間らしいねぇ?」


「そう、私とルーもこいつら見たときにハーフロイドと思って攻撃したけど、違うみたい」


「あら、お前たち既に一戦交えてたのかい……」


「うん、こいつら。特にAIはすごく強いぞ」



「へぇ。ミラがそう言うんだから、間違いないんだろうねぇ」


 “強い”というキーワードで母の目が再び鋭くなる。

 だが、今度は訝しむわけではなく、どこか品定めでもするような目でAIを見つめる。


「母さん、落ち着かなねぇから、奥の部屋で座って話そう」


 家の入口付近にいるルーがしびれを切らす。


「あぁ、そうだったね。でもルー、父さんたちが帰ってきたらびっくりするだろうから、お前は玄関で待機してな」


「あぁ、分かったよ」


 少し不機嫌そうなルーを置いて、AIとラヴは奥にある広めの部屋に通された。

 家の中は一般的なテーブルよりも遥かに大きなテーブルや椅子が目立つ。


「はい、ここに座んな。客なんてめったにこないから、大した用意は出来ないけどね……」


 座布団のようなクッションの上にAIとラヴは座る。

 テーブルを囲んで反対側には母親のシャルムと娘のミラが座った。


「さて、お互いに聞きたいことはたくさんありそうだけど、それで何から話そうかね?」


 シャルムが丁寧に話を切り出した。

 落ち着きを取り戻したAIが簡単に自分たちのことを説明する。


 東京近郊の海岸でAndroidとなって復活したこと。

 これまで旅を続けてきたこと。

 そして、ラヴの存在について。

 自分の力や技術についてはAI自身もまだ未知の部分があるため、黙っておいた。



「へぇ、そうかい。一部の記憶を頼りに旅ね~。あたしの若いころを思い出すなぁ……」


「おばさんも若いころ、旅をしてたの?」


「あぁ、まぁ……。旅という訳でもないんだけどね……」


 シャルムの歯切れが少し悪くなった。

 何か言いづらい部分があるようだ。


「ねぇ、おばさんたちのこと、教えてくれない?」


 すっかり打ち解けてきた様子でAIが尋ねる。


「そうだね。わたしらのことも知りたいよね」


 ようやく謎に包まれた彼らの話が聞けると、ラヴも前のめりな姿勢になる。


「まず、お前さんたち“オーガ”のことは知っているかい?」


「おーが? ……。聞いたことないな~。ラヴは知ってる?」


「……。いや。サイネットで調べても何も情報出てこない」


「あはは、そりゃそうさ。オーガはある地域にしかいないし、元々、その存在は極秘にされていたみたいだからねぇ。お前さん他tいが知らなくても無理はない」


「ふーん、それでそのオーガがどうしたっての?」


「どうしたも何も、私たちはそのオーガの種族なんだよ」



「「!!!!!」」



「まぁ、見た目は私もミラも“女性”だから普通の人間とそこまで大差ないけどねぇ」


「でもおばさんたちの雰囲気はどことなく普通の人間と違う。肌の色もなんか浅黒いし……」


「あぁ、この肌の色は私だけ特別みたいだね。それが子供たちにも遺伝してるの」


「へぇ、そうなんだぁ……」


 改めてミラを見つめると、彼女は少し恥ずかしそうにして視線を逸らす。


「で、“女性”だから普通の人間と大差はない。けど男性は?」


「あぁ、そうだよ。お察しの通り、見た目が“鬼”にそっくりで体格が普通のニ倍くらいはあるね。おまけに角もね」


「そ、そういう事だったのか。あいつ(ルー)のこん棒食らったけど、馬鹿力だったよ」


「あはは、あいつのこん棒くらってピンピンしてるなんて、あんたも相当だね!!」


「う、うん。あはは」


(痛みは確かに感じないけど、体へのダメージはそれなりにあったんだけどね……)


「でも、面白いね、男性にしかオーガとしての特徴は現れないんだね~」


「そう、それが問題なのさ」


「問題?」


「実はあたしらは……」


ドスン、ドスン……



 その時、家の出入り口付近で物音がして、AIたちが振り向くとルーとさらに体の大きそうな人物が二人いるのが見えた。



――――

第70話 完


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