表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/75

第6話 初めてのクッキング

2023/12/20

第6話を投稿します。


今週から日本に大寒波が来るようですね。

雪の降る地域も増えるそうです。


東京は年内に雪が降るのでしょうか……


時田 香洋



(むむ、本当にこの子は、しれっと恐ろしいこと言うわね。人の、いやAndroidの記憶を勝手にのぞき込むとか。趣味悪いわよ)


「ちょっと、ごめんね。気を使って、探してくれたのかもしれないけど、さすがに私の記憶の中まで勝手に読み込まれるのは、ちょっと気分が悪いかも……」


 AIは本当に思ったことを口に出してみた。


「そっかぁ…ごめんなさい。力になれると思ったんだけど、今度からは気を付けるよ」


「うん、分かってくれたらいいの。ありがとう。私が必要な時に頼むから、それ以外の時は記憶を読み込んだりしないでね」


(そう、人のいやAndroidの記憶だってプライバシーだ。プライバシーは守られなければいけないんだ!! きっと……)


 そんな気がしたAIだった。それでもこうしたやり取りが出来ることにやはり嬉しさを感じている部分も自覚していた。


「さて、でもせっかくのアドバイスだから、自分で器の取っ手になる部分を作れるか試してみるね!!」


「うん、絶対その方がいいよ! AIならきっと簡単に出来るよ!」


(よし、そうとなれば、またイメージするところからか)


 AIは自分の手が金属のトングのようなもので器を掴むイメージを広げ、実際にそのようにして器を掴んだり離したりしてみた。


 すると、みるみるうちに、AIの右手がトングのような形になっていく。

 まるで「うにゅ~」っと言う効果音が付いてきそうなくらい柔らかい動きで器を掴む手が変形していく。


 ある程度のちょうど良い大きさになったところで、AIの右手からそのトングらしき金属が分離した。

 分離後のAIの右手も柔らかい動きをしながら元の形へと戻っていく。

 なんとも不思議なことに、分離した後はそのトングもAIの右手も硬度が元の状態に戻ったようだ。


「やた~! 本当にできたよ!」


(ふう~。確かに、そんなに難しくなかったわね。少しずつ慣れてきたってことかしら)


「だから言ったでしょ~!! もっと自分を信じなきゃね!」


 ラヴが誇らしげにAIのもたらした結果に同意を求める様子がうかがえる。


「まぁ、確かにラヴの言った通りだよ。ありがとう」


(でも、次はどうやって火を起こすのかなんですけど。はぁ、次から次へと問題が山積みで嫌になりそう)


 とりあえず丸い器にさきほどの菜の花を適当なサイズにちぎって放り込んだ。

 そして、その器を生成したトングで支えてその下に木や紙くずなどを設置した。


 AIはもう考えるのも面倒になっていたので、自分の指先がライターになったつもりで「カチッ! ッシュボ!!」っと言ってみた……。



「……」

(しかし、何も起きなかった)



(やっぱりダメか~。ちゃんとイメージしないと、そう簡単には扱えないのかしら。そもそも、どういう仕組みとか原理については全く理解できてないしね。どうしてもっと複雑なはずのバイクの時は上手くいったのか、いまだに不思議)


「ねえねえ、ラヴ~。どうやったら簡単に火をつけられると思う~?」


「火? そうだねぇ。道具を使えば簡単に火をつけられるけど、人間が道具なしに自分の力だけで火を起こすのは難しいと思うよ」


(う、そんな分かりきった回答されても確かにそうなんだけど……)

(ただ、今の私には人間にはない、『スキル』みたいなのがあって、それをどう上手く使えば火を起こせるか知りたんだよなぁ……)


 どうも上手く伝わらないAIの思いに対して、ラヴは尚もアドバイスをくれた。


「もし『火』そのものを考えるんだとしたら、『火』自体に必要な要素が何かを考えてみたらいいじゃない? 火ってのは『熱』、『可燃性物質』、『酸素』の3つの要素が成り立つことで起きる現象だからAIが今すでに用意できてるのは、なんだと思う?」


(うぅ、そこまで掘り下げて考える必要ある……? まぁでも確かに『火』をイメージするにはラヴの言っていることにも一理あって、どうしたら『火』という現象を起こせるのか考えてみるのも面白いかも)


「えーっと、今私が用意できているのは木とか紙くず……『可燃性物質』ってことだよね?」


「うん、その通りだよ。でもそれだけ?」


「それ以外となると、あ、そうか、もちろん『酸素』も既にあるよね」


「そう、そう、じゃああと必要なものは……?」

「『熱』ってわけね」


(ん? 結局話が振出しに戻ってませんか??)

(問題はどうやったら『熱』を発生させられるかってことなのよね)


 少しAIが考えていると、ラヴがヒントをくれた。


「『熱』はエネルギーとして分子レベルまで掘り下げて考えれば、単純に分子の運動量の多いか少ないかで熱量っていうのは変わるから、分子がたくさん動くイメージをすれば、熱源を発生させる事が出来るんじゃないかな?」


「なるほど、分子レベルまで掘り下げるか……」


(って簡単に言ってくれるじゃない、「分子」って言われても肉眼で見えるわけでもないし、見えないものをイメージしろって言われても……)


「プスプス」っと頭から白煙が出ていそうなほど行き詰っている様子のAI。それを見かねたラヴがさらなるアドバイスを出す。


「じゃあ分子の運動を他に例えて考えてみたらいいんじゃない? もっとAIが想像しやすそうなものとか。例えば、ほらAIって今朝ものすごく早く走ったでしょ? あれも一つの運動エネルギーなんだけどさ、早く走れば走るほど、体が熱くなったんじゃない? そう思えば「AI(分子)が早く動く」=「熱量が増す」って考えられない?」


「むむ!! 確かに言われてみればそうかもね。あの時は夢中だったけど、スピードを出せば出すほど体が熱くなってた気がする!! ん? ラヴ、今、また私のメモリ覗き込んだ?」


「いやいや、違うよ!! さっき見たメモリの中にあったのを覚えていただけだよ。だって、まだ二日分くらいのメモリしかないから、バックアップを取るのだってすぐだったし……」


 慌てて釈明するラヴを少し面白おかしく見つめるAI。

(確かに、復活してからの私の記憶メモリなんて別に大した容量ではなかったのかもね)


「また、怒った?」

「ふふ、いや、怒っていないよ。正直に話してくれてありがとう」


「じゃあ早速アドバイス通りにもう一度イメージしてみるね」

「頑張れ~」


 AIはまずラヴのアドバイス通りに分子を自分に置き換えてものすごいスピードで走り出すイメージをしてみた。

 そこには確かに熱量のようなものを感じた。


(うん、なんか頭の中で熱量のようなものが少しずつチャージされているような気がする)


 AIはさらにチャージされたそのエネルギーを指先だけに集まるようにイメージしてみた。


すると……


ヂヂヂヂ……



「わわわわ……!!!」



 その指先は見るからに通常時よりもはるかに高温の熱量を持った状態となっているのが見て取れた。

 青みのかかった黒い指の先端がほぼ白くなり、第二間接あたりまでオレンジ色に変色している。


「こ、これはすごい熱量だよ。きっと……」

「おめでとう、やったね!! できたじゃん!!」

「うん、ラヴのおかげだよ。ありがとう!!」


「じゃあ、早速その紙くずとかに近づけてみなよ、きっと燃えるよ!!」


 そう言われてAIはその高温となった指先の熱を維持したまま、先ほどの器の下に並べた木や紙くずに近づけてみた。


 すると、ジワリ、ジワリと指を近づけた紙や木くずがユラユラと形を変えながらチリチリと燃え始めて、すぐに灰へと変わっていった。


「やった! やった! これって燃えてるんだよね!!」

(少し時間はかかるけど、この調子で頑張ればもっと燃え広がってくれるかも)




そうして5分が経過……




ブオオ……

バチバチ……



 先ほどの小さな火から、少し小さな焚火程度まで火力が増した。


(よしこれくらいの火力になれば、調理出来るよね)


 AIは既に少し鮮度が落ちた菜の花が入った疑似フライパンを火にかけた。

 少しずつ菜の花がしおれていき、「クシャ」っとすぼみ始めた。

 既に見つけていた木の棒で適当にぐるぐるかき混ぜて、全体から白いゆげが上がり、火が通ったことを確認した。



ジュッジュッジュ~


「でっきあっがり~!!」



 とても「料理」とは言い難い、ただ火を通しただけの「菜の花炒め」の完成である。


「さてさて、どんな味がするかな~」


 と、またここでAIは疑問を感じる。


(私って物を食べると一体どうなるの? 気分が悪くなる? そもそも消化出来るの? まさか排せつしないよね?)


「とりあえず、食べてみるか!!」

「あーむ、、、もぐもぐ、、もぐもぐ、、ゴックン!!」


(思ってたけど、やっぱり味覚なんてものはないね、嗅覚だってないし。当然か……。なんか少し残念。でも「食べる」という疑似行ためは思ったよりも悪くはなさそう)


 そのままAIは自分で作った菜の花炒めを全て平らげた。


「ふう~、美味しかった~。ごちそうさまでした」


 丁寧にお辞儀して頭をさげる。

 もし、人類の文明が滅びずに残っていれば、たったこれだけの食事するのも、簡単に出来てしまっていたんだろうなと思うと、改めて過去の世界のありがたみを感じてしまうAIだった。


(さて、食事もしたし、あとは寝るだけだね)

(あれ、でもさっき食べたものって私の体の中でどこにいっちゃったの?)


 AIがそう思っていると、体に異変を感じる。

 何やら体の中心部、人間で言う「胃」にあたる部分でエネルギーが発生しているのを感じる。

 それもかなり凝縮されているようだった。

 時間にしてはほんの数秒程度だろうが、この時のAIにはそれがとても長く感じられた。


 と、その時!!


「!?!?!?」


「プス~~~」


 っと音を立てて、AIのお尻から何やら気体のようなものが放出されているようだった。

 幸い、服を着ていたので、その音や見栄えも多少は緩和されているようだが、それはどうみても人間でいう「放屁」に近い現象だった。


「ちょちょちょ!!」

「何よこれ~~~~!!! 全然、聞いてないんですけど~!!!」


 またもや決して赤くはならない頬を少し膨らめながら喚くAI。


 その光景を見ていたラヴが何やらおなかを抱えている。


「どうしたの? 大丈夫?」


 AIが心配そうに声をかけると……


「……ぷっ。っふふふ、あはははは、ごめんねぇ。ちょっと、面白くってさ~、だって今、AIオナラしたよね~。しかも、スカ――」


ブウンッ!!


 頭をはたこうと思っても、3Dホログラムのために空振りに終わってしまい、悔しそうに歯を食いしばるAI。


「何するんだよ~!!」


 一瞬視界を遮られたラヴが反応した。


「Androidとはいえ、レディーに向かって、何てことおっしゃるんですか!!」

「こんなにかわいい年頃の女の子に対して、失礼じゃないの!? 少しは気の利くフォローの仕方ってもんがあるでしょ!!」


 AIが激しくまくしたてたので、ラヴは「ギョッ」として固まる。

 きっと触れてはいけない逆鱗というものがあるとしたらこの事だと、ラヴは学習した。


 調理に使った火をそのまま焚火代わりにして、火を囲んだまま少しうとうとし始めた。

 AIは、いつの間にかラヴと二人より添いながら、静かに眠りにつくのであった。


さて、第6話いかがでしたか?

どうしてもAIを人間らしくさせたくて食事をさせてみようと考えました。

しかしながら、崩壊後の世界には何もなくて火を起こすのも一苦労です。

これからも応援よろしくお願いします。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ