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第59話 スケートリンク2


シュー!!

ブフィーンッ!!



 ヤギにしてはするどく尖ったツノがAIの胸を貫く。


「うぐぅぅ……」


 ……致命傷のように見えたが、スケートゴートのツノを左右両方の手でなんとか押さえている。


ギリギリギリ……



ガチャ


ズバンッ!!


 ラヴが至近距離から背中に背負っていたライフルを構えて発射する。


バシュッ!!


ギ、ギシュルッ!!


「AI大丈夫か!!」


 声には出さないが、AIが親指だけで合図をする。

 どうやら問題はないようだ。


 ライフルの弾は通常弾のフルメタルジャケットを仕込んでいたが、距離が近いのでそれなりのダメージは与えられたようだ。

 弾丸は貫通しなかったが、スケートゴートの左ふとももにめり込んだ。


ガチャ ズバンッ!!


ガチャ ズバンッ!!


「まず足を止める」


 ラヴは至近距離からライフルを連発すると、同じ箇所に命中させる。


ギニャァァァ!!!


 スケートゴートは怒りのこもった表情で雄たけびを上げるが、銃弾を撃ち込まれた左足は体重を支えきれず、バランスを崩している。


DiCE(ダイス)!!」


 そこへショートソードを構えたAIが追撃で止めを刺しにかかる。


「てやぁぁ!」


ザンッ!!!!!


「くそぉ……」


 アイゼンを装備しているとは言え、足元がやはり滑りやすくいつもよりも剣筋がゆるくなっていた。

 それもあって、足を怪我しているスケートゴートにも容易くAIの攻撃は避けられてしまう。


シャーーッ……



 スケートゴートが再び距離を取って視界から遠ざかると、白い雪煙の中に消える。


「逃がしたか……?」

(思ったよりもこの氷の上で戦うのは不利だな。やっぱりスケート靴を今のうちに作っておくか)


「ラヴ、今からスケートシューズを生成するから、警戒していてくれ」

「あいあいさー! 任せな!」



 ラヴはスケートゴートが消えた方向に照準を合わせて待機する。

 その間にAIがスケートシューズの生成に集中する。


(スケートシューズは……さっきのモンスターみたいに靴の裏に縦にエッジの効いた刃が付いてる感じだよね……)


キュイィィーー……ン


 少しずつ視界が開けていくとスケートゴートが氷上を滑る姿が見えた。


「よし、この距離でも十分に狙える」


ガチャ


 ラヴはスコープ越しにスケートゴートを捉えるが、動きが先程よりも機敏になっていることに気づく。


「おかしいなぁ、ケガしているはずなのになんであんなにスムーズに動けるんだ?」


 すると、さらにその後ろから別のスケートゴートが現れた。


「なにぃ!! 2体いるのか……。ってことは今出てきたやつがさっきケガしたやつか……?」


バンッ! ズバンッ!



 ラヴはまず先に出てきたスケートゴートを狙いうつ。


ギァァ……


 どうやら見事に足元に命中したようだ。

 やはりバランスを崩し、移動スピードが落ちている様子だが倒れるまでには至らない。


「くそ、弱点はどこだ? 頭を狙うか……」


バンッ!! バンッ!!


「くそ、今度は外したか!!」


 すると、さらに霧が晴れてきてスコープ越しにエリアの全体像が見えてきた。

 そして、敵の数も……。



「AI、スケートシューズはまだか?」

「今、ちょうどラヴの分まで完成したとこだよ! ほら」


 AIの手には足首までしっかりと固定が出来るスケートシューズが出来上がっていた。


「おぉ! ありがとう!」


 手早くスケートシューズを受け取り履き替える。

 その間にAIも目の前の光景を確認した。



「ちょ、これどういうこと? やばすぎでしょ……」

「そう緊急事態だ、このスケートシューズを履いたら思い切り滑って勢いで突破するしかない!!」


 目の前には100体を超えるであろうスケートゴートの群れが蠢いていた。

 どの個体も今に発射されそうな勢いで地面を前足で引っ掻いている。



 ギギィィガガァギィギィ…‥‥



 氷をひっかく音が次第に大きくなる。


「ラヴ、今のうちにライフルの銃弾を装填しておいてくれ、私の合図で突っ込むぞ!」

「くそ、やるしかないな。でもライフルだと連射には向いてない。この場合ならショットガンが最適か? AI、DiCE(ダイス)から出してくれるかい?」


 即座にショットガンをDiCE(ダイス)から取り出し、銃弾と一緒にラヴに手渡す。


 気が付けば後ろも取り囲まれていた。


ガチャ、ッチャッチャッチャ


 ラヴは弾をショットガンのマガジンにフル装填してAIの合図を待った。



ギギギィィギガガィィ……



 先頭のスケートゴートがこちらに向かって飛び出す。

 するとそれに習って後続のスケートゴートも一斉に氷上を滑りだす。



「き、来た!!」


 ラヴはAIを見るとまだスケートゴートたちの様子を見ているようだ。


「お、おい! いつ突っ込むんだよ! もう来ちゃうぞ!!」

「あぁ、分かってる。慌てるな! まだだ! もう少し……。もう少し引き付けてから……。」



ギャギャギャギャ……



「一体何を考えているんだよ! 突っ込む作戦じゃなかったの?」

「今さっきもっといいアイデアが浮かんだんだよ!! そら、行くぞ!!」



 すると、AIはいきなりラヴの体を持ち上げて、ラヴのおしりを自分の手のひらの上にのせる。

 そしてまるでラヴを投擲(とうてき)でもするかのような姿勢に入る。


「ま、まさか! それはダメだってぇぇぇ!!」



グググゥゥ……

ズビュンーーーーッッッ!!


 ラヴが空中に投げ飛ばされる。

 まるでロケットが射出したかのような勢いでこちらに向かってきていたスケートゴートの頭上を飛び越えていく。


シューーーーーーー!!!


「ぐわっ!!」

ズゴォォン……



ゴロゴロゴロゴロ……



 スケートゴートはラヴを視認しつつも、すぐには止まることが出来ない為、そのままAIを目掛けて突進する。



「じゃあ今度は私が飛ぶ番ね!!」



 AIは下半身に力を溜めて思い切りジャンプ……!!

 したつもりが、スケートシューズを履いていたせいで思ったほどに飛距離のあるジャンプとはいかなかった。

 スケートゴートたちの中央に落下していく。


「AIのバカ! 自分は全然飛び越えられてないじゃないか……」


 仕方なくスケートゴートたちの背後からショットガンを構えてAIのサポートに入ろうとするラヴ。



ギュルルルルル!!!



「うりゃりゃりゃりゃりゃ!!!」


ボンッ! ズボボンッ!!


ギュイーーーン!!


「な、なんだ中央で何かが起きている!!」


 必殺技の【回々(かいかい)】を使わなくとも地の回転力だけで、独楽(コマ)のようなフォルムになっているAI。

 彼女は自分の腕をハンマーのようにして、スケートゴートたちを吹き飛ばしていく。


ドンッ!! ドドンッ!! ボンッ!!


キュガァ!! フギャァア!!


「うおっと!」


 ラヴは自分の方へ吹き飛んできたスケートゴートをよける。

 どうやらAIが上手くやっているようだと認識した。


ギュルルルルル……


ドン! ドドンッ!


 次々にスケートゴートたちが吹き飛ばされていき、ラヴの目前までAIが近づく。

 回転を少しずつ抑えるが、彼女はフラフラ状態だ。


「何やってんだ!!」


ガチャッ スヴァァン!!


 ショットガンを撃ってスケートゴートを警戒させながらラヴもAIに近づく。


ガチャ スヴァァァン!!


「来るなよ! 来たらひとたまりもないぞ!」


 ラヴはフラフラ状態のAIを自分の肩につかまらせて一歩ずつ後退する。

 スケートゴート達は全体的に混乱しており、お互いに前に出ていこうとする個体や後ろに下がろうとする個体で統率が取れていない。

 この隙にラヴたちは氷上エリアの出口付近まで近づく。


「サンキュー、ラヴ。ここまで来れば、あとは……」


フィーーー……ン


 AIは急に熱エネルギーを右手に蓄積させていく。


「ん、また何をするつもりだ? こんな場所で?」


「氷上ってことは、元々は湖かなんかだよね? だからこうするんだ!」


バシュゥゥゥーーン!!


ジュバババババ!!!!!


 AIは地面に対して垂直に【熱拳(ねっけん)】を放った。

 足元の分厚い氷版が熱エネルギーによって溶かされていき、水があふれ出す。


バリバリバリバリ!!


 氷上ではAIの放った【熱拳(ねっけん)】から放射状に亀裂が入っていく。


「はぁぁぁぁ!!」


 AIはさらに熱エネルギーを込めて左右にある氷も解かす。


ザッパーーーーン!!!!


「これでやつらも簡単にはこっちに来られないだろう」


 スケートゴートたちは亀裂から遠ざかるように引き下がっていくようだった。




 ラヴは結局一度も氷上を滑ることが出来なかったスケートシューズを少し残念そうに足から外す。


「また、いつかできるチャンスがあるかもしれないじゃん! だから捨てに取っておこう」

「あぁ、そうだね。いつか出来たらいいね!」



 二人は再度アイゼンを装着し山頂を目指す。


 まるで崖のようにそびえる山頂のエリア。

 先ほどまで良好だった視界は気づけばまた吹雪のように荒れ始めている。



「頂上まであと少しだよね!?」


 上空の雲隠れしている頂を見つめながらAIが問いかける。


「……」


 だがラヴは返事をしない。

 頂上付近にも何か不穏な空気を感じていたからだ。


「本当にこのまま頂上を目指すべきなのか……」




―――――

第59 完



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