第5話 チャットボット『ラヴ』誕生
2023/12/19
第5話を投稿します。
今日は全国的にもさらに気温が下がったようですね。
家に中にいてもかなり寒さを感じました。
さて、話はまた新しく展開していきます。
序盤は物語の設定や背景など説明らしい部分が多くなりますが
しばしお付き合いいただければ幸いです。
時田 香洋
「お姉ちゃん、どうして泣いてるの?」
「何か寂しいことでもあったの?」
目を凝らしながらよく見てみると、そこには6~7歳と思われる小さな女の子が映っていた。
(しかも私に対して話しかけている?)
AIには今何が起きているのかさっぱり分からなかった。
それでもその小さな女の子はAIがさんざん泣いて喚き散らしていた様子を終始見ていたらしくAIのことを不思議そうに見つめながら心配してくれている。
「ありがとう、もう大丈夫だよ」
今できうる精いっぱいの笑顔を作って鏡の女の子に答えるAI。
「そっかぁ、良かったぁ!!」
小さな女の子は嬉しそうに呟くと、何やら後ろの方で別の人間が話しているような声が聞こえてきた。
……と思った瞬間に女の子にノイズのようなものが走って「ふっ」とその画面が途切れてしまった。
「あれ!? 消えた……?」
小さな女の子の残像を追うAI。
だが、そこにはもう鏡に写った店内の様子しか見て取れない。
後ろを振り返って鏡に映っていた場所を凝視するが、もちろんそこにも何もない。
(……また独りぼっちになっちゃった)
(でもあんまり泣いてばかりもいられないよね)
(あんな小さい子に心配されちゃって、ちょっと恥ずかしいじゃない)
(でも本当に一体何だったんだろう)
「……いや、まさかね」
AIは「もしかしたら、世界のどこかでまだ生きている人たちがいて私の事を呼びかけてくれたのかもしれない」と思いたかった。
ブン、ブン
顔を大きく横に振って「パチパチ」と自分の顔の頬を叩く。
(考えていても始まらない、行動しよう!!)
気持ちの整理がついたのか、軽い足取りで店の外へ出るAI。
外へ出ると少し日差しが傾き、そろそろ夕刻になろうとしている事に気づく。
「そっか、今日は夢中でいろいろと駆け回ったけど、もういい時間なんだね」
そう言うとAIはなぜだかどっと疲れた気がした。
思えば今朝からバイクになってみたり、服を探して回ったりと一日中動きっぱなしだったのだ。
「今日の活動はこの辺までにしておくか……」
(……と言っても、どうしようかな)
(人間ならご飯を食べたりするんだよね、当たり前だけど私は全くおなかが空かないんだよね……)
(今のこの世界じゃ、ご飯を食べるどころか、自分で作ったりすることも難しいし……)
(食材を探してみる? 山とかにいけば何かしら自生している山菜とかあるんじゃないの?)
そう思ったAIは近くに適当な山がないかどうかサイネットを使って調べてみた。
3Ⅾマップも使用して近隣の地図を拡大縮小しながら探してみる。
……そうは言っても、ここは元大都会の「東京新宿」。
いくら世界が崩壊した後だといっても近くに山菜がとれるような山などない。
(うーん、やっぱり近くにはないかぁ。でも生態系が変化して食用になりそうな草花が自生している場合もあるかもしれない)
AIは再度サイネットに接続して「自生、食用、植物」などを検索してみた。
その時、AIはふと思った。
「この煩わしい手順どうにかならないかなぁ……」
(もっとスマートで簡単に情報を調べて入手できればいいんだけど、何かいい方法ないかなぁ……)
AIは今日だけで何度目になるのか分からない閃きを思いつく。
「そうだ!! またいい事思いついちゃった!!」
AIはそう頭の中で呟くと、目を瞑っておまじないでもするかのようにイメージをポツリポツリと言葉に出した。
「これはチャットボット、私の質問や指示に的確に答えてくれるAIロボットよ」
(そして、願わくは私のイメージ通りの姿形で目の前に現れて欲しいの)
「お願い……!!」
AIが強く思い描くと、目の前にキラキラと星屑のような演出を交えながら少しずつ頭の方から何かのキャラクターが形作られていく。
端から見れば超常現象以外の何物でもない。
何もないところから、半透明に近い状態の小さな人間が空中に浮かんで現れた。
「わぁーー!! かわいい~~~♡」
その愛くるしくもかわいい姿に思わず声を上げるAI。
その小さな人間の子供の背中には羽が生えているようで、髪の毛も金髪でくるくるパーマが掛かっている。
その姿かたちは服を着ているとはいえ、どこからどう見ても天使のそれであった。
パチ、パチ……
その天使が瞑っていた眼をパチクリさせてあいさつする。
「……初めまして!! 僕の名前はラヴ、よろしくお願いします!!」
AIは驚きを隠しきれない。
「しゃ、しゃべった……。あ、私の方こそよろしくね! 私の名前はAI」
慌てて天使に向かって自己紹介するAI。
(まさにイメージ通りじゃない、いや想像以上よ、これは)
「はい、存じております。確認したいことも既に分かっています。この辺に自生している食用に出来そうな草花についてですね」
「そう、まさにその通り! 食用に出来そうな植物がこの辺りにないか調査したかったのよ」
(何よこれ。怖いくらいに話がスムーズじゃない……)
しばらく考え込む素振りを見せたラヴが顔を前に向けてしゃべり始めた。
「食用になりそうな草花としては『菜の花』が新宿御苑の跡地に自生しているようです。早速向かってみますか?」
「菜の花? 新宿御苑? それってここから近いの?」
「はい、AIさんなら歩いても10分程度で到着できる距離にあります。地図を出します」
ブゥーー……ン
現在地と目的地までのルート、歩いた場合の到達時間が分かりやすく表示された状態で3Dマップが表示された。
「ありがとう、とっても分かりやすいよ! この画面を開いたままでも行動できるかな?」
「はい、もちろんです。不要な時は言ってください」
「了解! それとさ、その言葉遣いなんだけど……」
AIが自嘲気味にチャットボットのラヴに尋ねる。
「はい、何でしょう」
「その……、もう少し砕けた感じに話せないかな……? 別に敬語を使わなくてもいいよ……?」
「OK、分かったよ! これくらいな感じで良い?」
ラヴは少し笑いかけながらAIに問いかける。
「うん、それそれ! そのくらいでいいよ!」
切り替りの速さに驚きつつAIも笑顔で反応する。
この世界で生まれて初めて誰かと「会話」を出来る喜びを感じていた。
(じゃあ、早速その「新宿御苑」とやらに向かってみますか!)
地図に表示された案内に従って、AIは歩き始める。
あっという間に日が陰り、辺りは大分暗くなってきた。
(そういえば今って季節的にいつ頃になるのかな?)
(忘れていたけど時間とか日にちの感覚を取り戻したいな……)
AIはそう思うと、早速チャットボットのラヴに尋ねてみる。
「ねえねえ、今って西暦で言うと何年の何月何日なのかって分かる?」
「うん、わかるよ!! えー……っと今は、2388年の5月14日で午後6時を回ったところだよ!!」
「へー、そうなんだ……2388年ねー」
AIは記憶がないのでその数字が意味するところを把握しきれない。
そこで別の質問を投げかける。
「あ、あのさぁ、私ってね、つい最近までの記憶しかなくって、教えて欲しいんだけど、ハーフロイドの自爆があったのっていつなのか分かる?」
AIは世界の現状がどうしてこうなってしまったか、曖昧にしか把握していなかった。
復活した時に読み込んだ「一般常識」のカテゴリーの中の歴史的な部分の知識しか今のAIにはない。
それによれば、「ハーフロイドによる同時自爆が起きたことによって、世界の大陸の半分以上が消し飛び、人類とハーフロイドのほとんどが消滅した」とあった。
だけどそれがいつ頃起きて、そこから現在までにどれくらいの時間が経過しているのかが上手く読み取れなかった。
「ハーフロイドの自爆は2080年に起きて、結果的に人類とハーフロイドの戦争は終結したよ。だから、そこから今までだと約300年が経過している計算になるね」
ラヴがさらっととんでもない情報を知らせてくれた。それによってAIはフリーズする。
「え……? 300年? 爆発が起きてから300年も経過しているの……?」
(3世紀も時代が進んでいるってこと? それなのに、きっと爆発が起きてから、地球の状況はほとんど変わっていないのかな)
(それもそうか。人類がいなければ、元の、原始の頃の生態系に戻るってことだよね)
(だとしたらこの300年間は比較的おだやかに時間が過ぎていたってことなのかなぁ)
「ちなみにさ、もし分かったらでいいんだけど……」
AIはさらに恐る恐る質問してみる。
「うん、何でも聞いていいよ! と言ってもほとんどがサイネットの情報だけどね」
「ありがとう、うん。爆発の後にさ、生き残った人間っていたのかな……?」
「うーん、記録によると『ほとんどの人間は死滅した』ってあるから、もしかしたら少しは残っていた人類もいるかもね。だけど、生き残った人類がどこにいたのか、どこで生活しているのか、今も生きているのか。それはサイネットだけじゃなくてアクセス可能なネットワークのどこにも情報が載って無かったよ」
最後の方は少し残念そうに答えるラヴ。私の変わっていく表情を見ながら、それが私にとってあまり好ましくない情報を与えているという事を学習していくようだった。
「……そっか、うん。ありがとう」
(分かっていたことだけど……。調べるまでもなくきっとそうだろうって。でももしかしたらと思って、確認したけどやっぱりダメか)
(でも私は諦めない!! さっきのショップで見た光景、そして会話した記憶が残っている。この世界には必ず生き残った人たちがいる!!)
当初の目的から逸れて会話が長くなってしまったが、AIの目の前には自生している「菜の花」がそれも群生して存在していた。
「わぁぁおー。これって、全部菜の花だよね? 食べられるやつの?」
「うん、そうだよ! 焼いたり、煮たりして食べるのが主流みたいだよ。でも、AIはこの菜の花を入手してどうやって調理するの?」
「!!!」
(肝心なことを忘れてた! 確かにラヴの言う通り…… この菜の花を取ってどうする? 持って帰る? どこへ?)
AIはまたもや立ち止まってしばらく考える。
そして辺りを見回す。
「今日はもう疲れちゃったから、ここでいいかなぁー」
近くにあったベンチを見つけて、座りながらそう言い放つAI。 どうやら今日はこの御苑で野宿する算段らしい。
とりあえず適当な数の菜の花をもぎ取り、ベンチに近くに「ワサッ」と置いた。
続いて、調理器具として使えそうなガラクタをその辺から探す。
(これは使えそうね、あとこれとこれと。うん、これくらいあれば何とかなるかも)
AIは上手いこと、鉄でできている丸い器のようなものを見つけ、火が付きそうな乾いた木片や紙のごみなどを拾い集めた。
(さて、ここからが問題よ…… 一体どうやって火をつけようか。ん? そもそも火をつけてもこの器をフライパンのように振るうためには柄の部分も必要だね)
ラヴはさっきからAIの行動を静かに見守っている。
基本的にこちらから話しかけなければ、向こうから話してくることはないようだ。
と、思っていたら、ラヴと目が合った。
「その器を直接手で触れないようにしたいわけ? だったら、また自分で適当に作ればいいんじゃないの? さっき服屋さんで針を出したみたいにさ」
ラヴはあたかも、今日AIがアパレルショップで服を作る作業を間近で見ていたかのようなそぶりで話した。
「え、あなた、あの時まだいなかったのに、そのことをなんで知ってるわけ?」
「あ、ごめんなさい! ぼくね、AIの記憶の中も探る事が出来るから、今日のAIが行動した記録がメモリに全部残っていて、それを見つけたんだ」
「あ、そ、そうなんだ……あはは」
冷や汗のようなものが流れた気がしたAI。
―――――
第5話 完
最後まで読んで頂き有難うございました。
第5話いかがでしたか。
ついにAIのパートナーとも言えるラヴが誕生しました。
これでやっと会話文が作れる~。
毎回AIとラヴの会話が続くので皆様に飽きられないように
創意工夫を施しながら執筆させて頂ければと思います。
今後も是非よろしくお願いします。




