第52話 北アルプスへ行こう
「ふぁぁー」
全く眠気と腹痛がとれないラヴ。
昨夜は腹痛との闘いで結局朝までまともに寝ることはできなかったようだ。
そして彼は決意した。
もう二度と鉄なんか食べてやるものかと。
「おはよう! 大分ゆっくりだったみたいだね」
AIは先に目覚めていたようで準備は整っているようだった。
「おはよう、昨日はなんだか良く寝られなくてね……」
「そうだったの! めずらしいね……。大丈夫?」
「心配ありがとう、今はもう平気だよ!」
「それなら良かった!」
手早く準備してラヴも部屋から出る。
「……」
突然フリーズして動けなくなるラヴ。
テーブルの上には朝ご飯にしては豪勢な鉄料理がびっしりと並べられていた。
「あはは、せっかくだから朝ご飯もしっかり準備しちゃった」
改めてラヴは思う。
「こいつは悪魔か……?」と。
■■■■■■
朝ご飯を食べる/食べないで一悶着した後、ようやく今日から向かう目的地について会話が進んでいる二人。
「そう、温泉に行ってみたいの」
「温泉かぁ、いいねー。なんかゆっくりできそう」
「日本って山がたくさんあるでしょ! だから山岳地方に行けば天然温泉に入れるんじゃない?」
「うん、そうだね! 山岳地方といえば日本アルプスかな!」
「おぉーアルプス! 山って感じがするねー」
「日本アルプスと言っても、北、南、中央とエリアが分かれているんだけどどこに行く?」
「へー、そうなんだ。良く分からないけど、その中で一番高い山があるのはどこなの?」
「日本アルプスの中では南アルプスの『北岳』って山が富士山に次いで二番目に高い山で標高は3193メートルだよ!」
「3193メートルか、そこまで一気に飛んでいけるかな」
「おいおい、何バカなこと言ってるんだ……」
「だってー、上空だったら私の翼で飛んでった方が早いじゃん!」
「それはそうかもしれないけど、山は平地ではないし着陸のことも考えると結構危険じゃないか? それに温泉に行きたいなら頂上に行っても沸いてないよ……」
「むむー!! せっかく一気に到着できると思ったのに~!」
「まぁまぁ、ゆっくり登山しながら秘湯を見つけるってのも一興と思わないか?」
「なんだか、めずらしく悠長な発言するじゃない? 山登り好きだったの?」
「いや、ぼくはただゆっくりしたいだけだよ、いつもいろいろなことが起こりすぎて、疲れちゃうからさ……」
「あんた子供の見た目してるくせに、随分おじさん臭いのね……」
ゴゴゴゴ……
「一体誰のせいでいっつも大変な目に合ってると思ってるんだぁー!!」
(うわわわ、これは地雷を踏んだか? おじさん発言は今後タブーだな……)
「分かった分かった! それじゃあラヴのプランを聞かせてよ」
「え、ぼくの? う~ん、そうだねぇ……。北アルプスの“上高地”っていう場所がとってもすてきなんだ! そこから何日かかけて近隣の山の頂上を目指すってのはどう?」
(ゲゲ!! こいつマジで山登りしようとしてるの? まぁ、海では散々付き合ってもらったから、良しとするかぁ……)
「分かったよ、北アルプスの“上高地”ね? 良い温泉に巡り合えるといいなぁ……」
「きっとすてきな温泉があるよ!!」
二人は工場の施設から出て、広くなっているスペースへ向かう。
「直線距離にしておよし224キロメートル、ここから北西の方角だね」
「OK……、で北西ってどっち?」
「えーっと、北西は……、ここからだと海が見える方角だね、ちょっと飛び上がれば分かるはず」
「なるほど、了解」
バサッ!!
ヴォヴォヴォヴォ……
シュボヴォー!
「あっちの方角かな! じゃあ行くよ! しっかりつかまってな」
「もちろん!」
バサッバサッ!!
翼をさらに広げて一気に北アルプスへ向けて飛び立つ。
シュゴーーー!!!
■■■■■■
「さすがに200キロは遠いなー、もう飛び立って三十分近くは立つけどまだ半分くらいだな……。おーい、ラヴ! ちょっと休憩しようか!」
「お゛願゛い゛し゛ま゛す゛!」
シュヴォヴォヴォヴォ……
ヴオンッ!!
ッシューーーッス……
「この辺もかなり山あいって雰囲気だな」
「あぁ、小川のせせらぎが聞こえる、これは癒やしだねぇ……」
「ちょっと、川が見えるポイントまで行ってみようか!」
「いいね~、見に行こう!」
二人はせせらぎの音を頼りに林を進む。
さわさわさわ……
「あったー!! 川が流れてるよ!」
「奇麗だね~! こうして山から流れる川はやがて海まで流れていくのかなぁ……」
「そうだ、この水はきれいだからボトルに入れて補給しておこう!」
「名案だね! 水はいろんなことに使うし、奇麗であるのに越したことはない!」
小川で小休止を挟んだ後、二人は再度北アルプスへ向けて出発する。
ヴォヴォヴォヴォ……
「ねぇ、ラヴ?」
「ん? なんだい?」
「飛行速度をもう少し早めても大丈夫かな?」
「うーん……、もう少しだけなら、耐えられるかも……。さっきは大体時速200キロメートルは出ていたから、250くらいまでならギリギリ耐えられるかな……」
「OK、それならスピード上げていくから、やばかったら肩叩いて!」
「りょうかい!」
ヴォンッ!
ビッシューーー!!!
シュゴォォォ!!
AIがどんどんスピードを加速させていく。
ラヴの体験ではすでに時速200キロを超えている。
ズゥオォー!!
ボシュン!!
ボシュン!!
最大速度が気になるAIだが、いいところで肩を叩かれる。
バシッ!バシッ!
振り返らずに速度をキープする。
おそらく時速300キロ近くは出ているであろう。
だがこれでも通常の旅客機よりも大分速度は劣る。
旅客機は通常、高度10,000メートルを時速約900キロメートルで進む。
生身の人間はもちろん、Androidであっても、音速を超える際の衝撃に耐えられるかどうか……。
かれこれ二十分ほどが経過……
シュゴーーー!!
ヴォヴォヴォヴォ……
「おおおーー!! なんか高い山がたくさん見えてきたぞー!!」
「あのあたりがまさしく北アルプスじゃないかな!」
ラヴはマップを表示させて詳細な場所を確認する。
「うん、いいぞ! このままもう少し進んでいけば“上高地”と呼ばれるエリアに到達出来るはずだ」
「OK、もう少し近づいてみるか」
シュゴーー……
AIは少しだけ高度を下げながら、山あいのエリアに接近する。
「なんかあのあたり、山の中に建物がちらほら見えるね!」
「うん、あの近くの建物らへんに降りてみよう!」
シュィーーー……ット
ザァザァザァザァ……
「おおー! 川がすごく奇麗じゃないか!! そしてでかいね~」
「うんうん、そして山に囲まれたこの雰囲気、最高だね~」
二人は景色をしばらく堪能した後、目指すべき温泉地へと向かう。
「さて、これから向かうのは、秘湯中の秘湯! そこは歩きでしか到達不可能と言われる標高2000メートルに位置する幻の温泉!」
「へ~! それは楽しみだね~! 歩いてしかいけないのか……」
「まぁ、ゆっくり景色を堪能しながら山を登りましょってことよ」
「山登りねぇ、私楽しめるかな……」
「大丈夫だよ、ぼくたちは体力が実質無限だし、疲れとかもそんなにないから今日中には温泉にたどり着けるかもよ!」
「きょ、今日中!?……ってあんた、今まだ朝なんですけど?」
「今から通るルートだと、まず平坦な道がずっと続いて、大きな橋があるポイントまで約三時間。そこから、本格的な登山が始まって、最初の幕営場所まで約二時間。そこからさらに約二時間かけて頂上を目指していくよ」
「ほほう~」
(うげげっ! こいつガチの登山家か! 一体どこからそんな情報が……)
涼しい顔をしているAIだが、内心ではひとっ飛びして温泉のある場所まで向かいたい衝動を抑えるのに必死だった。
「じゃ、早速向かおうか! しばらくはこの道をまっすぐ進むよ!」
「よっしゃー!! いくぜい!!」
ズダダダァァァ!!!
ポカンとするラヴを置いて一人で全力疾走を決め込むAI。
あいつは本当に何を考えているのだろうか。
いつも通り、お手上げ状態のラヴ完成。
「……ぼくをおいていくなー!!!」
そして、仕方なく彼も走り出す。
景色を楽しむどころか、勝手にトレイルランニングが始まった模様。
ザッザッザッザ……
「もう…‥なんでいっつもこうなるんだよぉ……」
お願いだから道だけは間違わないでくれと切に願うラヴだった。
―――――
第52話 完
設定など(※ネタバレが含まれますのでご注意下さい)
・槍ヶ岳
日本標高ランキングでは元々5位に位置するが、ハーフロイドによる爆発の影響で地殻変動が発生し、下層部がマグマによって隆起した。
それによって、標高が元々3180メートルだったのに対して、エベレストに匹敵する8700メートル近い標高となっている。
また、地殻変動によって2000~3000メートル付近には新たな温泉源がいくつか自然発生し、動物たちの憩いの場となっている。
しかし、それを狙うモンスターも多数発生。
・エッジラビット
標高5000メートル付近に生息
歯や爪がエッジの効いた刃になっていて、ツルツルにすべる雪上を素早く適格に移動する。
体のサイズも1メートルほどと、一般的なうさぎよりも巨大。
グループで行動し、標的に対して接近して攻撃するが、遠隔から意図的に雪崩を発生させることもある。
・アイシクルモンキー
標高6000メートル付近に生息
標高の高い樹氷のエリアに潜む。
樹氷に出来ているツララを体にまとわりつかせてまるでハリネズミ状態となっている。
そのツララを利用してタックルしたり、ツララを標的に投げて攻撃する。
体格は人間と同じくらい。
オイリーモンキーの亜種。
・フリーズシープ
標高6000メートル付近に生息
動きは比較的のろい。
どういう訳か吐く息は氷点下となっており、吹雪を口から吐き出す。
それをくらうと、たちまち凍らされてしまう。
凍らせた相手はそのまま放置される。
体格は1.5メートル前後。
・スケートゴート
標高6000メートル付近に生息
蹄がスケートシューズのように鋭利になって凍った湖の氷上などを滑走する。
移動スピードが速く蹄の攻撃力も高い。
とがった角でも攻撃してくる。
体格は2メートル前後。
・ホワイトアウト
標高7000メートル付近に生息
実体を持たない雪の結晶体モンスター。
エリアに侵入した標的に対して執拗に視界を遮り、凍らせる。
単純なプログラムで動いているがある意味で最強。
エリア外の標的に対しては攻撃してこない。
逃げる以外の対処はない、その場に立ち止まると攻撃をされ続ける。
熱によって溶かされても、液体⇒凝固⇒気体という風に形状変化をさせて襲ってくる。
・エアバット
標高2000メートル付近に生息
樹海エリアに生息。
日中は木にぶら下がっている。
夜になると活性化して、空を飛び交う。
かみつき、爪攻撃。
体格は60センチメートル程度。
羽を広げると1.5メートルほどになる。
・スカイバード(別名:サンダーバード)
標高3000メートル付近に生息
虹色に輝くきれいな翼をもつ。
その翼を手に入れると、幸せになれるとかなれないとか。
モンスターだが、特段攻撃は仕掛けてこない。
しかし、このモンスターが出ると必ず天気が崩れ、嵐を呼ぶ。
とても小さく、基本的に単独でしか見かけない。
20センチほどで羽を広げても50センチメートル程度。
・マッハイーグル
標高4000メートル付近に生息
標的の持ち物を狙って滑空してくる。
ものすごいスピードのため、接近されると空圧によるダメージを受ける。
まさにソニックブームを自身で体現する。
ちなみに音の壁と呼ばれる音速に到達するには時速約1225キロメートル(秒速約340メートル)が必要である。
射程が広く、数百メートル以上も離れた場所から見つけて攻撃してくる。
体格は1メートル前後。
羽を広げても2メートルほど。




