第49話 浮上
ビギビギビギ……
ガギンガギンガギン……
「な、なんだこの音は……。ん? AIはどこにいった?」
触手に捕獲されたAIを見失うラヴ。
グリュンッ!!
グニュニュニュ!!
「どわぁぁぁっっ!!」
今度は複数の触手がラヴに襲い掛かる。
体が小さいため、なんとかギリギリで回避するのに成功するが、海中だと上手く動けない。
ビュルルルーー!!!
「ま、だめだ、つかまるっーー!!」
グリュリュリュリュッ!!!
「ぐわあああぁぁ……」
ガギガギガギガギガギ……
先ほどから聞こえる妙な音がよりはっきりと聞こえた。
見上げると真上にはやはりAIが触手によって掴まれている。
「ん!! ま、まさか! これはAIが!」
よく見ると、AIの両手が輝きを放ちエネルギーを放出しているように見える。
AIを捕らえている触手は彼女をつかんだまま凍り付いて動かない。
そして、今もなお、冷気のエネルギーが触手を伝って巨大イカ本体まで凍らせにかかっている。
「すごいぞ! その調子だ!!」
だが、AIの表情を見ると、既にとても苦しそうだ。
触手による締め付けもそうだが、何よりEPが限界に近いのかもしない。
彼女は無言のままエネルギーを放出し続ける。
ガチガチガチガチ……
グリュリュ……
ガガ……ガガガ……
巨大イカの動きがだんだん鈍くなってきた。
「AI頑張れー! もう少しだ!」
ギュグルルル……
ギギギギィィィ……
「ぐうう……。 やばいぃ。 体が……もげる……」
巨大イカも最後の悪あがきにラヴを全力で締め付ける。
バギバギバギ……
「こんちくしょーー!!」
バシュンッ! バシュンッ!
ラヴは逆さになったまま水中銃を本体に向けて撃つ。
シュンッ!
ガシュッ!
一本の矢は本体の頭の部分に命中して刺さりはしたがやはり火力が足りない。
多少はひび割れたようだが追加でダメージを与える必要がありそうだ。
ギチギチギチギチ……
「くっそー、矢があと3本しかないぞ! 考えろ!」
ラヴは逆さまになっているが、まだ自由に動く上半身を使って今度は自分を捕らえている触手に矢を放つ。
バシュン!!
ガギィン!
バキバキバキ!
「くそっ! 壊れろぉぉ!」
ガンッガンッ!
「もう一発!!」
バシュンッ
ガガガァン
バゴォン……
ようやく触手の破壊に成功したラヴ。
だが矢は残り一本しかない。
AIの様子を確認するが、もうエネルギーを出し尽くしたようで動きが完全に停止している。
「くっそーーーー!! どうすればいい!!」
ガギガギ……
ガゴン、ガゴン、
巨大イカが凍っていない僅かの部位を動かして氷を解こうとしている。
「まずい! このままだとAIの行動が無駄になる……!」
バギバギバギ……
ゴポゴポゴポ……
「くだけろーーーっっ!!」
ラヴは巨大イカの頭部、先ほど刺さった矢のある場所まで接近し、近距離で最後の矢を放った。
バシュン!!
ガギン!!!
バカバカバカッ……
「よ……し……?」
先ほどよりもひび割れは広がったが、まだ完全破壊には至っていない。
「クソーーーー!!」
触手の先端部分は既に解凍されはじめ、再度ラヴを狙って攻撃をしかける。
グリュリュリュ……
「ぐわあああ……」
そして再び触手に捕獲されてしまうラヴ。
「あ、あとちょっとなのに……」
ギュギュギュ……
ギシギシ……
バギバギ……
ラヴの体が簡単に破壊されていく。
「こ、こんな、ところで終わるのか……。っく、う、う」
ギシギシ……
「ま、まだぼくらは、何も果たせていない……」
バギボギ……
「A、AIが見たいって、せ、世界を……」
ゴギンゴギン……
「世界を……救いたいって願っているんだ……」
グシャァァ……
「……あきらめてたまるかよーー!!」
ラヴは最後の力を振り絞って全力で触手をこじ開ける。
「かあああ…あぁぁ……っくぐ!! っだあぁぁ!!」
バジィンッ!!
ゴポポポ!
自分の力だけでなんとか触手を振りほどく、だが……。
なんとか先ほどの矢の場所まで近づくと……
「だりゃあぁぁぁ!!」
ズゴォォンッッ!!
ラヴは全力で刺さっている矢にむかって頭突きを放つ。
ベゴンッ!!
ガギンッ!!
「何発だってくれてやるっ!!」
ラヴは再度全力で頭突きを放つ。
「はぁぁぁ……。 っだりゃぁ!!」
ズヴァギギギィンン……
その衝撃は一回目の頭突きよりも激しく、巨大イカの頭部に大きなヒビが入っていく。
ガキキガキガキ……
「これで、トドメだーーーーっ!!」
ラヴは思い切り後ろにのけぞってフルパワーで巨大イカに頭を振り落とす。
ッズドドドドォォォガガアァァンン!!
まるでダイナマイトでも炸裂したかのような激しい衝撃が発生し、刺さっていた矢ごと巨大イカの頭部をバラバラに破壊した。
ガラガラガラ……
「い……や、やったぞ……」
ラヴは金属部分がむき出しになった頭部をさらしながら笑顔を見せる。
「見たか! これが【爆突】だ!」
まるでAIのような気持ちになってネーミングできたことが嬉しくてラヴは涙をこぼす。
彼は突然思い出したかのようにハッとする。
「AIは、どこだ!! ……いた!!」
頭部がバラバラに破壊された巨大イカの触手に掴まれたまま一緒に海中を落下していた。
ラヴはなんとかAIに近づくが、まだ凍っているため触手をほどけない。
AIはぐったりしているが完全停止しているわけではなさそうだ。
「ちょっと乱暴だけどいいよね?」
ラヴは後ろにのけぞると触手に向かって先程のように頭突きをする。
ズドォンッ!!
バギバギバギィ……
触手は見事に破壊され、そこからAIがこぼれ落ちる。
ガシィッ!
「っ!! おまたせ……」
なんとかAIをキャッチするラヴ。
「さて、ここから無事に海面まで浮上できるかどうか……」
ゴボボボグポポオ……
グイッ グィッ!
ラヴは頑張って泳いでいるが、AIの方が重量があるため、思ったほど上に進めない。
「っくそー、せめて体が万全なら……」
グボボボボ……
「ぐっく……」
はたから見ればもがいているようにしか見えない。
まだ海面までは150メートル以上はありそうだ。
だが、少しずつ、太陽の光が海の中を明るく照らし始めている。
キラキラ輝く海の中に小さな生物やプランクトンの存在を改めて認識する。
「海の中はなんてキレイなんだろう、そして静かだなぁ……」
コボポポ、ゴポボボボ……
AIはまだ復活してくれるような気配はない。
だが、太陽光で少しずつ回復してくれてもいいはずだ。
「っく、ダメージのせいでほとんど前に進まない……」
ゴポゴポゴポポポ……
「けど、なんかこうしてAIと一緒にいるのも悪くないな……」
ゴゴゴポポポ……
「いつもぼくよりも先を走って、いつも無茶してばっかりで……」
ゴゴポゴ……
「でもすっごく頼りになって、馬鹿みたいに力が強くて……」
ゴポゴポゴ……
「ははは、なんだかAIの事ばっかり考えてるみたいだな……」
ズザザァァ……
「うぐぅぅ……?」
ラヴは上というよりも前に推進しており、100メートル付近の海底にたどり着く。
「そっか、前に進んでいたせいでまた海底に着いちゃったのかな……」
ズザッ ズザザ……
「時間がかかるけど、ここからは歩いて前に進むしかないか……」
ッドン!!
「ぐはっ!! な、なんだぁ……」
突然ラヴの背中に何かがぶつかる。
激しく消耗している今のラヴには振り返るのがやっとだった。
もうこれ以上のトラブルは避けたかったが、ゆっくりと振り返る。
……それはまるでデジャブだった。
「!!!」
キュイッキュイー!!
数日前、AIを助けに海に潜ってさまよった。
あきらめかけた時に現れた救世主。
それは今ラヴの目の前にいるイルカだった。
「うぅー、また助けに来てくれたのかい!!」
まるで笑顔を見せて励ましてくれているようにイルカが首をふる。
ラヴはAIを自分の体の前に寄せてイルカの背ビレにつかまる。
キュイッ!!
ギューーーン……
イルカは地面とほぼ平行にぐんぐん前へと進む。
だが、こちらを気遣って無理なスピードは出していない様子だ。
少しずつ光が増してくる。
最早、サーチライトは不要な明るさとなったのでラヴはスイッチを切った。
ギュルルルウルーーー!!
キュイッキュイ!!
いつの間にか、他のイルカたちも集まってきて、みんなで二人を押して進んでいるようだった。
ギュンギュン!!
「うおおおお!! は、はやいぞおぉぉ!!」
ギュオーーー!!
見る見るうちに海面へと近づく。
太陽がとても近く感じる。
つい先ほどまで真っ暗闇だったのがまるで嘘のようだ。
ッザッパァァンンン!!!
スポポーーン!!
数匹のイルカたちと共に盛大に海上へ打ち上げられた二人。
「うひゃああ!!」
ザッブゥゥン……
「はぁ、はぁ……!! も、もどったぞーーーーー!!!」
激しくAIを揺らすと彼女も目をしばたたかせる。
「う、う……。も、戻って、これた?」
「そうだよ!! またイルカさんたちが助けてくれたんだよ!!!」
ザパァン!!
ザッパァァン!!
振り返ると、イルカたちがまるで歓喜するように海の上で飛び跳ねている。
「あはは、こんなに生きてる喜びを感じるなんて本当に不思議だよ!」
「うん、私たちは生きてるんだ……」
海上にプカプカと浮かびながら久々に太陽を見て“生”を実感する二人。
だが、陸地である砂浜までにはもう少しの距離がある。
AIはなんとか少しずつ意識を取り戻すが、太陽光だけではEPの回復が不十分だった。
「……ん、ラヴッ!?」
改めてラヴを見たAIは彼のボロボロになった姿を見て驚愕した。
まず上半身の下にあるはずの下半身がない。
腰のあたりから脊髄のような骨が痛々しく飛び出している。
上半身の腕や体も本来とは逆の方向にねじれている。
「よ、よくこの状態であのイカを……う、う、」
AIはラヴの死闘ぶりを思うと涙が止まらなかった。
「そう、だから、ぼくには頭しか使えなかったんだ……。へへ……」
自慢そうに見せる彼のおでこはベコベコにへこんでおり、毛髪は後頭部にわずかと残っているだけだった。
それでもメインとなるコアや基盤が比較的無事だったため、機能停止せずにいられるのであろう。
「っくすん……。ごめんね、EPが回復したらすぐにラヴをもとに戻してあげるから……」
「え、ぼくそんなにひどい状態なの?」
「笑えないくらいにはね……」
「そっかぁ……。でも本当にあきらめかけたけど、なんとかなって良かったよ……」
「うん、私は無我夢中だったから……。あの時、もうラヴに委ねるしかなかった」
「本当に……。AIが最後まで頑張ってくれたからなんとかなったよ……。ありがとう」
「えへへ、さあ、あの砂浜まで頑張ってもどろう!!」
ピピ
『EP 0107/2000』
(EPも少しずつ回復しているみたいで良かった……。来たときはもう夜に近かったから、EPが底をつくのも早かったのかな)
ジャブジャブ……
ザパァ……
ザブブブブブブ……
ジャパァァァンン……
AIはラヴを抱えてなんとか岩場の近くまで戻ってきた。
ザブザブザブ……
ッザッザッザザザザ……
「はぁ、はぁ……。つ、ついた!! 家だ! 海の家が見えたぞ!!」
「ほ、本当だね……。やっと、やっと……」
ラヴは安心しきってしまったせいか、激しい疲れもあって、眠ってしまったようだ。
AIの胸に抱かれたまま安らかに。
―――――
第49話 完




