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第4話 永遠の孤独

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第4話を投稿します。

東京もだんだんと冬本番の寒さになってきましたね。

朝起きるのがなかなかしんどいです。


話の展開も今回は少し寂しくなる内容ですが、楽しんで頂ければ嬉しいです。


時田 香洋


「……」



 AIはその異様な光景に目を疑い、いまだにお店の前で立ち尽くしていた。


咄嗟(とっさ)にサイネットでこのお店の情報をサーチして確認したけど、やっぱり特殊な感じだよね)


(私はあんまり詳しくなかったけど、夜に男性の相手をするお店で働く女性が着るような服なんだね、いや服というよりは衣装に近いのか)


 しぶしぶ店内に足を運ぶAI。


 胸元が大きく開いて腰から太ももにかけてスレッドが入り、生足が見えるようなデザインのドレスが目に入る。


(なんだろう、こういうのをセクシーって言うのかな?)

(しかし今の自分にはまったくもって関係のない服だろうな)


(なんかもっと動きやすそうで普通の服はないのかなー)


 店内にずらりと並んだドレスを見渡してもAIが探しているような服は見当たらなかった。


 そのアパレルショップと思われるお店は新宿歌舞伎町にあるお水のお姉さまが御用達にするようなお店だったのだ。

 奇跡的に破壊を逃れた店内に並ぶのはなんとまぁ(きら)びやかなドレスたち。


(今後も着るタイミングなんて訪れはしないだろう)


 ふと、自分がこれらのドレスを着て男性の相手をしている姿を想像した。






□□□□□□






......とある夜のお店。


 (きら)びやかな店内で少し暗めの照明の店内にはエレガントなBGMが流れている。


 ゴージャスなソファには少し不釣り合いなスーツを着た男性が従業員に案内されて座る。


 そこへ先ほどの派手なドレスを着たAIが優雅な仕草で近づきその男性の隣にこぢんまりと座る。


「はい、今日もお疲れさまでした、どうぞ」


 AIは慣れた手つきで男性におしぼりを渡しながらジッポライターの火をつける。


「カチン、シュボッ!」


 男性が加えたたばこに火をつけて一呼吸する。


「ふー。ありがとう、ここに来てAIちゃんに相手して貰えるのが一番の癒やしだよ」


 サラリーマン風の中年男性は少し恥ずかしがりながらもリラックスした表情でそう言った。


「こちらこそ、いつもありがとうございます」


「今日は特別な日だから♡ ね!」


「いつもよりサービスしちゃうかもよ~♡ うふふ」


 たっぷりの笑顔で少し上目遣いをしながら、魅力的な胸元をちらつかせ男性を誘惑するかのようにAIが語りかける。


 男性は少したじろぎながらも、まんざらでもないような素振りでタバコをふかす。




□□□□□□




「いやいやいや!!」


「ないって、絶対ないって!!」


(自分で勝手に想像しながら、激しい突っ込みをいれるAIは決して赤くはならない頬を少し膨らませて文句を垂れる)


「何がいつもよりサービスするだよ!! 一体何のサービスするんだっての」


(自分で勝手に熱くなっちゃって、ばっかみたい)


 慌てて店内から飛び出すと、足早に次の目的地を探して地図を開いた。


(次は外さないようにしないとね)

(店名でもう少し絞り込んだ方がいいのかな)


 そう考えながらも次の目的地に近づくと、もう目の前までやってきた。


「あった、きっとここだ」


 一目でAIはそこがかつて大規模チェーン展開しているアパレルブランドショップであったことを認識した。

 しかしながら、残念なことにお店の看板は崩れ落ち、天井には隣の崩壊したビルの頭が突き刺さっている。


 おそらく店の外装がガラス張りだったのだろうか、通りに面する外壁のようなものはなく外からでも店内の様子が見えた。

 そして、おそらく店内の棚に陳列されていたであろう衣類が風化しており、砂埃や瓦礫の破片に埋もれていた。


(これじゃあどうしようもなさそうだね)


 仕方なくここでの物色は諦めたAIはまた別のショップを探して歩きだす。


(この近辺だけでも結構な数のショップがありそうね)

(無事に生き残っててくれるショップがあればいいのだけれど)


 そうしてAIがショップ探しに夢中になって約1時間が経過した。






■■■■■■






「いやいやいや、無さすぎでしょ」


「ってか破壊されすぎだよ、まぁこればっかりは仕方ないんだけど」


 AIは小一時間周辺のショップを探して回っても、着れそうな服を置いているお店に出会えずにいた。


(本当にどうしようかなぁ……これじゃあ最初に見つけたお店で何とかするしか……)


(いやいやいや、それだけは絶対に避けなければ)

(それにあんな動きにくそうな服を着て活動できないしな)






■■■■■■






……それからさらに1時間が経過した。


「もう~、何で。これだけ探しても見つからないわけ?」


 とうとうAIは周辺のショップを全て探しつくしてしまったが、最初に見つけたショップ以外は全て破壊されていてすぐに着られる服を探し出せなった。


(本当に嫌なんだけど、これは仕方ないこと。うん)


 AIはそうやって自分に言い聞かせると、最初に見つけたドレスの置いてある店に戻ってきた。


「相変わらず何でここだけこんな無事でいられているのか不思議なんですけど」


 AIはとりあえず店内に入って、もう一度すぐに着られそうな服を探す。


「う~ん、やっぱりどう考えてもドレスしかないよぉ」


「と゛う゛し゛よ゛う゛~」


 その時、AIの表情が「パッ」と明るく輝いた。


「そうだ、無いんなら、自分で作っちゃえばいいんだ!!」

「素材だったらいくらでもあるしね!!」


 そう思い立ったAIは手当たり次第に素材として使えそうなドレスをかき集める。


「よし、素材はこんなもんでいいかなー」


 鮮やかな色の華やかなドレス衣装が店内のテーブルの上に並べられた。


「問題はこれをどうやって加工するかだよね」

「大事なのはイメージすること、集中すること」


 AIは自身がバイクに変身した時のことを思い出し、今度はハサミや裁縫道具を使って格好よくアレンジされたタンクトップとジャケット、デニムのショートパンツをイメージした。


「まずはシャツから」


シュシュシュ……

シャシャシャシャ……


 AIの左手の細い指が高速に動き出すと少しずつ鋭利な形に変形していく。

 左手の人差し指と中指でワンセットのハサミができ上がっており、薬指と小指でも同じようなハサミの形ができ上がった。


シャキン、シャキン、シャキン……

ザバッ、ザバッ……


 しばらく作業が進むと、なんと衣類を細かく的確に分けると同時に不要な部分は糸にまで分解してみせた。


 右手の人差し指の先端はいつの間にか糸を通せる小さな穴の空いた細長い針の形をなしており、指先からポロッと折れて、一本の縫い針となった。


 その針を拾うと、先ほど分解した生地と生地を縫い合わせていき、あっという間に一枚の可愛らしいデザインが施された白いタンクトップができ上がった。


「よっし、一丁上がりね」


「次はジャケット」


 先ほどと同じ手順でドレスを生地と糸に分解した後に再度ジャケットとして加工する。


シュシュシュ、シャッシャッシャ

ジョキン、ジョキン


 手際よく黙々と作業が進み息をつく間もなくジャケットができ上がっていく。


「ジャジャ~ン!!」


 完成した黒いジャケットを自慢気に広げて見せるAI。


「なかなかのデザインセンスじゃない?」


 自分でも思わずうっとりするほど素敵なデザインに仕上がったジャケットに大満足の様子であった。


(それにしても不思議だなー、自分で作っておきながらどうやって加工したら、あのドレス達がこんな格好良いジャケットになるんだろう?)


 見た目の割に耐久力のありそうなマットな質感の丈夫なジャケット。


 これからのAIのトレードマークになるだろう。

 

 きっと……


「さあ、最後はショートパンツ、頼みますよー」


ジャジャッジャジャジャ

シャッキン、シュルッ、バババ


 手慣れてきたのか、先程よりもさらに素早い手際であっという間にショートパンツができ上がってしまう。


「うひょひょー♡」


「これよ! これ!」


「まさにイメージ通り!」


 興奮気味にしゃべるAIの手にはデニム調でダメージ加工が施されたショートパンツが掲げられていた。


「では早速試着してみましょー!!」


(試着室はこちらね)


 今更試着室など使用する必要はないのに、AIはまるでこのお店に始めから置いてあった服を選んだかのように試着室へ入り込む。


「ランランラーン♪」

「ランランラーン♪」


 喜びのあまり自然に試着室から鼻歌が漏れる。

 作った服がよほど気に入ったのか、ファッションを楽しむという行為そのものに喜びを感じているのか定かではないが、AIは復活してから悲しい思いをすることが多かったので、その反動もあったのかもしれない。


「シャーッ……」


 試着室のカーテンが開けられると、済ました顔でポーズを決め込むAIの姿が目に止まる。


(どうかしら、似合ってるとは思うんだけど)


(これが所謂(いわゆる)ストリートファッション? とでも言うのかな……)


(胸元にアクセサリーが欲しくなるなぁ)


(今度またショップ探しでもしようかなぁ)


 AIが左右に体を動かしながらいろいろとポーズを取ってみる。


「これなら私もその辺にいる()()の女の子に見えるじゃない」



「そう、()()の女の子……」



()()()の……」




「……」




「…」





「……『ふつう』って何?」




(……そう、私は『ふつう』じゃないの)



(元々はきっと人間だったはずだけど……)



(今はポンコツで出来損ないのAndroidじゃない!!)



(なんでこんなに、感情表現が豊かなの!!)



(これじゃあ、まるで……)



「……人間じゃない」



ポタ…… ポタ……



「……なんで、どうして?」



「ぃ゛ま゛、喜んでたのに……」



ッヒ、ッグス……



「……やっと服が着れたと思って」



「喜んでたのに……」




ツツー……

ボタボタボタ……



 目から大きな雫が溢れ出す。

 AIは試着室の鏡の前で立ち尽くしたまま、顔をクシャクシャにしながら号泣した。



(どうして! どうしてこんなに悲しいの)


(どうしてこんなに寂しいの!)


(お願い、お願いだから止まって!!)


(命令よ、お願いだから止まって!!!)



ボタボタボタタタタ……



 滝のように目から涙を流す。

 AIはこれまでで一番の虚しさを感じてしまったのかもしれない。

 素敵な服を着たから誰かに見てもらいたい、かわいいと褒めてもらいたい。

 誰も存在しないこの世界で永久に満たされることのない承認欲求を考えると、心が行き場を失ってしまう。




「あ゛ぁ゛ぁ゛ーん、あ゛んぁ゛ん」



「あ゛ーーーーん、ぁ゛ーん」




 AIはもう気の済むまま思いっきり泣いてしまえと、半ばやけっぱちで泣き続けた。




 AIは孤独を感じていた。


 


 気づかぬうちに『永遠の孤独』という名の引き金を引き、やり場のない悲しみに明け暮れた。


 復活してから現状を理解するのに精一杯だったが、改めて自分がこの世界にはたった一人の存在なんだと突きつけられると、どうしようもない孤独感が押し寄せて、それが涙となって溢れ出た。


 ひとしきり泣いた後、それでも小奇麗なままの自分の顔を見つめていると、鏡の端に何か小さな人影のようなものが写り込んでいるのに気づく。



「え!?」



思わずAIが見入ってしまったものとは?



―――――

第4話 完

さて、いかがでしたでしょうか?

やっとAIに服を着せることが出来ました。

私の勝手なイメージではクールでかっこいい感じに仕上がっています。


AIが号泣するシーンは筆者も泣きながら書きました。

展開が結構急で落差があるのでこれでも何度か書き直しました。


世界崩壊という孤独な世界の上に人間ではなくAndroidになってしまったというAIの悲しみを表現したかったのですが、私の拙い文章で伝わるのか心配です。


少しでも感情移入して頂ければ幸いです。

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