第44話 SUBMARINE VOLCANO
ゴボボボ……
ゴポゴポゴポ……
「ズズズズ……」
「スピー……、スピー……」
信じられない光景だが、深海でも睡眠による休憩を取っているAIとラヴ。
ストームオクトパスとの戦闘後、少し周辺を散策した二人。
するとちょうどよい岩場を見つけたので、横になって仮眠をとることにしたのだ。
まったく光の届かない深海のため、今何時なのか視覚で判断することはできない。
よって、ラヴが自身の体内時計(といってもちゃんとした電波時計)を確認している。
モソモソ……
モソモソ……
深海に済む小さな魚がラヴのほほをつつく。
「うふふ、やめろよー、くすぐったいなぁ……。」
パチパチ……
「ん……?」
ラヴはまだ寝ているようだが、先にAIが目を覚ます。
(あぁ、そうか、深海で少し横になって休んでいたのか……。今何時だろう)
ラヴに視線を向けると、まだにやにやしながら目を閉じている。
「だからくすぐったいってばー、AIのバカァ!! ふふふぅ」
(むむ、夢の中でも私をバカ呼ばわりするなんて!)
AIはラヴの頬っぺたをバシバシと叩く。
「おーい! 起きてラヴ! もういい時間じゃないのー!!」
(それにしても、ラヴまで夢を見るようになったって言うの? 本当に最近のAndroidってどうなってんの……)
睡眠や夢をみるメカニズムについて旧世界でも不透明だった部分は多い。
AIたちが夢を見るのもAIによる学習の成果なのかそれとも……。
(ん? なんか、遠くの方がうっすらと赤いような気がするぞ……?)
「おい! いい加減おきろ!!」
ドス!!
「うげぇぇぇ!!」
おなかにパンチを食らったラヴは目玉が飛び出そうな勢いで跳ね起きる。
「な、なんだ!! モンスターか!!」
自身に何が起きたのか分からないラヴは辺りをキョロキョロと見回す。
「おはよう! ねぇ、今何時か分かる?」
「おは! えーっと……。お! 朝の八時ちょうどだね!」
「なるほど、じゃあ七時間くらいは睡眠できたってとこか」
(暗闇だから海底にもかかわらず熟睡できたのかな……)
「それにしても、朝日がないとやっぱり調子が狂いそうだね」
ラヴが伸びをしながら愚痴をこぼす。
「でも、私は何か冒険の真っ最中!! って感じでワクワクするな!」
「へ~、お気楽でいいですね~、こっちは海に来てから何度死にかけたことだか……」
「それは私だって同じだよ、でも不思議。Androidになって不死身になったって感じがするのに、深海にいると、常に“死”ととなり合わせっていうか……」
「“死”かぁぁ……。ぼくらには痛みとかないけど、完全に破壊されればそれが“死”。なのかなぁ、って漠然と考えていた……」
「そうだねぇ、私たちはもともと生命活動を行っていないわけだから、“生死”について考える事自体が想定外なんじゃないのかな……」
「でも、こうしてあたかも自分で考えて行動しているっていうのに、本当に不思議だ」
「うーん、あんまり深く考えてもキリがないよ……。それよりも、ほらあっちみて!!」
AIがライトを照らしているさらにそれよりも遠くを見るよう促す。
「ん? とーっても小さいけど、赤く光っているような感じがする?」
「でしょーーー!!! ねぇ、ちょっと気になるから行ってみようよ!」
「でた、AIの好奇心病!! まぁ、でも確かに他に行く当てもないしね」
「ちょっとー、好奇心“病”って何よ!!」
ザッザッザッザ……
ラヴはこうしたやり取りを面倒に感じるのか、先んじて歩き始めた。
「こらー!! 勝手に進むなー!」
ブクブクブク……
コポポポポ……
■■■■■■
距離感がうまくつかめない中、ひたすら赤い色の場所を目指して進んできた二人。
朝から歩き続けて、今はもう昼の十二時を回っている。
「はぁ、一向に赤い場所に着きそうにないねぇ……。一体どうなっているの!!」
「おかしいねぇ、かなりの距離は進んでいると思うんだけど、あんまり変わらない……」
周りの景色もほとんど変わらないため、二人は目標に対して進めているのかが分からない。
「ラヴ、何か目印をつけながら進むようにしよう」
「賛成! でもどうやって目印なんかつける? ここは森でもないし……」
「私が細長い鉄のポールを出すから、それを地面に突き刺していけばどれくらい進んでいるか分かるはずでしょ?」
「なるほど、いいね! そうしよう」
AIは手始めに数本の鉄のポールを生成し、それを視界が届く範囲、2メートル間隔程度で突き刺してみた。
ザクッ!!
「よいしょ!」
ザクッ!!
「ほいしょ!」
ザクッ!!
「おいしょ!」
・・・
・・・
・・・
それを繰り返す事、約50メートル。
つまり二十五本のポールを指し終えて二人は驚愕の事実に直面する。
「ラ、ラヴ、私たちって本当にま、まっすぐ進んできたよね?」
「うん、だってぼくはAIの真後ろにいたらから、間違いないよ!」
「で、でも後ろを見てみて……」
「!!!!」
ラヴが半信半疑に後ろを振り返ると、これまでまっすぐに進んでいると思っていたがポールは弧を描くように少しずつカーブしながら刺さっている。
「ど、ど、どういうこだ!! これは一体……」
「わ、わたしたち、知らない間に海流か何かに押し流されて進んでいたって事?」
「うーん、そうとしか思えないよね……」
「これじゃぁ、いつまで経ってもたどり着かない訳だわ……」
「でも、原因が分かって良かった。じゃあ再度方向転換して進んでみよう!」
二人はポールがカーブする方向と逆に進もうとする。
ザッザッザッザ……ザグッ!!
「ぐ!! な、なんだ! 見えない水圧みたいな壁があるぞ! お、重い」
「なんだろうこれは、まるで海域の壁にぶつかっているみたいだ!!」
グッグッグ!!
潮の流れが強いわけでなく、物理的に押し返されているはずはない。
だが自分たちの体が急に重くなったような感覚に二人は戸惑う。
「足元が砂で滑るし、思うように前に進めないよ!!」
「こ、これは磁力に近いのかもしれない……」
ラヴが感じたままを伝える。
「磁力?」
ザザッ!!
AIが振り返ってラヴに聞き返す。
「そう。この海底には強い磁場みたいなのがあって、ぼくらのような鉄で出来たAndroidはその影響をもろに受けるんじゃないか?」
「なるほど! 同極の磁石同士が反発するようなものか……。でも、こんなに強力な磁石なんて、ぐおおおお!」
AIは力ずくでどうにか前に進む、ラヴも必死だ。
少しずつだが、前に進んでいる二人。
ザグッ ザグッ……
「だ、だめだ前に進むほど、磁力が強まる!!」
「ラヴ! あきらめるな! 手を貸せ!」
バシィ!!
必死にラヴが手を伸ばし、AIがその手を掴む。
ゴポッ……
ゴポゴポ……
「う、うでがもげるよぉぉ……」
「おおおりゃあああ!!」
ギギッギィ……
「ぬぬぬぬぅぅ……」
AIがラヴを引っ張り、自分の体の前に移動させる。
ガギィン……
(よし、これでラヴを押していけば!!)
「ラヴ! 私が押すから耐えてくれ!」
「えー!! 耐えるって言っても……」
ラヴは腕を前にしてクロスし、何かから身を守る。
そしてひたすら耐えた。
AIの決して柔らかくはない何かが背中に当たる。
なぜかそのことを考えると少しソワソワしたラヴ。
AIは自力でラヴをひたすら押し返す。
前に進むたびに足元が海底の砂場へとめり込んでいく。
「くおぉぉぉ!! 負けるもんかぁぁー!!」
ブオンッ!!
「うひゃっ!!」
「ぶわぁっ!」
突然二人は前方に投げ出される形で砂の上に吹っ飛んだ。
さきほどまでいた磁力の壁を突破したようだ。
ズザザザァァ……
「ふうー……、どうやら壁は超えられたみたいね」
「うん、危なかったよ……、ほら前見てごらん!」
「おぉー!! な、なんだあれは!! か、海底に山が見える!! それに……」
「あれは、海底火山じゃないか!! マグマが噴出してるみたいだ! そして……」
「「思ったよりだいぶ近い!!」」
二人は目的地に一気に近づけた喜びでこれまでになく表情がほころぶ。
―――――
第44話 完




