第42話 海戦
(それにしても会話のやり取りがこのままだと不便だな……。それにこのライトも別の方が良いか)
『サ゛ー゛チ゛ラ゛イ゛ト゛モ゛ー゛ト゛オ゛フ゛!!』
シューー……ン
(別の形でライトを照らす……)
ギギギギ……
AIはいったんサーチライトをオフにして目からライトを照らすのを止める。
そして、肩甲骨辺りからスティック状の棒を伸ばすと、その先端からライトを照射する。
ビカーー!!
『お゛お゛ー゛ー゛!! す゛こ゛い゛!!』
そのライトは先程のサーチライトの二倍ほどの距離まで照射可能で角度調整も前後左右で可能な様子だ。
ラヴは変わらず、サーチライトモードを使用し、自分の目からライトを出す。
(おっと、移動する前に……)
AIはDiCEを起動して、ラヴ用のライフルを取り出す。
しかし、ここは水中。
通常の武器が使用できるとは思えない。
ラヴの顔をみると、首を横に振っている。
(やっぱり、水中だと普通の銃は使えないか……。となると……)
(ATS起動!)
(― ATSを起動します ―)
ヴィーン
メッセージとともに3Dホログラムによるメニューが展開される。
(― モードを選択してください ―)
(― 武装 OR 防護 ―)
(えーっと、「武装」を選択っと……)
(― タイプを選択してください ―)
(― 変形 OR 生成 ―)
(「生成」!)
(― 生成モードのメニューを開きます ―)
ヴィーン
◇◇◇◇◇◇
ATS(ARMDモード):レベル1
01. ナイフ/50EP
02. ダガー/100EP
03.ショートソード/200EP
04. ハンドガン/200EP
05. ショットガン/500EP
06. マシンガン/500EP
07. ライフル/600EP
08. 火炎放射器/600EP
09. 手榴弾/200EP
10. 地雷/300EP
◇◇◇◇◇◇
(うーん、やっぱり水中で使えそうな武器があんまりないなぁ……)
AIはとりあえず、手榴弾と地雷をそれぞれ5つほど生成し、それをDiCEへ格納した。
そして、さきほど取り出したライフルを見つめ直す。
(これを改造して水中でも効果のある武器にすれば良いかな?)
AIはライフル銃を両手に持ってイメージを膨らませる。
(えーっと、水中銃っていうのかな? でもあんまりイメージがわかないなぁ……)
彼女はしばらく悩んでいるが、その様子を見てラヴが見守る。
ゴポポポ……
それでもAIは複雑な原理や具体的なイメージがつかめない。
AIはハンドサインで四角を描いてラヴにイメージを出して欲しいことを伝える。
ゴポゴポ……
ラヴが彼女の意図を察して、サイネットで調べた水中銃の画像を映し出す。
ウィン!
(おぉー! なるほど! 弾丸じゃなくて先端が尖った矢見たいなのを発射するんだね! なんかボウガンとかクロスボウに近いな……)
AIは親指を立ててイメージがわいたことをラヴに伝える。
そして再び、目を瞑ってライフル銃を変化させるべくイメージを膨らませる。
(水中銃、連射可能、小型、強力なバネと圧力、リボルバー……)
フィーーーン……
淡い光にライフル銃が包まれると、その形状が少しずつ変化していく。
縦に長かった銃口はみるみる縮んでいき、中央部分にはリボルバーと思わしき銃弾をしまい込む六連式のシリンダーが生成される。
(これで銃はOK、あとは……)
ついでに弾丸も生成するが、弾丸の計上は小型の矢のように先端が鋭利な形状をしている。
(とりあえず、五十発分造るか……)
キュイーーン……
AIは出来上がった水中銃と弾丸をラヴに渡す。
ゴポゴポゴポ……
『あ゛り゛が゛と゛う゛!! ほ゛く゛か゛ら゛も゛わ゛た゛す゛も゛の゛か゛あ゛る゛』
ラヴがそう言うと、AIの手を掴んだ。
しばらくすると、脳内にメッセージが流れる。
(― 無線メッセンジャーをインストールします ―)
(― インストールが完了しました ―)
「おーい! こちらラヴ。AI、聞こえる……?」
(ん? なんだ、なんか脳内にメッセージが流れてくる)
AIは先ほどラヴによってインストールされたアプリが脳内にメッセージを流していることにすぐに気づく。
「ラヴ? これで前みたいに会話しなくてもコミュニケーションが取れるってこと?」
「その通り! 無線で会話するにはちょっとした設定が必要だけど、うまくいったみたい!」
「OK、海中だとこれすごく助かる! さすがにハンドサインだけだと心もとないからね……」
「何も問題がなければいいんだけど、こんな深海で何か起きたら大変だから……ね……」
「ちょっと、怖いこと言わないで……」
「……」
「ラヴ? あんたもそのライト目からじゃなくて、違うところから出せないの?」
「……」
「ねえ、ちょっと聞いてる?」
ゴポゴポゴポゴポ……
ギュルギュルギュルギュル!!!
(え、ちょっと何、何!?)
ラヴはAIの背後にある壁を見つめていた。
それは自分たちが落下してきた時の“崖”だと認識していた。
AI越しに見つめていたので最初は気付けなかった。
その壁は少しずつに変色し始め、もぞもぞと動き始めた。
「AI、絶対に音を立てちゃダメ、動いてもダメ」
ラヴが静かにメッセージを送る。
「分かったけど、いったい何が起きているの?」
「それはまだ分からない。とにかく“巨大生物”がすぐそこにいるってこと」
「きょ、巨大生物!?」
「AI!! 振り返っちゃダメー!」
だが、AIは恐怖心や好奇心を堪らえきれずに後ろを振り返る。
ライトに照らされた謎の巨大生物が動いめいている。
視線を上に向けライトを照らしていくと、それはおよそ10メートルの高さはありそうな巨大なタコのような生物であった。
「ま、まさかこんな深海に……」
ビュン!!
そのいくつもあるうちの一本の足が高速で打ち出される。
バシィィン!!!!
ドゴォォンン!!!!
ゴボゴボゴボゴボ……
「ラヴーーー!!!」
海中で素早い動きもできず攻撃を受けたラヴはそのまま壁に激突する。
(さっき助かったと思ったばっかりなのに!!)
AIは臨戦態勢に入り、DiCEからショートソードを取り出す。
「うりゃあぁぁ!!」
ズバァン!!
巨体だが軟体生物であることに変わりはなく、AIの力で一本の足を切り落とすことができた。
(よし、なんとかなりそうだぞ!!)
その勢いで、他の足も切り落とそうと体の向きを変える。
タコの方は今の攻撃によって警戒心を強め、いったん距離をとるために後方に移動した。
それを見てAIはラヴの様子を確認しにいく。
「ラヴ!! 大丈夫か!?」
ガラガラ……
崩れた岩の残骸をどかすと、ラヴと思われる体を発見する。
「うぅ、いきなりで避けられなかったよ、なんとか大丈夫……」
「無事そうで良かった……。あいつもモンスターなの?」
「それを調べていたんだ、どうやらストームオクトパスって言うらしい……」
「やっぱりか、なんか雰囲気が普通じゃないもんね……」
“ストーム”と聞いて、AIは嫌な予感しかしない。
(モンスターか……。弱点とかはあるのか?)
「でも海底にいて電波も悪いから名前くらいしか分からなかったよ……」
ラヴが残念そうにしていると、ストームオクトパスは全身を横に回転させはじめた。
ギュルギュルギュル……
ルルルルルルルルルルルル……
あっという間に超高速回転となったストームオクトパス。
自身の体を中心に巨大な渦を発生させ、あらゆるものを巻き込まんとする。
ギュオオォォ!!
(うおおおおおお)
「AI、やばい! 巻き込まれる……」
「ぐぐ、耐えろラヴ! あれに巻き込まれたらただじゃ済まないぞ!!」
先程の攻撃で砕けた岩の残骸が藻くずとなって散っていった。
ラブとAIは近くの岩にしがみついて堪えている。
「うぅ……。もう無理かも……」
ラヴが弱音を吐くとストームオクトパスが巻き起こしている渦潮がさらに接近する。
バウンッ!!
ストームオクトパスは自分の体から渦潮だけをAIたちに向けて解き放つ。
まるで海中で竜巻が起きているように巨大な渦潮がAIたちに向かう。
「AI、なんとかしてくれー!!」
(この状況でなんとかって……)
「いちかばちかだ!!」
ザッザッザッザッザ……
ビュンッ!
AIは渦潮に向かって自ら突っ込んでいきジャンプした。
ギュルルルル……
するとAIもストームオクトパスのように回転し始める。
「【回々】!!」
向かってくる渦潮に独楽状に変化したAIが回転して立ち向かう。
バリバリバリッ!!
海中にいても伝わるほど大きな衝突音を出しながら渦潮のエネルギーをなんとか相殺していく。
バババババ!! バシュン!!
『く゛わ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!』
ゴポゴポゴポゴポ……
だが、回転力は渦潮の方が強く最後はAIが吹き飛ばされた。
「AIーー!!」
上の方へ吹き飛んでいったAI。
再びラヴとストームオクトパスが対峙する。
「来る!!」
―――――
第42話 完
ストームオクトパス
深海に生息する巨大タコのモンスター。
巨体のわりに擬態して獲物を捕まえて捕食する。
巨体を活かしたスピードとパワーは恐ろしい。
また、自身がフルスピードで回転することで、海中に渦潮を発生させ敵を行動不能にさせる。




