第39話 海へ行こう!
「……」
「……」
ピクッ
一瞬だがラヴのまつげがぴくりと動いた。
AIは熱エネルギーをさらに高めていく。
キュイィーーンン……
「……う……ん……」
「ラヴ!!」
ようやくラヴが声を発する。
パチパチ……
「どわーーーーーー!!!!!」
「うわーーーーーー!!!!!」
目を覚ましたラヴが状況を飲み込めずに叫び出す。
それにつられてAIも叫ぶ。
折りたたんで縮めていた翼を大きく開く。
ブワッ!!
キラキラ……
相変わらず、翼を大きく開くと、反射する光が神々しく輝く。
ブンブン!
顔を左右にふって意識を元に戻すラヴ。
「えーっと……」
「ごめんなさい、あなたは上空で凍り付いて固まっちゃったの……」
「あー、なるほど……。それでぼくを温めてくれていたんだね」
「うん、戻ってくれたみたいで本当に良かった!!」
AIの表情は少し涙で潤んでいるようだ。
「ありがとう、でもまずそのまぶしい翼をたたむか閉まってくれない?」
「あぁ、これ?」
言われたとおりに翼を器用にたたんでいく、きれいに折り重なった羽はそれでもまだキラキラと輝いている。
「あのさぁ、本当に無茶しないでくれないかなぁ? もう少しで危なかったかもしれないんだよ?」
「ごめんってば、だって思わず試したくなるじゃん……」
「それにぼくが持ってたAIの服もどっかいっちゃったよ……」
「げげ!! すっかり忘れてた!」
(せっかく変身前に持っててもらったのに……)
「それにしても、ずいぶん立派な翼を造ったもんだね~」
「でしょ! 太陽光をこれでもかって吸収出来るようにイメージしたら、こうなったの……」
バサッ!
「だから、眩しくなるから、それ広げないでいいよ!」
ラヴの反応にムスッとした表情を浮かべながら、また翼を閉じる。
「でも、これならエネルギーが枯渇せずにしかもジェットエンジンまで動かしても大丈夫そうだったよ!」
「うん、どうやらそのようだったね。本当にすごいというか……」
「【ジェットモード】の時も、あ、翼を広げて飛ぶときのことね! ベースは重力エネルギーで変換しつつ、足りなくなった部分を太陽光で補填するようにしたんだ」
「なるほど、それはいいアイデアだね! 完全に太陽光だけに切り替えてもまだ重力から受けられる恩恵があるからね」
「そう、だって、空を飛んで移動するだけなら、そこまで上空に飛ぶ必要はないからね!」
「それもあるし、ものすごいスピードで移動したら、それだけでもAIの体には空気抵抗による圧力もあるからね!」
(なるほど、そこまでは考えていなかったけど、空気圧でもエネルギーに変換されるのか? 私ってすごいね……)
「さて、それじゃあ、新たな移動手段も可能になったわけだし、早速飛び立って次の目的地へ行こう!」
「OK! だけど、『次』って言っても、どこに行く?」
(うーん、たしかに次の場所はあまり深く考えてなかったなぁ……)
「なんか、さっき上空から大地を眺めた時に、海が奇麗だなって思ったんだよね! だから海行かない?」
「そんな、『海水浴行こうぜ!』みたいなノリで言われても……」
「えー、海いいじゃーん! あれ、もしかしてラヴって泳げないとか?」
「ばか言わないでよ! 人間の子供じゃあるまいし、泳げるに決まってるよ!」
(むむ、これは図星か? ラヴが珍しく強めに反応したぞ……。ふふふ)
「よし、それなら海へ行きましょう! ちなみに近くの海で生態系に異変がある場所は?」
「言われると思って今探しているとこだよ……」
ピピピ……
ヴィン!!
ラヴが腕の一部から3Dホログラムの地図を表示させる。
「えーっと、近くの海に行くとなるくと、太平洋側、千葉県の九十九里と呼ばれるエリア辺りが怪しいね」
「ん、くぶくりん?」
「くじゅうくり!」
「くじゅうくり?」
「そう、千葉県の外房と呼ばれていたエリアで太平洋側の海に面していた場所だよ。でも爆発の影響でそのあたりの地形が大分変わってしまっているみたい……」
「なるほどね、元の状態がどうだったのか分からないけど、異変があるなら、モンスターもいる可能性大ってことね」
(海洋性のモンスターか……。海中での戦闘って私できるのかな?)
「とりあえず、その近辺まで飛んで行ってみよう! ラヴ、私の背中に乗ってそのまま地図出しておいて!」
「はぁい」
ラヴが乗りやすいようにしゃがむと、思ったよりずっしりと背中に重みを感じた。
再び羽を広げてジャンプすると同時にジェットエンジンを点火させて一気に舞い上がる。
バサッバサッ
ビューーーンン……
荒野には小鹿だけが取り残される。
AIは小鹿の成長に合わせてメカ部分を都度修理する必要があることを忘れてはいないのだろうか……。
少なくともラヴが覚えていてくれるだろう……。
AIは上空1000メートル辺りまで来たところでいったん静止してラヴの状態を確認する。
ビュオーーーー
「このくらいの高さなら全然平気かな?」
「うん、まだ大丈夫! ただあんまりスピードだされると落っこちるからね!」
「了解!!」
そう言って、AIはバサバサっと地図の指し示す方に体の向きを変える。
ジェットエンジンが点火すると一気に前進へ加速して進んでいく。
シュゴ――――!!
「う゛お゛ぉ゛ぉ゛!! は゛や゛い゛ー!! こ゛わ゛い゛ー!! お゛ち゛る゛―!!」
ラヴの声が届かないのか、AIはスピードを維持したまま高速飛行を続ける。
このとき、時速にして400キロメートルほどのスピードが出ていた。
新幹線の最高速でも320キロメートルなので、相当なスピードであるのは間違いない。
だが、AIは本気を出せばまだまだ加速が出来るようだ。
(確かにスピードは速いけど、思ったよりも時間がかかりそうだな……)
奥多摩から目的の九十九里浜近辺まではおよそ直線距離で160キロメートルほどだった。
■■■■■■
ビュオーー
飛行してから二十分近くが経過していた。
「あ、そろそろ、海岸が見えてきたよ~!!」
「……」
「お~い!!」
「……」
(え!? まさか、また凍結したの!?)
キューーーンン…
キキー
AIは上空でいったんスピードを緩めて、その場に留まる。
少し静かになったところで、背中のラヴを揺らして様子を確認する。
「っぷはー!! 着いた?」
(良かったー! ちゃんと生きてた!)
「うん、もうすぐ着きそうだよ。また動かいないからびっくりしちゃったよ……」
「そりゃ、あんなに高速で飛ばれたら、固まるよ……。なんでAIはゴーグルもつけてないのに、風圧にへっちゃらなんだ?」
「言われてみれば、そうだね……、やっぱり私って強いのかな?」
「……」
ブンブンブン!!!
「わぁーーー! 落ちるってーーー!!」
「じゃあ、しっかりつかまってな!」
ビュン!!
なぜいきなりそんな不機嫌になったのかラヴにはよく理解出来なかったが、危うく振り落とされるところだった。
そして二人は、九十九里浜よりも少し南下した先にある御宿という町の中央海岸までやってきた。
ヴォーーー
ブワッ!! ット……
大きな海岸沿いに白い砂浜が広がる。
砂嵐を巻き起こしながら、その地に降り立った二人。
「ぶはっぶはっ!!」
「ちょ、ちょっと、砂埃が舞って大変ね!」
降りる場所をもっと手前にすればよかったと後悔した。
二人して砂埃を払いながら辺りを見回す。
ザザァーー
ザザァーー
ドッパ!!
ザザァーーー!!
「それにしても思ったより殺風景だね……」
海水浴場にしては大きな岩がゴロゴロとしており、そのせいで海岸沿いは複雑な潮流となっている。
もしかしたらこれもハーフロイドによる爆発の影響なのかもしれない。
荒波によるしぶきが高々と上がり、それが波風にのってAIたちにポツポツとあたる。
時間は夕刻に近いため、太陽が山の方へと沈みかけている。
AIたちは浜辺の近くにボロボロになった海の家がいくつかあるのを発見した。
その中でも比較的きれいな海の家に入る。
ラヴは精神的な疲れもあり、テーブルのある席で落ち着いた。
それとは対照的にAIは店内を色々と物色しはじめた。
「ねえ!! 見てみて! どうこの水着!!」
まだ着られそうな女性用の水着を発見した彼女がうれしそうに体の前で見せびらかす。
白無地がベースとなっていて、レースのようなひらひらした黄色い布が飾り付けられている。
「へぇ~。水着ねぇ、服着てなかったし、ちょうどいいんじゃない?」
ゴス!!
「いってぇ!! なんか最近あたりが強くありませんか?」
何やら期待した回答が得られなかったらしく、AIからげんこつを貰うラヴ。
「ほら、せっかくだからあんたも着替えなさいって!」
そういって、男の子用の水着をラヴに投げつける。
ポイ!
「もう、どこでこんなの見つけてくるんだよ~」
仕方なく着替えをすませるラヴ。
「えい!」
ボン!
「今度はなんだよ~」
振り返るとビーチボールがトントンと転がっていた。
無邪気に「ニヘヘ」と笑うAIを見て、ラヴにもスイッチが入る。
二人は水着を着て荒波が押し寄せる砂浜へと駆け出した。
その時、大きな岩陰から不自然な泡が大量に発生していたことに二人はまだ気づいていない。
―――――
第39話 完




