第35話 ラヴ、本領発揮
ラヴのフルチャージが完了した後、AIは再び武器生成に励んでいた。
テストも兼ねて、ハンドガンから手榴弾までひととおりの武器を生成してみた。
銃のたぐいはそれぞれ専用の弾丸も生成する必要があり、それらを装填するなどの手間がある。
武器の扱いになれていないAIはその取扱いからトレーニングが必要だった。
カチャカチャ
「ハンドガンとはいえ、それなりに重いし、弾を込めるのって意外に面倒ね……」
AIがハンドガンのマガジンに銃弾を詰めながら愚痴をこぼす。
「まぁ、そのうち慣れるんじゃないのかな? ぼくも使ったことないから分からないけど……」
ガチャ
カシン
「これで弾の装填は完了。ラヴ、ちょっとそこに立ってもらってもいい?」
「そこって? 室内でテストするつもり? っていうかぼくを的にしようとしてないか!!」
「あはは、冗談だってば~! じゃあ、外に出て試し撃ちしてみようか!」
ガチャ、スタスタスタ……
プルプル…‥‥
怒りと恐怖で震えるラヴ。
そんな彼を放って、小屋の玄関を開け、適当な場所へ向かうAI。
「こらー! ぼくを置いてくなー!」
■■■■■■
ダァン!! バキュン!!
「うわっ! 本当に出た! 手がジーンってしびれる~」
(でも楽しいかも!)
近くの岩に向けて適当に銃弾を放つ。
ダァン! ダァン! ダァン!!
バキュン! バキュン! バキュン!
(なるほどね、ハンドガンか。それなりにパワーもあるし、使えるのかな……。でも相手がモンスターとか前みたいなハーフロイドだと微妙かも……)
タカタカタカ……
「ちょっと、ちょっと、何勝手に一人で楽しんでいるのさぁ! ぼくにもやらせて~」
「はい、でもラヴにはまだ早いんじゃないの~」
「子ども扱して~。むしろぼくの方がAIよりも正確だってば!!」
そういって、ラヴが岩場の上にある石ころを狙ってトリガーを引く。
その目は真剣そのものだ。
AIは一瞬彼のその横顔に「ドキッ」とする。
ダァン!
弾丸が石に向かって真っすぐに飛んでいく。
ラヴは小柄な体形とは思えないほどのボディバランスで重心が安定しており、撃った後も腕はおろか全体の姿勢が全くぶれていない。
まさに射撃の見本とでも言うべき姿を体現していた。
バキャン!!
「おぉ~!! すっごぉ!」
パチパチパチパチ!!
思わず拍手をするAI。
命中させた石は粉々にくだけちった。
「どう? 少しは見直したでしょ?」
ハンドガンを器用な手さばきでクルクルと回しながら余裕の笑みを浮かべるラヴ。
「いや、でもね、一発当てたぐらいじゃねぇ……」
苦し紛れの言い訳をするAI。
「ほぉ~。まだぼくの腕が信じられないというわけかぁ。よし、じゃあ勝負しない!?」
「しょうぶ~? 一体何で勝負するのさ?」
ラヴの提案によると、人に見立てた丸太を地面に立てて、それぞれの部位ごとにポイントをつける。
計七発の弾丸を使って、合計得点の高い方が勝利。
頭部が五点、胸部が三点、腕、足がそれぞれ二点ずつとした。
同じカ所に当てても可として、的をかすめてもダメージがあれば得点とすることにした。
撃つ順番は交互に一発ずつ。
「まずはAIからお先にどうぞ!」
「よし、最初から高得点となる頭部を狙うのは定石ね」
ダァン! ヒュン!!
「……っげ!!」
がっくりとうなだれるAI。
弾丸はわずかに木の上方へそれて後方に消えていった。
「よし、じゃあぼくの番だね」
真剣な眼差しで銃を構え、その先の標的に集中するラヴ。
なぜかその横顔をみて「キュン」となるAI。
ダァン! バスン!!
弾丸は見事に人間に見立てた木の頭部、それも額の真ん中に着弾した。
「っふぅ。はい、次はAIの番だよ!」
そう言われて「はっ」と我に返る。
思わず見とれてしまった! なんて、口が裂けても言いたくはない。
(ふん、きっとまぐれよ! まぐれ。私にだってできるはず!)
だが、二発目に至っても、彼女が撃った弾丸はむなしく空を切る。
それとは反対に、ラヴは毎回着実に頭部に、しかも同じカ所に弾を命中してみせた。
(あわわわわわ……。う、うそでしょ。ラヴにそんな才能があったなんて……)
AIは自分の弾が当たらない事よりも、彼が撃った弾が毎回同じカ所に着弾していることに驚愕していた。
そして、AIの七発目のターンとなる。
もはや、結果は見えているが、最後まであきらめずに取り組む姿勢だけは褒めてあげたい。
(そうだ、私はきっと力みすぎなんだ。もっとリラックスして撃とう)
「リラックス、リラックス……」
ダァン! ミシッ!!
AIが撃った弾丸は頭部の横、人で言う頬の部位をかすめていった。
「や、やったぁ! 今あたったよね? あたったよねぇ!!」
「う、うん。当たったと思うよ……」
素直に喜ぶ彼女になんだか同情してしまうラヴ。
「じゃあ、ぼくの最後の番だね。勝負はもうついているけど、やらせて貰うよ」
彼が銃を手にすると、何故か人格が変わったように、大人の色気を感じてしまう。
(私ってば一体何を考えているの……。いつものラヴだよ。相手はあのチャットボットだよ……)
勝手に自分に言い聞かせるAI。
そして、ラヴが最後の一発を木に向けて発射する。
ダァン! バスンッ!!
バキバキバキバキ…… ドッシーーン!!
彼が何度も同じカ所に銃弾を命中させたせいでダメージが蓄積し、丸太が左右へ二つに割れて倒れてしまった。
「あちゃ~。丸太が割れちゃった……」
目が完全にハート型になっているAIを尻目にポリポリと頭を掻くラヴ。
勝負はもちろんAIの負け。
おまけに心までも撃ち抜かれたのは言うまでもない。
(あぁ~ラヴ様……。私はどこへでもついていきます……)
ブンブン!!
首を振って我に返る。
(いやいや、まずいまずい! この状況はまずい!)
「やっぱりこう、精密動作っていうのかな? そういうの私には向いて無いみたい……」
「え~、ちょっとぞれはずるいよ~」
「銃とかでねらい撃ちするのは基本的にラヴが担当ってことで! 私は近接戦闘専門ね!」
「そんなぁ、まぁ役割分担としてはそれでいいかもしれないけど……」
「とりあえず、ラヴにはそのハンドガンも渡しておくね! ラヴの正確性をもってすればモンスターにも十分に通用する気がするよ」
「ありがとう! さっきのナイフとセットでホルダーの準備をしないと!」
■■■■■■
それから二人はショットガンやマシンガン、ライフルなど様々な武器を試し撃ちする。
やはりAIはそのどれもが苦手意識があるようで、銃の取り扱いはもっと練習が必要になりそうだった。
ラヴはライフルの取り扱いも完璧でなんと3キロメートルも離れた先の標的にも着弾してみせた。
元々のチャットボットとしての性質が優れているのか、AIへの強い対抗心が力を発揮させているのか分からない。
だが、まぎれもなくなく彼の力は今後の旅で大いに役立つであろう。
(本当に銃の扱いがこんなに苦手だなんて思っても見なかった……。ラヴに弟子入りしようかな……)
そして最後に得意のショートソードを手に取ったAIがふと思う。
(もしこの剣に熱エネルギーを加えたらどうなるの? やっぱり溶ける?)
「はぁぁぁ!」
フィーーーン……
AIは試しに熱エネルギーをショートソードに流してみる。
つまり【熱斬】を自分の腕ではなく、武器そのものに反映させるということだ。
少しずつ、熱エネルギーがショートソード全体にいきわたり、燃えるような赤やオレンジ色に見た目が変わっていく。
シュオオオ……
「おぉー! これはもしや……」
ブンッ! ブブンッ!
ヘニャ!
「あぁっ!!」
何度かショートソードを振り回しただけで、根本の方から「グニャ」っと変形してしまった。
(やっぱりだめか。普通の鉄じゃ、この熱には耐えられないよなぁ……)
「耐火性にしたいってことだね?」
様子を見ていたラヴが彼女に確認する。
「うん、やっぱり自分の腕だと不便になるときがあるからね……。“刀”そのものに熱エネルギーを加えて【熱斬】を繰り出したいんだ」
「方法はいくつかあるよ……」
ラヴが言うには、まず素材の変更だった。
金属の一種で最も硬いとされるレアメタルのタングステン。
これを使用すれば3000℃くらいまでは耐えられるとの事。
熱エネルギーの温度帯は正確ではないが、その色、状態からみておそらく2000℃程度と思われる。
よって、タングステンを素材にして刀剣を生成できれば、純粋に熱エネルギーに耐えうる武器が完成というわけだ。
しかし、残念ながら現時点でタングステンを入手可能な場所が思い当たらない。
また、別の機会に素材探しの旅に出ようと言うことになり、ひとまず保留とした。
続いて、エネルギー発生方法を工夫する手段だ。
熱エネルギー発生時に同時にマイナスエネルギー(冷気)を内側から送り込むという方法。
ショートソードの外部を炎で纏いつつ、内側は逆にショートソードを守るために冷却させる。
これにはとても高度な技術が必要になりそうだとラヴは言う。
「なるほど、内側から冷やすかぁ……。確かにそれならショートソードが壊れずに済むのかなぁ……」
(でもまずは冷却系のエネルギー操作を会得しないとなぁ……)
気づけば、辺りは少しずつ暗くなってきていた。
「今日はいったんここまでにしようか。色々あって疲れちゃった」
「賛成! ぼくも疲れました~」
「そうだ、今日はラヴが体を持てた記念日って事でお祝いしないとね!」
「え、何それ? 今さらお祝い~? でも嬉しいなぁ!」
その晩、ラヴにはAIご自慢の鉄料理がたくさん振る舞われた。
鉄チキンのソテーに鉄ポテトフライ、そしてデザートに鉄ケーキ。
苦しい表情にひきつった笑顔で小さな頬をパンパンにするラヴ。
彼への拷問は一晩中続いたそうな……
DiCEも独自の消化器官も持たないラヴの体に取り込まれた“鉄”は一体どこへ消えたのだろうか。
それは誰にも分からない……
―――――
第35話 完




