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第32話 男の正体


「なんてやつだよ。こいつ……」

「え、どうしたの?」


「死ぬ寸前に記憶領域を空白(ブランク)で上書いてる。もしくは死んだときに自動で作動するようにプログラムされていたのか……」

「それってバックアップみたいなのとかで見られたりしないのかな?」


「いや、メモリの全領域がアップデートされてしまっているから、バックアップもないみたいなんだ……」

「そ、そんな……。ハーフロイドって自分でそんなことまで……」


「いや、おそらくこいつはかなり改造されている。通常のハーフロイドは基本的に人と変わらないはずだからね……」


(“改造”……。なんか引っ掛かるね。でも今はおいておくか……)


「じゃあ他にやつの記憶以外で分かったことは何かある?」

「そうだね、こいつのメインシステムとか動力源の仕組みとかは有用だと思うよ!」



「良かったぁ! それだけでもこいつを倒した価値があるよ……」

「まずこいつの製造番号が『US-MO-01-0005』ってなってた。サイネットで調べたけど、こんな若い番号のロットは公式には存在していないよ。最初の英字は国や州とかの識別記号で、どうやらアメリカのミズーリ州でハーフロイド化したらしいことが分かったけど……」



「すごい! 製造番号なんてものがあったんだね。しかもそこから出身まで分かるのか!」

「おそらくこいつはプロトタイプじゃないかな。旧世界でハーフロイド化がまだ一般化される前の実験体として改造させられたんだよきっと……」



「そういうことか、それならいろいろ改造が入っていてもおかしくはないね。見た限り、元死刑囚とかが牢獄から釈放されることを条件とかに改造させられたんじゃない?」

「なんかありがちな話だね……。改造したやつらの正体、目的が何なのか……」



「やっぱり気になるのはそこだよね……」

「それと調べて分かったけど、こいつの体には元々爆弾が付いてなかったみたいなんだ」



「だから三百年前のハーフロイド同時自爆の時でもこいつは生き残ったってことか……」

「プロトタイプだからまだ自爆装置もつけていなかったみたいだね。それが皮肉にも現在まで生き残って、残った他の生物を殺して回ってた……」



「ちょっと待って、おかしいよ。そんな旧型のハーフロイドなら動力源がまだ電気を充電しないとダメなはず。この世界で充電可能な場所なんてほとんど残ってないよね」

「よく気づいたね。こいつの動力源はバッテリー式で間違いはないよ」



「えっ! じゃあどうやって充電していたっていうの!?」

「このバッテリーのタイプはおそらく旧世界のものではないね。少なくとも三百年前にはまだ出回ってない。太陽光充電が可能でフルチャージすると約一週間ほどの活動が可能。それに加えて予備バッテリーもあってそれを加えると二週間ほど充電なしでも生活ができるみたいだ」



「二週間かぁ。しかも太陽光で充電が可能。ってことはほとんど電源から電気を充電しなくても活動できるってことか……」


(厄介だな。もしほかにも同じような連中がいたら……)


「でも、分析した感じでは自分たちの太陽光発電だけではとても通常の生活をカバーするほどの充電ができないと思う。だから、これも推測だけど……」

「もしかして太陽光発電所でその都度充電してるってことかな?」



「おそらくね……。太陽光発電所が世界にどれだけあるのかわからないけど、三百年前にも太陽光発電自体は再生エネルギーの一つとして人類の要となっていたからね。相当数が世界各地に残っているのかもしれない……」

「お陰様で私には不要だけど、こいつらにとってはそれが生命線となるわけか……」


(この情報はでかいかもしれない。太陽光発電所を潰していけば、またやつらみたいなのに遭遇するかも……。けど唯一残されたエネルギー機関を破壊して回るのは気が引けるな……。何か別の策を考えないと)



「それと、このバッテリー……。AIの体にも適応可能かもしれない!!」

「えっ!! 今なんて言った!?」



「こいつのバッテリーを体から外して、ちょっと改造したら、AIの体にも組み込めてAIのEPの最大容量が増やせるんじゃないかって」

「おおおおお! そ、それはすごいよ!! めちゃくちゃ役に立つじゃん!」



「でしょー!! だからこいつの体を分解しなくちゃいけないんだけど、AIにできそう?」

「ううう……やっぱそうだよね……。他に誰にも頼めないし……」


(私がやるしかないかぁ……)



「大丈夫、僕が完璧に指示を出すから! そんなに難しくないよ!」


(いや、そういう問題じゃないんだけどね……)


「それじゃあ私から一つ提案、というか試したいことがあるの……」

「はい、改まって何でしょうか?」



「こいつの体を使って、ラヴを実体化させたい。バッテリー増設も自分自身ではうまくできない気がするし。今後も実体化していた方が、何かと役立つんじゃないかって。実は以前から考えてはいたんだ。方法が思いつかなかったけど」

「……なるほど、僕の実体化か。ふふふふ……」



「えっ? 何? どうしたの?」

「つ、ついに、僕も自分の体を手に入れられるんだ! やったぁーーーー!!」


 これまでで一番の喜びを全身を使って表現するラヴ。


「だけど、こいつの体だし、うまくいくか分からないよ?」

「いや、AIならできる! なんだっていつも(ゼロ)から創り出してきたじゃないか! 僕は君を信じてるよ!」


 いつになく真面目な口調でAIを鼓舞するラヴ。

 よほど、実体化することを提案してくれたのが嬉しかったようだ。


「ベースはハーフロイドの体、及びメインシステム。足りない部分は私が鉄で造って補う。というか、顔とかはもちろん、今のラヴをそのまま具現化するよ。こいつの顔なんて気持ち悪くて見たくもないからね。そして大事なのは、ラヴのプログラムだね。今は私の中にあるけど、これを新しい身体の本体に移植するよ」

「それはつまり、僕は新しい実体を得て、独立するってことだね」



「そう、一人のハーフロイドとして。そして、私のパートナーとしてこれからも支えてもらうよ。よろしくね! あ、でも今までみたいにホログラム状態でも活動可能なモードにしたい。場合によって、切り替えられるようにね」



「ありがとう! もちろんだよ。うまくホログラムと切り替えできるかわからないけど、移植が無事にすんだら練習してみるよ」

「よし、そうと決まれば、早速こいつの解体作業を始めるとするか。といっても、こんな荒野の真ん中でやるのもあれだし、先に鹿さんたちを弔わないとだね……」


 彼女は思い出したように、破壊された施設の方に視線を向ける。

 施設の手前の部分はまだ大きく崩れていないようだ。


 そのあと、AIは崩れた保護施設からばらばらにされた鹿たちの亡骸を回収する。


(こんなことをするなんて、本当に許せない)


 彼女はとても悲しくつらい思いになりながらも、丁寧に骨などを集める。

 だが、途中である違和感に気づく。


(やっぱりそうだ! いない! 一頭だけ数が足りない! もしかしたらまだ生きているのかも!)


 AIは鹿の中でも小鹿の一頭分の身体が見つかっていないことに気が付いた。

 それはとても小さな希望だったが、鹿たちとのつながりが完全に断たれた訳ではないと思うと、少しだけ気持ちに余裕が持てた。


 その後、集めた動物たちの遺体を近くの岩場の少し高くなっている場所に埋めてあげた。

 墓標には破壊された施設の丸太を埋めてあげた。


(もし、小鹿が逃げて生き延びていたら、ここに戻ってくる可能性がある。その時の為にも、ここは少しきれいにしておこう)


 彼女はそう思って、瓦礫となった丸太をキレイに整理した。

 破壊が比較的少なかった手前の部分は屋根をうまく切り離すことで分離することが出来た。



「よし、これでちょっと落ち着いたね。じゃあ男の体を分解しようか」


 AIは残った小屋の中に男の亡骸を運び入れていた。

 ラヴがまず背中についているバッテリーの取り外しを指示する。


 AIは自分の手や指を手術に使用するメスやハサミのように切り替えながら器用に男の体を切開していく。

 適宜DiCEからペットボトルに入れた水を出して、汚れた部分を洗い流す。


 背中を開くとやや中心に近い位置でバッテリーと思われる四角い物体を見つけた。

 ラヴの言った通り、予備と合わせて二本が体のメインとなる部分と繋がっているようだった。

 そのうちの一本だけを切り離す。


「本当にこれでいいの?」

「うん、一つは予備のはずだから大丈夫。それをAIの体に増設しよう」


「じゃあ、あとはラヴの体型に合わせてこいつの身体を小さくする」

「え~、無理に小さくする必要なんてないのに~」


 ラヴは大きいサイズの身体が欲しかったようだ。


「だめ~! これは譲れません! あなたのサイズは()()()!」

「ちぇっ!」



 ラヴは残念そうに舌打ちをしたが、いつか大人サイズを手に入れてやる! と逆に闘志を燃やすようだった。



―――――

第32話 完

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