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第30話 決戦1


 午前七時近くになってようやくAIたちは保護施設の近くロックの森まで来ていた。

 森の中で気付かなかったが、朝日は登り辺りは大分明るくなっている。


 AIは再び夢で見た光景を思い出していた。


(夢だと確かこの辺で……っう…思い出すだけで吐き気がする)


 夢であって欲しいと願いながら、異変が無いか見回しながら森を行く。



「くっ!!」

「こ、これは……」



 目の前の木がおびただしい血で濡らされているのを見つけた。

 地面やその周辺にも何かの血が飛び散った形跡がある。

 そして血痕は何かを引きずって運んでいるように保護施設の方角へと向かって伸びていた。




「くそおおおおおおおおお!!」





 AIは大声で叫ぶと同時に走り出した。


「待ってAI!!」


 ラヴも嫌な予感はしたが、これが鹿たちの血痕だとは断定出来ない。

 猛スピードで駆け出した彼女を止めて冷静になるよう伝えたかったが、彼女の耳にはもう声が届いていない様子だった。



シュダダダダダダダ!!!



 彼女は一瞬のうちに保護施設の前までたどり着く。

 途中で血痕はなくなっていたが、ドアノブが血でべっとりと汚されている。


 AIは泣きそうになるのを必死に堪えながら、怒りの表情を浮かべる。



「ふぅ、ふぅ」


(落ち着け……。中には敵が待ち伏せているかもしれない)



ガチャ……バン!



 勢いよくドアを開けた。



「!!!」



 だが室内には誰もいなかった。


 血痕でいたるところが真っ赤に染められている。

 それでも彼女はまだ冷静さを保ちながらゆっくりと進む。


(ここにいなければこの先に必ずいる!!)


 涙をこらえながらそのまま部屋を進んで奥の扉を開ける。


ガチャ

キイィー



「……」



 AIには目の前の光景が一瞬では理解出来ない。

 目に入ったのは鹿の角。

 それが動いている。


 一瞬でも「良かった、間に合った」と思った自分を呪う。

 ()()がゆっくりと振り返る。


「よぉ、随分と遅かったなぁ。くくく」


 ()()はまるでクリスマスにかぶるトナカイのかぶりもののように鹿の生首を頭の上からかぶっていた。



「いやああああああああ!!!」



 まさに腰が抜けるとはこの事だろう。

 AIはその猟奇的な光景を前に恐怖し、膝から崩れ落ちて足に力が入らない。


 男は手にハンドガンを構えてAIに照準を合わせる。



ガチャ



「そこの腰抜かしたかわい子ちゃんさぁ。お前にはよぉ、聞きたいことが色々あるねぇ」


スタ


スタ


 男はゆっくり歩きながらこちらに近づいてくる。

 そしてハンドガンの照準をAIに合わせたままで男がしゃべり続ける。



「一体、こんなところで何してたんだぁ? 動物まで保護してぇ?」



ガタガタ……


 足の震えが止まらない。

 AIは恐怖で男と視線を合わせられない。



「そんなにビビるなよぉ、今すぐ楽にしてやろうかぁ? どんな風に逝きたい? こんなに若ぇ女は久々だよなぁ……。くっくっく、今日はついてるなぁ!」



 男はしゃべりながらAIの周囲をぐるぐると回る。

 それでも隙がない動きには只者でない強者の貫禄があった。



「……」


(どうしよう、動けない……怖くて動けない……)


 これまでモンスターを相手にしていたAIだったが、人間を相手にするのは今回が初めてだった。

 そして、目の前にいる男は強い殺気を放つ猟奇的な殺人鬼。


(殺らなきゃ殺られる……!!!)



「そんなにこの鹿が大事だったのかよぉ? 嬉しそうに鳴いてたぜぇ。ジタバタしながらよぉ!!」



ブンブン……

ビチャ! ビチャ!



 男は頭にかぶっている鹿の角を持ち上げて外し、それをぐるぐると回し始めた。

 その度に鹿の首から流れる血が部屋を赤黒く染める。


「ほぉら! よく見てみろよぉ!」



ッブン!!



 男が鹿の頭をAIに勢いよく投げつけた。


ゴンッ!!


 鹿の頭が勢いよくAIの頭に当たる。


「ッキ!!」


 初めて男の顔を(にら)みつけた。

 この時AIも男と同じくらいの殺気を放っていた。



「おぉ、コワい顔してるじゃんねぇ。でもてめぇ、丸腰だろぉ? これが見えるかぁ?」


 男は手に持っているハンドガンを挑発的に見せつける。



ダァンッ!!


サラサラ……



 男が威嚇(いかく)でハンドガンを発砲したようで、顔の真横を弾丸が擦り抜け髪の毛が宙を舞う。



「ほぉら、動くと当たるぜぇ。今のはわざと外したけどなぁ」



「お、お前は何者だ!!」



「おおー! やっとしゃべったねぇ。俺がだれかって?」



ダァンッ!!


サラサラ……



「分かってねぇなぁ、立場がよぉ。今、質問できるのは俺だけだぜぇ!!」



「な、なんで鹿たちを殺した!!」



ダァンッ!!


バスン!



「っうぅ!!」



 男が放った弾丸がAIの左太ももに命中した。



(……ダメージはあるけど、この程度ならまだ大丈夫だ)



「お前、イラつくぜぇ! 頭わりいのかよぉ。てめぇが人間じゃねぇことくらい見れば分かるんだぜぇ。今のは痛い振りかぁ?」


 男は彼女が人間ではないことに対して、然程驚いた様子を見せなかった。

 逆にAIは男がハーフロイドらしき人物であることに驚いていた。

 冷静に男を観察すると、服から出ている腕がサイボーグであることに気付く。


(こいつはハーフロイド? それとも私みたいな……)



「てめぇこそナニモンだ? ハーフロイドにしちゃぁ、おかしいぜぇ」



「おかしいのは……」



 AIは男にバレないように静かに左拳に熱エネルギーを蓄える。


「おいぃ、何か変な真似してみろぉ、頭を吹っ飛ばすぞぉ」


ジャコ!


 男は近距離から銃口を彼女の顔に向けるが、熱エネルギーには気づいていない。

 まだ自分の方が“上”にいると思って余裕のある素振りをしている。


(やるならまだ油断している今しかない!)



「……おかしいのは、お前の方だろ!!!」


バッシューーーン!!!



 そう言い放つと同時に左拳から【熱拳(ねっけん)】を繰り出す。

 至近距離にいた男に向かう波動エネルギー。



ビュオーーー!!!



「うごおぉぉぉぉ!!!」



 男は咄嗟(とっさ)に身をよじって直撃をまぬかれたが、左の耳が熱で溶かされ、左上半身の服もチリとかした。



(くそぅ、避けられた!)



 だが、AIも冷静さを取り戻し、足にも力が入ってようやくその場に立ち上がった。



「なんだ今のはてめぇ!! 手から魔法みてえなの出しやがってぇ! 俺の大事な耳をもっていきやがったなぁ!」



 男が溶解した耳を気にしながら、それでもまだ余裕のある素振りでしゃべる。


ダンッ!! ダンッ!! ダンッ!!

バスッ! バスッ! ガスッ!!



 男が構わずAIを狙って乱射する。

 咄嗟(とっさ)に横へ飛んでかわすが、最後の一発がAIの脇腹辺りに命中する。


(っぐ!! だめだ、銃を使われたらこっちが不利だ)



ッシュ!!


ダッダダダ!!



「うおぉぉぉぉぉぉ!!」



 彼女は腕を自分の体の前にクロスして男にタックルするかのように突進していった。



「おお!いいねぇ。そう来るかよぉ」


 男はハンドガンをホルダーに仕舞い、彼女のタックルを受け止めるつもりだった。


 がしかし、



ドッ!!!



「かはっ!!」



 彼女の力が想像以上に強く、男は軽々しく吹き飛ばされる。



ドゴオォォン!



 男の体を吹き飛ばし、そのまま丸太で出来た施設の壁に激突する。

 その勢いは収まらず、丸太をぶち抜いて施設を破壊しながら、二人とも外に出る。



ガラガラガラ……



ドガッ ドスン!



 丸太でできた施設が壁を失い、屋根から倒壊しかけている。


 AIはすぐに起き上がって、男の上にマウント状態になっていた。


ギギギ……



 彼女の締め付ける脚力はとても強く、男は身動きがとれないようだった。

 そのまま、左右の拳で男を力強く殴りつける。



「ま、待て!」



ドゴン!

ドゴン!



 だが、男もやられるままでは黙っていない。


ッヒュ!


ザグ!!


 三発目の拳を振り上げている最中に脇腹をナイフが貫通した。


 男はいつの間にか右手に持ったナイフで下になっている状態からAIの脇腹を突き刺した。



「っぐうう!」


(後ろからナイフ!?)


 男は立て続けに左手でAIの顔面を殴る。


ガスッ!!



「ぐはっ……」


(くそ、痛みはないのに……)



「どけっ!!」


 さらに今度は左の裏拳で思いきりAIを体ごと吹き飛ばす。


ドゴン!

ゴロゴロゴロ……



「てめぇ、マジでゆるさねぇ。バカみてえな力出しやがってぇ」



 男はそう言いながら、AIと距離を置くように離れていく。

 そしてそのまま走って、どこかへ行ってしまう。


ダッダッダッダ……


「ま、待てーーー!!!」


(まずい、遠距離から攻撃されるのは不利だ!)


 彼女はよろめきながら立ち上がり、走る男の後を追う。

 すると、男は近くに止めてあった小型ジェットの中に入り込んだ。

(なんだ? まさか逃げる気か!!)



「あまり使いたくないけど……」



 そう言いながら、右手をショートソードに変化させ、熱エネルギーをチャージさせていく。


キュゥゥゥゥン……

フィーーーン……


(今の私にできる最も射程が長い攻撃がこれ)



「【熱波斬(ねっぱざん)】!!!」


バッシューーーーーン!!



 小型ジェットまで数メートル離れている距離から【熱波斬(ねっぱざん)】を放つ。

 その熱エネルギーが斬撃となって小型ジェットのボディにヒットする。



ジュワバァァーーーン!!



 小型ジェットの機体が中心から熱によって溶かされ斬撃の衝撃とともに大きな爆発を起こす。



「よしっ!!」



メラメラメラ……



ドガッ!! ッガン!!


(なに! ま、まさか、まだ生きているのか!?)



 燃えながら(くず)れ行く小型ジェットの内側から男が機体を蹴破(けやぶ)って出てきた。



「お待たせぇ!!」



 死に値するダメージを負っているにもかかわらず、薄気味悪い笑を浮かべる男。


 AIは再び腰を抜かしそうになる。

 男のタフさ、そして不気味さが相まってさらに恐怖が増していた。



「そう、慌てるなよぉ、今仕留めてやるからなぁ」



 その肩にはバズーカ砲のような重火器を背負っている。

 そのまま照準をAIに合わせながらゆっくりと近づく男。



 AIは来た道とは別方向の森へと全力で逃げ出した。



チュイン!!



 その時、男が放ったバズーカ砲がAIの視界の目の前で光る。



―――――

第30話 完


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