第2話 AI、バイクになる
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本日分を投稿致します。
少々長くなってしまいましたが最後まで読んで頂ければ幸いです。
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ドガーン!!
「あいたたた……」
その見た目よりも激しい衝撃音を鳴らしながらAIは目を覚ます。
昨日ホテルの部屋に即席で作ったベッドから激しく落下したらしく床の上で目を覚ます。
というのも奇麗なホテルと思えたが、それぞれの部屋の中は劣化が進んでいたようで、埃も酷かった。
そのため、適当な家具とクッションで簡易的なベッドを作ったのだ。
ところが、思ったよりもAndroidとしての自重が重かったようで、家具がそれに耐えきれなかったようだ。
ついでに床が破壊されている事は気にしない。
(ったくAndroidのくせに夢を見てベッドから落ちるってどんだけだ)
でも先ほどまで見ていた夢はもはや断片的にしか思い出せない。
(なんて不都合なプログラムなの?)
(コンピューターのくせによくできているのかもしれないけど、こうもメモリが人間のように高度で複雑になると、逆に不便と言わざるを得ないよね)
(引き出したい情報がすぐに引き出せないなんて……)
(さて、今日は何をしようかなぁ)
「もう朝になるのかな?」
中途半端にしまっているカーテン越しから、まぶしい日差しが入り込んでいた。
起きてから今日の予定を考えるAI。
(とりあえず、もう少しこの辺りを散策して何かないか探してみるかぁ)
特に具体的な目的を決めずに散策することを決めたAIはそそくさと小奇麗なホテルを後にした。
■■■■■■
高速道路
シュッシュッシュッシュ……
(走る!)
シュシュシュシュ……
(速く走る!!)
常人よりもはるかに優れた脚力を持つAIは短距離オリンピック選手も驚くほどのスピードで道を駆け出した。
シュシャシャシャ……
「すごーーーーーい!! 何これえええーー!!」
自分で自分のスピードに驚く。
(でも、、、もっとだ!!)
(もっと、もっといけそうだ!!)
シャァー――――ン!!
AIは自分が既に人間が自力で走れる以上のスピードに到達しているにもかかわらず、さらに加速に力をいれる。
(さぁ、行け! もっと行けぇぇぇぇ!!)
ズドドドドドドド……!!
AIが駆け抜けた道路はその物凄い踏み込みによってダメージを受け、比較的奇麗だった舗装道路がズタズタにされていく。
「うりゃりゃりゃりゃりゃーーーー!!!!」
(やばい、楽しい!)
走ることが気持ちよすぎて夢中になるあまり、注意力が散漫になっていた。
その時、
「!!!!」
ガゴッッ!
「うわーーーーーー ぁ゛ぅ゛ッ」
ッズガガガガーーーーン!!!
道路にあった亀裂に脚を引っ掛けて激しく吹っ飛んだAI。
「パラパラ」とAIの激突によって巻き起こった粉塵がそこかしこに降り注ぐ。
「……やっばぁぁぁぁ」
(普通なら今ので絶対死んでるよね……)
自分の体を見て多少の砂埃が付いてる程度で済んでおり、大したダメージがないので安心するが、自分の耐久力の凄さにも少し驚く。
自分が駆けた道を改めてみると(ひどい有り様だなー)と、自身の破壊的行ために反省する。
(こんなんじゃ駄目だな、早く走れてももっとスマートにならなきゃ)
AIは「パッパッ」と砂埃を体から振り払いながら立ち上がると、いったん冷静になり今度は静止した状態で先程の走るイメージをもう一度頭で考えてみた。
(めちゃくちゃ早く走る……)
(ものすごいスピードで走る……)
その場で少しずつ足踏みをするかのように「シュシュシュッ」と足が動き始めた。
先ほど落ち着いたばかりの粉塵がまたAIの足元で騒ぎ出す。
AIはさらに早く走ることのイメージを広げ、それは少しずつ人ではなく乗り物に近いイメージとなっていった。
シュイーーーーー……ン
AIの足元が物凄いスピードで動き始め、白煙を上げ始める。
尚もAIはイメージするのを止めない。
ガッシュ、ガッシュ!
足元から何やら機械音のような音が漏れ始める。だが白煙のせいで何が起こっているのかは目視出来ない。
AIは目を瞑りながらイメージを続ける。
(もう少しかも……)
(もう少しでなんか出来そうだ!!)
ガシュガシュガシュッ!!
(頑張れ、私)
「……ハアああああーーーー!!!」
目を閉じながらさらに集中力を高め続け自分を鼓舞する。
フイィーーーーーンンン……
「お願いーーー!! 出来てーー!!」
プシューーーー……。
激しい白煙が出たかと思うと、徐々にそれが晴れていく。
AIの足元は気づけば変形していた。
「おおーーー!!!」
なんと足の一部が大きな車輪へと変形している。
足の脛からつま先部分が何かの乗り物についていそうな車輪の形となった。
それが左右で一つずつ。
「……でもまだ違うなー」
車輪になった脚を器用に前後させながら呟く。
これではかえって動きづらい。
「おっとと……」
(やっぱりこのままだとバランスがとりづらいし、危険だ)
(そして何より格好悪い気がするぞ)
「ん、ちょっと待って、これって元に戻るよね?」
万一、一生このままだと大問題である。
そんな心配をしたAIは一度必死に「二本足に戻れ~!」と足を見つめながら命じてみた。
すると、AIの足はすんなり「ガシャンガシャン」と音を立てながら元のAndroidの足へと変化していった。
「ふぅ~、良かった~。まさかこれからずっとあのままではいられないしねぇ」
(それにしても、足が車輪になるって、驚きだね)
(でもその先を目指したい、例えばバイクとかかな)
(でもバイクと言っても色んな形があるし、あんまりバイクの事を詳しく知らないんだよね)
AIは自分の周りにイメージに近いバイクが置いてないかぐるっと見回す。
道路の傍に交差点があり、その近くの駐車場を発見した。
すると、バイクも数台そこに置いてありそうだった。
近くへ行って確認してみる。
「うん、これこれ~! こんな感じだよね~」
誇りにまみれているようだが、どうやら目的のイメージに近いらしかった。
AIはそのバイクをじっくりと触ったりしながら観察する。
(ふ~ん、なるほど、ここがこうなって……)
幸い、周りに人間はいないので、AIが不審者に思われることはない。
念入りにバイクの形状、やエンジン部分を確認するが、外観だけでは見られない内部の構造が気になりだした。
「きっと既にバイクの持ち主もいないし、いいよね?」
そう言って、バイクを解体してみることにしたAI。
解体すると言っても、工具類があるわけではないので、適当にボディのパネル部分を力ずくで引き剥がしてみる。
バキバキッ!!
ボギンッ!
ガッガッ!
バイクが痛々しい悲鳴を上げながら、AIによって解体されていく。
持ち主本人が目の前にいたらきっと泣き崩れているに違いない。
「ふぅ~。ふむふむ……なんじゃこりゃ~! ちょっと複雑……」
AIは内部構造やエンジンシステムそのものについては理解できないが、それらがどのようにつながっていてバイクが動いているのかが何となくイメージ出来た。
「よっし、じゃあいったん再チャレンジしてみるか」
再度形をイメージしながら足への変形を試してみる。
「今度こそーーー!!」
再びAIの足元から白煙が立ち上がり、今度はさらにそこから腰の当たりまでもが高速で動き始め、下半身全てが白煙に包まれる。
(何だかものすごいエネルギーを感じるぞ)
(体の中の何かが物凄く消費されていってる気がする)
チュイーーーーーーン……
AIは目を瞑りながら呪文でも唱えるかのように両手を合わせて集中する。
ガシンガシン……
ガシュシュシュ……
ウィー――ン……
キュイッ! キュイッ!
先ほどのような機械音が激しく鳴り響く。
「……よし!! 出来たみたい!!」
シューーーーー……
煙が徐々に晴れてくるのと同時に気持ちが高まる。
(ドキドキ……)
「!!!」
自分の腰から下がバイクのそれになっている。
そこにはまるでミノタウロスのバイク版とでも言える形に仕上がったAIが姿を現した。
「やったーーーー!?」
(これなら見た目はともかくバランスはとれていい)
(ちゃんとハンドル部分もあるから握れば安定して走れそうだ)
(ただ足がないのがものすごく違和感だなこれは)
見た目に少々の不満を残しつつもいったんはこれで良しとした。
なぜAIは足がなくてもバランスを保てたのかと言うと、バイクのタイヤ部分がAIの意志に従ってバランスを保つように自在に変形するからである。
まるでゴムで出来たスライムのように。
それでいて走り出すとタイヤは形を変えてスピードがより出しやすい形状へと変化した。
ブイーーーン
けたたましい音を立てながらものすごいスピードで進むAI。
AIにも深い原理は分かっていないが、エンジンが燃焼してエネルギーとなり、それが走る原動力になるという曖昧としたイメージだけで走れてしまった。
◇◇◇◇◇◇
この時、AIの体に組み込まれているHECS(Higher Energy Conversion System:高次元エネルギー変換システム)が作動し、それのレベル1が完全に解放され「位置エネルギー」、「電気エネルギー」、「熱エネルギー」、「運動エネルギー」、「化学エネルギー」をそれぞれ相互作用させながらまるでバイクさながらに走っていたのである。AIがHECSを使いこなせるようになるのはもう少し後の話である。
◇◇◇◇◇◇
「うひゃ~ー、速い速い」
ものすごいスピードで自身の変化を楽しむAI。
久々に味わう爽快感とスリルに思わず笑顔が漏れる。
障害物をスルリスルリとうまく交わしながら壊れたハイウェイを突き進む。
時速にして最大200kmは出ているのではなかろうか、スピードはまだまだ加速出来そうだが、先程のように衝突した時の危険を感じて、少しずつスピードを緩める。
キキー……
急ブレーキで止まると同時に変化した体を元に戻す。
ガシャンガシャンと音を立てながら、元のごつごつしたAndroidの姿に戻った。
(ふー、戻るときもスムーズね)
(それにしても本当に不思議なメカニズムみたい)
……ちなみに服という服は着ていない。
Androidの体は鉄か何かで出来ているため、服を着なくても特に恥ずかしいという気持ちがなかった。
それに他に人間がいない上に、体感として暑さや寒さも感じないので服を着ようとは思わなかった。
だがここで一つAIは考える。
私は確かにAndroidだが、もし他に人間や動物がいた時に私の姿をみたら驚かれてしまうかもしれない。
やはり服は身に着けておいた方がいいかもしれない。
ただ、変形した際に服を身に着けていると邪魔になってしまうので、何か対策が必要だ。
服のことはひとまず後で考えることにして、AIは目の前の施設に意識を向けた。
AIが急ブレーキで止まったのは目の前に「サービスエリア」と書かれた掲示板を見つけたからだ。
ちょっと休憩がてら様子を見に行こうと思ったのである。
だが、案の定ここもやはり無人である。
レストランやコンビニ、ファストフード店などさまざまなショップが入った施設だがどれも寂れて当時の活気ある姿の面影はない。
仕方なくAIはテーブルの椅子に腰かける。
人々がそこで過ごしていた情景がAIの目に浮かぶ。
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美味しそうなラーメンを二人で食べている仲の良いカップル
お子様ランチに目を輝かせている子供を連れた幸せそうな家族
次から次へと殺到する注文にあくせくしながら調理をこなすおばちゃん
道路状況のインフォメーションパネルを見て訝しむトラックの運転手らしきおじさん
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たくさんの人たちの幸せそうな生活ぶりが鮮明に広がった。
だがそれらはAIがかつての情景をイメージして描いたホログラムに過ぎなかった。
軽く手をスライドさせてその情景を消し、現在の誰もいない風景に目を向ける。
「……」
ホロリ、と目から頬へかけて水分が流れ落ちる。
(なんだろうこの感情は)
コンピューターが勝手に“涙する”というプログラムを演出し、AIの目から水分を出力しているのだ。
まったくもって不要な機能のはずなのに、なぜか心地よさを感じていた。
しばらく干渉に浸ったAIは重い腰を上げて、再びハイウェイに戻る。
先ほど学習したプログラムを意図的に呼び出してみる。
すると、先ほどのミノタウロスバイクの姿に瞬時に変形した。
やはりあまり格好良いとは思えないが、利便性を考えるとこの姿のままで良いかと諦めるAIであった。
「よし、次は服でも探しに行くか」
生まれ変わってからようやく服を着ることを決意したAIはさっそうとバイクの姿で高速を駆け巡る。
「やっぱり気持ちいいな、ヒャッホーーー」
誰もいないのをいいことに一人バイク姿ではしゃぐAIの姿は少し異様にも見えた。
―――――
第2話 完




