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第27話 DiCE1


「鹿さん、おはよう! 大分ここでの生活も馴染んできたみたいだね!」


 やさしく小鹿を撫でながらサイボーク化させた箇所を確認する。

 保護してから数週間以上が経過するが、今のところ特に異常は見られなかった。


(だけど少しずつこのサイボーク化した部分を取り除かないといけないよね。私たちは今日からここを離れるけど、この場所なら安全だからきっと大丈夫。すぐ戻るからね!)



 AIは最低限の準備だけ済ませて出発準備を整えた。


「よし、出発だぁ!!」

「まずはロックの森を抜けてバイクが置いてある奥多摩(おくたま)の入口が目標だね!」



「変なモンスターが出なければいいんだけどね……。気配を少しでも感じたら遠回りしながら進もう」

「それが無難だね!」



 ロックの森でオイリーモンキーたちに遭遇しないために、危険と思われる箇所を迂回していった。

 途中で昆虫モンスターに何度か遭遇したが、難なく撃破した。


 特に初見で苦戦したパルファムバタフライには【熱斬(ねつざん)】で簡単に仕留めることができた。

 ギガアントも同様に【熱斬(ねつざん)】のみで無双が可能だった。


 EPの確認も適宜行うが、連戦しない限り回復が必要になるほどの消費はなく、驚くほどスムーズに歩みを進められた。

 これはAIの無駄な動きが減り、攻撃の熟練度が上がってきているのも確かであった。


 新宿へ戻るために、奥多摩(おくたま)へ来た時の入口付近までやっと戻ってきた二人。



「お! やっと見覚えのある入り口が見えてきた……」

「意外に遠回りしちゃったからね……」



(たしかこの辺に、バイクを置いた気がするが……)



「あったー!! ……って! いやぁ!! どこのどいつ! サドルにう●ちしたやつ!!」



(最低だな! モンスターの仕業か!?)



「もう、移動手段はこのバイク以外にないってのに……」



 仕方なくその辺に落ちている枝や枯草できれいにふき取る。



「とりあえずきれいにはなったけど……。絶対、匂い残っているだろうな……」



(こういう時のためにも水は確保しておく必要ありだな)



 飲料水としては必要ないが、何かと水の必要性を感じするAIだった。



 一行はそのまま、新宿へ向けて発信する。



ブルルルン!

ブイィーーーン!!


「よしエンジンも問題なし!」


(久々のドライブ! 出発! 気持ちィィー!)




 時刻は既に午後を回っていたが、夏の時期に入って日照時間も長くなっていた。






■■■■■■






ブイイーーィン!!




 晴天に恵まれ、気持ちよくドライブを続けること数時間。

 二人は久々に大都会の新宿まで戻ってきた。

 喧騒が聞こえてこない不気味さはあるが、山と比べると違った賑やかさに安心感を覚えるAI。




ドッドッドッドッ……




「さて、まずは鉄工所に向かうとするか! ラヴ、地図だせる?」


ピ! ッピコン!



「ほい、すぐ近くだね!」



 ラヴはAIにしがみつきながら3Dマップをホログラムで表示させる。

 AIは視線で場所を確認したら、再度アクセルを勢いよく踏んだ。



キキキー―!



「おっと、ここだここだ! 久しぶりだね~」



 AIが初めて鉄を取り込んで、武器を生成した鉄工所までやってきた。

 所内には当時、武器生成した残骸がそのまま転がっている。

 少しだけ誇りを被った鉄板や作業用テーブルを見渡して特に異常がないことを確認する。



「よし、じゃあ早速はじめようかなぁ!」



(とりあえず回復だけは先にすませておくか)



 AIは鉄板を起用に指先の熱で切断していく。




ジジジジジ……


ジジジジジ……


ズパァン!!


 食パンほどの大きさになった鉄板を口にいれる。

 この時、鉄板全体を適度に熱することで噛みやすい状態にするのも手慣れたものだった。



モシャモシャ……



 なぜか不思議と鉄トーストが美味しそうに思えてしまうラヴ。

 しかし、まぎれもなくそれはただの鉄であり、ホログラムのラヴには掴むことすらできない。



「【再生】」



カチカチカチカチ……



ガチガチガチガチ……



キュユウウーー……ン



「ふうー。これで傷付いていた箇所は元通りっと!」

「いいね! なんか体もツルピカになったみたいだよ!」


(……なんか、そのコメントで素直に喜べないんですけど)



「されそれじゃあ武器とかの生成を始める前に……」

「うん、僕がAIの体の構造を調べて通信技術に使えるパーツとか、いろいろ調べてみるよ」



「仕方ないけど、宜しくお願いね」

「ただそうは言っても、僕は直接AIの体に触れることが出来ないからハード的要素の確認はあまりできないけどね」



「確かにそうだよね。前に相談しようと思ったことがあるんだけど……。これもこの作業が終わった後で話すよ」

「まーた、もったいぶって。気になって作業に集中できなかったらAIのせいだからね」



 そう言いながら、ラヴはAIの体をじっくりと観察し始める。



「立ったままでいいの?」

「うん、そのまま動かないでくれる?」


「ふむふむ……。ちょっと後ろの髪の毛をかきあげてくれる? 何か情報があるかもしれないから」

「なんかジロジロされるの恥ずかしいんだけど……」


 文句を言いながらもラヴの言葉に従うAI。

 “髪の毛”とは言うが、これもナチュラルな髪ではなく鉄によって生成されていると思われる。



「仕方ないじゃないか、AIだって自分のことよく分かってないんだし」

「それもそうだけど……」



 ラヴがAIのうなじの部分や耳の後ろ、頭頂部なども含めて確認していく。



「特に気になるところはなしか……」



 もし触れるんだとしたら一体どんなことをされるのだろうと不安になったAI。



「そもそもAIは人によって造られた訳ではないんだよね? だから外から人が識別可能な情報があるわけないか……」

「その辺は私も詳しく分からないけど、気づいたらどこかの浜辺でAndroidになって復活していたってことくらい」



「まったく不思議なことだらけだね……」



 ラヴが外見からではAIの構造について考察することが難しくお手上げのようだった。



「だけどここまではある意味、想定内だよ」

「なるほど、ってことは他の手段でも分析可能ってこと?」



「まぁ、見ていな」



 すると、ラヴが目急に目を閉じて静かになった。



「サーチライトモードON!!」



ビュイイイイン……



 ラヴが目を開けるとまばゆい光が発射される。

 それは八の字を書いて対象物をくまなく照らしだすような動きをしている。



「さぁ、AIの内部を透視(スキャン)して構造を探っていくよ」

「やば! あんたそんな技持っていたの!!」



 ラヴのサーチライトは単純にAIの内部構造を透視(スキャン)するだけでなく、知り得た情報からそれがどのように活用出来るのかを推測する。



ビュイイイイン……



 ラヴはしばらく無言のままサーチライトをAIに照射し続ける。

 それこそ頭のてっぺんから足のつま先まで。

 AIは黙ってラヴの作業が完了するのを待つ。



……イイイインン



透視(スキャン)完了、サーチライトモードOFF!!」




「で、私の体の構造はどうだったの? なにか分かった?」




「……」




「……すごい」

「え?」



「すごいよ! すごすぎる!」

「だからなにがよ?」



「AIの体を構成しているシステムだよ!!! もうなにから説明しよう……」

「そんなに驚くほどすごいんだ……」



 ラヴの反応に対して逆に不安になっていくAI。



「まず、一番大事な部分! AIの生命活動を司るシステムについて話すね」

「おぉ! ついに判明したのかい? 確か重力エネルギーを変換しているって話だよね?」



「そう! まさにその推測通りだった! どうやらこれはHECS(ヘックス)っていうらしい」

「へっくす? なんだそりゃ?」



※HECSについての詳細は第2話を参照下さい。



「日本語で言うと、高次元エネルギー変換システム。つまり重力エネルギーをベースに電気、熱、運動、化学などいろんなエネルギーに変換することが可能な機構のことだよ」

「ほへ~、まぁなんとなく想像できるかな……」



「そして次! これもやばい! ATS(アトス)っていう機構が組み込まれていた」

「あとす? なんじゃそりゃ?」



◇◇◇◇◇◇


 ATS(アトス):All round Transformation System

 自身の体を可能な限り変化させる事が出来るAndroid内臓システム。

 これまでAIがバイクになったり、手をハサミにしたり、腕をショートソードにしたり出来たのはこのシステムを無意識で意図的に利用していたためである。

 レベル1では消費EPが少ない変身や武器生成に限られるが、今後はEP最大値に比例して変身や生成できるアイテムもレベルが上がっていく仕様である。

 尚、乗り物や武器を生成するためには、その素材となる鉄などの材料がAI自身の体内に備蓄として確保されている必要がある。


◇◇◇◇◇◇



「全環境対応変身システムって言うものらしいけど、いわゆるAIがバイクに変身したり腕を刀に変えたりできるスキルのことみたい」

「そういうことね、だから私ってイメージするだけでいろんなことができちゃっていたんだ」



 改めて自分の能力を説明されている気分になるAI。

 いずれも既に自分の中では意識して使うことが出来ていた機能でもある。



「さらに! さらにだよ!」

「はいはい」



 なんだかラヴの反応に少し辟易しはじめたAI。


「ちょっと~、そんな態度なら教えてあげないよ~」

「わぁ!! どんなすごい機能を発見できたのぉ? 気になる気になる~!!」



(めんどうボットめ!!)



 態度を急変させたAIに満足がいったのか、ラヴは説明を続け始めた。



「聞いておどろけ! DiCE(ダイス)!」

「うわぁ!! なにそれ~! サイコロみたいね~!」


「これは説明が長くなるからしゃべって伝えるよりもメッセージを送るね。それと実際に使ってみた方が早い気がする」


 そう言った後、AIの脳内にラヴが発したと思われるメッセージが再生される。


 それを見たAIの表情がみるみるうちに陰っていく……。



―――――

第27話 完

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