第23話 特訓
「あぁ、まーた短くなっちゃったよ……」
つぎはぎだらけになったデニムのショートパンツをはきながらAIが嘆く。
そして、今回でかなり短くなってしまい逆にセクシーさが増している。
ジャケットやタンクトップも継ぎ接ぎだらけで逆にそれがデザイン性を高めているように見える。
「もう結構遅くなっちゃったし今日はこれくらいで終わりにしない?」
ラヴが今日のトレーニング……ではなく体力テストを終わりにしようと提案する。
「それもそうだね、夕方になっちゃったし……」
(でも今日の収穫はでかいな!)
■■■■■■
パラパラパラパラ…
その翌日、めずらしく天候が崩れ小雨の中で特訓を開始するAIたち。
今日はあらかじめ服は脱いだ状態から訓練を開始する様子のAI。
(雨で気温は低いかもしれないけど、私には関係ないね。こういう時、Androidで良かったって思っちゃう)
「さて、じゃあ昨日の続きからやっていこうかな」
「がんばれー! 回転速度と変身スピードの底上げだね!」
「イエス! まずは素早く変身できるようにならないと」
(ん? そうだ、回転するのが攻撃や防御も兼ねてたらなおいいよね……。だってエネルギー貯めるときに相手に隙を与えるわけだもんね)
AIはエネルギーをチャージする際に回転することに決めたが、さらに攻撃や防御の観点も取り入れ、最終的な独楽の形状をどうする考えた。
(回転攻撃しながら独楽になって、エネルギーチャージ完了と同時に通常状態に戻って、回転エネルギーを活かしつつ熱エネルギーの攻撃が出来たらすごく良さそう……)
AIが何やらボツボツ独り言をしゃべっているなぁと思いつつ見守るラヴ。
「せーっの!」
ビュッ!
クルクル
カシャカシャカシャ……
ビュイーン……
(よし、昨日よりは変身がスムーズだ。さらにここから……)
ビュイーン
カシャカシャ……
フィーーン
(ここで元に戻ると同時に熱エネルギーを右手にチャージ)
回転する慣性を活かしながらAIは右手をショートソードに変形させた。
ビュッ!!
「【熱斬】!!!」
シュバババッ!!!
ッスト
「ふー」
シューーー……
パラパラと舞う小雨が【熱斬】によって蒸発させられAIの右腕からは白い湯気が立ち上る。
まだ動きにぎこちなさが残ってはいるが、独楽による攻撃から通常状態に戻ってさらに回転を活かしつつ【熱斬】による連続攻撃というコンビネーションの流れができあがった。
パチパチパチ!!
「おおーーー!! コンビネーション攻撃としてはいい流れだね!」
「ありがとう!でもまだまだ。もっとスムーズにやらなくちゃダメだね」
(それに本来の目的であるエネルギー回復が出来なければ意味が無いからねぇ)
「もう少し練習して納得がいったら、実際にエネルギーを減らした状態で回復するのか試してみるよ」
「いいね!! 特訓がんばれ~!」
■■■■■■
ザザザザザザ……
それから数時間が経過し雨がいよいよ本降りになってきた。
AIはまだ満足の行く状態にはなっていないようでひたすら反復練習を繰り返している。
ッシュ!
(うーん、こうじゃない。そもそも最初の独楽になる時点からスキがあるな)
クルクル!
カシャカシャ!
ビュイーン……
(この回転するスピードももっと上げられないかな……)
ビュイーン
カシャカシャ!
フィーーン
(あーだめだ、これじゃ熱エネルギーのチャージが遅すぎる)
ッビュビュビュ!!
シュワーーー……
ある程度の型は出来上がっているように見えるが、「技」として仕上げていくにはやはりそう簡単にはいかない様子であった。
「AI〜、提案なんだけどさ、自分の動きって自分じゃ見られないから僕が撮影した動画をチェックするのはどう?」
「おおー! なるほどね、それはいいかもね!」
対人相手の練習ができないため、せめて動きの確認は客観的な観点も取り入れたほうが良さそうであった。
「レコーディング準備OK! いつでもどうぞ!」
「OK!!」
練習通りのコンビネーション攻撃を行った姿をラヴに撮影してもらった。
「おおー! すごい! こんな風になっているのかぁ」
初めて見る自分が変形する姿や攻撃を見て感心する。
しかし、見れば見るほどすきだらけで詰めが甘いと思えてしまう。
やはり格闘技に対する基礎を習得せずに独学でスタートしているのが大きな要因であろう。
それに訓練を初めてまだ今日は初日でもある。
「技」に昇華させるためにはおそらく膨大な時間の訓練が必要になると推測できた。
「ありがとうラヴ! こうして客観的に自分の動きを確認できるのはすごく役立つよ」
客観的に自分の動きを見てチェックする事でより動きの無駄に気づけたのが良かった。
その動きを修正し、再度撮影してチェックする。
この作業をひたすら繰り返す。
そうしてさらに数時間が経過した……
「ふん!!」
ビュイン!!
カシャシャ!
ギュルルルルルル!!
フィーーン!!
カシャシャ! ッビュ!!
ッジュワーーー……
「っふー……」
「かなりいい感じになってきた気がするよ!」
「ありがとう、形としてはこれでいいかな」
「そしたら、いったんエネルギー枯渇状態で試してみたら?」
「それもそうだね、昨日は全然ダメだったけど、今日は少しは成長してるといいなぁ……」
AIは【熱斬】を発動し、EPが100を下回るまで待機する。
ピピ
『EP 0080/1000』
(よし、じゃあやってみるか)
「てぁ!!」
ビュイン!!
カシャシャ!
ギュルルルルルル!!
フィーーン!!
カシャシャ! ッビュ!!
ッジュワワー……
(残りEPを確認!)
ピピ
『EP 0210/1000』
「お!!昨日よりも少しは回復幅が広がっている気がする!」
(最後に【熱斬】を発動しているのを加味しても100EPほどは回復出来たのかな)
「でもまだまだだね、やっぱり回転力を上げるしかなさそう」
「いや、すごい進歩だよ! だって昨日からたった一日しか経ってないんだよ!」
ラヴがAIの成長速度は早くてすごいと言ってくれた。
他に競争相手や比較対象がないので、自分の成長が早いのかどうか確認しようがない。
だがAIは成長を数値で実感できることに達成感を覚え、引き続き精進しようと決めた。
「う~ん……」
首をかしげて何か考えているAIに「どうしたの?」とラヴが尋ねる。
「いや、この連携技にも何かいい名前でも付けようかと思ってさ」
お! またAIの面白いネーミングセンスが発動するのか、と少しわくわくするラヴ。
これまでのネーミングセンスからして、“回転熱撃”とか、“熱回転”、もっとシンプルに“回熱”みたいな感じだろうな……。と予測するラヴ。
「えーっと……、回転してEPを回復するわけでしょ……。じゃあ【回々】だね」
ズコーーーー!
ラヴは頭に「?」しか浮かんでこない。
【熱斬】の要素がゼロですけど?
彼女にしか理解できないワードセンスであったのは間違いなかった。
―――――
第23話 完




