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第22話 AIのエネルギー源


「つまり、エネルギー枯渇に近い状態からだと全快までに五分もかかっちゃうでしょ? その間、敵が待ってくれる分けないから、急速回復が必要になるってわけ」

「確かに回復手段があるにこしたことはないねぇ」



「問題はどうやって回復が早まるかってこと……」


(それにはエネルギーシステムそのものを理解する必要がありそう……)



「やだなぁ……」

「ん? どうしたの突然?」



「いや、私って複雑なことを考えるのが苦手っていうか、体で覚えるタイプだからさ。自分のことだけどエネルギーシステムがどうなっているのか考えるだけで頭がパンクしそうなんだよね……」

「それなら、ぼくの出番だね!」



「よ! 待ってました! ラヴ博士!」


 AIが調子よくラヴをおだてる。


「よろしい。ではAIくんの動力源でもあるエネルギーシステムについて考えてみようじゃないか」


 ラヴもまんざらではないように続ける。


「まずは、そもそものエネルギーとは何ぞや? と言った部分から始める。いいかい、この世界には既に人類が発見した複数のエネルギーが体系化されている」


(なんか講義みたいになってきたぞ……)


「位置エネルギー、電気エネルギー、熱エネルギー、運動エネルギー、化学エネルギー、光エネルギー、核エネルギーなどだ」


(いや、沢山ありすぎてもう分からんよ)


「おそらくAI(きみ)はこれらのエネルギーを体内で発生させて効率よく変換している。よって外部からエネルギー源となる資源を直接補給しなくても活動ができていると考えられる」


(なるほど、よくよく考えればそれが自然だったのか)


「うむ、だからAI(きみ)は今現在も自然発生しているエネルギーを変換しながら活動していると言うことだ」

「え? 今も自然発生しているエネルギー?」


「そう。よく考えてみなさい。いや、感じなさい自然の力を」

「自然の力? 感じる?」


(どうしてラヴにはそんなことが分かるの?)


 AIは不思議に思いながらも目を(つむ)って自然を感じてみるようにリラックスする。


(……自然。意識しなくとも流れている力ってこと? でも私ってAndroidだし、血液だって流れてないよ?)



「……」



(第一、心臓だって動いてないし、そもそも感覚器官ってものがないんだから、Andoroidにとって“感じる”ってこと自体が無理難題じゃん!)



「え~、博士~!! 私には感覚器官がないので、全然分かりません……」

「いや、それはAI(きみ)の思い込みだ。君に感覚器官はある……。 と言うより造られるに近い」


「つ、造られる!? はぁ......?」


 さらに頭の中が「?」だらけになってしまうAI。



「まぁ、今は深く考える必要はない。この星、“地球”について考えてみなさい」

「地球?」


(話がまたとんでもない方にずれるな……)



「今エネルギーの話をしてるのに、“地球”を考えるってどういうこと?」

「“地球”が生み出しているエネルギーについて考えるということさ」



「なるほど、“地球”が生み出すエネルギーか……」



(何だろう……。)



「地球だって“星”というくくりの中で生きているんだ。違うかい? つまり地球もエネルギーを使用しているんだ。地球上にいる生物はその恩恵に預かっているとも言えるな」

「地球が使っているエネルギー? 恩恵……」



「では最大のヒントを与えよう。AI(きみ)が地表、つまり地面に対して“立つ”という行為はなぜ成立している?」

「それは、つまり地球に重力があるから……!!!」



(あ!! なるほど、え!? そういうこと……?)



「やっと気づいたようだね」

「私のエネルギー源って『重力』だったの!!!!」



(やばーーー!! わたしってすごいーーー!!!)


 やっとのことで自身のエネルギー源に気づけたAIはガッツポーズして喜ぶ。



「まぁ、これはあくまで推測だがね。AI(きみ)を見ている限り、そうとしか説明がつかない。そして、正確には『重力による位置エネルギー』をAI(きみ)は電気か何かに変換しているはずだ」

「そうかぁ、重力なら確かに常に発生しているエネルギーと言えるもんね」



「重力エネルギーを活用する技術は検討されていたが、人類は晩年でついに重力エネルギーを高純度で変換出来るシステムを開発できたようだ。実用化までには至らなかったみたいだが……」

「確かに歴史を見ても重力エネルギーを有効活用しているような技術は見なかったね」



「うむ、もしAI(きみ)のように重力エネルギーを効率よく利用して変換できる技術があれば産業革命が起きていてもおかしくはない」

「そうだよ、だって重力なんて半永久的に発生しているし、地球上のみんながその恩恵を受けられるわけだから……」



「そしておそらく今のAI(きみ)なら特訓次第で“反重力”を利用して飛行する事も可能になるかもしれない」

「そうか! 重力エネルギーを利用しているなら、任意に重力をコントロールできるはずってこと?」



「だがそれはAI(きみ)のエネルギー供給源である重力エネルギーをマイナスにすることになり得るので、別の方法でエネルギー供給する方法を身に着けたあとにしたまえ」

「それもそうだね、でもこれで将来の楽しみが一つ増えた!」



「さぁ、それじゃあ話をもとに戻そう。AI(きみ)はエネルギーの急速回復をしたいのだろう?」

「そうだった! そうだった!」



(なんかいろいろ知識は増えたけど、まだ目的は何も達成できてないんだよね……)



「っていうか、そろそろその“博士モード”を解除したら?」

「えっ? もう終わり? 楽しかったんだけどなぁ~」



(いやいや、あんたその姿で何言ってんの。こっちは違和感マックスだったよ)



 そして、AIは再び考え始める。


 自身のエネルギー源が重力だと分かったはいいが、どうやってより重力負荷を増やして回復エネルギーが得られるのかを考えた。



「ん~~!!! やっぱ分かんない。博士助けて~」



ズコーーー!!



「おいおい、言ったそばからもうそれかい!」

「だって、重力をさらに増やすって難しくない?」



「確かにそうだけど、不可能ではないよね? 例えば地球が回転してエネルギーを生み出しているように、AI自身も回転すれば小さいけどそこにはエネルギーが発生するはずだよ」

「なるほど! 回転か! 確かに遠心力っていうのかな? 回転した時に中心よりも外側により圧力がかかるよね」


(目が回りそうだけど、私はAndroidだから大丈夫なはず……)



「そう、その時に発生したエネルギーを変換できれば回復するんじゃない? AIなら超高速で回転出来そうだしね(ふふ)」

「え、そっか! 私自身が回転するってことか。ん? 最後なんか笑ってなかった?」



「まぁ、いいから実際に回転してみなよ!」


(こいつめ、胡麻化したな!)


(さて、と言ったもののどうすれば高速回転できるんだ?)



「とりあえず、物は試しに回ってみるか……」



 AIは体をひねって重心を右下に集める。

 そこから思い切って立ち上がると同時に片足立ちになって両腕を広げた。



ビュオン!!



グルグルグルグル……


 ……グル…グル…ット



 十回転ほどしたところで勢いは止まってしまい、バランスを何とか保ちながら姿勢をキープする。



「うーん、全然手ごたえないな~。あ! っていうかエネルギー満タン状態じゃやっても分からないじゃん! さきに枯渇状態にしておかないと……」



 やっと気づいたかと、ラヴが首をふりながら手をあげている。



(こいつめ~、分かっていて私を最初に回転させたのか? それでさっき笑ったのか? くそぉ……)



 AIは【熱斬(ねつざん)】を発動し、それを一分三十秒継続した。

 この方法がEP消費量を確認しやすく、微調整も簡単だからだ。

 AIは意図的に自分の視界に『現在EP/最大EP』を表示させた。



ピピ




『EP 0930/1000』



『EP 0090/1000』




「よし、100EPを切ったから、【熱斬(ねつざん)】を解除するぞ、はぁはぁ」


(この状態でさっきみたいに回転したら、EPが回復するのか?)


「そーっれ!!」



 AIは再びしゃがんだ状態から思い切って回転して見せる。



ビュオン!!



グルグルグルグル……


 ……グル、グル、っとと!



(さて、EPの変動はどうかなっと……)



『EP 0150/1000』



「全然回復してないじゃん!!」


(自然回復した分も考慮すると、今ので回復できたのはせいぜい40EPくらいか? 想定では全回復とまではいかなくとも、300~400EPくらいは回復してほしかったな……)


「もっと回転力、持続力を上げる必要がありそうだねAIさん!」

「そのようだね……。さて、どうするか……」



 AIは回転しながらそれを持続可能なフォームをイメージした。

 やはり、人間の姿でやり続けるのはどうも限界があるように思えた。

 だが、もし変形するとしたら、何がいいのか……。



「そうだ!! また天才的なアイデアが浮かんだぞ!」


 ラヴは彼女が何やら挑戦するようでニヤニヤしながら見守っている。


「これは回転しながら変形した方がいいだろうな……」


 AIはこれまでと同様に体の右下に重心を集めてそれを一気に左斜め上に向けて回転しながら勢いよく回転する。



グルグル……



 ここまでは先程と何も変わらない。



カシャカシャカシャカシャ……


バリバリバリバリ……


ギュギュギュ……



 彼女が機械音を立てながら何やら変形していく。

 伸びきった腕の長さは変わらず、胴体部分と下半身部分がまるで木の年輪のように輪を作りながら重なっていく。

 回転力がだんだん下がっているようだが、変形はまだ続く。

 二本あった足はお互いにねじれて重なるようにくっつき、その先端は円錐(えんすい)のようにとがっている。

 回転がほぼ無くなると同時に全体の変形も完了したようだ。



「おおー!! これは大きな独楽(こま)ってことだね!」

「……」


 しかしAIからは何の返答もない。

 どうやら顔自体も独楽(こま)の中心に埋め込まれているらしい。


「え!? もしかしてその状態だと会話できないの? でもこっちの声はどうせ聞こえているよね?」

「……」


 やはり彼女からは何の返答もない。


「気づいているかもしれないけど、また服を着たまま変形したから布切れが散らばっているよ~」

「……」



ギ、ギ、ギ、ギ


グゥーーー……ッキュポ!!



「わぁ!!!!」



 腕の上部にある独楽(こま)の先端部分から頭だけが器用に出現したのでラヴが驚いた。




「ブハ―! えーーーーーん、またやっちゃったーーーー!!」


「ちょちょい、その姿で泣く絵面(えづら)はとてもシュールだよ。これは永久保存だな」




シュイーーン


キュルキュルキュル……


シュンシュンシュン……




 AIが慌てて元の姿に戻る。


 全身に来ていた服を一切身にまとっていない姿で……




「まだ慣れていないせいで、変形する時に服のこと考慮するの忘れちゃうんだよ……」


「まぁ、でもまた縫い直せばいいじゃん!」




「そうだけどさぁ、かなりボロボロになったなこれ……」


 地面に散らばった大量の布切れをみてうんざりするAI。


 その時、たまたま強風にあおられてその布切れたちが風にさらわれていく。



「ちょいちょい!! 待ってー!!」




 その光景を見て、「今日の特訓はもう終わりかな……」と両手をあげるラヴだった。




―――――

第22話 完


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