第21話 体力テスト2
「さて、残すところはエネルギー総量のみだね!」
(実は私これが一番知りたかったんだよね!)
「これはどうやって、試すの?」
これまでいろいろとテスト方法の提案してきたラヴだったが、これについてはAIの考えをまず聞いてみるようだ。
「まずはエネルギー枯渇を実際に起こしてみる。もちろん危険なのは分かっているけど、これを知っておかないと、話にならないからね。それで、枯渇した状態からどれくらいで復帰できるのか、正確に把握しなくいとならない。そして、枯渇状態を早急に復帰させる方法があればそれも習得する!」
「ほうほう! なんかやること盛りだくさんだね! 応援するから頑張って!」
(なんかラヴは気楽でいいな!)
(まずは定番の【熱拳】。これを何発連続で繰り出せるのか、ちゃんと確認しておこう)
「まずは【熱拳】から……」
AIの左拳にエネルギーが集中していく。
フィー―――ン……
「はぁぁぁぁ!!」
バッシュ――――ン!!
シュォォォォ!!
叫び声と同時にエネルギーをチャージした左拳が前に突き出される。
突き出した左手からその波動エネルギーが前方へ発射される。
その距離およそ5メートル。
しばらくして波動エネルギーは少しずつ消失していく。
すぐさまAIは左拳を自分の腰元まで戻してエネルギーを再度チャージし始める。
先ほどと同様にその場で【熱拳】を繰り出す。
この動作を連続で合計五回目に実施した後、異変が起きた。
フィー―――ン……
「たぁぁぁぁ!!!」
バッシュ――――ン!!
シュォォォォ!!
!!!
「ぐぐっ!!」
ズザ!!
「こ、これは!!」
ザ、ザッ!!
彼女はその場で膝を崩し、立ち上がる事すら出来なくなった。
そして両手も地面につき、四つん這いの状態でいるのが精一杯のようである。
「AI、本当に大丈夫? ぼくには何もしてあげられないんだけど……」
ラヴが見守る中、しばらく沈黙が続く。
「まさか、話すことさえ出来なくなるなんて……。本当にこのままで大丈夫なのか? ぼく、不安になってきたよ」
だが見る限り、彼女の表情は辛そうだが、完全に活動が停止してしまっている訳ではなさそうだった。
仕方なくそのままラヴは見守る。
「……」
「!!!」
「っくぅ! ぐうう!」
AIは苦しい表情を浮かべたまま、ようやくその重たい腰を持ち上げることができた。
この間、およそ三十秒ほどであったが、全く動けなくなってしまうと、体感時間はその何倍にも感じられた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
「AI……。良かった、辛そうだけど、動けるようになったね」
「なんとかね……。はぁ、はぁ……。でも本当にしんどい。なんて表現すればいいのか分からないけど、まったく動けなくなったよ」
「確か、【熱拳】をちょうど五回目に放った後で止まったね」
「はぁ、はぁ……。そう、五回目まで打てた……。それが連続して打てる本当の限界値みたいだね」
「エネルギーの総量が視覚化できれば話は早いんだけどねぇ」
「私だってもちろんそれは考えたんだけど、このエネルギーに関してはいろいろと複雑みたいで簡単には視覚化できないみたい」
「それなら仕方ないか……。でもこうやって実際に試していけば、エネルギーの使い方をうまくコントロールできるようになるよね!」
「それが私のねらい!」
「AIっていろいろ考えてるんだねぇ! えらい!」
「そりゃ私だって簡単に死にたくないから、必死なんだよ……」
この後、彼女は枯渇した状態からどれくらいでエネルギーが回復するのかを確認するために、しばらく様子を見ながら時間が経つのを待った。
エネルギー枯渇から約五分が経過した。
再度左拳に熱エネルギーのチャージを試みる。
フィー―――ン……
「よし、もう問題なさそう!」
「え!? まだ五分くらいしか経ってないのにもう回復したの?」
「うん、なんか回復した気がする! きっと、エネルギー総量自体は多くはないんだけど、その分回復は早いみたい」
「本当に? それならいいんだけど……」
「じゃないと、これまでだって熱エネルギーとかいろいろ多用しながらやりくりしてたでしょ? もし回復するのがもっとゆっくりだったなら早々に枯渇しててもおかしくなかったよ」
「そうなのかなぁ……。まぁAIが言うんだから納得するけど」
「とりあえず、次は【熱蹴】を連続でやってみる」
「気を付けてねぇ!」
AIは【熱拳】と同様に【熱蹴】を連続で繰り出す。
すると、四回目の発動を試みた際に必要なエネルギーが溜めきれず技が発動出来なかった。
かえってエネルギー枯渇による活動停止状態にならずにすんだのでこれは好都合でもあった。
【熱斬】の場合は変化させた腕に熱エネルギーをキープさせた状態を維持させるため、その状態で素振りなどの動作をして何分維持できるのかを確認した。
結果として、約百秒でエネルギー枯渇状態となり【熱斬】の状態をキープできなくなった。
そこから約三十秒で復帰し、さらに四分三十秒後、つまりエネルギー枯渇から五分後にフルチャージ状態となった。
最後に【熱斬】の状態からその波動エネルギーを斬撃として飛ばす【熱波斬】についてテストした。
【熱波斬】は二回目の発動で既にエネルギーが足らず斬撃は飛ばせたものの一回目よりも弱体化した上にエネルギー枯渇状態となった。
熱エネルギーを利用した必殺技はかなり強力だが、エネルギー枯渇しかねないので諸刃の剣とも言える。
もし相手に必殺技を回避されてしまったら、それを切り札とした場合に後がない状態となってしまうので、必殺技のヒット率がかなり高い状態で繰り出さなければ、自身にとって“最大のピンチを招くことになる”と言っても過言ではない。
残りのエネルギー残量を念頭に入れながら闘うのは訓練すれば気にならなくなるかもしれないが、可視化できるのであればそうするに越したことはない。
彼女は仮に現在のエネルギー最大値を1000EPとしてそれぞれのエネルギー消費量の違いによって以下のように纏めてみた。
【熱拳】 :200EP/一回
【熱蹴】 :300EP/一回
【熱斬】 :010EP/一秒
【熱波斬】:500EP/一回
(よし、これで戦闘時も現在のEPを表示する事で、残りの必殺技を後どれだけ使用できるか分かりやすくなった!)
ちなみに通常時のEPは一秒で3EPずつ回復する計算とした。
「かなり細かくまとめることができたみたいだね!」
使用する必殺技ごとの消費EPを見てラヴが納得する。
「これくらい正確にしておけば実際のエネルギー残量と比較してほとんど誤差はないと思う!」
「今後、また新しい技を開発するのも楽しみだ!」
「私もそれを考えたんだけど、技の出し方とかを工夫してなるべくEP消費を最小限に抑えるようにしていきたいね」
「確かにその通りだ。必殺技はとっておきの切り札で考えておくべきだよ」
「万が一エネルギー枯渇したらゲームオーバーだしね……」
「それが一番おそろしいよ……。これまでの実戦で枯渇しなくてラッキーだったね!」
「さて、じゃあ今日最後の課題を考えてから終わりにしようかな」
「と言うと?」
「まさにエネルギーの急速回復だよ!」
―――――
第21話 完




