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第19話 滝つぼ

本日分までで一旦年末から続けた連続投稿をストップします。

有難うございました。

次話からまたしばらく平日のみの投稿とさせて頂きますので

今後もよろしくお願いいたします。


時田 香洋


ガコ、ガコ



「これでよし! あ! ねぇ、ラヴ! こっち!」


 AIが手に入れた窓ガラスを起用に加工して保護施設の木製フレームにはめた。


「お、出来たみたいだね! 何か見えた?」

「ほら! ここから奇麗に見える!」


 何か素敵なものが窓からのぞいて見えるようでAIがラヴを促す。


「あ! 本当だ! 今日は満月みたいだね!」


 山小屋での戦闘を終えたAIたちは無事に窓ガラスをゲットできたので、保護施設まで戻ってきていた。


「この窓いい感じだね! これで雨風が室内に入らずにすむね」


 ラヴも保護施設がこれで無事完成したことに喜んでいる。


「ひとまずこれで保護施設は完成かな?」

「えーっと、そうだね! もし保護する動物が増えてきたら少しずつ拡張していけばいいしね」


 彼女は満面の笑みで「うん」とうなずく。

 そして、外に放っている鹿たちを見て納得した表情を見せる。

 鹿たちもすっかりこの保護施設に馴染んでいるようだ。


 山小屋でついでに発見した鉄製の調理器具があったので、彼女はそれを食べて怪我した部分を回復(再生)させていた。

 しかし、相変わらず服はボロボロに汚れたままである。


「そういえば、こっちへ来てからもう数日経つよね?」


 そう言いながら、自分の体の匂いを確認したAI。

 首を傾げながら嗅覚を持たない彼女が匂い分子を確認する。


「むむ! 前回よりも明らかに匂いが違うみたい」

「きっとそうだろうね、あのモンスターたちは匂いが強烈そうだったし……」


 ラヴが今日の夕方に遭遇したモンスターたちのことを言っている。

 人間や動物の嗅覚であれば、今のAIはかなり匂っていたと言えよう。


「そうだ! 鹿さんなら匂いが分かるはずだよね?」

「彼らは動物だから嗅覚を持っているはずだよ」


 ラヴは少しだけ嫌な予感を抱きつつ、彼女を見守る。


 AIはその足で放牧エリアにいる鹿たちの前まで移動した。


「ねぇねぇ、鹿さん、私の匂いをちょっと嗅いでみて!」


 そう言って彼女が自分の腕を大人の鹿の前まで近づける。

 鹿が「匂いを嗅いだ」と思ったら途端に顔を強張(こわば)らせてその場から立ち去った。

 そして、そのまま保護施設内へ戻っていく。

 今日はそのままお休みになるようだ。




「……(ガーン)」


(鹿に“臭い”と思われた……)



「そう落ち込まないでAI、しようがないよ……」


「決めた! 私シャワー作る……」

「えぇ~!! またそんなものどうやって作るのさ……」



「うーん、シャワーと言っても、もっと原始的なものでいいの。要は水浴びっていうか、体を洗えればそれでいいかな」

「なるほど! それなら水を貯めておく箱とかバケツがあれば十分そうだね」



「この辺に川でも流れてれば助かるんだけど……」


 ラヴは、もうそれは川で体を洗えばいいんじゃないのか?と思ったが、口に出すのは何となくやめておいた。

 瞬時に脳内でマップを開いて周辺を検索する。


「川ね~。ここからちょっと行ったところに滝がありそうだよ!」

「滝!? いいね~! まさに天然のシャワーだ!」


 お、やったぞ!そうすればわざわざ保護施設にシャワーを作る必要がなくなる!……と思ったラヴ。


「だけど、今日はもう遅いからまた明日にしよう!」

「もちろん、これで明日の楽しみが出来たね」


「それとさ、私ちょっと明日試してみたいことがあるんだ」

「ほう! 改まって何かしたいことあるんだね?」



「私この森に来てから改めて思ったの。この世界で生きていくにはもっと強くならなくちゃいけないって……。まだ世界には生き残っている動物や植物、自然がたくさんある。でもどうやって生まれたのか分からないけれど、モンスターたちがそれを(おびや)かしている。私は少しでも多くを助けたいと思ったんだ。だからこの先も旅を続けたらきっともっと強いモンスターに遭遇するかもしれない。そうしたら私、そんなのに立ち向かえる自信がない。昨日でさえ、逃げ出したくらいだから……。でも、私はまだ強くなれる可能性を感じるの。だ、だから……」



「……明日は特訓でもする?」

「うん!」



「そっか、話してくれてありがとう!」

「ううん、こちらこそ、分かってくれてありがとう」


「AIの考えてることなら何となくわかるようになってきたよ! これでも最新のAI(エーアイ)チャットボットだからね!」


 そう言って彼が笑って見せた。






■■■■■■






ザァー

 ザァー

  ザァー


ザァー

 ザァー

  ザァー




 翌日、私たちは昨日ラヴが見つけていた近くの滝がある場所までやってきた。

 思ったよりも迫力があり、水量もすごい。

 これが「自然の力か……」と感心する。


「結構大きい滝だねー! すごい水しぶき!」

「うん、近づくのはいいけど足元気を付けてね!」


 滝は高低差が約15メートルほどあり、その横幅は2メートルくらいに見えた。

 AIたちはちょうどその滝つぼ付近の岩場まで来ていた。

 滝つぼの水深はどれくらいあるのか分からないが、思ったよりも深そうではある。

 

バサッ! トサ!


 彼女は着ていた服を突然脱いだ。

 Androidなので裸体という訳ではないが、少し恥じらいを見せる。


「水の中に入るなら、脱がないと動きづらそうだしね……」


 ラヴが少し羨まし気にこちらを見ているが気にしない。



チャポ… チャポ…


チャプ、チャプ、チャプ……


スィースィー



「うん、なんか気持ちいいー!!」


 彼女は滝つぼにゆっくりと近づいて腰あたりまでの深さに到達したら、そこから水に浮いて泳ぎ始めた。


「ひゅあ~、水温を体感できないけど、たぶん冷たいんだろうな~」


(ちょっと潜ってみよ~!!)


ボゴボゴ……


(うわ~、水が透き通ってて奇麗~)


コポコポコポ……



(あ! お魚さんだ! おはよう~!)


ザパァ!!


「ふう~! たっのしい~!!」


 子供のように夢中で遊んでいる様子だ。


「いいな~。ぼくも泳いでみたかったよ~」


 ラヴが初めて彼女を本気で羨ましがっている様子を見せる。

 だが滝の音にかき消されて、その声はもう彼女には届いていない様子。


「あんまり滝に近づくとあぶないかもよ~!!」


 今度は声ではなく直接AIのプログラムに対してメッセージを送り注意を呼び掛けた。

 こうした時に声を発さずにコミュニケーションが取れるのは非常に便利である。


「大丈夫だって~! モンスターがいるわけじゃないし!」


 彼女もメモリ内でメッセージを作成してラヴに返答する。


 滝つぼ全体の広さは半径10メートルほどだった。

 滝が落ちている直下の場所まで泳いで移動してみる。



ジャバザバジャバザバ!!!!


ジャバザバジャバザバ!!!!



 近づくとより一層滝の迫力が増す。

 彼女はその中心部へと身を寄せる。



ジャザジャザジャザジャザジャザ!!



(水量すごーーーい! 楽しい!!)



「!!!」



(アバババばbbb…… ばぶbbb……)




 滝の勢いがすごく開いた口に滝の水が大量に流れ込んでしまった。

 慌てて岸の方へ戻ってくる。



「ぶひゃーー!! はぁ、はぁ、はぁ……」



(あやうく死ぬかと思ったよ……。ん? 私ってAndroidだから窒息死する訳はないよね?)



「大丈夫ですか? AIさん?」

「もちろん、大丈夫だよぉ……ゴホッ! ゴホッ!」



「でも、なんか滝の真下で溺れかけてなかった?」

「まさかー! 気持ちいいから潜ってみただけだよ」



 図星を指摘されて明後日の方を向きながら返答するAI。

 この人、嘘つくのもきっと苦手なんだな……と思ったラヴ。



「さて、じゃあもう一回匂い嗅いでみよっと」


「クンクン」と嗅覚を持たない彼女だが鼻で匂いを嗅ぐしぐさをする。

 すると、奥多摩(おくたま)へやってくる前に嗅いだ匂いよりも、無臭に近いことが分かった。



「お!! 匂ってないぞ! 気になる匂い分子がほとんどない!」「いいね! 匂いの良し悪しは別として単純に無臭に近づけば清潔とも言えるよね」



「よし、これでもう一回鹿さんに匂いを嗅いでもらおう!」

「こらこら鹿さんを何だと思ってるんだよキミは……」



 そんなやり取りをしながら二人は滝での水浴びを終えて保護施設へ戻る。


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