第18話 きつねとおおかみ2
ザッシュ!!!
ッズパ!!!
「やった!! 切れたぞ!」
ベチャッ!!
「うげぇ!!」
こちらに向かっていた黄色い液体がAIの右手ショートソードにぶつかった。
(刀とは言え自分の手に黄色い粘液をぶっかけられるのも気持ち悪い……)
「やった! これで爆発は防げたね!」
「うん、何とかね。」
無駄話はせずに彼女は早速体の向きを山小屋に向けて走り出す。
すぐさま別のふわふわ浮いた白い塊がやってくる。
「ふんっ!」
シュバッ!!
今度はそれを斜め下から振り上げて真っ二つに割って見せた。
「おおー!! いいね! もはやこの攻撃はAIに通じないね!」「その通り!」
シュバ! シュバ!
立て続けにやってきた白い塊を連続で上から横へとなぎる。
白い塊は分裂して地面に散っていく。
「無駄だ! もうよせ!」
彼女は攻撃を発している何かに向かって怒鳴った。
それと同時に山小屋の中に侵入する。
「!!!」
その時初めて、対象のモンスターを直視した。
「かわいい♡……」
これまでに出会ったモンスターとは違って、愛くるしい姿をしたバターウルフとクリームフォックス。
サイズ感は元のおおかみやきつねよりも少し縮んでいる気がする。
それぞれ一匹ずつ小屋の中で臨戦態勢を構えてこちらを見ている。
途端に戦意をそがれたAIだったが、相手は殺気を放つモンスターに違いはなかった。
かわいい顔をしながらもその表情は怒りの様子で「グルルルル……」と唸っている。
だが、それもまた「かわいい」と思えてしまうAI。
「だめだよAI! これでもやつらは凶暴なモンスターに違いないんだ!」
「うん、そうだよね、見た目に騙されちゃだめだよね」
そう言った矢先、
ガルルルル!
キューン!
バターウルフとクリームフォックスが同時に彼女に飛びかかってきた。
シュババッ!!
ガブッ!!
「っふ、う!! っつあ!」
バターウルフのひっかき攻撃に合わせるようにクリームフォックスが噛みついてくる。
とてもモンスター同士とは思えない連携に驚く。
クリームフォックスにショートソードの右腕を噛まれた。
そこへバターウルフがさらに追い打ちをかけようと迫ってくる。
「っやぁ!!」
ブンッ!!
キューン! ガゥフッ!!
クリームフォックスに噛みつかれた腕ごとバターウルフを攻撃して、二匹同時にダメージを与えた。
「大人しくしろ!」
彼女の発言をまるで無視するかのように、クリームフォックスがそのふわふわとした毛を放出する。
「なるほど! それがさっきの正体か……」
(だが、それを今この中で起爆させてもやつらも射程内のはず……)
……と思ったのもつかの間、バターウルフが毛玉に向けて黄色いつばを吐き出した。
ブビューッ!!
(まじ!? こいつら巻き添えもお構いなしって事!?)
慌てて、その場でうずくまる。
!!!!
!!!!
ズァボボーーン!!
!!!!
!!!!
「っくうううう! 無茶するねぇ」
ダメージが少しずつ蓄積される。
すでに服はところどころが破けている。
だが、やつらも巻き添えを食ったはずなのに、ケロッとしている。
(なんで!? やつらはダメージを受けない特性でもあるの?)
バターウルフはその俊敏性を活かして爆破物を瞬時に回避する事でダメージを受けずにいた。
クリームフォックスは逆に避けようとはせず、被爆はするが、そのふわふわした体毛に加えて高い防御力のため、ダメージをほとんど受けずにすんでいたのである。
「まぁいいや、決着をつけよう」
すると、彼女は目を瞑って何やら意識を集中し始めた。
ショートソードとなっている右手全体がパアッと輝きだした。
フィーーーーン!!
「これは【熱拳】や【熱蹴】の時と同じだ! AIがまた何か新しい必殺技をする気なんだ!」
ラヴが解説するかのように現況を説明した。
彼女の右手に溜まったエネルギーを見て期待が高まる。
「よし、最初はお前の方だ!!」
そう言って、彼女が勢いよく向かっていったのはクリームフォックス。
(こいつは素早く動くのは苦手みたいだからね)
その熱エネルギーが込められたショートソードの右手を上段に構える。
クリームフォックスはその場から動かずAIの接近に身構える。
「たぁーー!!!!!」
ズァッパ!!!!!
「【熱斬】!!!!」
ッブワ! ッボオオオー!!!!
クリームフォックスがなす術もなく真っ二つにされる。
その熱量がすさまじく、切られた断面が溶けている。
そこからさらに断面の熱がクリームフォックスの体毛に引火して一気に燃え上がった。
「うひゃーー! すごい! パワーと熱量だね!」
そして「なんと言うダサいネーミング!」とは決して言えないラヴが真面目な表情で語った。
二つに分割されたクリームフォックスが真っ黒こげになっていくのを横目にバターウルフが焦りを見せる。
グルルルルルウウウ……
ガウッガウッ!!
ガッガッ!! ッシュ!!
室内の壁を利用して蹴りあがり、上空から落下するスピードを加えて彼女に飛びかかる。
だが……
ッシュ! ザンッ!! ジュワバッ!!!
彼女は熱エネルギーがこもったままの右腕を飛びかかってきたバターウルフよりも早く振り上げる。
すると、ショートソードから熱のこもった斬撃がそのまま波動エネルギーとなってバターウルフを両断する。
「【熱波斬】!!! ……とでも命名するか」
ッブワ! ッボオオオー!!!!
クリームフォックス同様に二つになったバターウルフが炎に包まれる様子を見ながらAIが呟く。
「おおーー! 本日二つ目の必殺技で快勝だね!!」
今度の名前はなかなかどうしてカッコいいじゃないかと思ったラヴ。
だが、それも口には出さないでおいた。
「……うむ! っぐ……」
快勝! ……と喜んだ途端に地面にひざを付いたAI。
「大丈夫? さっきの爆発でどこかケガでもしてた?」
「そう、それもあるけど、どうやらエネルギーの消耗が激しいみたい……」
「うそでしょ!? 熱系のエネルギーをたくさん放出したせいでAIの体内エネルギーが枯渇したっての?」
「うん、よく分からないけれど、そうみたい。あんまり熱エネルギーを酷使する闘い方は危険ってことだね」
思わぬ体への負荷と熱エネルギーの代償で素直に喜べなかった二人。
今後何かしらの対策を立てる必要がありそうであった。
とは言え、無事に危機(?)を脱した二人。
山小屋の壁にはきれいな窓ガラスがいくつかあった。
それを見た二人はさらに安堵した表情を浮かべた。




