第17話 きつねとおおかみ1
ルンルンルン♪
ルンルンルン♪
AIが陽気な鼻歌まじりに荒野を歩く。
時刻は既に夕方に近づき、少しずつ日が傾き始めている。
「私って絶対アウトドア派だな!」
「なんか景色もいいし、ハイキングみたいで楽しいね」
作った保護施設から離れて山小屋がないか探索に来ている二人。
「それにしてもこの辺に本当に山小屋なんてあるの?」
「おそらくね、地図情報によると、休憩所として使われていたみたいだよ」
移動する前にラヴの3Dマップで山小屋があった場所は確認していた。
それは、保護施設から二キロメートルほど離れた岩場が少し広がっていそうな場所だった。
「見渡す限り、まだ何も見えてこないね」
「でも、少しずつ辺りの景色も変わってきて、ゴツゴツした岩もちらほら見えるようになってきたよ」
「本当だ、どうしてこんなにでっかい岩がこんな場所にあるんだろう」
「不思議だよね、かつての気候変動や地形変化によって岩が運ばれたのかもね」
そんな会話をしながらも歩みを進める二人。
ハイキングというよりも登山に近くなってきた様子だ。
AIにとってはどちらもあまり大差は無い。
「あ! あれって! ねぇ、ラヴ! もしかして!」
「うん、あれだろうね! あって良かったぁ~」
荒野の場所から少しずつ、標高が上がっているようで、二人はその場から見上げる形で山小屋を発見した。
だが、山小屋に近づくにつれて何やら異様な雰囲気を感じ取る
それの正体が何かは分からなかったが、まぎれもなくモンスターの予感。
「確実にいるね。あの山小屋の中……。厄介なのじゃなければいいんだけど……」
「うん、僕もおそらくそんなに脅威ではないと思うんだけど、確証は持てないね」
(……さてどうするか)
今のAIには飛び道具となるような遠距離攻撃が出来るような手段はない。
(今思えばまた丸腰じゃない。そう言えばダガーもエテ公たちに投げつけてそのままだったな……。後で取り返してやるんだから!)
物音を立てずにそっと近づく。
この時、バターとクリームの甘~い香りが漂っていたのだが、二人とも匂いを判別する術をこの時はまだ持っていなかった。
ただこれまでの勘のみで、山小屋の怪しさに感ずいた二人は著しく成長していると言えよう。
足もとに転がる適当な石を拾って十メートルほど離れた位置から山小屋に向かって軽く投げてみる。
ビュッ!! ヒューーーー……
ガンッ!! カッ カンッ!!
ゴロゴロゴロ……
そこまでは大きくない山小屋の屋根の部分に石が当たって転がり落ちる。
しかし小屋の中で何かが動く気配は特に無かった。
「……」
「あれ、おっかしいなぁ? 当てが外れた?」
「決めつけるのはまだ早いよ! AI、油断しないで近づこう!」
「もちろん! 油断なんかしないけど…… どうしようかな」
「う〜ん、もう少し石を投げて様子を見よう」
二人はこれまでの戦闘経験によって、モンスターによる脅威に対してより慎重になっていた。
AndroidやAIチャットボットの二人には直接的な痛みによるダメージはないが、破壊されると自分たちの存在がなくなってしまうという恐怖を抱いていた。
これは二人が「自我」というアイデンティティを確立していると言えよう。
ビュン! ビュン!
ガゴッ! ガゴン!
ゴツゴツ……
ゴロゴロゴロゴロ……
ットスン、ットスン
「……」
「……やっぱり何の反応もなさそうだねぇ」
「もう少し近づいて見るか」
AIがしぶしぶ山小屋に近づこうと歩き出す。
山小屋まであと数メートルほどの距離まで近づいた。
周辺には大きな岩がいくつもあり、何かが潜むには最適な場所と言えた。
足元の砂利を踏みしめながらゆっくりと近づく。
ザッ ザッ ザッ……
ザッ ザッ ザッ……ッツル!
「なんか、足元ヌルヌルしてる!」
「これもモンスターの仕業かもね」
(また変なのが出てきそうでやだなぁ)
ギギーーィィ……
「!!!」
突然、山小屋の扉が開いた。
その場で立ち止まる。
攻撃に備えて警戒を強める。
フワッフワッフワ……
白くて小さいこぶし程度のふわふわした塊が扉の奥から浮かんで出てきた。
「なんだ、あれ! 下がろう、危険かも――」
ビュッ!!
彼女が言ってるそばでさらに黄色い液体状の何かが先程のふわふわと浮いている白い塊にぶつけられた。
!!!
(何かやばい!)
咄嗟に後ろに飛んで転がる。
!!!!
!!!!
ズァボボーーン!!
!!!!
!!!!
「ぐああああーーー!!」
先程の白い塊に液体がぶつかり、こちらに近付いたと思ったら、突然それは爆発した。
そこまで大きな爆発ではなかったが、辺りに白い物体を撒き散らして、そこから炎も上がっている。
直撃はまぬがれたが、AIにも燃えている白い物体が付着していた。
メラメラ……
「うわわわ!!」
慌てて背中を近くの岩に擦り付けて消化する。
ほどなく火は消えたが何やらベタベタしているのが気になった。
(こんなことするのは間違いなくモンスターだ!)
「AI!! 今の攻撃を分析して分かったかもしれない」
「本当に!? 早く教えて!!」
「恐らくバターウルフとクリームフォックスの仕業だね」
「バターにクリーム?」
(なんだその料理じみたネーミングは……)
……と二人がやりとりしている間にも先程と同じような白い塊がふわふわと浮いてこちらに向かってくる。
「あの白い塊を消すんだ! また爆発させられるよ」
「消すって言ってもどう――」
またもや小屋の中から黄色い液体が飛んできて、白い塊にぶつけられる。
!!!!
!!!!
ズァボボーーン!!
!!!!
!!!!
先程と同様にそれは爆発した。
その射程範囲は恐らく爆発の中心から半径三メートルほどだと分かった。
「射程範囲は把握したけど、これじゃあ近づけないね」
「向こうもこっちに来るなって言ってるみたい」
(どうやって対策しようかなぁ……)
(白い塊が見えた瞬間に石をぶつけて見るか……)
足元に転がる小さな石をいくつか拾って再度小屋に近づく。
また白い塊がドアの向こうから浮いて出てきた。
すかさず石を投げつける。
ッピュン!!
フワッフワ……
(よし、命中する!)
トゥルッ……ッスカ!!
「なにィィーーー!!」
ふわふわしているせいなのか、彼女の投げた石が触れたと思ったら、白い塊は弾かれるように少し位置がズレただけで消失しなかった。
そして次の瞬間、例によって黄色い液体が白い塊をめがけて飛んでくる。
慌てて後方に飛んで腕を前に組んで防御する。
爆発の衝撃はあるが思ったよりも脅威ではなさそうだ。
だが直撃は避けたい。
(うーん、悩ましいな、石じゃだめかぁ、恐らく直接殴ったりしても駄目だろうな)
(見た限りきっと攻撃の力が受け流されてしまってるんだ)
「AI、ダガーだ! 斬撃ならどうにかできるはずだよ」
「なるほど!」
そう言って彼女はダガーをしまっていたホルダーに手を伸ばして気付く。
「……そうだ!! ダガーは今持っていないんだった」
「なんだって~!! ……そうか、あの時!」
彼もAIが今ダガーを持っていない理由にたどり着く。
「だからこうすればいいの!」
キュイーーーン
カチャカチャカチャ……
シャキーン!
彼女の右腕が一本のショートソードに変形した。
「右手が使えなくなるけど、これであの白い塊をぶった斬れるはず!!」
「いいね! 物騒に見えるけど鉄補給できないから分離できないのも仕方ないか」
ラヴも彼女があえて右手を変形させてショートソードにしている理由に納得する。
ショートソードを分離してそれを手に持ったほうが色々と好都合だが鉄を補給できないので今の彼女にはそれができない。
「じゃあ行くよ!」
そう言って小屋に近づくと同時にまたもやふわふわの白い塊が浮かんで向かってきた。
走ってさらに勢いつけて、白い塊に近づき、腕を思い切り振り下ろす。
だが同時に右端から黄色い液体が飛んできているのを視界で捉えた。
「これはまずいかも……」
―――――
第17話 完
バターウルフ
吐く息がバター臭い。
バターが解けたようなよだれを垂らす。
味もバターにそっくりだが、成分は全く違うらしい。
バターウルフの肉を焼くと、味付けせずともバター風味の肉なので、絶品だそうだ。
吠える、ひっかく、噛みつく。
戦った後は確実にバター臭くなる。
火に弱い。狂暴。
クリームフォックスと仲が良いらしく、連携した攻撃をしてくる。
中でも厄介なのがバタークリームアタックと呼ばれる合体技。
クリームフォックスが体から飛ばすクリーム状の毛玉にバターウルフの吐き出したバター状の体液が混ざると化学反応によって爆発が起こり、直撃を受けると大ダメージとなる。
クリームフォックス
名前は可愛いらしいが、バターウルフ同様に狂暴凶悪なモンスター。
全体的に白くてフワフワした毛をまとっており、うっすら甘い香りがする。
クリームフォックスの内臓は生で食べるとまるで生クリームのようにとろけて甘いようだ。
筋肉はその見た目よりも発達していて、多少の打撃には耐えうる防御力を誇る。
バターウルフとの連携が得意で、クリームに似た形状の毛玉を体からフワッと飛ばす、そこにバターウルフがバター状の体液を被せて吐き出す。
吠える、ひっかく、噛みつく。




