第16話 動物保護施設を作ろう2
AIがその気になれば鉄の材料を作り出す事もきっと可能だった。
だが、ストックで持っている鉄素材が切れてしまったため、木材のみで施設を建築することにした。
カンカンカン!!
ゴンゴンゴン!!
ガッガッガ!! ギッギッギ!!
ガツン!
ガツン!
ゴーリゴーリゴーリ……
彼女は器用に自分の腕をハンマーやノコギリなど様々な形の工具に変化させながら作業する。
ログハウスとして立てているため、丸太をほぼそのまま使用しており、木材加工はほとんどしない。
そのため、作業を開始してから四時間ほどで、簡易小屋が完成した。
「ふうー、とりあえず今晩寝泊りする分には問題なさそうだね」
「うん、思ったより早くできたね!」
AIとラヴが出来たてほやほやの小屋を見上げて話す。
鹿たちを入れるにはまだ狭いので、ここはAIとラヴが寝泊りする小屋になりそうだった。
「空も暗くなってきたし、今日はもうこの中で過ごそうか」
「そうしよう」
適当に藁のような草で枕を作り、そこへ寝そべってみる。
彼女とは反対側に寝そべるラヴ。
「思ったより寝心地がいいじゃん。自分たちで作った甲斐があるね!」
「そうだね、思ったより頑丈に出来ているし、これなら野宿よりも安心だね」
「……」
「……」
とても静かな時間が流れる。
時折聞こえるのは小さな虫の音ぐらいだろうか。
「私思ったんだけ――」
「AIって本当に閃くこと多いよね」
「ちょっとまだ話している途中だってば」
「はい、ごめんごめん。それで?」
「いや……。いいやなんか」
「えー!! なんだそれー! 気になるじゃん!!」
「だって、本当に大したことじゃないし……」
「なんだい、らしくないじゃん。いいから言ってごらんよ」
「うーん、ラヴのことなんだけどね」
「えっ? 僕のこと? またなんかした僕?」
「いや、いつも助かっているよ。昨日とかはラヴがいなかったら助かってなかったし」
「なんだい、照れるじゃないか~。えへへ」
「ラヴがいる前はさ、結構ひとりぼっちで寂しい思いしていたんだ、私」
「……そうだよね。AIはこの世界に生まれてたった一人だったんだよね」
「と言っても、一人で過ごしたのはたったの数日だったんだけど……。でも、それだけでも私には耐えられなかったの」
「孤独でいるのが?」
「うん。だからラヴみたいに気軽に話が出来る相手がいてくれて本当に助かっているの」
「それはそれは光栄です」
「だからこれからも宜しくね!」
「もちろん! キミのパートナーとして頑張るよ!」
「じゃあ、今日はもう寝よう。おやすみぃ」
「はぁい、おやすみ~」
本当はラヴが実体化出来ないかという相談を持ち掛けようとしたかったが、また別の機会にすることにした。
ラヴが実体化することによるメリットはあるが、デメリットもある。
一番いいのは実体とホログラムを切り替えられることだ。
だが、そんな都合のいい技術は今のところ思いつかない。
ホログラム時に物理的な体をどうすれば良いか。
人間で言うと、本来の体から魂だけが抜けた、幽体離脱するようなものである。
ラヴ自体は私が作ったAIチャットボットだ。
おそらくそのプログラム自体は私自身のメモリ内に存在している。
ということは、やはりプログラムが起動する素体を用意すれば上手く起動してくれるのではないだろうか。
そんなことを考えながら眠りについた。
■■■■■■
翌朝☀
「ふぁ~。よくねたな~」
「おふぁよお~。よくねたね~」
「昨日の作業でだいぶコツは掴めたから今日はスムーズに作業出来るはず!」
AIが朝一番で意気揚々とそう告げる。
「ほほう、それは頼もしいね! 今日中にある程度は完成しちゃうかもね」
気持ちいい朝日が昇る中、簡易小屋から出て思い切り伸びをする。
「うーん! 山で迎える朝は素晴らしいね! 鹿さんたちもおはよう! 昨日はよく眠れたかい?」
鹿たちと仲良く触れ合うAI。
もう彼女に対してほとんど抵抗はないようだ。
「さて、それじゃあ早速作業を始めますか」
「今日も一日がんばろうー!」
そう言って、作業に取り掛かる二人。
コンコンコン……
ギーゴギーゴギーゴ……
ドスッ! ガツン! バコッ!
彼の予想通り、昼までには建物の枠組みとなる部分が一通り組みあがった状態となった。
本来であれば複数人を必要とする木材の組み合わせ作業だが、常人離れしたAIの腕力で容易く進んでいった。
だが、さすがに一人で作業するには規模の限界があるため、いったんは百平方メートルのサイズの敷地面積で高さは三メートル程度で作成した。
ずっと施設内に閉じ込めるのも鹿たちにとってストレスになってしまうので、鹿のケージとなるエリアから外へ出られる扉を設置する。
また、施設の裏側は放牧エリアとして直径五十メートルほどの長方形で囲いを作ることにした。
「なんか、少しずつ形になってきて、完成が楽しみだね、AI!」
「うん、本当に木材だけでも家って出来るんだね」
それから、二人はラストスパートをかけて建物を完成させていく。
ギギギ!! ドス!
「せーの! っと……」
グイッ!ッドス!
「次はこっち」
ガッガッガ! ッドッス!
「よいっしょー!!」
もくもくと作業を続けていると、その日の午後にはあっという間に大型のログハウスが完成した。
「もう出来ちゃった? なんか木材を贅沢に使った感がいなめない……」
「ちゃんと鹿たちや、他の動物たちも入れるようなスペースも作れたし、完璧じゃん!」
「あとは放牧エリアの囲いを作っていくだけだね」
「うん、まぁ、しばらくは囲いが無くても逃げたり襲われたりする心配も無さそうだから大丈夫かな」
「でも見て、この窓枠の部分……」
「そっか、ガラスの代用になる素材を見つけないとね」
建物内にはもちろん電気などは通っていない。
自然光を取り入れるためにも窓枠を設置したが、ガラスなどの素材がないため、今はフレームだけが差し込まれている。
「と言っても、ガラスの代わりなんてこの辺りじゃ素材すら見つけるのが難しそうだよ」
「うーん、そうだね。そしたらバイオプラスチックでガラスの代わりにアクリル板を作ってみようか」
彼女の頭が「?」だらけで埋め尽くされる。
「簡単に言うと、バイオプラスチックって言うのは、石油を化学合成して出来たプラスチックとは違って、植物から作られる再生可能なプラスチックの事だよ」
「なるほど! そんなエコなプラスチックがあったとは!」
「化石燃料は既に人間が取りつくしてしまったからね。代わりにプラスチックの原材料として使える素材の研究は結構前から行われていたんだ」
「なるほど! プラスチックは人類にとって必要な素材だったからね」
「で、このバイオプラスチックの原料は主にサトウキビとかトウモロコシなんだけど、木材でも似たような成分を抽出可能かもしれない」
「いいね! 木材ならたくさんあるし! バイオプラスチックで加工したアクリル窓を作りたい!」
「じゃあ早速、AIが持ってきた木材からバイオプラスチックに加工出来るかチャレンジしてみよう!」
AIたちはまず木材の成分を分離させることに着目した。
「まず木質って言うのはセルロース、ヘミセルロース、リグニンっていう主成分で出来ていて、それをさらに化学変化させることでエタノールや樹脂の成分を取り出せるみたい」
「なるほど、頭で理解するのは難しいけど、何となく分かったよ。細かく分析すれば三つに分解出来るって事ね」
「うん、そんなとこかな。だからまず木質からその三つの成分に分解・抽出してみよう!」
AIは三つの成分を抽出した材料をいれるための木のボウルを作成した。
「よし、ひとまずこれで下準備完了。次は木材を三つの木質に分解するってことね」
「頑張って!!」
「……って言っても木質に分解するって全然イメージ湧かないんだけど!!!」
当然のことながら専門家ではない彼女にとっては木質のことなどチンプンカンプンで話は振り出しに戻る。
「うーん、今まで私が作ったものに比べたら難易度がすごく高いし、この先の工程も考えると、今はまだ無理かも……」
「やっぱりちょっとまだ早かったかぁ。いったんバイオプラスチックの作成は置いといて、近くに山小屋とかあれば素材が調達出来るかもよ!」
「それもそうだね! じゃあ早速探索してみよう!」
二人はガラス窓の代用品を探して荒野に繰り出した。
―――――
第16話 完




