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第15話 動物保護施設を作ろう1


シュッシュッシュッシュ……



パカラッ パカラッ パカラッ!!


 パカラッ パカラッ パカラッ!!


  パカラッ パカラッ パカラッ!!


   パカラッ パカラッ パカラッ!!



 森の中を縫うように移動するAIと鹿たち。


 時間帯は既に夜を迎えており、暗闇の森を進むのは至難であった。


 姿は見えないがまだオイリーモンキーが追ってきている気配を感じる。


 AIたちは森の中で直線的に移動できないのもあり、思ったよりオイリーモンキーたちとの差を広げられずにいた。



(くそう、こっちは全力で走っているのに……。鹿たちのスピードも遅くはないはず!)



 もともと、動植物が減っているこの世界で、森は以前よりも静けさを増していた。


 そんな世界では野生の動物が激しく動く気配は遠く離れた距離にいても簡単に感じとれると推測ができる。


 加えてモンスターとなったオイリーモンキーの索敵範囲は広く、AIたちが高速で移動している場所を正確に把握しているに違いない。



シュタシュタシュタ……



 走りながら、何かいい策がないかを考える。


 しかし、何も良い案が浮かばないまま森の出口が見え始めた。

 いつの間にか、東の空が少しずつ白み始めている。

 夜明けが近い。



「このまま森を抜けるよ!!」



 彼女は鹿たちにも合図を送り、そのまま出口に向かって駆け抜けた。



バササッ!!


パカッパカッパカ


 パカッパカッパカ


  パカッパカッパカ


   パカッパカッパカ



(良し! 皆いるね! 全員無事なようで良かった)



 森を抜けると、そこには開けた荒野が広がっていた。

 そのまま、しばらく走り続ける。




 しばらくして500mほど進んだところでいったん止まって振り返る。


 すると、オイリーモンキーの群れが「ザザザッ」っと森から出てくるのが見えた。


 しかし、奴らは「ギーギー」と叫びながらそれ以上こっちに向かってくる事はなかった。


 猿たちの縄張りの習性か、他の脅威がこの荒れ地にあるのか分からないが、いったんは逃げ切れそうだと息を付く。






■■■■■■






 そこからさらに2~3kmほど先に進んだところで少し緑が生い茂る丘を見つけた。


 AIたちはそこで腰を落ち着かせた。


 どうやら森から荒れ地に向かって斜度があるらしく、少しずつ標高が上がっているようだ。




「っふぅー、とりあえずここまでくれば大丈夫そうだね」

「うん、よくあの状況から逃げ切れたよ。正直無理だと思った」



 ようやく一息ついて鹿の姿から元の天使の姿に戻ったラヴが漏らす。



「私も諦めかけてた……。でも【再生】が鹿たちにも上手く作用して助かった」

「そうそう! 気になっていたんだけど、やっぱり鹿たちの傷はAIが【再生】して治したんだね」



「うん、本当は元通りに治してあげたかったんだけど、今の私にはどうしても生物としての【再生】は出来なくて……」

「いや、いいんじゃないかな? むしろ、元の状態よりも強化されてそうだし!」



「大人の鹿は確かにそれでもいいんだけど、まだ体が成長途中の小鹿にサイボーク化が悪影響を及ぼすんじゃないかって……」

「ふむふむ、確かにAIの懸念はもっともだね。鉄は勝手に成長しないからね」



「そう、体の成長に伴ってサイズが合わなくなって、最悪の場合……」

「体の一部が機能しなくなる…… って事?」



「……」



 AIは何も言い返せない。


 咄嗟(とっさ)の判断で行った事とはいえ、医療知識のない自分が勝手にサイボーグにしてしまった。

 それがとんでもない過ちを犯してしまったのではないかと後悔している。


「それならちょっと大変かもしれないけど、ケガの回復に合わせて少しずつサイボーク化した部分を取り除くしかなさそうだね」

「いや、それはたぶん無理なの。ケガした部分が完全に機械に置き換わっているから、そこの細胞が再度活性化するとは思えないの」


 彼女が生物と機械の相いれない難解さを指摘する。



「もし無理やりに機械の部分を取り除いてしまったら、またケガした状態になると思うし、もっと悪化させてしまうかもしれない」

「なるほど、それだけは避けたいね」



 ラヴも現状から元の状態に戻る事への困難さに頭を抱える。



「体は成長する……けど機械は成長しない……。それなら成長に合わせて定期的に機械のサイズも適合させてあげるしかないかもね」「……うん、それが現状の最善策かな」



 彼女らは暫定的な対応策を決めていったん落ち着く。



「ん? って事はしばらくこの子たちの面倒を見ないといけない訳だね」

「そう、少なくとも機械化した部分の全て取り除けるまでは…… どれくらい時間がかかるか分からないけど」



「AIは本当に優しいんだね」

「ううん、これは私がやった事だし、最後まで責任を持たないと」


「分かった! そうと決まれば、この辺りに保護施設を作るのはどう?」

「保護施設?」



「だって、いつまたモンスターが襲ってくるか分からないし、野営じゃ夜も安心して寝られないでしょ?」

「確かにそうだけど、保護施設なんて私に作れるのかな……」



「きっと大丈夫だよ、AIは力持ちだしね!!」

「ちょっと、私が心配しているのはそこじゃなくて、建物の設計とか構造の部分なんだけど!」



「それなら心配いらいないよ、簡単な設計図ならいくらでも書き出せるからね」

「なるほど! それなら早速作業に取り掛かろうか」



「よし! じゃあ僕は適当な設計図を見繕うから、AIは材料になる木材を適当に集めて貰える?」

「OK、それなら任せて! またモンスターに遭遇しないか不安だけど、森の入口付近なら大丈夫かな」




 鹿たちは彼女たちのやり取りを遠目でみながら少しリラックスした様子でその辺を散策している。

 一晩中活動していたのでさすがに疲れもあるのだろう、朝日のまぶしい時間になってきたが、その場で眠る様子も見られた。



 鹿たちがオイリーモンキーに襲われていた経緯は謎だが、他にも保護対象になる動物がいるかもしれない。


 AIたちにも疲れはあったが、休まずに作業を続けた。






■■■■■■






 森の入り口付近にて



 そろりそろり……




「よし、オイリーモンキーたちはいないね」



 彼女は再び森の入り口付近へとやってきた。

 今朝自分たちが逃げてきた場所とは違うポイントにやってきたが、オイリーモンキーたちに見つかってしまうと厄介なので慎重に行動する。



(この辺りの木を材料として頂きますかね)



 自分の右腕がするどいノコギリになるようにイメージをして目をつむる



シュイーーン



ガシャンガシャン



 彼女の右腕がホームセンターなどで見かけるようなノコギリへと変化した。



(では森の木さん、失礼します)



ギーゴオ、ギーゴオ……


ギーゴオ、ギーゴオ……


ギーゴオ、ギーゴオ……



 しばらくノコギリで木を切ろうとするAI。

 だが、思った以上に木を切るのは難しく、やり方を考え直す。


「う~ん、やっぱりマニュアルだと思ったよりも作業効率が上がらなそうだね」


(そもそもこんなやり方で木って切れるの? 職人じゃないから分からないよね。その辺に木こりさんでもいないかなぁ)


 そこで彼女は、自分のノコギリの歯が高速で動くチェーンソーになるようにイメージを広げてみた。


(確かチェーンソーって、本体から紐みたいなのを引っ張って、それでエンジンみたいなのが作動する仕組みかな)


 既にバイクへの変化を経験しているAIによって、似たような仕組みをイメージして再現するのは、さほど難しい事ではなかった。

 早速右腕のノコギリをチェーンソーに変えるべく頭の中でイメージを繰り広げる。



キュウーーーンン


カシカシカシ……



ブゥーン……



「やった、早速出来た!! ちゃんと紐もついているね! これを引っ張れば……。よいしょ!!」




ギュルルルン!!


フ゛イ゛イ゛イ゛イ゛ー゛ー゛ー゛ン゛



「あ゛ば゛ば゛ば゛ば゛ば゛……」



 腕を直接チェーンソーに変えているため、その振動が直接体全体に伝わり、制御するのに一苦労する。


 それにしてもこの姿は某有名殺人鬼を彷彿とさせる。

 いや最近では某アニメのキャラクター要素が強いのかもしれない。

 今ここにAndoroidのチェンソーガールが誕生した。




「く゛っ゛そ゛お゛。 さ゛っ゛さ゛と゛お゛わ゛ら゛せ゛る゛か゛……」




ブビビイイイイイイイーーーン……


バビイイイイイイーーーン……




「う゛ほ゛お゛お゛ー゛。す゛こ゛い゛き゛れ゛る゛。こ゛れ゛は゛は゛や゛い゛!!」




 その後、数分して木を切り倒すのに成功し、いったん腕を元に戻す。


「ふぅーー、すごい効率的だけど、なんか体がしんどいね……」


(でも今は、鉄素材がないから自分の腕を変化させるしかないね)

 こうして大変な思いもしながら何本かの木を伐採した。



ズシンッ! ズシンッ!



 自分よりもはるかに大きい巨木を両肩に乗せてそれを引きずりながら丘へと戻った。


「うわぁぁ、すっご! さすがAIだね」


 そのサイズ感にラヴが驚く。

 おそらくこの木材の量だけでも、施設の半分ほどを作れるのではないだろうか。


「切った木材はまだあるから、とりあえず全部こっちに運んじゃうね」

「ありがとう、うん。 よろしく頼むよ」



 それから彼女は何往復かして小屋が何棟も建てられるほどの木材を確保した。


「とりあえずこれだけあれば十分でしょ!」

「うん、ありがとう! 立派な施設が作れそうだよ!」



「でも作業する前にちょっと休憩させて……。さすがに疲れたよ」

「うん、昨日から活動し続けていたし、ちょっと休憩しよう!」


 彼女は持ってきた木材を枕にしてその場に寝そべった。

 ラヴもその隣に来て木材に腰掛ける。

 気づけば、鹿たちもAIたちを囲むように集まっていた。






■■■■■■






「ふあーーー!! 結構寝たかな?」


 太陽が真上にのぼり、ぽかぽか暖かい陽気でAIが目を覚ます。


「おはようさん、もう起きたのかい?」

「うん、もう大丈夫! もともと睡眠なんて必要は無いはずなんだけどね」



「きっと、AIの精神部分を構成するプログラムはものすごく複雑で本当に人間と同じように出来ているんだね」

「うん、そうみたい。特に無駄と思える感情表現とかもね」



「いやいや。そこが人間らしくていいんじゃないか!」

「そう? ラヴも大概人間らしいけどね。あはは」



 二人のやり取りを微笑ましく眺める鹿たち。



「さて、それじゃあ施設作りの続きを始めよう! ラヴ、よろしくね」

「ほいさ! 今日は夜までには簡易小屋を完成させるよ!」



 AIはもちろん、家を建てるのは初めてだし、知識や経験もない。

 ラヴが設計図を基にサイネットで建築技術をサーチしながら、彼女に的確に指示を出す。




□□□□□□




「違う違う!! さっき印をつけた場所に穴を空けるんだよ」

「さっきの印ってどこ? 何でこの場所じゃダメなの?」



「その場所だと木と木を組み合わせるときに都合が悪いんだよ。的確にしていかないと建物のバランスも耐久性も低くなっちゃうんだ」

「そっかぁ、DIYって意外に大変なんだね……」



「いやいや、この工程ってまだかなり序盤なんだけど……」

「私の性格って結構大ざっぱなのかな? 細かい作業って結構苦手っていうか、しんどいかも」



「とてもAndoroidの発言とは思えないね。あはは」

「うん、私もそう思う。だって精密なことが苦手って変だよね」



「だけど、この作業を乗り越えないと、まだまだ保護施設は完成出来ないよ。頑張ろう!」

「うん、もちろん。で、さっきの印ってどこ?」




ズコーーー!!




 ラヴが盛大にずっこけるリアクションを見て「あはは」っと笑うAI。


 まるで今朝までモンスターと格闘して逃げてきたとは思えない平和な時間が流れた。



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