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第14話 決死の逃避行(アナザー)

分岐パターンB

(Anotherストーリー)

―――――――



ボチャッ!!!


「!!!」


「いやぁぁぁぁ!!!」


 突然上から何かが降ってきたと思い、慌てて体を逃がしたが、それは盛大にAIの右肩に付着した。


 緑色の粘着物だった。

 たった今生成されたのか、生暖かさのような気配も感じる。


 恐る恐る上空を見上げるAIとラヴ……



「!!!!」



 人間ほどのサイズ感のある一匹の真っ赤な猿が木の枝に乗ってこちらを見ていた。

 驚いて声も出せずにいると、その猿モンスターは口から例の緑色の粘着物をAI達へ向けて吐き出した!!



ブビュッーー!!



 なんとか回避して直撃を逃れる。


「う〜わ!! きっしょ!! これあんたの口から出てたの? 絶対臭いやつじゃん」


(まだ匂いを判別出来なくて良かったのか悪かったのか)


 いずれにしろ()()()()()を女の子に向かって吐き出すなんて許せない!

 AIが憤怒の表情で(にら)み付けているとその猿モンスターはさらに別行動に映った。


 なぜか両手をものすごい勢いで摩擦させているようである。

 そして「バチっ」と一瞬だけ摩擦によって空中に火を起こした。

 ほぼ同じタイミングでそこへ新たに緑色の粘着物を吐き出す。


ヒュボオオーー!!

ズビューーーーーーーン!!


「うわわわ、こっちにくるじゃーん!!」


 それは大きな火の玉となってAIの頭上に降り注いできた!!

 横へジャンプしながら転がってそれを交わし、すぐに視線を上空に戻す。

 だが猿も既に移動しており先程の場所にはもういなかった。


「どこいった! エテ公!!」


 すると視界の外から先程と同じ火の玉が降ってきた!


「やばい! 間に合わな――」



ズンッ!


「ぁっがっ!!」


ボボオ゛ン゛!!

ブォ゛ーーーー!!



「ぐああああーーー!!」



「AIーー!!」


 ラヴも咄嗟(とっさ)に叫ぶ。

 どうやら緑色の粘着物は可燃性らしく、AIの背中に直撃した後、更に肩に付着していた粘着物にも引火して、体が燃え上がってしまった。




「うあ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーー!!」




 AIはパニック状態に陥っていた。

 火が消えないどころか激しさを増す中、猿モンスターが木から降りてきて更に追い打ちをかける。



ギギー!! ギー!!


メキャッ!


ズザッ!



 背丈はAIよりも少し大きいくらいだったが、長い腕から繰り出される素早い引っ掻き攻撃にAIはなすすべもなくやられる。

 逃げようとしても猿がAIの前に先回りする。




「やめて、お願い、助け――」


ギッギー

ズザッ! ズッバァ!



ドササ……



 AIは猿モンスターに倒されて地面に転がる。

 いつの間にか、猿が仲間を呼んでいたらしく、四方八方の木々からたくさんの猿が近づく気配がする。

 だが、AIは目の前の猿の攻撃から逃れられない。

 

 またもや“絶望”という言葉が脳裏をよぎる。


 防御の事だけを考えて丸く固まる。

 それでも猿モンスターはAIへの攻撃を止めない。


(駄目だ、このままだと殺られる。でもどうすればいいか分からない)



「お願い、もう止めて……。許して」


ザシュッ! ザシュッ! ザッシュ!


ギギー!


 AIの願いも虚しく無慈悲な攻撃が繰り返される。

 猿モンスターはAIをいたぶることを半分楽しんで、致命傷にはならない程度の攻撃を何度も繰り返す。

 他の猿たちも木々の上からAIたちの様子を見始めている。


 さらにAIの体の火が他の木や草などに移り、辺りは見る見るうちに火の海と化した。




ゴオオオオオオ……



「く…… う、う……」


ギギー! ギギー?


 まるで猿が『どうした、もう終わりか?』と挑発しているように思えた。


 猿は眼の前で動かなくなった獲物に対して完全勝利したと思って、余裕の表情を浮かべている。


 だが次の瞬間、AIは最後の力を振り絞って、右手で握っていたダガーを猿の顔面に向けて思い切り投げつけた。




ビュッ!!



グザ!!


イイイイイギギギギギギーーー!!!



 油断していた猿の顔面にダガーが刺さった。

 手応えは感じたが、猿が気付くよりも早くAIはその場から立ち上がって駆け出していた!!



 決して後ろは振り返らない。

 死にものぐるいで全力疾走する。

 後先の事なんて考えている余裕はない。

 とにかく全力でその場から離れる事だけに集中した。





「はっ はっ はっ はっ はっ……」





 一体あの場所からどれくらい走り続けたのか分からない。

 気付けば森からはとっくに出ていて、周りにはだだっ広い荒野が広がっていた。

 その場所でもしばらく先まで走ってからAIは転がり倒れ込んだ。

 どうやらここまで追っては来ないようだったが、森から視線を外せない。



「はっ はっ はっ はっ……」



 体力が無限にあるとは言え、激しくエネルギーの消耗を感じていた。

 そして何よりAndroidになってから初めて心底恐怖した。

 本当に死ぬかもしれない、バラバラに破壊されてしまうかもしれないと感じた。


 今になって死の恐怖が押し寄せてきた。



「ばあ゛ー、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

「あ゛ーーーうぅ、あ゛あ゛あ゛」



 泣いた後もAIはしばらくその場に寝転んだまま、ガチガチと震えが止まらなかった。


 あの赤い色をした猿が頭から離れない。

 思い出すたびに恐怖が(よみがえ)る。


 AIは体も精神もボロボロにされた。


 少し落ち着いてから、体を起こし、胸ポケットに閉まっておいた鉄トーストをかじる。

 【再生】と呪文のように小声で発すると、体の傷が修復された。ジャケットはボロボロに燃えて肩の部分が露出しているため、その場で脱ぎ捨てた。



 気づけば、「シトシト」と雨が降っていた。




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