第13話 オイリーモンキーの罠
シギィィーー!!
ピギィィーー!!
グギィィーー!!
パタパタ!! ビュンビュン!!
森の中で遭遇した蝶のモンスター「パルファムバタフライ」と悪戦苦闘していると、蟻のモンスター「ギガアント」の群れにも狙われるAI達。
「これって、ひょっとして、結構まずい状況じゃないの?」
AIが鱗粉にやられた目を擦って、後ずさりしながらラヴに問いかける。
「いや、ひょっとしてじゃなくてかなりまずいと思うよ……」
咄嗟に「逃げる」という選択肢を思いつくAIだったが、まだ何か状況を打破する手段を模索しているようだった。
「確かに幻覚の原因は分かったけど、どうしよう……」
「ここは逃げるのも一つの手だと思うよ~」
ラヴも逃げるが吉と考えているようだ。
しかし、AIのプライドがそれの邪魔する。
「そうだ!」
AIは咄嗟に左手に熱エネルギーをチャージする。
パルファムバタフライはAIが何か仕掛けてくると思い、合わせて攻撃の姿勢に入った。
パタパタ
ビュビュンッ!!
ザック!!
「っち!!!」
首の動きだけでなんとかパルファムバタフライの攻撃をかわそうとしたが、首筋を少し抉られたようだった。
だが、パルファムバタフライはAIの攻撃射程圏内に入ったまま次への予備動作をしている。
すかさず溜めていたエネルギーを開放するAI。
「はあああーーー!! 行けぇ!!」
「【熱拳】!!!!!」
AIが突き出した拳から放たれる波動エネルギーがパルファムバタフライを襲う!!
バシューーーーン!!!!!!
ジュボボボボボボ!!!!!!
完全に打ちとることはできなかったが、パルファムバタフライは羽の大部分を損傷し、飛行困難になっている。
「今だ!!」
バシュッ!! ッスパン!!
さらにAIは右手に持つダガーで今度こそパルファムバタフライを真っ二つにする。
そのままパルファムバタフライは「ドサッ」と地面に落ちた。
「っふうーー」
「やったね、AI!! イエーイ!!」
一難をなんとかやり過ごしたAIと喜ぶラヴ。
ゲシゲシゲシッ!!
「!!!」
息を付いたのも束の間、ギガアント達がAIの足元を目掛けて噛り付く。
(しまった! こいつらの事、忘れてた!)
「止めろ!! こら!」
AIは足元のギガアントへ向けてダガーを振り下ろす。
ッシュ!!
ガギイイイン!!
ところが、AIのダガーはギガアントの体を傷つける事ができずにはじかれてしまう。
「え!! 何で!? こいつら硬すぎじゃない?」
(私のダガーは鉄だって切り裂くパワーがあるはずなのに!! こいつらには効かないの?)
「おそらく、さっきのパルファムバタフライの攻撃でAIの攻撃力が下がっているんだ」
ラヴがAIのダメージした腕を見ながら分析した。
「そんな……。私が力負けしてるって言うの?」
ブンッ!! ブンッ!!
とりあえず嚙まれているギガアントを振り払おうと、足を上下に思い切り振り回す。
だが思ったよりも強靭な顎なのか、体を激しく揺らされてもビクともしないギガアント。
「もう何なの、どいつもこいつも! これならどう!!」
ブンッ! ドガッ!!!
近くにあった木へギガアントに噛み付かれたままの足を水平に思い切り叩きつけた。
ギギィー!
「うぐぅ……」
だが、それでもギガアントは「ゲシゲシッ」とギザギザした歯を押し当てながら私の足の切断を試みている。
「くうううーー、こいつら、どんだけだよ。ダメージないの?」
ゲシゲシゲシ……
AIの足元から脛のあたりまで噛り付かれてダメージが蓄積されている。
(……もう怒った。アリだからって許さない!)
「はああああーーーー!!」
AIはギガアントに噛みつかれている足元に熱エネルギーのチャージを開始した。
フィーーーーン!!
ものすごい熱量がその足へとチャージされていくのが分かる。足の爪先から脛の部分がオレンジ色に染まる!
噛みついているギガアントの歯や顔面がその熱量によって、少しずつ溶け始めている。
それでもギガアントはAIの足から離れなかった。
(……いいよ、別に。次の攻撃であんたを完全に溶かす!!)
「溶けろ!!」
「【熱蹴】!!!!」
バシュシュシューーーン!! ッボン!!
ドガドガドガーーーッ!!!
シューー……
足元に群がっていた他のギガアントも纏めてAIの【熱蹴】の餌食となった。
あるものは体を溶かされ、あるものは体を粉砕され、またあるものは体を木に叩きつけられて卒倒した。
「すすっすっごいいいーー!! 【熱拳】よりも威力が増してるね!!」
ラヴが少し興奮気味に感想を言う。
確かに、人間でも殴る力より蹴る力の方が強い。
体の運動の仕方によるかもしれないが、腕にダメージを負った状態のAIならば足で蹴る方がダメージが大きくなるのは明白だった。
だがAIも無傷では済まず、ギガアントに噛まれた箇所が痛々しく削られている。
それに加え、【熱拳】と【熱蹴】による激しいエネルギーの消耗が、AIの体をフラつかせる。
「……さて、これで少しは片付いたかな」
(それにしてもダガーがあんまり役立ってないのが腹立つ!!)
■■■■■■
AI達は昆虫モンスター群の亡骸を後にして森の奥へ進むか検討している。
「ひとまず、ケガした足とか腕とかを回復させるね」
「うん、それが良いよ! でも鉄食べないと回復しないんじゃないの?」
「その通り、鉄を食べないと回復しないと思うんだけど……」
そういいながらAIは小声で「再生」と呟く。
すると……
カチカチカチカチカチ……
ガチガチガチガチガチ……
キュウゥーーー……ンン
鉄を食べていないにもかかわらずAIの全身の傷が回復した!!
「えっ!? 一体どういうこと?」
「ラヴは私が朝何していたか忘れちゃった?」
「朝? 朝って……。 あ、思い出した! 鉄のトースト食べてた!!」
「そう! 既に鉄は食べてたんだよ。だからきっと回復できると思ったの」
「なるほどねー! ある意味、回復をストック出来るのはすごい便利だね! 一体どれくらいストック出来るのかな?」
「うーん、それは試してみないと分からないんだけど、念のため予備の鉄トーストも少しはあるから、この先の戦闘でダメージ受けても多少なら大丈夫」
そう言って、AIは自分の服の内ポケットらへんに親指をあてる。
おそらくそこに鉄トーストのストックが入っているのだろう。
「さて、それじゃあさらに奥へ進んでみよう!!」
「おー!!」
二人は張り切って森の奥へと進む……
進むにつれてAIが先程の戦闘前に触れてしまった、謎めいた緑色の粘着物質が周辺の木々など至る所で散見された。
「気色悪いわね~、さっきから一体何なの? この気持ち悪い粘液は?」
「何なんだろうね~。何かの縄張りとかだったらもうかなり踏み込んでるよ」
「縄張り? そんなことする昆虫いる? いそうな気もするけど……」
ラヴが予想した縄張りに入ってから既に半径100メートルは進んだ所でAI達は異変を察知する。
「ラヴー、何だか霧が濃くなってない? それになんか、小さいけど『パチパチ』って音が鳴ってる気がする」
「うん、そのどちらにも同意するよ。 気を付けて、何かが起きそうな気がする」
―――――
第13話 完
この後、第14話は正規ストーリーAと分岐ストーリーBバージョンの2本を上げます。
Bの話は続きを書く予定はありません。




