第12話 危険な森
奥多摩の森付近
ブイーン……
キキィー!
ドッドッドッドッ……
「さて、問題の森とやらはこの辺かな?」
「うん、だいぶ近づいてるはずだよ。標高も上がってるし、だいぶ自然豊かになってきてるしね」
「オッケー! それじゃ、ここからは歩いて捜索してみるか」
と、思った矢先に早速異変を感じるAI。
(なんか森の奥の方、霧が濃い様な気がするな。気のせいだろうか? 既にイヤーな予感もするんですけど……)
「とりあえず向かってみるか……」
AIは念の為に昨日造ったお手製のダガーを片手に慎重に森の奥へと進んでいく。
(こういう時も変な匂いとかを認識出来れば、より早く危険を予測出来るから、やっぱり匂い判別機能は絶対必要だね)
(300年も経つと人間が介入しないだけでこんなに森って成長するの? まるで原生林って感じ)
しばらく進む中、沢山の木々が生い茂るジャングルに近い様子となってきた。
ふとAIが木に触れると「ニチャア」と緑色の何か粘着性のある液体に触れてしまった。
「うげええエエ!! 気持ち悪ぅぅぅ!!」
(何これええ!? 樹液? にしては変な色……)
慌てて手についた粘着のある物体を振り払っていると、数メートル先に「カサカサッ」と低木の枝葉が揺れ動くのを感じた。
(何かいるみたい……)
AIは声を上げずに慎重にその枝葉に近づき、右手で持つダガーで枝葉の上部分を「バサッ」と切る。
「!!!」
AIは悲鳴を上げそうになるのを必死にこらえながら、静かに一歩二歩と来た道を後退する。
そこには、ボウリング玉ほどの大きさの頭を持った巨大なアリのような生物が動かずに「ジッ」としていた。
どうやら眠っているようだ。
(でかすぎでしょ、これ。本当にキモいって。デカい昆虫とかマジでキモいってーー!!)
(「それはギガアントって言う超生物だよ」とラヴがこっそり教えて来た)
(見たまんまね、まぁでも向かってきたらこのダガーで返り討ちにしてやるんだから!)
頼もしい心構えとは裏腹に慎重に後退を続けるAI。
ギガアントに注視しながら動いたため、他への注意力が散漫になっていた。
気付けばAIの真後ろにはこれまた大きな蝶が鱗粉を撒き散らしながら静かにパタパタと舞っている。
その鱗粉がAIの視界に入った。
「ん、何だこのキラキラは?」
と思った瞬間、その大きな蝶がスピードを上げてAIの髪の毛に噛み付いてきた。
バサバサバサッ
「!!! うっわ、いつの間に? 痛い痛い! 剥げるからやめろ!!」
慌てて蝶を振りはらおうと持っているダガーで「ブンッ」と攻撃する。
ダガーは羽根にかすっただけで、多めに鱗粉を撒き散らしながら蝶はパタパタを続ける。
(何なのこいつ! ヒラヒラしてて攻撃がうまく当たらない!)
「こいつはパルファムバタフライっていうみたいだよ」
ラヴが目に前のモンスターに対する情報をくれる。
(パルファム? ってことはこの鱗粉には何かしらの幻惑作用とかがあるって事? 残念ながら私には通用しないけどね!)
「ふんっ! テヤー!!」
ッビュ!
っとダガーがパルファムバタフライを一閃した!
……と思いきや、パルファムバタフライはパタパタと舞い続けAIに反撃してきた。
ガシュッ!
「きゃー! いったーい!」
咄嗟にガードした腕に体当たりされたと思ったが、服には鋭い切込みが入り、腕にも傷が出来ている。
「何こいつ、蝶のくせにキバでもあんの?」
思ったよりもダメージを食らっている事に驚く。
(いや、それよりもさっきの攻撃が当たっていない方がおかしい。当たったはずなのにピンピンしてる)
考えていても始まらない。
そう思ったAIはパルファムバタフライから追撃を食らう前に自分から再度攻撃をしかける。
(これならどうだ! 避けられるものなら避けてみな!)
ビュビュビュビュビュッ!!
ビュビュビュッ!!
ビュビュビュビュッ!!
AIが高速でダガーによる連撃を繰り出す。
しかし、それは全て空を切る。
「くそっ!! 何で一発も当たらないの!!」
当たらないどころか、AIにはパルファムバタフライが二重三重の残像となって見え始めた。
まるで視界がぼやけているようだ。
「っく! どういうこと!? どうして私にも幻覚作用が……」
そう思った瞬間、視界の先でブレるパルファムバタフライがAI目掛けて再度体当たり攻撃を仕掛けてきた。
パタパタッ!
ビュン!!!!
ガシュ!!
「っきゃ!!」
先ほどと同じ箇所を攻撃され、さらに腕の傷が深く抉られる。
攻撃を受けたせいで腕の動きも悪くなる。
「AI、相手の攻撃力はそんなに高くはなけいど、このままだとジリ貧だよ!」
「分かってる、でも何かおかしいんだ!」
「おかしいって?」
「私にも幻覚に似た作用が効いてるみたい!」
「それでAIの攻撃が当たらなかったのか……」
(なんでAndroidの私にも幻覚が作用するの? だって、人間と同じ神経細胞なんかないはずなのに……)
AIは自分の体の構造について、再度考え直していた。
(もしやつの鱗粉が人間もAndroidも関係なく害を及ぼすものだとしたら……?)
「……何か分かりそうだけど、何だろう」
「AI! 謎が解けたかもしれない」
「うん、私もうすうす気付いたよ」
「こいつが振りまいている鱗粉はマイクロ単位まで微細になって、きっとAIの体の内部構造にまで入り込んで悪さしてるんだ!」
「本当に信じられない。サイズは普通の蝶よりもでかい癖に……。やってる事が性悪ね」
『原因が分かったところであなたに勝ち目はないのよ!』
……とでも言わんばかりにパルファムバタフライが優雅にパタパタと舞ってさらに鱗粉を周囲にばら撒く。
「まただ、やつの動きがブレてどこにいるのか正確な情報が掴めない!」
(どうしよう……そこまで手強くないけど、このままだと確かに状況は良くない)
それからさらに状況は悪化する。
先ほど見つけたギガアントが目を覚ましたらしく、仲間のギガアントたちと一緒にぞろぞろとAIの目の前に現れた。
シギィィーー!!
ピギィィーー!!
グギィィーー!!
「うげげっ!! さっきのやつも目を覚ましちゃって仲間を連れてやってきちゃったよ!」
パルファムバタフライとギガアントの群れがAI達を襲う!
―――――
第12話 完




