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第11話 AIは匂いを嗅ぎたい



ジュ~

ジュ~


カンカンカン……




 何やらフライパンで炒めているような音がすると思って目を覚ましたラヴ。

 体を半分だけ起こして、音の方を見てみると、朝から菜の花炒めを作っているAIの姿が目に入った。

 

「おはよう!」


 その背中越しに声をかけるラヴ。


「おはよう! 今朝は起きるのゆっくりだったみたいだね」


「うん、『ぐっすり寝れた』ってこういう事なのかな」


 それでも「ふぁ~あ」とあくびをしながら返事をするラヴ。

 どうやら昨日は午前中の戦闘に加えて、AIの再生(回復)や武器生成に付き合って疲れてしまったようだ。

 

「やっぱり朝起きたら朝ごはんを作らないとね! しっかり食べて今日も一日元気に活動しよう!」


「いいね! と言っても、僕らには不要な気がするけど……?」


 ラヴがもっともな反応をする。


 確かに彼らはAIチャットボットにAndroid。

 所謂(いわゆる)“生物”ではないので、食べ物から栄養を補給する必要性はない。


「確かにその通りなんだけど、人間としての感覚が残っている私にとっては、朝起きたら朝ごはんを食べるってのは自然な事で、不要だと思っても、用意したくなっちゃうんだよね」


「ふ~ん、そうなんだねぇ……」

「それに……、こんな物まで用意したんだ~」


「じゃーん!」と言ってAIが見せたのは、昨日の鉄工所でAIが武器生成のために加工した銀の鉄板だった。

 よく見ると、その鉄板をトーストのようにさらに薄く切って焦げ目まで付けているようだ。


「あはは! 面白いね! それはまさにAI専用の朝食だね!」

「でしょでしょ~!」


 嬉しそうに朝食の準備を進めるAI。どうやら“人間らしさ”にこだわっているらしい。


「今後はもっと鉄料理のレパートリーを増やしていかないとね!」

(一日の内、朝食だけでもいいから何かしら用意したいな。「食べる」となぜか生きてるという実感が得られるんだよね)






■■■■■■






 人間の食べ物である「菜の花」を食べたことによって、AIの体が消化活動を行い再び“事件”が発生……した事は置いておこう。


「さて、じゃあ今日はどうしようかなぁ。また生態系の変化が起こっている場所でも確認しに行こうかな。せっかく必殺技や武器も手に入ったことだしね!」


「いいねー! 賛成賛成!」


 ラヴは早速、生態系の変化が訪れていそうな場所をサイネット上で検索した。



ピピピピ……



「うーん、ちょっと遠そうなんだけど、奥多摩(おくたま)と呼ばれるエリアで生態系の変化……というより、そのエリアの森林に何か変化が起こっている様子だね」


奥多摩(おくたま)? ここからどのくらい遠いのかな。バイクで行ければいいんだけど)


「今、地図情報を出すね」



ウィン



 目の前に3Dマップのホログラムが表示される。

 現在地から該当の奥多摩(おくたま)エリアまでは65kmほどあった。


「ありゃぁ、こりゃ確かに結構遠そうだね。バイクで行ったら片道でどれくらい時間かかるかなぁ?」

「う~ん、そうだねぇ、道が壊れてなくて走れる想定で行くと……約1.5時間だね」


「なるほど、道がスムーズに通れたとして1.5時間か。ならその倍くらいの時間は見た方がいいから片道3時間か……」

「どうする~? もっと近くで探そうか~?」


 AIは黙ったまま少し考える。


(うーん、日帰りは難しくなるかもしれないなぁ、そしたら向こうでキャンプするか? それなら必要なものを揃えておかないとな。と言っても、今だってここでキャンプしているようなもんだし、人間と違って必要なものなんてそんなにないか)


「ねぇ、ラヴ。Androidがこんな事気にするの変かもしれないんだけど……」

「どうしたの?」


「私たちってその……匂いが分からないじゃない? だからその、今の自分って匂うのかなぁって心配になっちゃって」


 ラヴが全く持って理解出来ないような不思議な表情を向ける。


(なんか、匂いが分かるようなシステムがあればいいんだけどなぁ。何かいいアイデアないかなぁ)


 AIは少しずつ“人”としての感覚を取り戻しているため、自分が復活してから風呂に入っていない事を思い出した。

 そして、そんな自分から発せられる「匂い」は決して良くないものだと簡単に想像が付いた。


「うーん、匂いね~。そしたら人間の嗅覚のメカニズムについて確認しようか」


(でた~、やっぱりそうなるかぁ)


 AIが何やら落胆している様子だが気にせず続けるラヴ。


「結局これもまた分子レベルの話になるんだけど、動物たちは嗅細胞(きゅうさいぼう)と呼ばれるものを鼻の奥に持っていて、外から入った匂いの分子がそこに入ることで何の匂いかを脳に伝えているんだ。だから、人としての嗅細胞(きゅうさいぼう)を持たないAIはまず鼻から入った匂い分子の情報を意図的に学習して覚える必要があるのかな」


「ふむふむ、匂い分子ね……」


「匂い分子は非常に弱いものから強いものまで色々あるから、もし分子レベルで判別出来るようになれば人よりも複雑な匂いの判別が可能になるんじゃないかな」


「ほぉ〜! それはすごいじゃない!」


「まずはAIがイメージがしやすいものから匂い分子の学習を始めたらいいんじゃない? 最初はいきなり匂い分子だけで判別するのは難しいかもしれないから、視覚のイメージから入って、『これはこういう匂いだ』って自己暗示をかけるようにしていけば、自然にプログラムが学習してくれるはずだよ。そうすれば、視覚にたよらなくても勝手に嗅覚プログラムが作動して、匂いを検知した時に美味しそうな匂いとか臭そうな匂いとかを判別出来るはずだよ」


「でもそれって私の視覚イメージに依る部分が大きいんじゃない? 視覚ではいい匂いだと思っても、実際の匂い成分が違ったら、まるで役に立たないんじゃないの?」


「そう、まさにその通り! そこがポイントでもあるんだ。まずは視覚によって匂い分子を読み込ませる部分からスタートする、その後にもう一度、今度は同じ視覚だけど違う匂い分子を持つ情報を検知したとする。そうすると、プログラムは同じ視覚情報なのに前回と違った匂い分子を検知してアラートを出すようにするんだ」


「アラートね、それで?」


「もし1回目と2回目の匂い分子に大きな違いがあった場合、異常を検知して、視覚もしくは何らかの方法で匂いの元を確認して学習していこう。あまり違いがないようであれば近似値として学習してカテゴライズしていけばいいしね。それから匂い分子で危険になるような匂いはあらかじめ学習しておくことで、ある程度の危険は回避出来るんじゃないかな」


「なるほどね、要はまずは視覚イメージからできるだけたくさんの匂い分子を学習して覚えて、その後は同じような匂いを検知した場合に勝手にプログラムが匂い分子を元にその正体が何なのかをざっくりと教えてくれるって訳ね」


「うん、ざっくりとそんな感じかな!」


「それじゃ早速今の自分の匂いを学習しておこうかな……」

 そう言ってAIは早速自分の腕や体の届く部分に顔を近づけて匂いを嗅ぐしぐさをする。



■AIは【AIの体臭】を学習した!



 これが私の体臭の「基準値」になって、より汚れて臭ったりするとアラートが出るのでそしたらその匂いをレベル分けして学習していこう。

 いや、体を洗って清潔な状態を基準値にした方が良かったかな。


「いったん、匂いの学習については置いといて、まずはその奥多摩(おくたま)方面に向かってみようよ」


 痺れを切らしたラヴが出発を促す。


「それもそうだね、匂いは少しずつ学習していくようにするよ」



 じゃあ、バイクにへーんしんっと!!



キュイーーーン!!


ガシャンガシャン……



(このバイクへの変身もだいぶ手馴れてきたみたいね、とってもスムーズ)



バリバリバリバリッ!!!



(ん、何か変なの音がするな?)


 白い煙が出ているため、何が起きているのか目視出来ないので異変に気づくのが少し遅れる。


「?? あ! いやああああーーーー!! ストップ、ストップー!!」


プッシュ―――……



 AIの叫びが空しく響く。

 足元の地面にはズタボロになった布切れが散らばっている。

 バイクとなった下半身を見ると、ひらひらと分散された布切れが各部位に挟まって揺れている。


「もう~!! 絶対こうなるって分かってたのに~」


 ラヴも何事かと思ってAIのやらかした事に失笑している。

 いったん、またバイク状態を解除して布切れを集めるAI。


(もう、気に入ってたのに、こんなにバラバラになるなんて……)


 上半身だけ服を着たAndroidというのも少し斬新だが、なぜか羞恥心(しゅうちしん)が増すAI。


「ちょっと、あんまりジロジロみないでよ! なんか恥ずかしいじゃん!」


 ジロジロ見ていた訳でもないラヴがとばっちりを食らう。


(まあ、もう一回ショートデニム作ればいいんだけどね)


 ちぎれた生地をかき集めてAIがショートデニムを再作成する。


 シュシュシュジャキジャキチョキーーン



 ほとんど一瞬の間にショートデニムが出来上がったが、前よりも丈が短くなったのは気のせいだろうか……。


「バイクに変身する時のイメージを改めないとね」


(やっぱり足が独立してあった方がいいよ。うん)


「ってことはもうバイクを作るってことね」


(ポイントは動力源をどうするか)


(これまでは私と一心同体だったから、私のエネルギーを直接使えたけど、私を離れたら供給源が無くなるわけだもんね)


(そしたら、ハンドルから私が間接的にエネルギーをチャージするように組むか)


「うん、そうしよう!」


「え? どういうこと?」


 ラヴがAIの独り言にツッコミを入れている間にもバイク造りに集中するAI。



キュイーーーン!!


ガシャンガシャン……


ウィン、ウィーン……


スポポッ!!


プッシューー……



「さて、結果はいかほどかな……」


「おおーーー!! 今度は上手くいったみたいだね!」


 ラヴが薄煙の中見え隠れするAIの脚とバイクを見つけたようだ。


「ふう~、これで一安心ね」


 AIは念のためにハンドルだけではなくフットステップの部分からもエネルギー供給可能なようにバイクを製造した。


「さて、それじゃひとっ走りしますか!」


ブルルンッ!!


 っと勢いよくバイクをスタートさせAI達は生態系の変化があったと思わしき奥多摩(おくたま)の森へと向かう。


―――――


第11話 完



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