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第10話 再生と生成2

12月26日


第10話を投稿します。


先ほど帰宅してPCを立ち上げようと電源おしたら全く反応がなくめちゃくちゃ焦りました。

電源ケーブルがなぜか抜けかけていたせいで、大きな問題はなかったのですが、本当に焦りますね。


それでは昨日の続きをお楽しみください。



時田 香洋




 再び二人は新宿の街中まで歩いてやってきた。

 AIが体の修復に必要となる「鉄」を求めて。



スタスタ……



(この辺ならいろんなガラクタの中に鉄がまじってそうね)


「これなんて最初にはいいじゃないの?」


 そう言ってAIが「ひょい」と持ち上げたのは、お好み焼き屋と思われる廃虚の建物に残っていた黒くて大きな鉄板の破片である。

 見るからにずっしりとして鉄板としてのイメージを持つそれは確かに硬そうではあった。


「うん、いいんじゃないかな? とりあえず最初だし、治るっていう保証もないからね」


(でもどうやってこれを体に取り込めばいいの?)


 もともとが人間だったAIには“取り込む”という手段がどうしても“食べる”と結びついてしまって、それ以外の方法が思いつかない。


(だって、こんなに硬そうなものを食べるなんて、普通じゃあり得ないよ。っていうか無理)


「でも、やるしかないか……」


 そう言って、手に持っている鉄板の欠片をひとかじりするAI。


ガギインッ!



(やっぱり、かったぁぁい!! 何が悲しくて、こんなもの口にしなくちゃいけないの)


 鉄をかじって少し悲しくなるAI。

 うっすらと目には涙も浮かんでいる。

 幸いなことに味覚はなく、硬さを感じるだけで“鉄を食べる”という行為にあまり抵抗は感じなかった。



ガギイッ!

ガギインッ!



 そのまましばらく頑張って鉄板の咀嚼(そしゃく)を続ける。



ガッシュ、ガッシュ、

ガシュ、ガシュ、


ガッ!ガッ!


ゴリゴリゴリゴリ……


「……ゴクン!!」



「……」



(うぅ、食べられた。きっと食べられたよぉ)



◇◇◇◇◇◇


 ちなみにこの時のAIの咬合力(こうごうりょく)は一般女性の約100倍近くはないと鉄を噛んで咀嚼することは不可能な計算である。

 肉食獣のライオンですら(あご)の力は400kgであり一般女性の約10倍の咬合力である。

 ティラノサウルス級になって初めてそこからさらに10倍の力4000kgに到達する。

 つまりこの時のAIの咬合力(こうごうりょく)はティラノサウルス級という事。

 バケモンですね、はい。


◇◇◇◇◇◇



 体が少しだけ重くなった気がしたAI。

 しかし、それだけで変化は特になかった。


「やっぱり勝手には再生されないよね……」


(お願いだからうまくいってね)


 AIは心の中でそう願うと、さきほどと同じように鉄によって自分の腕が再生されていくイメージを想像した。

 今度は先ほどよりも少し強い光で右腕の損傷個所が輝きだした。


カチカチカチカチカチ……



(ここまではさっきとほとんど同じね。いよいよ、ここから先! お願いだから治って!)



ガチガチガチガチガチ……



キュウゥーーー……ンン


「!!!」



「来た来た来たー!!」



 ものすごいスピードでAIの腕が再生されていく。


 しばらく再生時の高音が鳴り響き、腕の再生がほぼ完了すると同時に音が鳴りやんだ。

 気付かなかったが、どうやら体の全体も同時に治っていたようだ。


 治した箇所は取り込んだ鉄の成分が反映されているようで、再生した箇所が鉄板のように黒く光っている。

 他の体の箇所もところどころが黒光りしていた。


「わ~い、やったねAI! 少しひやひやしたけど、無事に治ったみたいだね!」


「うん、まさか鉄を食べて治すなんて夢にも思わなかったよ」


 そして、AIはまたふと思ったことを口にする。


「もしかしてさ、もっともっと鉄を食べられば体の修復だけじゃなくて、物も造り出せるんじゃないかな? 例えば武器とか防具とか……」

「おおー!! その発想はすごいね! でも確かにやることは似たようなものかもね!」


 早速その辺に使えそうな鉄クズが落ちていないか散策を始める二人。


「うーん、思った以上に使えそうな鉄クズって落ちてないんだね」



 街中を五分ほど捜索して早くもAIが嘆く。


「そうだね~。いくらガラクタがたくさんあると言っても、使えるものは少なそう」


 ラヴも一緒に使えそうな鉄を探しているが、思った以上に見つけ出せずにいた。


「そうだ! ねえねえ、だったら工場とかの跡地にいけばあるんじゃない?」


「確かにそうだね! この辺に鉄工所がなかったか調べてみるからちょっと待って」


 素早く3Dマップと鉄工所の検索結果を表示するラヴ。


(こういう時って本当に便利ね。思ってからの結果がスムーズだと時間を浪費せずに済むわ)


(まあ、時間ならたくさんあるんだけどね)


「良かった、ここは新宿だけど近くにはいくつかの鉄工所があったみたいだよ!」


 そう言って、3Dマップに表示された赤いフラグを見ると、確かに数か所の鉄工所が存在したことを示している。


「ありがとう、じゃあ、この一番近くの場所に早速行ってみよう!」






■■■■■■






 鉄工所にやってきた二人。


「おおー!! あるある!! あるじゃん鉄~!」


 鉄工所跡地には、大小さまざまな形状の鉄板や何かの部品に加工された鉄などが置いてあった。

 やった、やったと喜ぶ二人。


「これでまずは材料確保ね」


(とりあえず手近なものから、取り込んでみようか)


 そう思うとAIは近くの作業台に置かれている5cm程の厚みがありそうな銀色の鉄板を引っ張り出す。


「よいしょっと。結構な大きさね、これをまず食べられるサイズに加工するところから作業しないと」


 すると、AIは【熱拳(ねっけん)】の要領で左手の人差し指に熱エネルギーをチャージする。



キュイーー……ン



(よし、後はこの指でススーっと、ススーっとね)



ジュジュジュ、シュイーーーン


シュイン、シュイン


スバァァン!!!



 まるで豆腐を包丁で切るかのようにあっという間に小さな四角形の鉄板が出来上がった。


「おおー! 簡単に切れた! やっぱり熱量すごいし、便利!」


 その切れ味にAI自身も驚く。切ったばかりの断面は赤黒く融解しており、危険な高温状態であることが一目でわかる。


「これに技名を付けるとしたら熱した指で【熱指(ねっし)】ってのはどう?」


 そんなAIの独り言(?)をよそに、ラヴが必死に笑いを堪えているのは言うまでもない。

 また逆鱗(げきりん)に触れぬよう静観を続けるラヴ。


「じゃあ早速、これを食べて見よう」


 そう言って、できたばかりの小さい鉄板を口元へ運ぶAI。

 先ほどよりもスムーズに鉄を食べているようだ。



ガギイン

ガギギギン


ガッガッガ


ゴリゴリゴリゴリ……


「……ゴクン!!」



「……」



「そう言えば、食べた後のことを考えていなかった!」


(まずは何から作ってみようかなぁ。んー……武器、武器、武器……)


「そしたら最初はナイフとかでいいんじゃない?」


 ラヴが最初の武器を提案する。


「グッド!! そうね、ナイフとかならすぐ出来るかも!」


 AIは自分を治療した時と同じように最小単位の鉄がナイフを生成していくようにイメージを膨らませた。



カチカチカチカチカチ……


(また始まった! 鉄で何かを生成する時はこの現象が起きるのね)



 少しずつ、何かの形をした鉄の塊がAIの右手に生成され始める。



ガチガチガチガチガチ……



 AIはさらにイメージするのに集中し力を込める。



キュウゥーーーーーンン……



「!!!」



「出来たーー!!」


 不格好だが先端の尖ったナイフのようなものがAIの右手に握られていた。



ブンッ!!

ブンッ!!



 早速そのナイフを持ってその場で振り回してみるAI。


(うん、初めてにしてはいい感じ。でも武器としてはきっとまだまだ)



「ってい!!」


ガギン!!


「あ~あ……」



 ラヴがその結果を見て残念そうに嘆く。

 AIは先ほどの鉄板に垂直にナイフを振り下ろしてみたが、硬度負けしてしまったようで、その刃先が折れて持ち手部分も曲がってしまった。


「やっぱりね。もっと硬度を上げるか、素材を工夫しないと駄目だ。あとナイフの形状も」


(とりあえずもう一回やり直し。幸い、材料ならいくらでもあるから)


 そこから、AIのナイフ作りが始まる。食べては作って、試して壊して、作っては壊して、また食べて……を繰り返す。



「……」



 もうかれこれ10本以上はナイフの生成にチャレンジしているAI。

 その周辺には異様にひしゃげたナイフの残骸(ざんがい)がたくさん転がる。


(意外に満足いくような武器に仕上げるのは難しいのね。さすがに職人ではないからそれも当たり前か)


 そう思って、もう何本目になるのか分からないナイフを生成し始める。


(……だめ、集中しないと! イメージと集中する力が結果に大きく影響するんだから)



キュウゥーーーーーンン……


キインキンキン……!!



 その時、AIはこれまでとはあきらかに異なる生成音でナイフが形造られていくのを確認した。

 


キーーーー……ンンン



 少しずつナイフを生成するエネルギーが凝縮されていく。



「!!!」


 

(これは! きっと成功に違いない! いかにも冒険者が持っていそうな形状に仕上がっている)


「できたよ。これはナイフじゃない。ダガーだ」

「おおー!!」



ぱちぱちぱち!!



 感嘆(かんたん)の声をあげながら、ラヴが拍手する。


「すごいじゃん! 格好いいし! 切れ味がすごそうだね!」

「うん、今回のはかなりの手ごたえを感じるよ」



ッシャ!!

シャッシャシャ!!


(振った時の音まで違うみたい! これならきっと!)


ッシュ!


 AIは他のナイフと同様に右手に持ったダガーを垂直に鉄板に振り下ろした。



ッガシュン!!


「!!!」



 なんと、ダガーを振り下ろした箇所に切れ込みが入り、その刃先は鉄板の奥深くまで入り込んだ。

 長さにしておよそ10cm以上は食い込んでおり、重なっている鉄板の3枚目あたりまでダガーの刃が到達していた。


「す、すっげーー!! これならどんなに硬い敵でも貫けそうだね!」


 ラヴはダガーの完成度の高さに感動している。


「うん、ひとまず武器はこれでいいかもね。本当は防具も作りたかったんだけど、今日はこれでおしまいにしよう」


ガキン!


 鉄板に刺さったダガーを引き抜きながらAIが提案した。


「そうしよう! そうしよう!」

「それに、このボロボロになった服もなんとかしたいの」



「じゃあ、また前の服屋に寄ってから、あの御苑に戻ろうか?」

「うん、それがいいね」



 そのあと、二人はラヴの提案通りに服屋に寄ってAIの服を修復してから新宿御苑へ再び戻った。

 新宿御苑がすっかり二人の拠点になりつつあり、崩壊後に家を持たないAI達にとっては唯一落ち着ける場所となっていた。



再生と生成のパート2でした。


最後まで読んでいただき有難うございます。


「鉄」を食べて「回復」させるという無茶な設定ですが、個人的には満足しています。

主人公でヒロインのAIさんには怒られそうな設定ですが悪しからず。


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