Androidになった少女
拙作は初めての投稿となります。
閲覧頂きありがとう御座居ます。
タイトルの『ZtoA』は「ゼトア」と読んで下さい。
大した意味は設けていませんが、設定など含めそのうち語らせて頂こうと思います。
読みづらい文章となっているかもしれませんが、何卒ご容赦ください。
平日毎日投稿を心がけます。(※時間未定)
作品が完成するまで長い道のりになるかと思いますが、最後までお付き合い頂けたらとても嬉しいです。
時田香洋
漫画家を夢見る少女がいた。
20XX年
かつて世界では人類を死に追いやるウイルスが蔓延し、半サイボーグ可することで人々は生き長らえる事に成功した。
各国首脳陣が先導して技術力向上を目指し、先端企業と施術者のどちらにも恩恵の受けられるサイボーグ化特別支援制度が間もなくして施行された。
一般市民へのサイボーグ化もかなり浸透し世界人口の一割近くの人間が半サイボーグ(ハーフロイド)となった。
そんなある日、彼女(冬川愛衣)もウイルスを克服するために自身をハーフロイド化する事を決意する。
その大きな理由として死のウイルスを克服したいという気持ちはあったが、それよりも彼女は自分の人生を変えたい、ハーフロイド化することで新しい人生を切り開きたいと考えていた。
だが身寄りを亡くし独り身で高校生活を送っている愛衣は決して余裕のある生活を送っている訳ではなかった。
寮生の学校に通っており、最低限の生活費と学費だけが国から援助され、それだけで何とかやりくりしていた。
いくらハーフロイド化が一般化してきているとは言え、自分が手術を受けるにはとても金銭的、経済的に苦しいのが現状であった。
おそらく愛衣の立場なら誰もがハーフロイド化の手術を諦めるだろう。
少し前なら確かにそう思われたが……
経済システムが激しく変化した昨今ではネットワーク上のあらゆる個人アカウントから可能な限り無利子での借金が可能だった。
それも無制限にである。
もちろん借金返済が出来なければ相応のペナルティが科され簡単に犯罪者の仲間入りとなった。
愛衣はハーフロイド化することを前提に、以後生涯を掛けて返済する義務を負うことで条件を満たし、多額の借金することに成功した。
なぜなら人間はハーフロイド化すると電力と水分さえあれば半永久的に生命活動を維持する事が可能であったからだ。
これは端から見たらサイボーグとなって一生奴隷として生きていくかのように見えたが、それでも何かしらの理由により愛衣のように多額な借金を抱えてサイボーグ化する人間が一定数いるようだった。
ハーフロイドとなった愛衣は高校を卒業後も変わらず漫画家になることを夢見て活動を続けた。
しかし、借金返済の義務が彼女に重くのしかかった。
彼女は手っ取り早く借金を返済するために、この時代では最も稼げると言われる高級メイドの仕事に就いた。
高級メイドが「最も稼げる職種」と言われるようになった由来は、あらゆるサービスが自動化、AI化した昨今において人手によるサービスというものの価値が高騰し全てが超一流へと昇華されていたためであった。
人手によるレベルの低いサービスをするようであれば世間から叩かれるのは必至で長くとも一年を待たずとしてそのサービスは終わりを迎える事となった。
超一流の教育を施せないサービス事業者は次から次へと撤退せざるを得ず、生き残るには人手ではなく機械化することでコストを下げサービスの統一化を図る必要があった。
こうした背景の中、人の生活そのものをサポートし支援するメイドという仕事はまさに人の手で行うには究極のサービス精神、技術が必要で完璧にこなすには相当の訓練が必要とされた。
それに伴って高級メイドの市場はかつてないほどに価格高騰し、一部の富裕層のみでしかメイドを雇えない程のサービス価値基準となっていた。
ではなぜ、愛衣が何のスキルや素養もないのにもかかわらず高級メイドとして働くことが可能となったのか。
まずハーフロイド化することの最大のメリットはウィルスの克服と不老長寿にあるのだが、それ以外にもハーフロイド可が普及した現在では、ありとあらゆる恩恵を受けることが出来た。
例えば、言語や知識などはサイボーグネットワーク(サイネット)へアクセスしダウンロードしてインストールさえすればどの言語であろうがどのような複雑なプログラムであろうが簡単に理解することが出来る。
もちろん全てが無料ではなく有用なものは基本的に課金制となっており気軽にダウンロード出来る物ではない。
愛衣は高級メイドになるために必要な最低限のスキルセットを纏めてダウンロードしてインストールした。
そうして愛衣は高級メイドとして金持ちの家に住み込み、朝から晩まで働いた。
サイボーグは半永久的に生存することも可能で、その後何十年もの間、彼女は、メイドとして働いて過ごした。
彼女には感情と呼べるものはほとんど残っていなかった。
単調な生活がそうさせたのか、原因は不明だが少しずつ彼女は人間性を失い、人からの指示に対してより機械的な反応しか示さないようになってしまっていた。
だが愛衣のこなすサービスは常に完璧で洗練されており家主が不満を漏らすことなど一度たりともなかった。
一体どれだけの月日が流れたのだろうか。
愛衣は既に自分が背負っていた借金の返済は全て完了していたが、無駄のない機械的な生活を送っていたことで愛衣の貯蓄額は一般市民のそれをはるかに上回っていた。
いつの間にか自分の生きがいであった漫画家になる夢もとうに忘れて、淡々とした日々を過ごす毎日が続いていた。
一見して老いも感じさせない完璧なままに見える愛衣ではあったが、今では古い世代となった彼女のハーフロイド化した精神は、実は既に限界を迎えていた。
そしてそれは突如として起こった。
ある日、彼女の意志とは関係なく体が暴走し、精神が何かに支配され、人々への破壊行動をするようになってしまった。
いわゆる暴走状態となったのだ。
時を同じくして同世代の他のハーフロイド達も彼女と同様に暴走を始めた。
人類による抵抗軍とハーフロイド達による革命軍の世界大戦が各地で勃発した。
大戦は数十年に亘って拮抗し、こうちゃく状態にあったが、暴走するハーフロイドの数が当初よりも増え始めた事で抵抗軍があきらかに劣勢と言わざるを得なかった。
最終的に愛衣たちハーフロイド自身による大規模同時自爆という最悪の結末を向え、人類、ハーフロイドともにほぼ全滅に近い状態でこの戦争は終結した。
戦争終結からさらに長い年月が過ぎ、地球は荒廃した大地を晒しながらも少しずつ回復して自然を取り戻していった。
――――――――――
23XX年、時は現在に至る。
ここがどこかも分からない。
かつてどこかの国に属していたと思われる土地の海岸。
岩肌がかつての戦争を思わせる痛々しい姿をさらけ出す。
小さな波がたくさんのハーフロイドのスクラップを浜辺に押し上げてはまた引き返す。
そこに奇跡的に運良く残っていた愛衣の小さなメモリチップがあった。
荒廃した空気中に漂う本当に小さな微電流によってメモリチップが刺激を受ける。
その直後、不思議なことに周辺に転がるハーフロイドのスクラップから愛衣の体が再構築され始めた。
まるでAIのメモリが「復活せよ」と指示しているかのようだった。
愛衣が再び動けるようになるまでにそう長い時間はかからなかった。
体全てがサイボーグ化した愛衣は完璧なAndroidとなって生まれ変わった。
最小のメモリチップが断片的に記憶していたのは「漫画家、夢」というキーワードのみ。
だが復活した愛衣にそれが何を意味しているのか理解するには時間が足りない。
ここにAndroid「AI」の物語が幕を開ける。




