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08|学生捜査員〜雨夜の超能力〜

【雨夜想】

「私は超能力をゲノムの螺旋として認識し、力の流れや痕跡を辿れます。対超能力者の探知レーダーと思っていただければ問題ありません」


【鍋島吾郎】

「確か、大原の遺体に残滓がどうのって言ってたな」


【雨夜想】

「能力を使うとゲノムの二重螺旋……カールコードというんでしょうか、ああいうのが現場に残って私にだけ視えるんです。それが現場に残っていた場合、何かしらの形で超能力が使われたことになるわけです」


【鍋島吾郎】

「合点がいった。だから普通の事件じゃなく超能力者が関わっているってことになるのか」


【雨夜想】

「はい。残念ながら、現場に残ったゲノム螺旋と、超能力者の能力が同一かは、私だけでは判別不能です。二つの指紋を人間が瞬時に照合するようなものですから」


それでは捜査の大事な場面で使えないじゃないか、と所轄の刑事が微妙な顔をすると、雨夜は想定していたというように「ですが」と続ける。


「視た記憶を他の超能力者の転写能力によってパソコンなどの電子機器に図として出力、確認することができるようになってます。それを元に、解剖医や科学捜査官が携わって同一かどうかを判断し、それが裁判の証拠の一つとして扱われることになっています」


【石住大】

「なるほど……そりゃすごい。そこまで整備されているのか」


【雨夜想】

「はい、この能力を自分では『殘知ざんち』と呼んでいます。あまり知りたくもない情報を知ってしまうこともありますから。皮肉も込めた字面です」


【暁増結留】

「ゲノムはアデニン、グアニン、シトシン、チミンのAGCTという四つの組み合わせが結合によって何十億とあるわけですが」


「その核酸塩基の配列によって構成されるDNAに先人類の超能力が混ざり込み、異なる遺伝子同士が合体した『DNAキメラ』となったのが僕たち超能力者なんです。それを雨夜さんが能力で検知しているのだと思われます」


 『DNAキメラ』──これはこの物語の造語ではなく現実社会にも実在する。


 骨髄移植を受けた男性が提供側であるドナーのDNAに置き換わってしまったり、双子で生まれるはずだった受精卵が合体してしまうなど、本来は持ち得ない『複数の異なる遺伝子情報を持つ』人のことをいう。

 数十万人に一人の割合でいるとされ、当たり前だが現実では超能力が使えたり日常に支障がでるわけではない。


【雨夜想】

「望んでそうなったわけじゃないからキメラなんて嬉しい言葉ではないわね。しょうがないけど」


 少し寂しげに俯いた。学校にも通う十代の少女にとって、他人と違うという個性は他者と軋轢を生み出す負の装置だ。自嘲とも思えるその表情にはこれまでの苦労が窺えた。


【雨夜想】

「それで前の二人と同じように私も、というか超能力者は全員なんですが蓄積行為が必要となります」


「私の場合はこれです」


 スッと、本を取り出す。日本霊異記というタイトルの本だ。


【石住大】

「ホラー本を読む事?」


【雨夜想】

「これはホラーではなく奈良時代の仏教説話です。古典文学。あんまり面白くもないけど現代小説は飽きたから、今はこれ読んでいます」


「というか、字ならなんでもよくて、エッセイでもニュース記事でもなんでもいい。読んだ字数が重要みたいで。ネットの文章でもいいんですが、推敲がなく感情むき出しなのは蓄積には向きません」


【昼埜遊人】

「つぶやきとかニュースコメント読むと、疲れてげんなりするって言ってたよな。でも本買う金もバカにならないんだから、タダで読めるネットも活用しろよ」


【雨夜想】

「図書館があるでしょ。国会図書館、あそこいいわよ。ネットにはない情報がたくさんあるし、平安や江戸の資料とかも読めて感動する。昼埜くん、ネットの乱雑な文章見てたらバカになるわよ」


【昼埜遊人】

「そこがいいんだろ〜、俗っぽさとスラム感あってさ。堅物委員長タイプの雨夜にはわっかんないだろうな」


【雨夜想】

「なっ、なにそれ。イラッとするわね。昼埜くん、学校の成績も悪いし、もう少し勉強しないと捜査官続けられないわよ」


【昼埜遊人】

「えっ、マジで? なんで!?」


【雨夜想】

「特例で公務員やってるもの。高校か大学卒業したら、ちゃんと試験受けて合格しないと。暁くんみたいに国家公務員の難関試験じゃなくても、警察続けてくならある程度の学力は必須」


【昼埜遊人】

「暁のコネでとんとん拍子。このまま何もせず食いっぱぐれないのかと思ってた……」


【暁増結留】

「どんなコネですか。不正は許しません。ちゃんと勉強してください」


【昼埜遊人】

「へいへい。頑張ろうな、朝陽乃」


【朝陽乃日凪】

「あ、今私を同列扱いしたな。赤点なんてないんだから一緒にしないで」


【昼埜遊人】

「俺も赤点は……! ギリギリねぇよ!」


【雨夜想】

「まったく。二人とも世話が焼けるわね」


はぁとため息をつく。私の話はこれで終わりと目線で伝え、暁は頷く。

残された最後の一人、暁が話始めた。

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