夢日記‐本能寺
本能寺の変を扱った漫画を読み、なんで明智光秀はこんな事やったのかを考えながら眠りについた。
ふと目が覚めた? 暗闇の中で視界が上下に動き、前方には馬の頭が見え、見慣れない腕が手綱を握っている。
「 へ?ここはどこだ? 」 などと辺りを見回し、手足をバタバタさせたつもりだが、視界は変わらず手綱を握ったまま。
「 なんだこれ? 」 と思っていると、明らかな合成音声で平板な声が響く。
「 ここは戦国時代、明智光秀が織田信長に呼ばれ本能寺に向かっています。 」
あまりの状況に 「 あ、これは夢だ。まあ覚めるまで見てもいいか。 」 と考えてると先程の声が響く。
「 夢と思ってもらって結構です。でも、ただの夢ではありません。 」 と 「 なんのこと? 」 と問うても返答が無かった。
しばらくすると寺の門が見え光秀は馬を降り、寺の中を案内を受け、信長の部屋の前にたどり着く。
部屋に入ると男が二人倒れていて、その一人の傍にひざまずき泣き崩れている男がいた。
「 信長様 」 と光秀が泣き崩れている男に声をかけると 「 光秀か、蘭丸が・・・・・・ 」 と信長が答える。 どうやら傍で倒れている男が蘭丸らしい。
その後いろいろ問答があったが要約すると、暗殺者が信長を狙って来たが蘭丸がかばい、信長が暗殺者を切り倒したということだ。
そして気付いたことは二人が話す言葉使いが、頭に響いてくるものと耳から聞こえるものと違っていること。耳を澄まして聞いた言葉は時代劇風の喋り方で聞きなれないものだが、頭に響いてくる言葉の方は聞きなれた言葉で優先的に頭に入ってくる。
「 何度か暗殺者に狙われることはあったが、蘭丸が傍からいなくなっては生きていく気力が失せた。 暗殺者に狙われるのはもう嫌だ。ただ暗殺者を放った者は許しておけぬ。 」 と信長が言う。
「 蘭丸一人に何でそこまで? 」 と考えると光秀がみたであろう ( 信長と蘭丸のただならぬ関係 ) のイメージが次々と浮かんでくる。
「 信長様いっそのこと織田信長という名の人物はここで死んだことにしてはどうでしょうか? ただ貴方の先見性や行動力は日本にとってもマダマダ欠かせません。 名を変え姿を変え、裏からご指導をお願いします。そして暗殺者を放った者の裏を調べましょう。 」 と光秀が言うと信長が 「 そんなことが可能なのか? 」 と問う 「 こういう作戦はどうでしょうか? 」 と光秀が話し始めた。
作戦の内容は、光秀が一旦拠点に戻り、軍勢を率いて謀反を起こしたように本能寺を攻め落とし、本能寺が焼け落ちる前に逃げ延びた信長は身を隠し、光秀の連絡を待つ。
そして光秀がこのまま天下を盗れれば光秀の元に。 敗れれば光秀の書状を持ち、今回の暗殺とは無縁な人物の元へと向かうということだ。
色々な本能寺の変の考察があるが、信長の死を偽装するためというのは初めて聞いたかもしれない。 更に信長が後年まで生きていたかもしれないと思うと興奮するが、余りの荒唐無稽ぶりに 「 やっぱりこれは夢だな。 」 つぶやくしかなかった。
打ち合わせを終え急いで拠点に帰った光秀、部下を集め一言 「 敵は本能寺にあり。 」
再び本能寺に戻り、包囲を固めるが、寺の者に万が一の為にと信長が聞いた抜け穴の出口だけは光秀の信頼できる側近を信長を隠れ家に送り届ける為に配置しただけだった。
信長を死んだことにして生きて逃がす為の大芝居と言っても、真相を知らせているのは信長と共に逃げる数人の小姓、そして隠れ家に案内する側近達だけ。 その状態で一つの寺を焼き討ちするのだ、当然攻守双方で多数の死傷者が出るのは間違いないだろう。そのことを思い、光秀は 「 許して欲しい恨むなら今回暗殺者を放った者を恨んで欲しい。 」 と独り言を言うのだった。
包囲を固めたまま門を破って進軍し、信長がいる建物の前までたどり着く。 手筈通りに信長が出てきて大声で 「 我を信長と知っての狼藉か。 」 と威嚇する。 ここで初めて敵が信長と知って動揺する攻め手だが負けずに光秀は 「 信長様はやり過ぎ、多くの者を敵にしてきた。 ここで止まって頂く。 」 と答える。 それを聞き、信長 「 謀ったな光秀。 」 その答えとばかりに光秀は 「 矢を放て。 」 と言い放つ。
建物が攻め込まれ始めるのを見て信長は 「 是非に及ばず。 」 と手筈通りに建物の奥下がっていき、抜け穴への道を確保したうえで、部屋にある蘭丸と暗殺者の死体に火をつけて 「 蘭丸よ必ず敵をとるぞ。 」 と呟き、抜け穴に進んでいく。
本能寺が焼け落ちたことにより形の上では下剋上が成功し、天下を盗ったことになるが、信長の死を証明するのは判別不能の焼死体のみ ( そもそもその死体は偽物なのだが ) の乏しい証拠しかなく畿内の諸将の協力を余り得られないまま、柴田勝家や羽柴秀吉の動きを警戒することになる。
地盤固めの準備の最中で羽柴秀吉が進軍して来ているのを知る。 あまりの早さのため光秀は 「 怪しいと思ってましたが秀吉殿、 何か起こると想定してたような根回しの良さや転進の早さは、暗殺に関係しているという事ですか? 自身の計画なのか誰か裏にいるかは調べないと分からないでしょうが・・・・・・・。 」 と呟き、信長を隠れ家まで送った側近を呼び 「 信長様を彼の方の元までこの書状を持って送り届けて欲しい。 」 と書状を手渡すのだった。
こうして山崎の戦いが始まり、高台である天王山の占拠をめぐって争うが次第に秀吉軍に押され始め、光秀軍は撤退していく。
撤退の最中チリジリになり、単身で逃げ落ちていた処に、落ち武者狩りの男に襲われる光秀だが辛うじて撃退する。 そして自身の装備とその男の装備とを付け替えて男の顔をつぶし、崖に落とす。
後日、信長の家紋が入った袱紗と光秀の家紋が入った袱紗の二つを秀吉の元へ送り届けるように信頼できるものに依頼し、信長の元へと急ぐ光秀。 それぞれの袱紗の中には信長と光秀の落とした髷が入っていた。
数日後やっとの思いでたどり着き面会する光秀が言う 「 信長様、いや天海様、お久しぶりでございます。 」
そこで目が覚めた。 不思議なことに、夢から覚めても内容をはっきり覚えている。 振り返ってみてもホントあり得ない話だ。 比叡山を焼き討ちした信長が、その被害者の一人と思われる天海となるなんて。 「 ほんと夢だな、まあ話のネタになるだろうから短編でも書いてみるか・・・・・・。 」