恋愛というおとぎ話はフィクション大魔王
「つまりさ、好きとか愛とか運命とかさ、夢見過ぎなのよアンタ」
薄暗く狭い個室で目の前の鼻の大きいブサイクなババアは上から目線でそう答えた。
なんでこんなハクション大魔王みたいな顔をしたババアに15分3000円も払って相談を持ちかけたのかとほんの15分前の自分の神経を疑っているとまた女が口を開く。
「あるわけないじゃないそんなモノ〜。だいたいね、離婚とかバツイチとか元カレとか元カノとかそんな言葉がありふれてる世界でそんなのおとぎ話みたいなもんよ、ユニコーンとか雪男とかツチノコと同じフィクションなの」
机を右手の人差し指でトントンと叩きながらそう言うと、ババアは時計をチラリと見る。
僕も釣られて見てみると、もう15分が経過しようとしていた。
「じゃあ無いんですかね、この世には。真実の愛って」
歌の歌詞にも今時ないだろうなってぐらい恥ずかしい言葉を15分3000円のババアになげかける。
「そうねぇ。人を好きになった時に生涯の恋愛対象が男女って性別じゃなくて、その相手だけになっちゃうような、そんなロマンチックな機能が人間に備わらない限りないんじゃない?」
ババアのくせになかなかにSFチックでロマンチックなことを言う。
「じゃあどうして、人は恋をするんでしょうか?」
またしても歯が浮くような小っ恥ずかしいセリフを薄暗い個室で15分3000円のババアに問う。
するとババアは右手の人差し指をこちらに向けて言った。
「そんな嘘まみれの世界でほんの一瞬垣間見える''真実の愛''って題材のおとぎ話を見るため、かしらね」
その言葉を告げたと同時に、
ピーというタイマーが時計から鳴り響き、
僕の財布から野口英世が3人消えていった。
なんだかすごく、つまらない事をしてしまった。