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ラッキースケベじゃないのかよ!

「この世界の真ん中の街は山の向こうか」


 一人の冒険者がつぶやく。


 この片田舎にポツンと佇む入り口にその青年は立っていた。彼の名は“アッシュ”しがない冒険者だ。この男、半年ほどの記憶がない。背中にある大剣が彼の特徴で、剣の腕前はその辺の冒険者よりは数段腕が立つ。剣に覚えがある記憶はどうやら体が覚えているらしく、冒険者協会の【アビスパール】に登録し、その依頼をこなすというのを生業にしていた。


 そんなある日、彼は事件に巻き込まれる。金稼ぎや討伐依頼によく狩場争いというのがある。巷じゃ日常茶飯事で、狩場で私闘はこの世界ではよくある。そのくだらない痴話喧嘩に首を突っ込んでしまった。

  その日は依頼を完了し、アビスパールの支部を出たところ、酒場近くでどうやら揉め事に首を突っ込む事になった。本人の意思とは真逆の方向に……。


  「おい!そこの尻軽女!今日こそは許さねぇぞ!きっちり落とし前つけてもらう!」


 バカでかい声で叫ぶ声に思わず、アッシュは振り返ってしまった。そこには毅然とした態度で立ちはだかるウィッチの姿があった。

 状況は簡単だ。男は今日の稼ぎをこいつに邪魔された!だのと管を巻いている状態。


 酔っぱらってる人間に正論をいったところで理解なんて出来るはずもない。しかし、このウィッチは戦闘態勢に入っている。


 おいおい…町の中での私闘はご法度だぞ…

 

  男は女の胸ぐらを掴む。このウィッチ、立ち姿から魔法使いには似つかない装いだ。網タイツに少し胸元が緩い服を着ているのがいけない。

「盗人が!今日こそは体に教えてやる!」

(おい、まじかよ!こんな公然の場でポロリにありつけるのか?)

 と、アッシュは興奮してしまった。

 もっと良いアングルでみたいがために首を伸ばしたのがいけなかった。

 彼の意思とは反対に集まった野次馬達の作る壁に仲間外れにされ、喧嘩場に出てしまったのだ。

 酔っ払いの男は前に出てきたアッシュにかみついた。


「おい!あんちゃん!なんだテメー?この女の連れか?」


 男はそういうとアッシュの顔をギロリと睨みつけた。アッシュは自分の卑しい心を恨んだ。


「いやぁ~ハハハ!女の子をいぢめるのはよくないんじゃないかなぁ~アハハ…」


 と誤魔化す言葉を言い終わるのを待つ間もなく、その瞬間、右側から黒い影が飛んでくる。


 ガン!


 鈍い音がした時、アッシュの背中から大剣が顔をガードしていた。瞬きをする間もなく殴られるはずの頬を守っていたのだった。

 どうやら、剣の腹を思いっきり殴らせたようだ。


「ちょ!いきなり殴りかかってくるのはなぁ…」


 剣の硬さに思わず、女を掴んでいた手で殴った拳を抑える。


「まさかこんな展開になるとはなぁ!売られた喧嘩はこの俺が買うぜ?」


 アッシュはなぜか変なスイッチが入ってしまった。このまま、スゴスゴと場を立ち去れなくなったため、この痴話喧嘩に参戦することになった。


 拳の痛さに男は後ろにたじろいでしまう。


「俺はなぁ内容はどうでもいいんだよ。俺に喧嘩売ってきたという事実には変わらねぇ!オメーに一発借りが出来ちまったじゃねーか!キッチリ返すぜ!」


 と吐き捨てる。その瞬間、横から雷が迸る!


 ドゴオーン!と轟音を響かせ、余りにも早すぎて何が起きたのかわからないアッシュは冷静さを少し取り戻した。

 目の前には体を守るように腕をクロスさせたまま、痺れて横たわった男がいた。


「今のうちよ!早くして!」


 と、ウィッチの女はアッシュの腕を掴み、野次馬達の壁をかき分けるようにその場を去った。


 朧月夜の雲が彼らに味方するように月の明かりから隠すように彼らを夜闇へと導いた。



 ここは、フレーメの丘、羊飼いがよく利用する牧草地だ。月明かりから隠れるように逃げてきたのに、今は心地よい照明のようにあたりを照らしていた。


 脱兎のごとく逃げた二人はここで少し休憩を取るようだ。


「はぁはぁ…ここまでくれば大丈夫」


 女はアッシュの腕を放した。

 一方アッシュの方はどうやら場始末がこんな結果になり、あろうことか自分の邪な気持ちで見物していたと思うと恥ずかしくなった。しゃしゃり出てしまった挙句、啖呵を斬って、尚、喧嘩相手を目の前に逃げてしまった自分のプライドと状況の把握にとまどい、混乱してしまった。


「おいおいおい!なんだこのザマは!このアッシュ様とあろうものが、喧嘩に借りを作っちまうなんてなんて情けない!」


 頭を抱えてグルグル円を描くように小走りに歩き回り始めた。が、一周もしないうちに女に詰め寄る!


「おまえのせいだからな!あークッソ!あそこでもう少し…怒鳴り散らせば俺かっこよかったのに!」


 女はポカーンとし、そのあと笑い出した。


「キレてた割には意外と自分の事を客観的に見ていられるとかどういう神経してんだよ!アンタ!」


 と大笑いしだした。


「な、なんだよ!笑うなよ!助けてやろうとしたのに…」


 女は急に笑うのをやめた。


「男はそうやって貸しを作り、あわよくば弱みに付け込んで女を弄ぶんでしょ?」


 と、つい先ほどまで眉毛が垂れ下がっていたのに、今はつり上がっている。

 アッシュはやれやれと言わんばかりの顔をする。


「別に…お前の為にしたのは…まぁ…成り行き間違いない。だが、そんな言い方はないだろ?」

「私だってあんなレベル帯の中堅に負けるわけないでしょ!そんなこともわからないでしゃしゃり出てきたの?そもそも話の内容は全然違っていて、横から獲物をかっさらったのは向こうよ?」

「どういうことだ?」


 アッシュは首を傾げた。


「つまり、向こうはPTパーティを組んでいて、狩場を広げたところに私のテリトリーにはいってきたわけ。そこであの言い草よ!頭にくるわ!」


 と、女はふくれっ面をした。


「あ~完全に理解したわ。つまり向こうが横狩りしてきた感じねぇ~」


 アッシュはうんうんと首を立てに振った。


「そうよ。私には私の流儀ってもんがあるのよ!それをあたかも私が悪いような言い方してあいつめ!」と街を見下ろしながら恨めしそうに睨みつけた。


「まぁ…あれだ。今日は宿か家があるなら帰って寝ようや。夜も遅いし明日になれば忘れるさ」


 と、アッシュは楽観的な慰めの言葉を投げかけていたが、女はアッシュの大剣をもの珍しそうに見ていて、アッシュの慰めの言葉なんて耳に入ってなかった。


「アンタさ、ソロでやってるの?うちと一緒に冒険しようよ!」

「私の名前はユリノ、史上最強の魔法使いよ!魔法協会の中じゃそりゃ有名なんだからね!」


 と、アッシュに詰め寄った。アッシュは長い間、孤独に過ごしてきたのに、理由はない。自由に行動したかっただけだ。この世界は意外と広い。そのため、気心しれた仲間と冒険に出る機会がこの世界では珍しくない。無論、利害関係でのPTも日常的に行われている。しかし、単独活動を主にしてきた事が長すぎたため、パートナーを組むのに慣れていなかった。アッシュは動揺していた。


「いやぁ~俺はソロでいいかなって思ってるんだけど…シバリなしでいいのであれば…」


 と、戸惑いながら答える。


「もちろん!いきなりPTを組んでくれ。なんて言われたら戸惑うよね?でも、アンタと組んでみたくなったの。ほらあなたいったじゃない?成り行きよ!」


 ユリノは無邪気な笑顔でこちらを見ていた。


「まぁ…袖振り合うもなんちゃらの縁というからなぁ…まぁいいか!」

「やったぁ!そうこなくっちゃねぇ~お兄さん♪」


 こうして、二人の冒険が始まった。


 明日、朝7:00起床

 アッシュの朝は早い。

 寝起きに朝一杯のミルクティー。

 これがアッシュのテンションを上げてくれる至高の一杯だ。

 彼は愛剣を背中に背負い、家を出て待ち合わせの場所に向かった。


「遅い!」


 ユリノは昨日に続き、ふくれっ面だった。


「あれ?時間通りじゃないのか?」


 とアッシュはユリノに問いかけた。

 ユリノは呆れた顔し、そして眉毛を釣り上げていった。


「アンタ男でしょ?紳士は10分前には約束の場所でレディーを待ってるのわよ!」


そして、ふくれっ面。


 このコンボはどこの時代も変わらない女特有のスキルなのだろうか……アッシュは頭を掻きながら苦笑いをした。ユリノは次の瞬間、機嫌を直したのか杖を魔法で消して、ポケットからアビスパールから受けた依頼書を見せてきた。


 書いてあった内容がこれだ。


 “神殿守護者のリングを奪い取れ”


 たったこれだけだった。

 アッシュはきょとんとした顔でユリノを見つめる


「おい、なんだこれ?リングってなんだ?」


 と、アッシュはユリノに聞く。


「アンタ何もしらないのね。この世界に広がる古代の話をしらないわけじゃないわよね?」


 古代の話…ううっ頭が…めまいがする……


 アッシュは崩れ落ちるようにその場で倒れてしまった。待ち合わせして10分前後の出来事であった。


 どれくらいの時間がたったのだろう……アッシュは瞼を擦り状況が読めないため慌てて起き上がった。


「やべー!いつもの時間が飛ぶやつだ!」


 すると後ろから声がする。


「アンタ何言ってるのよ?ほんと朝食取らないのね?まったく……」


 ユリノは呆れてため息をついていた。


「どれくらい気を失っていた!?」

「そんな経ってないわよ?倒れて引きずってここで寝かせたのよ?」


 辺りを見渡すと街の中心にある噴水広場のベンチで寝ていたことに気づく。


「まじか?(もしかして、コイツ俺を膝枕して……)」

「まぁいいわ。もう少し寝てたら蹴り飛ばして起こしてやろうとしたくらいだから」

「そ、そうか!今日はどうも調子が悪い」

「まったく……。ダンジョンで死にそうになっても置いてくからね?」

「わ、わーったよ!ちゃんと借りは返すからよぉ!」

「フン、ほらいくわよ!?」


 二人は街はずれの門をくぐり、邪教徒達が巣食う神殿跡に向かって二人は歩き出したのだった。


 数奇な運命の旅立ちは今ここから始まったのであった。

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