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bias

作者: 蘭

「プライミング効果」

そんな言葉を聞いたことがあるだろうか。心理効果である認知バイアスの一つで、簡単な例でいうと、

「ピザって十回言ってみて」

というあれ。聞き、発言したピザという言葉に影響され、次にされる質問の答えである肘のことを膝と言ってしまう、といったものが、代表的である。だが、このプライミング効果の応用、つまり先行してある事柄を見聞きしておくことにより、後続する事柄の処理が無意識的に促進される効果を利用し、人類の行動を支配できる世界があったとしたら・・・。これは、もしもの話。だが、実際に起こりうることだろう。

爆発音が鳴り響いた。それは戦争の始まりを意味していた。我が国は、他国との貿易摩擦が悪化の一途をたどり、ついには宣戦布告。それが悲劇の始まりだったのだ。開戦当初は優勢だった我が国も、ある戦いを機に、糸が途絶えたかのように勢いを失った。


そんな中、政府が開発したのは、プライミング効果を利用した、ある一冊の本だった。

『勝利への片道切符』と題されたその本には、ある物語が書かれていた。


その物語とは、勇気をテーマとした、ある軍人の話だった。死を覚悟しながら恐れることなく敵陣に突撃し続け国の勝利に大いに貢献した英雄の一人になる。そしてその軍人は数々の困難や危機から奇跡的に生還。国の英雄として生涯たたえられ暮らす。そんな勇気ある軍人の話であった。その物語は政府の手によって敵国へと貿易国を経由し大量に輸出された。その本は他国で爆発的に広まり、

「勝利への片道切符を掴め」

と騒がれ、表面的には敵国の国民の戦意を上げる結果となった。


だが、それは政府の策略に過ぎなかった。

そして我が国は勝利した。一体何が起こったのか。

その鍵はすべて政府が作り出した本にあった。その本読んだ人々は、敵陣へ突撃することは勇気ある行動で、英雄と称えられると認識した。そして、物語の主人公と同じ境遇であることから、自分を物語の主人公だと思い込み、戦地へ赴く。また、それによってたとえ危機的な状況に置かれたとしても、心のどこかで奇跡は起きると信じているのだ。だが、奇跡の連鎖はあくまで物語に過ぎない。たくさんの主人公に奇跡など、起こらなかった。我が国は突撃してくるであろう軍隊を予測し、次々に勝利していった。そして敵国は壊滅的な人材不足となり、敗北。これがプライミング効果を利用した、我が国の勝利の背景であった。


プライミング効果は心の支配・制御とも言えるだろう。その策略がよかったのか悪かったのかは今となってはもうわからない。だが、もう終わった話だ。また新たな戦争が始まる前に、祭りへ行って酒を飲もうじゃないか。外国からも、たくさん差し入れが来ているようだ。



「ねぇ、この本なんて書いてあるの?」

「それはね、勝利への片道切符って書いてあるんだよ。読んでみな。」

このお話はフィクションですが、プライミング効果という言葉、現象は本当にあります。

いずれ、プライミング効果によって支配される未来が、訪れるかもしれません。

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