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青き炎の魔竜騎士(ドラグーン)  作者: シベリウスP
14/18

14 会心の会戦

ついに治安部隊と激突したホルンたち。圧倒的少数で戦いに臨んだ彼女たちに、思いもよらない『援軍』が現れる。

「クルサリが叩かれれば、第41旅団と第4軍司令部はホルン様の隊に意識を集中させるはずです。ホルン様の部隊はそのまま第43旅団の後ろをコドランと共に叩いてください。第4軍司令部や第41旅団、1万5千は、援軍が始末してくれます」


 マルガリータが言うと、ホルンやリュスコフを除く全員が耳を疑った。


「援軍?」


 ガルムが訊くと、マルガリータは可愛らしい顔を緩めてうなずき、ただ繰り返した。


「はい、援軍です。その部隊がクルサリを占領したら、殿下はクルサリに入っていただき、残りはアティラウを攻略します」


 何か言いたそうにするカンネーを、ホルンは笑いながら抑えて言った。


「ふっふっ、面白いじゃないか。カンネー、マルガリータはここに来る前にはロザリアやジュチとも話をしているみたいだ。黙って彼女の言うことを聞いてみよう。きっと思いもよらぬ援軍が現れるのだろうからね?」


 そして悪戯っぽい目をして付け加えた。


「だいたい、あなた自身がここに布陣していたのだって、ジュチかロザリアがトルクスタン侯に頼んだに違いないからね」


 その言葉に、マルガリータがすました顔で茶々を入れる。


「そうですね。陛下は姫様に『私は決してそなたを見捨てない』と手紙も出されていることですしね?」


「ばっ! そ、それは国主としての最低限の譲歩だよ。表立って私たちのことを助けるわけにはいかないからそう言ってきただけで、別に私のことを大事に思っているとかそう言うわけではないんだよ」


 思わず顔を赤くして力説するホルンに、ガルムが笑いながら言った。


「まあ、そういうことにしときましょうや。それよりホルンさん、戦は機を失することが最も忌むべきことだ。方針が決まったらすぐに動いた方がいいな」


「そうです、上の陣地は殿下やバグラチオン将軍がいらっしゃいますから、何の心配もございません。さっそく出撃いたしましょう」


 マルガリータはそう言うと、リュスコフと共にさっさと帷幕を出て行った。


「じゃ、俺とカンネーも出る。ホルンさん、敵の本営は任せたぜ」


 ガルムもそう凄味のある笑いを残してカンネーと共に部隊へと走り去る。


「……まったく、カビの生えた話をいつまで蒸し返すといいんだい」


 一人残されたホルンがそうつぶやくと、


『気にしない気にしない。ホルンにとっては面白くないかもしれないけどさ、皆さんはああいう冗談を言い合うことで仲間としてのつながりを深めているみたいだからね……それよりホルン、ぼくたちの部隊が最も遠くまで進撃せねばならないから、ぐずぐずしてはいられないよ、早く出ようよ』


 シュバルツドラゴンの子どもであるコドランが姿を現して言う。ホルンはそれを聞いてゆっくりと首を振ると、ため息と共に言った。


「はあ……私も少しこだわり過ぎているみたいだね。じゃ、ダヤーン、準備ができたら出るよ。長距離の機動になるから、兵士に水は十分に持たせてちょうだい。それと、全員マントを持って行くのよ」



 苦笑を押し殺していたダヤーンは、ホルンの命令にサッと敬礼して答えた。


「はい、承知いたしました」



 この時の状況を上空から俯瞰したとすると、その傍観者は次のような光景が見られただろう。


 まず、ペイノイの町の北東から東にかけては、切り立った崖があり、その上に陣地が敷かれている。

 この陣地には、ウラル帝国皇太子アゼルスタンが、ルーン公国公女ソフィアや智謀をもって鳴る女将、カーヤ・トラヤスキーと共に1千で本陣というべき陣を敷き、その周囲を護衛として皇太子護衛隊長であるアリョーシャ・バグラチオン将軍が1千を指揮して布陣している。

 バグラチオンの副将はカーヤの兄、ヴァルター・トラヤスキーである。


 ペイノイの町からは、北に向かって街道が伸びている。この街道は『蒼の海』の東岸を縫うようにして走っていて、20キロも行くと敵が中継地点としたボランクルという小村落に着く。


 中継地点にはすでに敵の先鋒である第43旅団の先遣隊3千が入り、陣地構築を進めているところだった。


 その陣地に向けて、街道を進むのは1千を指揮するカンネーとアズライールであり、その西を少し遅れて同じく1千を率いたガルムとエイセイが続く。


 東側にはリュスコフがマルガリータと共に1千を率いて進む。この部隊は敵の本隊を捉える役割を受け持っているため、敵に見つからないように注意しながら、カンネー隊の前を進んでいた。


 そしてホルンは、副将ダヤーンと共に1千を指揮して、リュスコフ隊よりさらに東を高速で北に進み始めていた。狙いは空になった敵の前進拠点クルサリを叩くことである。



 一方で、ウラル帝国治安部隊の方は、主将である第4軍司令官チェトバンナはまだ本部の部隊2千と共にクルサリにいて、第41旅団を率いるフョードロフは全軍をもって第4軍の前進指揮所となるボランクイという町へと進発していた。


 そのボランクイは、ややこしいが攻撃中継点ボランクルの北40キロにあるので、第41旅団は90キロ近い距離を進撃することになる。


 そして本来前路索敵を任務としていた第45旅団は、クルサリから遠く東へ150キロ近くも離れてしまっていた。

 この部隊は沼沢地を越えてアゼルスタンの本陣の北40キロまで進出していたが、第4軍との連絡が取れないために司令官たるチェトバンナはそのことを知らず、捜索隊1千を出して所在を確認させている最中だった。仮に今戦闘が起こったとしたら、この部隊は戦力としては期待できない状況だった。



「……という感じだ。敵はその戦闘部隊三つを三つとも連携が取れない状況にしてしまっているし、総括すべきチェトバンナも戦局の焦点からはずれた場所に位置している。明日、ホルン殿の先鋒が戦闘に入った後が見ものだな」


 アゼルスタンの本陣では、17・8歳の乙女が笑いながらそう言って紅茶を口に含む。

 戦場にあってこの少女は春風駘蕩たる風情で、鎧など厳めしいものは一切着用せず、ただ赤と黒の幾何学的模様が刺繍された厚手のワンピースの下から翠色のズボンを穿いているだけである。


「……この戦いで治安部隊を蹴散らせば、殿下の名は帝国で知らぬ者はいなくなるし、帝国でゴタゴタが起こっていることも諸国に知れ渡る。よって殿下は電光石火、帝国の領内に入るべきだな」


 少女は白髪を揺らしながら紅茶をカップに注ぎ、黒い瞳をアゼルスタンに当てて言う。


「し、しかし、今ですら兵力が足りません。たかだか6千ほどの兵でどこに拠点を作ればいいのでしょうか? 教えてください、アニラ様」


 アゼルスタンが訊くと、アニラと呼ばれた少女は薄く笑う。


 この少女、アニラ・シリヴェストルは若く見えるが、すでに250年の時を生きている魔女であり、現在ではファールス王国王妃ロザリア、ダイシン帝国の楊天権とともに三大魔女の一人に数えられる逸材である。

アニラはアゼルスタンの隣で何か考えている金髪碧眼の乙女に訊く。


「ソフィア、そなたならどうする? 我がそれを教えてもよいが、そなたは我が弟子であり、皇太子殿下の婚約者だ。今上陛下にアナスタシア様という良き補佐役がいるように、今後二人で国を運営していく際にはそなたの知恵も大事になる。まず二人で考えてみよ」


 するとソフィアは、青い瞳を持つ眼を上げて答えた。


「私には軍事は分かりません。ですからその道の専門家、バグラチオン将軍やマルガリータ様の意見を聞きたいと思います」


「ふむ、それが無難ではあるが、魔法とは様々な事象の集大成だ。敵味方の心の動き、兵要地誌や地政学、そして政治的な力学にも応用できる。ソフィア、そのことを忘れずに日常を観察し続ければ、そなたもロザリア殿のような良き伴侶となれるだろうな」


 アニラは笑うと、紅茶を飲み干して立ち上がって言った。


「さて、我が今そなたたちにしてやれることはこれだけだ。だが一つ忠告がある、ファールス王国はいずれそなたたちのために軍を興してくるだろう。国王ザール殿は義心に厚い人物、そして『蒼炎の魔竜騎士ドラグーン』とも浅からぬ縁を持つ。かの人の心を疑わず、借れる力は借りておくのだ。その恩には皇帝となった暁に報いればいい」


   ★ ★ ★ ★ ★


 ペイノイ陣地の北40キロほどの地点に到達した第45旅団は、旅団長アラン・ニンフエールの命令でその場に円周陣地を構築した。


 そして彼は、心利いた将校をペイノイ陣地の偵察に派遣する……ここまでは前路索敵として分遣された第45旅団としては当然の措置である。


 けれどアランは、


「チェトバンナ司令官殿と連絡がつくまで、戦闘行動を禁じる」


 そう陣内に通達を出した。


 そして、沼沢地東端の橋頭堡に残していた尖兵中隊を基幹とする守備隊には、


「ユリウス守備隊長は、適当な者を選抜して軍司令部へ旅団の現在位置を報告し、今後の命令を受領せよ。軍司令官殿はクルサリからボランクイの前進指揮所に移られる予定」


 という命令を出した。


 この命令を受けたユリウス守備隊長は、部下の小隊長に


「ボランクイの前進指揮所に行き、旅団長殿の報告書を軍司令官殿に提出せよ。軍からの命令があれば守備隊長に代わって受領せよ」


 そう命令を出して送り出した。


(軍司令官殿はまだクルサリにおられるはずだ。ユリウス守備隊長の部下が軍司令官殿のもとに着くまで1週間はかかるに違いない)


 アランはそう考え、


「……その間に、大きく事態が動けばよいが……」


 そうつぶやきながら、旌旗はためくペイノイの台地を眺めやった。



「旅団長殿、よろしいですか?」


 陣を敷いた次の日の夜、第45旅団副官であるアントン・グリムがアランを訪ねてきた。


「何だ? 兵糧の調達については、既に輜重隊長に必要な命令を示達したはずだが?」


 アランが言うと、アントンは首を振って静かな声で訊いた。


「ここだけの話です。旅団長殿は、ペイノイの台地にいる偽皇太子についての噂はお聞きになりましたか?」


 アランは、いつもと変わらぬ顔で答えた。


「何のことだね? 君が何か聞き知っているのなら教えてほしいのだが」


 するとアントンは、さらに小さな声で


「皇太子殿下が摂政閣下に対して名指しで国賊呼ばわりし、帝国の未来のために兵を挙げた……そう言う噂が兵たちの間に広まっています。その噂についてです」


 そう言う。


「その噂の出どころは調べたかね?」


 アランが訊くと、アントンはうなずいて、


「兵たちが大休止中に、遊牧民たちと交易した際に聞き知ったということです。皇太子殿下にはホルン・ファランドールという希代の英傑が味方に付いているという話も聞きました。旅団長殿、あの高台にいらっしゃるのは偽の皇太子ではなく、本物の皇太子殿下ではないでしょうか」


 そう、青ざめた顔で言う。その噂が本当なら、自分たちは忠誠を捧げるべき皇帝陛下に楯突いているも同然だからだ。


 アランは慎重だった。参謀といえども今回の件については軽々しく心の内を見せてはならないのだ。


「……そう言う噂は私も聞いている。だから敵陣を偵察すると同時に、その噂についてもいろいろな角度から検討を加えねばならないと感じているところだ。アントン、君がその情報を統括してくれないか?」


 アランがそう言うと、アントン参謀は蒼い顔のままうなずいた。


「ああ、それから言うまでもないが、このことは真偽がはっきりするまでは兵士たちに知らせないでおいてくれ」


 アランはそう付け加えるのを忘れなかった。


「……もちろんです、旅団長殿」


 アントン参謀はそう小声で言って天幕の外へと出て行った。


(ふむ、時期を見て旅団の主だった指揮官には事実を知らせておかないといけないかな)


 アランは天幕から出て、遠く翻る皇太子の旗を望見しながらそう思っていた。



「敵はコルケッドに陣地を敷いているようだ。高台から降りて来るとは、よほどの自信があるのかな」


 治安部隊の中継陣地であるボランクルを出発した第43旅団長のフランソワは、出発直前に手に入れた情報を吟味しながらそうつぶやく。


(敵の兵力は5百から千、多く見積もっても2千は超えないだろう。それが高台と街道沿いに2か所陣地を造るなど兵力の分散ではないか。それに普通に考えてコルケッドには5百ほどしか兵はおけないはずだ)


 そう考えていたフランソワは、今回の戦いについては楽観的な見通しを持っていた。ホルンたちが実は6千を超える兵力を持っているなどとは全く知らなかったから無理はない。


 だが、フランソワにも一抹の不安はあった。それは


(第45旅団は何をしているのだ。前路索敵に早くに出発しながら、敵情の一つももたらさないなんて。まさかニンフエール旅団は知らぬ間に壊滅なぞしていないだろうな)


 ということだった。楽観的な見通しを立てているとはいっても、持っている情報は古いものだったし、フランソワでなくとも不安の一つも抱える状況である。


 そのため、彼は先鋒の部隊から前方に偵察隊を出していた。先ほどの『敵はコルケッドに陣地を敷いている』という情報が、ヴォルゴグラードを出て以来、初めて入手した敵に関する具体的なものなのだった。


「先鋒のマルシャルの様子はどうだ?」


 フランソワが傍らで馬を進める参謀に訊くと、


「つい先ほど、偵察隊が敵の部隊を発見したという報告が入ってきました。偵察隊はその部隊を追跡しているようですね」


 そんな答えが返ってきた。


「なに、そんな大事な報告は受けたら直ちに私に上げるんだ。偵察隊が捕まえた敵部隊の詳細は報告されているか?」


 驚いたフランソワが参謀に言うと、参謀は首を振って答える。


「いえ、詳細は何も分かりませんでしたので、先鋒のマルシャル殿にさらに詳しい情報を報告するように申し送ったところです」


「……何にしても、敵の姿が確認されたのであれば、敵はコルケッドの野戦陣地に潜り込むつもりはないようだ。マルシャルを助けよう、本隊や後詰も行進速度を速めるんだ」


 こうして、第43旅団の主力は野戦を想定して進撃を始めた。



 それより少し時間を巻き戻す。


 第43旅団は、4千を率いたマルシャルが先鋒として本隊の4キロほど前を進んでいた。マルシャルはフランソワから言われていたこともあり、1千を部下のシュニーヴィントに与え、偵察部隊としてさらに1キロほど先行させていた。


 その部隊を、ホルン部隊の先陣であるカンネーが発見した。


「敵の数はおよそ1千か、思ったよりも多いな」


 カンネーはシュニーヴィント隊を見つけた時、治安部隊の本気度を悟った。本来なら百名の中隊か5百名の大隊程度を充てる前路索敵に、千の単位で部隊を投入しているのであれば、それはただの偵察ではなく威力偵察とみるべきである。


「アズライール、これは俺たちの部隊だけで勝負を決めるなんてことは考えない方が良さそうだな」


 カンネーは敵の数が5百程度ならば、その部隊をその場で壊滅させて敵の先鋒に躍り込むことも考えていたが、目の前の敵を見て即座にその考えを捨てた。


「ええ、ホルン陛下のご命令どおりに動いた方が、味方の損害は少なくなりそうですな」


 副将のアズライールもうなずく。ただ、彼もカンネーも、それしきのことで戦意を喪失したりはしていなかった。


「よく見ろ、敵は中隊程度の部隊ごとに分割して、街道の両方を監視するように動いている。街道の東側はホルン様が隠密行動されている。それを助けるためにまず俺が敵の左翼部隊を叩く。その騒ぎで敵の右翼は手薄になるはずだ。お前はその隙をついて敵の右翼を叩いてくれ」


 カンネーが指をさしながら言うと、アズライールも了解した。


「分かりました」


 そしてカンネー隊は、カンネーの本隊5百とアズライールの支隊5百に分かれ、静かに行動を開始した。



 マルシャル部隊の迂闊さは、カンネー隊を発見できなかったところだろう。同じ程度の部隊であり、戦場ははるか遠くまで見ることができる平原である。それなのにカンネー部隊を視認できなかったのは、ひとえにカンネー隊の幹部には魔力を扱える者が配置してあったからだと言える。


 であるから、マルシャル隊の左翼にいた中隊は、陽炎が突然消え、そこから降ってわいたように現れたカンネー隊5百に有効な反撃ができなかった。


「それっ、緒戦の手柄にしろ!」


 カンネーが長刀を振って号令すると、麾下の逞兵5百はモアウと共に突撃を開始する。


「わっ、敵だっ!」

「いったいどこから?」


 突然の襲撃に、左翼部隊の将兵は周章狼狽し、個々に反撃を試みたが、


「俺は天下の傭兵隊長、カンネー・イレーサーだ。冥途の土産に俺の名を覚えておけ!」


 ぶんぶんと長刀を振り回すカンネーによって、左翼は四分五裂になりかけてきた。


「敵襲か⁉」


 後方で先鋒部隊を指揮していたマルシャルは、偵察隊左翼の乱れを見て敵襲と判断し、すぐさま自分の部隊で左翼隊の後詰に回るとともに、


「右翼隊は敵の後ろに回り込め。敵の数はこちらの半分程度だぞ!」


 そう、右翼隊に命令する。


 命を受けた右翼隊長も、既に左翼の混乱を知っていたので、


「よし、左翼を助けるぞ。者ども続けっ!」


 そう号令すると、馬首を左翼隊の南側へと向け部隊を動かそうとした。


 その時である、左翼隊が右翼隊を助けるために方向転換し、自分の方に横腹を曝す瞬間を待っていたアズライールが、突然5百の部下と共に横殴りに攻撃を仕掛けたのは。


「よし、敵の横腹はがら空きだ。みんな突っ込め!」


 アズライールもまた、得意の槍を振り回しながら疾風のように右翼隊の側面から部隊を突っ込ませた。


「げっ、こちらからも敵だっ!」

「いったいどこに隠れていたんだ⁉」


 右翼隊はすでに動き始めていた。そのためにアズライール隊の突撃を受け止める有効な陣形を組むことができず、いたずらに損害を増やすこととなった。


「マルシャル様っ! 右からも敵の部隊が突っ込んできましたっ!」


 左翼を助けるために動き始めていたマルシャンは、その報告を受けて自分の部隊が直面した事態の深刻さを瞬時に理解した。右翼が叩かれ、左翼が壊滅すれば彼の部隊は敵軍の攻撃を周囲から受けることになりかねない。


「左翼隊を撤退させよ、敵が追撃を仕掛けたら本隊で叩く。右翼隊は部隊間の連携を切られないようにまとまりながら相手を受け止めよ。左翼隊収容後に右翼隊を助けるぞ」


 マルシャルの命令を受けた伝令が、次から次へと左右の部隊へと走った。


 この命令で左翼隊は後ろへと下がり始め、右翼隊は一丸となってアズライール部隊を押し留める。


「よし、敵の本隊に少しばかりちょっかいをかけるか」


 カンネーはそう言うと、まとまり始めた左翼隊を無視するように、敵の海を縫ってマルシャルの本隊へと突撃を開始する。


「ふん、猪武者が。待っていたぞ」


 マルシャルは慌てもせずに、まともに突っ込んでくるカンネー隊の横腹に左翼隊をぶつけるように動かした。


「今度はこっちの番だ。敵の横っ腹を食い破れ!」


 この命令で、マルシャルの左翼は一丸となってカンネー隊の側翼へと攻撃を開始する。


「おおっと、剣呑剣呑。そろそろホルン様のご命令のとおりに動くとするか」


 しかしそこはカンネーである。自隊が不利になったと見るやサッと兵を引いて街道を南へと後退し始める。


「アズライール、もう敵さんとのじゃれ合いは終わりだ。南へ引くぞ」


 カンネーの伝令を迎えたアズライールも、頃合いを見て右翼隊との叩き合いから離脱する。


「……そろそろいいな。みんな、陣形を保ったまま南へ引けッ!」


 左翼隊と右翼隊は一瞬、茫然とした。今の今まで叩き合っていた敵が、サッと身を翻すようにして退いていくからだ。


(こちらの不利は明らかだったのに、なぜ敵は兵を退く? 罠か?)


 左翼隊も右翼隊も、そんな考えに捕らわれて追撃命令を出さずにいたところ、本隊のマルシャルから命令が届いた。


「何をぐずぐずしている? 敵を追うんだ! 本隊もすぐ追従する予定」


 マルシャルはこの命令に蹴飛ばされるように、すぐに両翼の部隊も掌握してカンネー隊を追い始めた。


(敵はかなり有利な状況だった。それなのに急に退き始めたのには何か理由があるのではないか?)


 マルシャルはそんな危惧もあったが、


(いや、敵も偵察を主任務としていたのであれば、わが部隊を見て一撃を与えた後に退くのは理に適っている。やはりあの敵は逃すべきではない)


 そう考え直し、追撃速度をさらに上げようとした。


「ふふ、いい具合に引っ掛かってくれたもんだな」


 街道から西に1キロほど外れて行進していたガルムは、右前方に砂煙が上がるのを見てカンネー隊の接敵を知ると、すぐに魔力を発動させて部隊を隠形した。


 そして街道に近づいてしばらくすると、目の前をカンネー隊がコルケッドに向かって全速力で走り去るのが見え、続いて左の方から敵の偵察隊が砂埃を立てながら突進してくるのが見えた。


 ガルムは偵察隊をわざと見逃すと、麾下の将兵を左目でぎょろりと見渡して言った。


「いいか、敵の先陣の後ろを叩くが、すぐに俺たちの後ろに敵の後詰が現れるはずだ。そうなっても心配せず、俺の指揮に従って敵を叩き続けろ。今回の勝負は俺たちの頑張りにかかっている。戦列を勝手に離れず、戦友と心を合わせて戦え」


 そして、目の前をマルシャルの部隊が通り過ぎた刹那、


「よし、かかれっ!」


 ガルム隊は忽然と姿を現し、マルシャル隊の後ろから狼のように襲い掛かった。


「自国の皇太子に牙をむく戯けどもめ、『餓狼のガルム』、ここに推参!」


「おおっ、伏兵かっ!」

「わっ、また敵だっ!」

「どこに隠れていたんだ?」


 後ろからの奇襲に、マルシャル部隊は再び隊列を乱す。


「よし、ガルム殿が立たれたぞ。俺たちも攻撃だ!」


 カンネーは、遥か後ろから聞こえる喚声を訊くと、部隊をくるりと向き直らせ、再びマルシャル部隊への攻撃を開始した。


「くそっ、やはり罠だったかっ!」


 後ろと前から、自隊の倍する敵を受けたマルシャルは、歯噛みしながらも部隊と共に打って出る。


「フランソワ様の本隊がすぐに続いておられる。後ろに現れた敵軍こそいい餌食だ。ここを踏ん張り抜けば、我らの勝ちだぞ!」


 マルシャルは声を嗄らして叫びながら、ガルムの部隊との交戦に入った。


   ★ ★ ★ ★ ★


 戦場から遥か北、ウラル帝国の首都エリンスブルク。その街並みを北に外れると、皇帝の宮殿に匹敵する豪壮な屋敷が嫌でも目に入ってくる。


 その屋敷の主は、イヴデリ公イヴァン・フョードル。皇帝ディミトリー2世の実の弟であり、現在は帝国の摂政として皇帝を除くと最も権勢を誇っている人物である。


 彼は、邸宅の中でも奥まった部屋の中で、何人かの男たちと顔を会わせていた。

 壮麗な彫刻がされたテーブルがあり、部屋の奥に位置する場所に座っているのがイヴァン・フョードルその人である。


 その左右に、宰相ニコライ・アレクセーエフ、蔵相ヨシフ・カリターエフ、そして外相ヴィサリオ・ジュガシビリの三人が座っていた。


 そしてもう一人、灰色のマントを身に着け、顔に一つ目と二つの角を持つ不思議な仮面を被った人物が、イヴァンと向き合うようにして立っていた。


「私が君を呼び出したのは他でもない……」


 イヴァンは両ひじを机に付けて手を組み、じっとりとした視線を仮面の男に注ぎながら言う。


「……ジュルコフ大魔導士、アゼルスタンが『オプリーチニキ』を完膚なきまでに叩いたという噂が入って来たが、それは本当のことか?」


 イヴァンの声は冷たく、そして少し震えていた。信じられない知らせに彼らしくもなく動揺しているのだろう。


 ジュルコフと呼ばれた仮面の男は、軽くうなずくと


「はい、残念ながら事実です。副司令官のジリンスキー様はじめわが魔導士隊もサムソーノフ魔導士長、モローゾフ、ティモシェンコ、ヘイ、ブルカーエフ、コスイギンなどを失って再編成の最中です」


 そう言うと、一つ息をして


「コルネフの魔剣士隊も、リュスコフ、アンドロポフ、パブロフ、ロシチェンコを失い、レンネンカンプ魔剣士長が敗戦の責任を取っていますので、指揮官のほとんどすべてを失ったと聞いています」


 そう、オプリーチニキの現状を包まず述べた。

 イヴァンは非常に驚いて、


「むう、ではオプリーチニキは実質的に壊滅しているのだな……再編にはどのくらいの時間を要する見込みなのだ?」


 そう訊くと、ジュルコフは


「ポクルイシュキン司令官殿も困り果てていらっしゃるようですが、コルネフと鋭意努力はしていらっしゃいますので、半年もすれば戦力は回復するかと思います」


 そう答える。

 イヴァンは首を振って、鋭い目でジュルコフを見て言った。


「遅いぞ、それではアゼルスタンが帝国内に拠点を作ってしまった場合、皇帝がどう動くか分からぬ。アゼルスタンの始末には治安部隊を向けているが、ひと月のうちに何とかならないか?」


 ジュルコフは少し考えていたが、首を振って言った。


「難しいご要望です。ご存知のとおりオプリーチニキ隊員は『覇気』を操れる人物でないといけませんが、そのような人材は非常に少なく、また、仮にいたとしても数か月の訓練で『覇気』を高める必要がございますゆえ。コルネフからは『覇気』が不足している隊員ばかり宛がわれたので必要な作戦行動が制限されてしまったという苦情も出ています」


「隊員の充足数はどうなのだ?」


 イヴァンの問いに、ジュルコフは


「魔戦士隊も魔導士隊も、指揮官に相応しい人材が不足しています。幸い、どちらも先任者は生き残っていますので後進の指導を中心に再編成を進めていますが、部隊としての規模は当初の半分程度になりそうです」


 そう言うと、声を落として


「……ただ、閣下がもし、すぐに強力な特殊部隊を欲していると言われるのであれば、オプリーチニキの編成完結を遅らせてでも人材を引き抜き、別の組織を作ることをお勧めします」


 そう言う。イヴァンはそれを聞いてうなずき、


「分かった、早急に決断しよう。ご苦労だった」


 そう言ってジュルコフを下がらせた。


「閣下、この際、早く帝位を陛下からお譲りいただいた方がいいのではありませんか?」


 二人の会話を聞いていた宰相のニコライ・アレクセーエフが言うと、イヴァンは彼を見て訊く。


「それで小貴族たちを納得させることができるか? アゼルスタンが敗北しない限り、奴らは自分たちの権利を守るために余に面従腹背している連中だ。下手なことをすると奴らに余を指弾する口実を与えてしまうぞ」


 すると蔵相のヨシフ・カリターエフが、狡そうな目を上げ意味ありげに笑って言う。


「閣下、陛下が政務を執ることが難しければ、閣下がその後を襲われても誰も文句は言えますまい」


 その意図するところを悟ったイヴァンは、薄く笑うと静かに言った。


「ふむ、しかし証拠が残るようなやり方は許さんぞ?」



 宰相たちがに今後の帝国の方針を伝え、彼らがそれについて協議している間、イヴァンは邸宅の窓から遠く南の空を眺めていた。彼の瞳はディミトリー2世がいる宮殿の遥か先、皇太子アゼルスタンの動向を探るように輝いていた。


(アゼルスタンの小僧とバグラチオンの若造二人なら、余の敵ではない。けれどホルン・ファランドールがいるのであれば、ファールス王国に付け込まれないようにせねばならない。今の国王ザールは近隣に名を知られた剛勇で、しかもいい臣下を揃えている。ダイシン帝国とロムルス帝国、東西に餓狼のような敵が控えている中で、ファールス王国との戦いになってはすべてが水の泡だ)


 苦り切っているイヴァンの想念を邪魔するように、ドアが叩かれた。


 ドンドンドン


 その音に、宰相たちは話し合いを中断してイヴァンを見る。


「……誰だ、余は少し考え事をしたいのだが」


 イヴァンは舌打ちして言うが、ドアを叩いた者は頓着なく部屋に入って来た。


「おお、『調律者』のお使者だったか」


 イヴァンは入って来た男を見てそう言うと、表情を緩めて椅子を勧めた。


「……閣下はオプリーチニキ監察のレオン・ニンフエールが閣下を陥れるため密かに動いていることをご存知か?」


 入って来た男は勧められた椅子に座りもせずに、いきなりそう言った。


「いや、初耳だ。『調律者』のお使者よ、それは本当のことか?」


 イヴァンが驚いてそう言うと、男は重々しくうなずいて


「本当だ。閣下が皇太子アゼルスタンを亡き者にするためにオプリーチニキや治安軍を皇帝の許可も得ずに動かしたことを重大視し、その証拠を集めて回っている。まごまごしていると軍司令官のオスラビアが閣下を捕らえに来るぞ」


 そう唇をゆがめ、吐き捨てるように言う。


「……アレクセーエフ、そなたの職権でレオン・ニンフエールを止められるか?」


 イヴァンが訊くと、宰相は首を振った。


「いえ、オプリーチニキ監察は自らの職権で動きます。監察が不適当だと考えて調査を始めたら、司令官ですらその職務を止められません。彼を止められるのは陛下だけです」


 それを聞いて焦りの色を見せたイヴァンに、男は静かに言う。


「閣下、下手なことはしない方がいい。今皇帝に何かすると、それがそのまま閣下の叛心を証明することになる」

「ではどうすればいい⁉ このまま手を拱いていては、余は失脚するぞ」


 怒りの色すらにじませて言うイヴァンを、男は冷たい瞳で一瞥すると、テーブルを囲んでいる臣下たちに問いかけた。


「治安部隊最高指揮官のアレクサンダー・ヤヴォーロフと治安部隊南方方面指揮官のエドウルフ・ガルバニコフ、どちらが優秀で、どちらが皇帝に忠誠だ?」


 ややあって、宰相のニコライ・アレクセーエフが答えた。


「優秀なのはガルバニコフですが、陛下に忠誠なのはヤヴォーロフでしょうな」


 すると男は、フンと鼻を鳴らしてイヴァンに言う。


「アゼルスタンを狙っている治安部隊、このまま戦わせれば恐らく全滅するだろう。そうなるとアゼルスタンの名を内外に広めることになる。ファールス王国も介入しやすくなってしまうだろうな」


 イヴァンはさらに顔色を白くして頭を抱えてしまう。


「くそっ、ホルンなどという女が首を突っ込んでくれたばかりに、余の計画が台無しだ」


「閣下、諦めるのはまだ早い。そなたが治安部隊の戦闘を止めさせればいい」


 男がそう言うと、イヴァンは不思議そうに顔を上げる。臣下の三人ももの問いたげに男を見つめた。


 男は薄笑いと共に無言の問いかけに答えた。


「ふふ、自分が命じたことを今になって止めさせることに得心が行かないか? けれどレオンの捜査を続けさせ、治安部隊をも失い、そしてアゼルスタンに名を挙げさせるのと、皇帝に忠誠な人物を身代わりにし、自らの潔白の証明になりえる演技をするのと、どちらがそなたのためになるか、明々白々ではないか?」


 男が言わんとすることに、すぐさま宰相アレクセーエフが反応した。


「おお、それで時間が稼げる。閣下、私はすぐに閣下の命令として治安部隊南方司令部に軍事行動の停止と、治安部隊最高司令官の逮捕を命じます」


 そう言って立ち上がるアレクセーエフを見て、イヴァンも男の言わんとするところを理解したのだろう、顔色が常のものに戻って行った。


「うむ、それで時間を稼ごう。しかしオプリーチニキへの命令については、レオン・ニンフエールを止められぬぞ?」


 イヴァンの言葉に、男はこう言ってうやうやしく礼をする。


「その点は、わが『調律者』様を頼られればいい。私は『調律者』様からあなたを連れてこいと命じられたのでここに来たのだ。『調律者』様はあなたに大事な用があるらしい、一緒に来ていただけますな?」


   ★ ★ ★ ★ ★


 『蒼の海』東側では、ホルン率いる皇太子軍の支隊と、ウラル帝国治安部隊第43旅団の先鋒の間で激闘が続いていた。


 第43旅団のマルシャルは、前後からガルム隊とリョーカ隊に挟まれつつも善く戦っていた。ホルンが連れて来た部隊の指揮官は魔力が覚醒していて、戦場経験も豊かだったのだが、


(ここで治安部隊第4軍を壊滅させる)


 という目標があるため、リョーカもガルムも戦機を図りつつ部隊を進退させていたことが、マルシャルの善戦の最たる理由だろう。


 だから、マルシャルが待ち焦がれた第43旅団主力の戦闘参加は、逆に彼らの部隊に壊滅の序曲を奏で始めたと言っていい。


「よし、フランソワ様の部隊が到着された。敵の方が不利になったぞ! みんな勇気を出せ!」


 マルシャルは、後ろから襲ってきたガルム部隊の後方が突然乱れるのを見てそう叫んだ。重囲の中で戦い続けていた兵士たちにも希望の光が見えたことだろう。


 しかし、ガルムはもとより覚悟してマルシャル隊の後ろに噛みついていたので、フランソワ隊の到着は別に不意打ちでもなかった。


「ふん、やっとおいでなすったな。よし、俺が敵の本隊の行き足を止める。エイセイは敵先鋒隊が突っ込んで来られないように頭を押さえていてくれ。四半時(30分)もすれば、敵は四分五裂になるからな」


 ホルンのもとで苛烈な『終末預言戦争』を戦い抜いた古強者『餓狼のガルム』は、その二つ名にふさわしく果敢な突撃を見せ、フランソワの先頭部隊は大きな損害を受けて行き足が止まった。


「まて、少しおかしいぞ」


 フランソワは、自らの先陣を難なく破砕したガルム隊が5百ほどの人数を要しているのを見て、本隊と後陣に戦闘態勢への移行を命じるとともにそうつぶやく。


(敵の兵力は多くて1千と聞いていたが、マルシャルを叩いている兵力だけでもそれくらいはあるぞ。まさか全軍をここに集めているわけではあるまい。とすると……)


「敵の兵力は思ったより多いらしい。周囲に伏兵がいないかすぐに調べよ!」


 フランソワが参謀にそう叫んだ時、後陣を指揮するシュニーヴィントから緊急の連絡が入った。


『後方から敵約1千の奇襲を受く。敵部隊の指揮官はフランソワ・リュスコフ殿なり。我が隊は現在、その敵を抑えて奮闘中』


 この報告は、フランソワに大きな衝撃を与えた。


 一つは、敵の兵力は『多くて1千』などという生易しいものではないことである。マルシャルとシュニーヴィント部隊を襲ってきた敵だけでも2千になる。これにペイノイの陣地に依る敵や、他の伏兵があるかもしれないことを考えると、


(敵の兵力は少なくとも5千はある。ひょっとしたら万を数えるかもしれない。それも魔力が使える者たちで……)


 そう考えて表情を引き締めた。


 しかし、彼にもっと大きな衝撃を与えたのは、敵側にオプリーチニキで魔戦士隊でもその名を知られたリュスコフが加わっているということだった。


(皇帝親衛隊の指揮官だったリュスコフ殿が、皇帝陛下に刃を向けるのを覚悟の上で敵軍に寝返るということは考えにくい……とすると、我々が狙っている『偽皇太子』とは偽者ではなく、本物の殿下であるのかもしない)


 そう考え至った時、フランソワは身震いした。今回の戦役は第4軍の命令ではあるが、だからと言って皇太子に敵対する行為が肯定されるとは思えなかったからだ。


 そして、混乱するフランソワに最後の止めとなる情報が、ほどなく右翼、西側からもたらされることになる。



 そのころ、第4軍司令官であるチェトバンナは、前進指揮所があるボランクイに入る直前、2通の伝書鳩報告を受けた。


 一つは、攻撃中継陣地であるボランクルから出撃した第41旅団発のもので、


『第43旅団が兵力2・3千の敵軍と激闘中との報告を受け、急遽支援に出撃する』


 というもので、もう一つは第4軍の拠点となっているクルサリに留めた守備隊からの


『ホルン・ファランドール率いる約3千の部隊から奇襲を受ける。被害甚大なるも現在、食糧庫を拠点に交戦中』


 というものだった。


 二つの報告を受けたチェトバンナは驚愕するとともに、しばらく茫然自失の態だった。


「……敵軍は『多くても1千』ではなかったのか?」


 そうつぶやくチェトバンナは、敵の全兵力を約1万と見積もらざるを得なくなった。そして、その前提で考えると、ホルンから襲われているクルサリが失われてしまったらどうなるかを考え、怖気をふるって傍らにいる参謀に命令した。


「クルサリを敵に渡すわけにはいけない。第41旅団に、すぐに反転して共にクルサリを奪回するように命じよ」


 そして第4軍司令部は、3千の兵と共に前進指揮所に入らぬまま、その場から回れ右をし、クルサリに向けて北上を開始した。



「さて、敵の主要な物資は手に入れたね。後は南から来る敵の司令部を叩き潰すだけだね」


 そのころホルンは、敵が今回の戦役のために造ったクルサリの物資集積所を奪取して、ニコニコしながら副将ダヤーンに言う。


 ダヤーンは呆れたように首を振ってホルンに訊いた。


「しかし、ホルン様の『終末預言戦争』での活躍は噂に聞いていましたが、クルサリまでの百数十キロを『転移魔法陣』なんか使って移動するのは反則じゃないですかね? 捕虜の扱いはいかがいたしますか?」


 ホルンは、武装解除されて地面に座っている千人ほどの兵士たちを見ると、つかつかとそちらに近づいて、


「私の名はホルン・ファランドール。ウラル帝国皇太子アゼルスタン・ルーリック様からの依頼を受けて、皇太子殿下の帝国立て直しに力を貸している者さ」


 まず、兵士たちに大声でそう言うと、『死の槍』を左側に立てて、翠の瞳を持つ眼でぐるりとみんなを見渡しながら続けた。


「皇太子殿下は、農奴のような身分を廃止して、貴族が庶民を虐げず、庶民も一人の人間として尊重され、自らの意思で自らの生活を豊かにできる帝国を目指しているそうさ。

 私はそんな殿下の志に共鳴して協力を約束したけれど、この中で私と共に自分たちのために殿下に力を貸してもいいってヤツはいないかい? いたらその場に立ち上がってくれないか」


 兵士たちはそれを聞いて、互いを見合っている。そこに、ホルンの声がまた響いた。


「もちろん、強いて協力しろって言うわけじゃない。協力できなくても命は保証するし、この場から故郷に帰りたけりゃ帰ることを引き止めはしないさ。皇太子殿下もきっとそうされるだろうからね」


 すると、鋭く青い瞳をした赤毛の男を中心に4・5人の兵が立ち上がり、真剣な顔でホルンに訊いた。


「あなたが言われたことは、本当に皇太子殿下のお気持ちなのですか?」


 ホルンは大きくうなずくと答えた。


「ああ、私は殿下と十分に話し合い、殿下のお気持ちを理解したうえで力を貸すって決めたんだ。あの気持ちに嘘偽りはないって私は信じている」


 それを聞いて、赤毛の男は言った。


「なら、俺はここに残る。どうせ戻ってもまた領主様から駆り出されて戦に出なきゃならないってのがオチだ。同じ戦うんだったら、俺たち自身の未来のために戦った方がいいからな」


 周囲の男たちも口々に同意する。それを聞いて、他の兵士たちの中からもぽつりぽつりと立ち上がるものが出始め、最終的には半分ほどの兵士たちがホルンの麾下に加わった。


 ホルンは、ダヤーンが兵士たちを整列させ、他の捕虜たちを解放するのを眺めながら、


「ふむ、使えそうな人物だね」


 兵士たちの列に紛れた男の後姿をじっと見つめていた。



 第43旅団の戦闘突入を知った第41旅団長リンゼイ・フョードロフは、


「フランソワからの知らせでは、敵の数は想定の数倍だそうだ。わが旅団は急ぎ進出して、第43旅団を支援するとともに共同で敵を撃ち破る」


 そう命令すると、すぐさまボランクルから南下を始めた。


 当初の予定では、第43旅団がコルケッドにある敵の野戦陣地を攻めるのと同時にペイノイの陣地線への攻撃を開始するはずだったのだが、第43旅団の接敵が思いのほか早く……というよりホルンたちの兵数を過小に見積もり、勝手に『敵は陣地戦を展開する』と思い込んでいたため、第41旅団は攻撃準備が完全に終わらないうちに戦線参加を強要される形となった。


 それでもフョードロフは


「投石器や楯は陣地戦に必要なもので、野戦ではかえって邪魔になる。それらの準備が無くったって問題ない。敵は全軍で1万としたらフランソワが相手にしているのは3千から5千ってところだろう。俺たちとフランソワ旅団、2万でかかれば鎧袖一触だ」


 と自信満々だった。


 フョードロフの言は、相手が普通の軍隊だったらうなずけるものだったろう。現に今、フランソワの第43旅団を叩いているのはガルム隊、リョーカ隊、リュスコフ隊のわずか3千に過ぎない。


 けれど、フョードロフ旅団を待ち受けていたのは、思いもよらぬ敵だった。


 ボランクルを出撃して1時間もひた走っただろうか、第41旅団は進路前方に恐るべき敵が待ち構えているのを目にした。


「あれは、なんだ?」


 先鋒の部隊では、誰もがその巨大な影を見てそうつぶやく。その影は高さ15メートルもあり、長い尻尾と巨大な翼を広げて彼らを待ち受けていた。


「ドラゴンだっ!」


 第41旅団にはドラゴンを見たことがないものが多かったが、それでも何人かはその影を見た瞬間、それが『ドラゴンの中のドラゴン』と呼ばれるシュバルツドラゴンであることを見抜いて、恐怖でそう叫んだ。あんな化け物に人間が敵うはずがないのだ。


「ドラゴンだっ! 逃げろっ!」


 一人の兵士がそう叫んで不意に逃げ出すと、茫然としていた兵士たちもまるで釣られるように隊列を離れだす。


「静まれっ! 逃げる者は厳罰だぞっ!」


 隊長たちは口々にそう叫んで兵士たちの動揺を鎮めようとするが、その動揺は中軍にまで及ぼうとしていた。


「何だ、先鋒が騒がしいな。何が起こった?」


 フョードロフが、先鋒部隊の動揺を見てそう訊いた時、ピカッというまばゆい光が宙を奔ったと思うと、唐突に火の玉がいくつも先鋒隊に降り注ぎ、爆発した。先鋒隊の将兵が騒ぎ、喚く声はフョードロフのところにまで届いていた。


「戦闘準備! 油断するな、得体の知れないものがいるぞ」


 フョードロフがそう叫んだ時、空が翳り、巨大なドラゴンが目の前に現れた。


「おおっ、シュバルツドラゴン……」


 フョードロフがそうつぶやいた時、空中のシュバルツドラゴンは目もくらむような光と共に、ファイアブレスを放った。



 ボランクルの南方で第41旅団将兵が一人残らず消滅したころ、ガルム隊などを相手に善戦していたフランソワの第41旅団も最後の時を迎えようとしていた。


「マルシャル、前面を受け止めてくれ。リュッチェンス、後は任せたぞ。シュニーヴィント、左翼の敵は君に任せる」


 フランソワは、部将たちにそれぞれの担任区域を指示し終えると、


「クメッツ、私は右翼から出撃する。2千を与えるから私が出た後、右翼を支えてくれ」


 彼は右翼側の敵密度が厚くないことを悟り、自ら1千を率いて出撃しガルムたちの3部隊を各個に撃破するという賭けに出ることにしたのだ。


「続けっ! 敵を突破して右旋回し、裏切り者を成敗するのだ!」


 フランソワは最初の目標として、皇帝護衛隊の指揮官でありながら裏切ってホルン側についたリュスコフを狙うこととした。『裏切り者を討つ』というフレーズは味方の士気を上げ、団結を強めると踏んだのだ。


「突っ込めっ! あの程度の小部隊など蹴散らせっ!」


 フランソワは槍を回して1千の部隊の先頭に立ち、おりしも布陣していたリョーカ麾下の1個中隊を蹴散らした。


 しかし、彼の運もそれまでだった。突然、彼らの目の前に、深い海の色をした髪をなびかせた男が率いる『青い軍団』が姿を現したからだ。


 先頭でモアウを駆る男は、黒潮のような瞳を光らせ、蛇矛を回して攻め寄せて来る。


「私はガイ・フォルクス、近くのアクアロイド集落の依頼を受けてここに来た。集落に脅威を与えているという軍勢の指揮官は貴様か?」


 突然の問いかけに、フランソワは驚いて答えた。


「私はウラル帝国治安部隊、第43旅団長アンドレイ・フランソワ。アクアロイドに脅威を与えているとはどういうことだ? 我らには何の心当たりもない」


 するとガイは蛇矛をフランソワの胸に向け、大声で言った。


「黙れっ! 貴様らはウラル帝国のものだと言うが、だとしたらなぜ緩衝地帯たるここに居る? しかもボランクイに陣を敷くに当たって近くにいる同胞を強制的に徴用するとは許し難いぞ!」


 それを聞いて、フランソワの顔から血の気が引いた。確かに彼はボランクイに第4軍前進指揮所を開設する際、近くにあったアクアロイドのコロニーに押しかけ、人員を徴用していたからだ。


「何も答えられないようだな。我ら気高きアクアロイドの同胞を自国民のようにこき使い、あまつさえ数十の死亡者を出すとは言語道断だ。その償いをしてもらうぞ」


 ガイはそう言うと、たちまちフランソワを蛇矛の餌食としてしまった。


「お前たちの指揮官は、アクアロイドへの暴虐のかどにつき処断した! 無駄な抵抗は止めよ!」


 ガイはフランソワの首を落とすと蛇矛の先に突き刺し、そう大音声で叫ぶ。


「あれは、噂に聞く『紺碧の死神』ではないか?」

「そうだ、あんな奴には敵わぬ」


 ガイの噂を聞き知っていた兵たちが我先に武器を捨てて地面に座ると、やがてそれは全軍に波及し、第43旅団はついに全軍捕虜となってしまった。


「ガイ将軍、助かりました」


 捕虜たちをコルケッドに送致する道すがら、マルガリータがガイにモアウを寄せて言う。ガイは眉毛一つ動かさずに


「そなたたちとは何の関係もない。私は陛下の許しを受けて『蒼の海』周辺の同胞を王国に勧誘していた時、たまたまコロニーから救援依頼を受けたに過ぎない」


 そう言うと、彼にしては優しい瞳でマルガリータを見つめ、薄い笑いと共に言う。


「……にしても、そのような状況を作為して私の出番を作り上げるとは、さすがにそなたはロザリア王妃の愛弟子だけはある。今後事態がどのように動くか分からぬが、ホルン様のことは頼んだぞ」


「はい、力を尽くします」


 マルガリータの返事を聞いて、ガイは笑いを収めるといつものぶっきらぼうな言い方で配下のアクアロイドたちに下知した。


「さて、我々は任務を果たさねばならぬ。みな、『蒼の海』へと戻るぞ」



 ウラル帝国治安軍第4軍司令官サライ・チェトバンナは、物資集積拠点であるクルサリの南方20キロのところで立ち往生していた。


『クルサリにホルンが攻撃を仕掛けてきた』


 という守備隊からの緊急通報を受け、すぐに軍を返した彼だったが、ここまでの1日半で状況はこれ以上にないほど悪化していたのだ。


 まず、クルサリ奪回の主力として期待していた第41旅団の壊滅がその日のうちに知らされた。ただの壊滅ならまだいい、普通は3分の1程度が被害を受けたら『壊滅』となるため、少なくとも3千くらいの将兵を糾合することは可能だからだ。


 しかし、今回はレベルが違った。何しろドラゴンの襲撃を受けて1万の将兵が旅団長以下まるまる消滅したのだ。驚いて出した連絡隊からの報告は、『地面の焦げ跡と、あちこちに散らばった炭のような物体以外は何も見つからなかった』という悲惨なもので、彼はその報告に恐怖すら覚えた。


 続いて、次の朝には第43旅団の壊滅が知らされた。これは旅団の生き残りが追い付いてきたもので、その数こそ1千人に近かったが、もともと1万人いたのが10分の1になってしまった勘定である。これもまた『消滅』というに相応しかった。


 その報告で特にショックだったのは、ファールス王国驃騎将軍で『終末預言戦争』を生き抜いた英傑の一人、『紺碧の死神』ガイ・フォルクスの出現だった。

 ガイは『蒼の海周辺にいるアクアロイドからの救援要請のもとに出撃した』と釈明したらしかったが、ファールス王国国王ザールの意を受けた行動であることはほぼ間違いなく、それはファールス王国がウラル帝国の内情を気にし始めたことを意味するものと受け止められるからだ。


(前には名にしおうホルン・ファランドールが率いる2千弱の軍勢とドラゴン。後ろには『紺碧の死神』をはじめとした戦慣れしたホルン一党率いる軍勢5千。対して私が率いるのは疲労困憊した将兵4千弱……第45旅団でも近くにいれば)


 チェトバンナはこの時ほどアラン・ニンフエール率いる第45旅団を渇望した時はなかった。しかしその軍勢は他ならぬ彼自身の起案した作戦に従い、前路索敵と分進合撃策によって遠く東方にいて連絡もつかない。


「手詰まりだな……」


 彼が帷幕の中で呻吟していた時、副官が来客を告げた。


   ★ ★ ★ ★ ★


 一方、ペイノイの陣地に残ったアゼルスタンたちは、アランの第45旅団が北方40キロのところまでやって来たことに気付いていた。


「ホルン様の話によれば、指揮官のアラン・ニンフエールには殿下に楯突く意思はないということでしたが、斥候を出してこちらの様子を探っている節はうかがえます。油断はできませんな」


 バグラチオン将軍が言うと、アゼルスタンの隣に腰かけている金髪碧眼の少女が、首をかしげて言う。


「将軍のおっしゃるように油断はできませんが、部下の手前そうしているのかも知れません。ここに殿下がいらっしゃることを知らせてやれば、アランの本音が見えるのではないでしょうか?」


 少女の言葉に、亜麻色の髪と紫紺の瞳を持つ少女がうなずいて言う。


「そうですね、ソフィア姫のおっしゃるとおりだと思います。将軍、うまくすれば私たちは戦わずにあの1万を味方にできるかもしれません」


 身を乗り出すようにして目を輝かせる少女に、同じ顔をした青年が声をかけた。


「カーヤ、早まるな。バグラチオン将軍は殿下のことを第一に考えていらっしゃるのだ。まず殿下の身の安全確保が何にも増して優先されるべきことだ。アランを味方にすることは二の次三の次でいい」


「あら、じゃ、お兄様はみすみす味方を増やすチャンスを見逃せとおっしゃるのですか?」


 カーヤが口をとがらして言うと、青年は苦笑いしながら


「見逃せというのではない。早まったことをして危険を呼び込むなといいたいのだ」


 そう言い直した。


「もちろん、アランに対して働きかけることには反対しない。少なくとも、彼から攻撃されるという恐れはなくなるだろうからな」


「では、アランに使者を送ってもいいですか?」


 カーヤが勢い込んでそう言うと、ソフィアはニコリと笑って首を振る。


「こちらからコンタクトを取っては、そのことが表沙汰になった時にアラン殿にどのような危難が降りかかるか分かりません。それより、敵がこちらを偵察しているのは幸いです。斥候を捕えて、その者に実情を持ち帰ってもらう方法はどうでしょう?」


 それを聞いて、アゼルスタンがバグラチオンに訊く。


「うん、アランがヴォルゴグラードに戻った際、僕からの使いが来ていたと言われた時に申し開きができないということだな。彼が真実、僕のためを思って行動しているのならば、余計な疑いがかからぬようなやり方をしてやる必要はある。バグラチオン、そなたはどう思う?」


「いい方法だと思います。さっそく、巡回を強化させましょう」


 バグラチオンはそう言って、陣地周辺の監視巡回を厳にさせた。


 その効果は程なく現れて、数日後には2・3人の斥候が陣内に引き立てられてきた。


 バグラチオンは、それぞれがただの兵士ではなく、将校斥候であることを確認すると、ヴァルター・トラヤスキーと共に彼らの前に現れて強面で訊いた。


「諸君は治安部隊の一員であろう。諸君も知ってのとおり、アゼルスタン殿下は帝国の将来を憂え、陛下のご指示のもと旧弊を打破しようと軍を興された。その殿下が依られるこの陣地に、諸君は何のために来たのだ?」


 するとそのうちの一人が、顔を上げて答えた。


「私は第45旅団参謀、アントン・グリム。私は旅団長殿からの指示で殿下が本物かどうかを確認するためにここに参りました。旅団の将兵はすでにこの陣地におられるのは本物の皇太子殿下ではないかという疑問を抱いています。そのような状況では旅団長殿がどのような作戦を立てても絵に描いた餅。そこで真偽を確認せよとのことでした」


 バグラチオンはアントン参謀を正面から見据えて訊いた。


「もし、偽者だったらどうするつもりだったのだ?」


「私が陣に戻らないことが、すなわち殿下が偽者であるという証拠となりえます。殿下がおられれば、私の話を聞いて私を旅団に戻さないという選択をされるはずはございませんから」


 それを聞くと、バグラチオンは機嫌よく奥の帳に声をかけた。


「ということだそうです。見事な人物ですな、殿下」


 すると、帳の後ろからアゼルスタンその人がソフィア姫と共に姿を現した。二人とも柔和な顔でアントンたちを見つめながら歩み寄ると、


「立派な覚悟だな、そなたは。ここに僕がいることをアラン・ニンフエール旅団長に伝えて、帝国のために力を貸してほしいと伝えてくれないか?」


 そう言うと、ソフィア姫もうなずいて付け加えた。


「第4軍司令部や他の旅団は、遠からずホルン様の虜となるでしょう。国内ではこの度の治安部隊の出撃が問題となり、摂政イヴァンは責任を治安部隊総指揮官に押し付け、アレクサンダー・ヤヴォーロフを罷免したという話も聞こえています。良禽は木を選ぶ、アラン殿のような将帥を失うことは国家の損失です」


「……殿下やルーン公国公女様のお気持ち、確と伝えてくれよ」


 バグラチオンはそう言うと佩剣を抜き、アントンたちの戒めを断ち斬った。


 第45旅団が挙げてペイノイの陣門に降ったのは、その次の日のことであった。


   (『15 皇帝の錯乱』に続く)

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

アゼルスタンの今後を卜する戦いは、どうやらいい目が出そうです。

しかし、事態は単なる国内の内紛を超えたものになっていきます。

次回もお楽しみに。

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