準備期間
パタパタと、ナビ妖精が飛ぶ。
ブンブンと巨大な蜂モンスターが襲ってくる。
「23匹め」
ぶんっと杖が振られ──蜂が消えていく。
「基本武器は、剣、盾、杖、と」
「24匹めっ! 槍とっ、弓だなっ」
拳が振られ、蜂が吹っ飛び消える。
「25──なら、コレは?」
最後の蜂は、近づいた途端切り裂かれた。
リュウキとシドは、レイの握るソレを見る。
木製の短い棒の先、ちょっと湾曲した先が尖った刃がついた──。
「鎌?」
「鎌だなっ、専用武器……武器か? 道具じゃなかったか?」
「専用武器欄にあった」
それは鎌だった。ごく普通の、ホームセンターに売っているヤツだ。
「蜂退治、終わりだよっ! クエスト終了〜、お疲れ様っ」
「蜂蜜だよ〜! ちょっとちょうだい?」
「ちょうだい?」
ナビ妖精が三人もいると賑やかだ。
報酬の蜂蜜を狙って、おねだりしてきた。
現在、三人で簡単なクエスト中。レイが急激にレベルアップしたため、中堅エリアでも狩りが出来てしまう。
蜂蜜は、小さなビンに詰められた物が50近くドロップしていた。
「これで、高級な蜂蜜作れる」
「甘いんかねー」
「さあな」
近くの村に歩いて戻りながら、レイはのどかな景色を眺めた。
ローブを相変わらず愛用しているが、色は暗い緑色だ。もちろん、目立つのを防ぐため。
先日の開門戦で注目を集めてしまったため、ローブの色だけでも変更した。謎の薬師プレイヤーを捜せと、巷ではちょっとした騒ぎになっている──しばらく、はじまりの街には行けないだろう。
なので、初心者エリアから、中堅エリアに活動場所を変えた。
クエストや、採集も、三人でこなせてしまうため、今の所順調である。
ただ──。
「フェルメワールドくらいが安全だぜ? あまりに現実と違和感ないと、逆に錯乱とかするらしい」
ゲームとの差異に慣れず、動きづらい話をしたら、シドがそう告げた。
シドは現在、自宅療養中であり、身動きできない代わりに、様々な没入ゲームをしているらしい。
「一番、ヤバいのがある。余りにもリアリティありすぎてな。ニュースになってただろ」
「ん……、ゼノル、だっけ」
「そう、それ! 大人向けでな、AIも、触感も、味覚まで本物の世界で……中毒性があって」
シドは心底恐ろしそうに首を振る。
「18歳以上のゲーム? シド、まだ17……」
「シーっ、兄貴のデータ借りたんだよ。アレはオレには無理だった。なんぜ、本当に生き物殺した感じで……」
「……それは無理だな」
「だろ? だから、フェルメのが安全」
村に入ると、さすがに話題は変わった。
さて、調合である。
宿屋で部屋を借りて、レッツ調合。シドは帰った。
蜂蜜を薬草と混ぜる。混ぜる。
「レベル100超えた? ならマイホーム持てる」
調合なども、マイホームで作業できるらしい。倉庫も拡張され、他にも色々。
「二人は?」
「持ってるけど……」
あまり、使ってなかった。職業的に、必要ないのだ。
マイホームを持つにも、資金がかかる。金額を聞いて、レイは思案顔。
「高いな……場所だけ、借りれないか?」
「……いいけど」
何故かリュウキは気がすすまないようだ。
理由を聞いたら納得した。
「ゲーム内で結婚」
「そう。カップルなら、互いのホーム機能使える」
うーんと二人で考え込んだ。
「一応、ミューレイに許可もらえたら」
「……無理するな」
ゲーム内という事を、彼女が理解できるか疑問。
カップルは自由。男女キャラでも同性キャラでも可能。カップル特典もある。カップルイベントが有利。
互いの倉庫内の、武器や防具、アイテムまで使える。優遇措置しかない。考えたらいい案に思えてきて、リユキは乗り気に。
「結婚式しないと」
男同士では抵抗があるが、いまは偽女子だ。
「待て」
とりあえず、後で考える事にした。
シドがいない時は、二人で回れる狩場に行くか、採取か調合。レベルはサクサク上がり、装備も中堅で揃った。
動作環境の曖昧さにも、だんだん慣れた頃。
大規模参加イベント、がきた。
夕暮れの海原に、オレンジ色の夕日が溶けていく。
潮風と、おだやかな波音をバッグに、レストランでまったり夕食。
「宿題、終わった」
やりきった顔でリュウキは伸びをした。
「お疲れ様?」
「ん」
食後のデザートに舌鼓をうちつつ……すっかり扱いに慣れた携帯端末を操作する友人を、しげしげと観察する。
ホテルでの生活もすっかり慣れ、最近は新聞まで読み出した。
こちらの世界の情報が、面白いらしい。悪影響与えないかが、ちょっと心配なリュウキである。なので質問してみた。
「面白いのは、世界が違っても、人間があまり変わらない事だな」
「……ん」
「国単位で集まり、生きるために資源を奪い合い、戦争し合う。同じ歴史を繰り返す。──これほど豊かな生活をしながら、満足できない。人間ほど、愚かで、諦めが悪くて、悲しい生き物はいないだろう」
ほとんど陽が落ちた暗い海に、アイスブルーの眼が向けられる。
「これだけ悲しい歴史を繰り返しても、絶望で滅ばないのが、しぶとい生き物な証拠だろう」
まだ若いはずなのに、既に達観しきった静かな表情をされ、返す言葉もない。
黙っていると、ふと眼差しがこちらを捕える。
呆れたような、仕方なさそうな笑み。
「真面目な質問しといて……眠いか?」
お腹いっぱいで、波音が心地良くて、傍には信頼できる友人がいて──気を緩めるなという方が無理だろう。
素直にうなずく。
波音に心惹かれながらも、部屋に戻る事にした。
ちょっとひと眠りして、目を覚ますと真夜中だった。
「……」
中途半端に寝てしまったせいで、目が冴えている。
しばらくベッドの上で寝返りを打っていたが……。
ゲーム内の時間の流れは、現在地とリンクする。真夜中のレインパレスから、ちょっと足を伸ばした。
採取するような物も、モンスターも出ない、何も無い草原と林。
背中の翼の感覚を、確かめる。しばらくサボっていた、天使の飛行訓練を地道にしてみる。
なんとか納得したので、さてアウトしようと──。
「?」
パレス側の草原に、誰かが佇んでいた。
同じ天使族で、翼持ち。
下手な飛行を見られていたのかと、恥ずかしくなり慌ててログアウトした。




