種族
簡易鑑定は誰でもできるらしい。
リユキに引率されて、最初の街から三つ目の街に移動し、森へと踏み込んだ。
外の自然も、やはり違和感を感じた。土を踏んでも、薬草を摘んでも、小さな違和感は付きまとう。
「ハーブ、ハーブ、毒草、たんぽぽ、あ。あった、辛い薬草」
「これか」
長い裾が地面に着くのも構わず、薬草探しを続ける。使っていると摩耗して耐久性が落ちていくが、装備は汚れないらしい。
ゲーム内のため汗もかかないし、匂いは料理のみ。
森の中をウロウロして、目的の薬草を集めていく。
その森の中で、はじめてモンスターに遭遇。
ぴょんぴょん跳んで牙を剥き、襲ってきた赤いウサギ?
リユキが気付いて顔を上げた時には、レイがサクッと鋼の剣で首を落としていた。
ウサギが粉々になり、アイテムがボックスに入る。
「レッドラビだ。辛い肉」
「食えるのか」
薬草をたくさん集め終えた頃には、赤いウサギは11匹討伐されていた。
近くの街に戻り、換金所に出す。
「ここまだ初心者向けの街だから。安いな」
「調合は、どこでやるんだ?」
「どこでもできるけど……宿屋行こ」
そろそろログアウト時間だが、レイが調合したそうだったので延長。
部屋を借り、空箱を逆さにして、料理ならぬ調合の準備。
「火は」
「火打ち石?」
サーモンを焼いてみる。
いきなり焦げた。
二回目、三回目、四回目も失敗の報告を、ナビ妖精が何故か嬉しそうに叫ぶ。
「失敗は成功のもと! はい、五回目失敗〜」
妖精にイラッとしてきたので、黙ってもらう。
六回目でようやく焼けた。
「お」
「お」
半分こして実食してみたが……。
「?」
「味覚は再現難しいらしいから」
調合はいったん諦めて、ログアウトした。
少し休憩してから、晩御飯食べにホテル内のレストランへ。
照明の落とされたモダンなレストランで、雑談しながらお腹を満たす。
「やっぱり、リアルのが飯は上手い」
「ああ」
ご飯が終われば、風呂に入って就寝だ。ホテル内はどこも涼しいので、それは有難い。
ベッドに潜った途端すやーと寝てしまったリュウキを横目に、レテューは部屋にある時計を見る。
働かないで一日じゅう遊んでいるなど、向こうの世界では考えられない。
その遊びが特殊すぎて、ついて行くので精一杯だ。別世界すぎて、理解が追い付かないと言った方が正しい。
もちろん、リュウキ達の世界に来る時に、こちらで見たもの、聞いたモノは公言しないよう言われた。
レテューの仕事は、リュウキをひとりにさせない事である。
過保護な保護者達から念入りに指示されている。あとは、自由にして良いとも。
「……」
自分用にと渡された携帯端末を、恐る恐る触り出した。
まずは、現在宿泊しているホテル。広くて快適で今の所、問題はない。しばらくここに泊まるらしく、施設の把握をしておけば大丈夫だろう。
さっぱり理解出来ないのが、誘われたゲームである。
情報が載っていると教えられたページに入っていく。が、ほとんど漢字が読めない事でつまづく。色鮮やかな写真や、動く絵も見慣れない。
「……」
まずは言語からだ。
すやすや気持ち良さそうに眠るリュウキの横で、ひとり勉強を始めるのだった。
朝ものんびり起きて、プールでひと泳ぎしてから朝食用のレストランでブレックファスト。
リュウキの夏休み宿題が終わってから、ホテルの施設内を散策。
「漢字ドリルやったの」
「そうだ」
「が、がんば」
リュウキは特殊仕様のため、異世界言語も自動翻訳されている。
当人はずっと日本語のつもりだが、相手に合わせて喋れているのだ。自覚はないが。
新聞や本が置かれ、ソファーがランダムに配置されているロビー脇の休憩所で、宿泊客には無料サービスのお茶セットをつつく。
もうすぐ昼飯だが、ケーキ一個なら余裕だろう。
「……ゲームやめとく?」
「リュウキはやるんだろ?」
曖昧にうなずくのは、別にやらなくてもいいからだ。
流行っていたから、友人に誘われたから、なんとなくやっていたが。
本当の異世界を知ってしまった今では、作り物の世界は……あまり魅力がない。
ただ、放置している間に負け越して、性別逆転のペナルティを食らったままなのは、イヤだった。
現実に味わったばかりだったのに、仮想世界とはいえ許せない。
鈴一はゲーム類は苦手で頼れず、他に文句を言わず手伝ってくれそうなスペック高い人物なんて、レテューくらいだろう。
「シドに誘われてるからな……夏休み中」
「同じ、学生だったか?」
過保護な保護者から、リュウキの知人リストや友人リストまで教わっている。
「あれ、言ったっけ。シドは……宍戸、クラスメイト」
そこでふと、疑問に思った。現実に友人ならゲーム内でなくとも、現実で遊べるのでは?と。
リュウキは言いにくそうに教えてくれた。
「交通事故で、車椅子……足が不自由なんだ。移動大変だから」
「そうか」
「……」
それ以上、話したくなさそうだったので、話はいったん終わった。
ホテル内を無駄にウロウロしてから、部屋に戻った。
「昼飯は?」
「ルームサービスしよ」
写真付きメニューから、好きな物を頼む。料理はすぐに届けられた。
今日は天ぷら蕎麦です。
「……」
「無理してハシ使わなくても」
昼飯後は、少しリュウキは悩んでいた。
時計を見て、吐息をついて、また時計を見て結局ゲームの準備をする。
「とりあえず、行こ」
「ああ」
どうしてもゲームが無理なら、部屋で待ってればいいだけだ。
ゲーム内は安全なのだから。
切り替わる視界に、感覚を確かめながら辺りを確認して──。
隣にいるのを確かめ、安堵しながら違和感に気付く。
「あれ?」
もう一度隣を見直す。
レイは、マントを着ていた。フード付きである。色は茶色だが。
「薬師の衣装にあった」
「うん」
見慣れた姿に、逆に変な感じだ。
中の衣装も初心者ものではなく、きちんとした装備に変わっている。
「それ」
「ちゃんと、遊ぶんだろ?」
「……うん」
ブーツも、手袋も、装備も最低限の強化済み。いつの間に??
──リュウキが寝てる間に。
『始まりの街』にて、シドと合流。
すっかり初心者に見えなくなっているレイに驚き、賞賛して背中を叩いてきた彼の、きちんとある脚を見てリュウキは……唇を噛む。
そんな時。
「あのっ、すみません!」
遠くから、突然話しかけられ三人は反射的に振り向く。
「オレ、初心者なんですけど、ひとりで分からなくて! 良ければ色々教えて貰えませんか!?」
キラッキラの銀色の鎧に、高級な長剣を装備した、赤い髪の男子。
三人が反応する前に、周りにいた者達がざわめいた。
「初心者?」
「あっ! あれ虹装備じゃ!」
「よく行ったなー、勇気ある」
「勇者や!」
赤髪男子が真っ直ぐ見ているのは、リユキだった。わかりやすい、期待に満ちた眼差し。
「あいむそーりー」
リユキはくるっと背中を向けてさっさと歩き出す。
シドとレイも後に続く。
「のーさんきゅー、じゃねえ?」
「あれ?」
「……」
水晶に突き進む三人を、赤髪男子は捨てられた子犬のようにずっと見ていた。
気の毒に思ったのか、何人かの強面女子が声をかける。
「可哀想だがあきらめろ! いま、中堅クラスはみんな男女逆転してるからな? あれ、元は男だぞ?」
「えっ!?」
「そうそう。毎年犠牲者が出るんだよなー」
「分からないなら、親切なおねーさん達が教えてあげよう!」
「だから、ちょっとその剣を見せてー?」
「えっと……はい」
「表世界の人種が、天使族、エルフ族、人族。で、天使族はレベル突破すると羽が生える」
「しかも翼が金色だ。徳が一万超えてんな」
「白魔道士装備だったから、回復だな。火力ないから完全に後衛」
「はぁ……そうなんですか……負けると逆転……」
近場の公園に移動し、暇な彼女らは色々、初心者にレクチャーする。もちろん、みな中身は男子だ。
「フレンド登録しないと、キャラネームすら見れんし、街中は一メートル以内近付けんからな? くれぐれも行動に注意しろよー」
「まぁ、あれだけ美少女なら、近くで眺めるだけでも眼福だがな! おれらと違ってな!」
「そーいうこった。じゃあな坊主、頑張れよー、一日一徳!」
「一徳! あざっす!」
初心者に親切にする、という行動でも徳は貰える。
親切な彼女らは良い事したぜ! という顔をして広場に戻って行った。
「裏世界の人種は、悪魔族、亜人族、人族」
「表裏決戦は、一年に一回、その他に、開門日があってなー」
「多分、今日がそう」
てくてく歩きながら説明は続く。
場所は広大な草原フィールド。
「あれが門」
空に、巨大な門が浮いていた。
中身分かんない人多い……。




