初心者レベリング
『中央広場』は、待ち合わせのメッカらしい。
様々な人種で溢れる中、スタスタ進むリュウキ……リユキの足は速い。
あっという間に人々の壁を抜け、あの巨大な黄緑水晶の近くに辿り着く。
目立っている人物がいた。
身長が高い上に、緑色の長髪を背中に流し、キリリとした美人で迫力がある。スレンダーでスタイルが良く、やたらと人目を集めていた。
迷うことなくリュウキがそこへ向かっていくので、早くも諦めの境地になるレイである。
「おはよ」
「お、はよー、リユキ。……そっちが例の友達か?」
やはり、いま美人だということは、元は男子だったのだろう。どこから見ても美少女なのだが……ふと、広場を見回して、女子率の多さに恐怖を感じた。
「……レイだ」
「よろしく! シド、だ。さっそくフレンド登録しとこう。迷子になりそう」
「確かに。なんでこんなに多い?」
「夏休みだからさ。しかも運営が初心者応援キャンペーンやってて、やたら初心者多い」
「そか……どこ行こう」
「近場は混雑してっからな。ちょっと他行こうぜ」
「ん」
言われるまま、フレンド登録を済ませると、ピコンとシドの頭上に名前が現れた。
なるほど、目印にいい。
「レイ、手だして」
何故か水晶に歩み寄りながら、リュウキが片手を差し出す。素直に出すと、がしりと捕まれ、水晶に向かって突進し──。
「!」
吸い込まれる感覚のあと、また見知らぬ場所にいた。
目の前に大きな橋があり、ゴウゴウと盛大な水音がする。
足元は木の床で、途切れた先は激しい水流が下に落ちていっている。
「滝の街へようこそ! 帰還登録忘れずにね!」
いつの間にかナビ妖精が頭の横に控え、パタパタと飛んでいた。
姿は見えるのに、気配を感じない。
リュウキの手に引かれるまま、くぐってきた水晶に触れる。リン、と鳴った。
「はい、終わり」
「まだ人多いか? ここにするか?」
リユキとシドは水の流れる街?を見回している。
至る所に木の階段や橋がかかり、全て水の上だ。柵などいっさいなく、足を滑らせたら終わりだろう。
「下に行けばマシかな」
「下に行くか」
慣れているらしい二人について行く。橋を渡り、階段をどんどん降りて行き、かなり開けた場所に出た。
どうやらこの場所は、足下が全て水──川?らしく、木の橋がどこまでも連なり、離れた箇所でいくつものグループがあった。
皆、水面から飛び出てくる魚? に武器を向けている。
「エサおっけー」
「うし、やるか」
リユキがレイを振り返り、ちょっと見ててと注意をうながす。
小さな小袋から、何かを水面に撒く。数秒もたたずに魚影が浮かび、30センチほどの青鈍色の魚が飛び出した。
シドが拳を振り抜き、魚を殴り飛ばす。続けて飛び出した魚は蹴り上げた。魚達は間を置いて粉々になり、消えてからピコンと音が鳴った。
「青サーモンを二匹倒したよ! レベルが上がったね! 報酬は四千ギルと1徳だよ〜!」
妖精が元気良く叫ぶ。
「ナビ、報告は後でまとめて。レイ、魚出てきたら適当に倒して。ちょっと続けてやるから」
「……ああ」
シドの武器がないなと思っていたが、素手で戦うらしい。ただ、衣装が際どいため、蹴りは何かと危ない。
後で聞いたら、シドの職業は『拳闘士』で、負けた時に性別逆転と同時に、衣装まで女性用に変わってしまったとか。
システム上、絶対見えないようになってるから問題ない、と言われた。
ともかく、何か腑に落ちないまま、レイは鋼の剣を取り出した。
武器は、設定しておけば、すぐに取り出せる。
形と重さに違和感を感じてしまうが、仕方ない。軽すぎるし、しっかり握った感覚がないのだ。
「ああ、鋼の剣か、運が良ければ虹出るって噂だったけど」
レイの武器を見て、シドが呟く。
リユキは首を横に振った。
「あの話は重課金組。しかも五百くらい回したって。一般は黒までかな」
「げ。こえーな」
「エサ撒く」
「おう」
チラッと視線で確認されたので、頷いた。
リユキがエサを撒く。魚が飛び出る。シドが蹴り飛ばす。余りをレイが剣で斬り飛ばす。
三秒で終わってしまった。
「はやっ!」
「おー」
リユキがパチパチパチと拍手する。
鋼の剣を見下ろし、レイは微妙な顔だ。
しばらく、魚退治?が続いた。特に問題もなく、作業は終わる。
「これでエサ終わり」
「おう、お疲れー」
「……」
なんとも言えない疲労感に、レイはただ無言だ。
「いったん休憩?」
「ん。レイ、移動する」
再び水晶まで歩いて戻り、また違う景色の中にいた。
街というよりは、都市だろう。天を突く程の高い建物群。
「ようこそ! レインパレスへ!」
「登録」
ピタリと水晶に触れる。また涼やかな音がした。
「レベル確認と各種設定かー、そういやレイさん、職業なに?」
「薬師」
三人で……真ん中にリユキを挟み、広場から街中に移動する。道が広いせいか、あまり混みあっている感じはない。
道行く人々も静かで、落ち着いた雰囲気だ。
「薬師? 剣士とか騎士じゃないん?」
リユキの頭上越しに、シドは気さくに話しかけてくる。リユキは歩きながら、何か画面操作中である。
「……柄じゃない」
チラッとリユキを見下ろし返事をすると、カラカラと笑われた。
「ま、基本武器は全部使えるからな! 問題は、職業武器だけど……扱い難しいんだよな」
「……」
分からない事だらけなので、沈黙するしかない。
やがて一件の店舗にたどり着き、買い物をする。
「職業セットひとつ」
「2万ギルになります」
何やら小型のダンボール箱を買い、店での買い物の仕方を教わりながら、そのまま冒険者クランへ。
「ようこそ! ここは冒険者クランだよ〜! 登録すれば色々な情報や、特殊な依頼を受けられるよ!」
大きな建物だった。奥に窓口のような場所が見え、壁には一面紙片が貼られ、二階部分に人がたくさんいた。
ナビに従い窓口に向かい、特に問題なく登録を済ませる。
冒険者証はタグつきのネックレス。
「上は?」
「仲間募集の人たち」
依頼内容は、手元の画面で見れるし、受けられる。報酬の受け取りも画面操作で済む。
「飯の時間」
「いったん落ちるか、またなー」
シドはさっさと消えて行く。二人も戻ってご飯だ。
ログアウトして、ルームサービスでお昼を食べ、少し睡眠を取る。
インしてなくても、ゲーム内の鞄の中身の確認や買い物はできるという。
「さっきの、職業セット開けてみて」
「……ああ」
こちらに来た時に渡された、手のひらサイズの機械。あらかじめ必要なアプリは全て入っていて、ちゃっかりゲームのもあった。
職業セット、と明記された箱を開ける。初心者用の衣装が1セット。職業別の道具セットが1セット。指示されるまま道具セットを押すと、またもやリストが。
「薬師の道具か……」
「すり鉢はわかる」
「原始的なのは近い? ナイフ、火石、小鍋……」
「採取して、煮たり焼いたりか?」
「なんか料理」
高級ホテルの高級ベッドで寝転んだまま、ゲームの話をしながらゴロゴロした。
先程の魚退治で、ひとり20万ギル程の報酬と、レベルが上がっていた。あと、食材に使えるサーモンの切り身が36枚。内訳は普通が32枚。高級が4枚。
「焼けば食えるのか?」
「調味料買わないと」
満腹度数があり、あまり長時間潜っていると、お腹が減って体力が削られていくらしい。
「焼いてみよう」
興味の赴くまま、調味料を探すことになった。
買う、では無い。
最初の冒険は、採取で決まった。
焼きサーモン……(´﹃`)




